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第八章
第一話 護衛依頼の結果だけど、どうしてこんなことになる!
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デスファンゴを倒したあと、その後は何も通行の障がいになるようなことは起きていない。
ジュラの森を抜けたことだし、そろそろデンバー国の領土内に入るころかな。
窓から外の風景を眺めていると、視線を感じ、そちらに顔を向ける。俺に視線を送っていたのはエリーザだった。彼女に顔を向けた瞬間、目を逸らされる。
またか。野盗の一件以来、馬車の中で何度もこんなことが繰り返されているんだよな。
結局、俺たちの関係は殆ど変わっていなかった。まぁ、俺が彼女を見ると、直ぐに暴言を吐かれていたのが、今はそのようなことはなくなった。そのことを考えれば、少しはマシになったとも言えるだろうか。
「ねぇ、マリーさん。やっぱりエリーザさん、シロウさんに対する態度変わりましたよね。これはひょっとしたら」
「やっぱりクロエもそう思います? まさかエリまでもが参戦してくるとは思いませんでしたわ。ですが、逆に言えば、それだけシロウが魅力的な殿方ということですもの。こればかりはしょうがありませんわ」
「うう、一番私がこの中で魅力がないのに、また強力な壁が一つ増えました」
マリーとクロエがヒソヒソ話をしているみたいだ。だけど声が小さすぎて、俺には会話の内容がよく聞こえない。
まぁ、二人のことだから、誰かの陰口を叩いているなんてことはないだろう。多分、デンバー国での洋服屋なんかの話をしているのだろうな。小声で話しているのは、今は観光ではなく依頼の途中であることを自覚しているからなのだろう。
あんまり気にしないようにして、窓の外を眺める。するとこれから先は、デンバー国内であることを表している国境の壁が見えた。
ふう、ようやく目的地に辿り着いたか。長かった依頼も、あともう少しだ。
国境の壁の前に到達すると馬車が一度止まり、しばらくして再び動き出す。
御者の男性が入国の手続きをしていたのだろう。
外から見える風景は、自然豊かなものから、たくさんの建物へと移り変わっていった。
もう一度馬車が止まり、今度は扉が開かれる。
「お客さん、目的地に着きました。ここでいいんですよね?」
「はい、ありがとうございました。お世話になりました」
御者の男性にお礼を言い、馬車から降りる。親善試合のあるデンバー城はまだまだ先になるが、エリーザの婚約者の住んでいる場所はここなのだ。
「さて、今からエリーザの婚約者のいる場所に向かうとしますか。子爵の家だし、直ぐに見つかるだろう」
俺たちは貴族が住んでいそうな建物を探し、ときには住民に道を尋ねながら歩く。数十分後には子爵家の建物前まで来ることができた。
さすが子爵の家だな。エリーザの家よりも豪華な建物だ。
俺たちが家の前で突っ立っていると、屋敷の扉が開く。すると中からメイド服の女性が外に出てきた。
彼女は俺たちに気付き、こちらにやって来る。
「子爵様に何か御用でしょうか?」
「あ、俺はエグザイルドのリーダー、シロウと言います。今回、騎士爵様の依頼で、娘さんのエリーザをお連れしました」
「あ、ぼっちゃんの。わかりました。少々お待ちください」
メイドは俺たちに背を向けると、屋敷の中に戻っていく。
数分待ってみたが、屋敷から誰かが来る様子がない。
もしかしたら、急に押しかけて準備ができていなかったのかもしれないな。もう少し待ってみるとするか。さすがにエリーザを残して、ここから離れるわけにもいかない。
その場で立ち尽くしたまま、さらに屋敷の人物が現れるのを待ってみる。しかし、それでも中々姿を見せることはなかった。
可笑しい。下手をすれば、俺たちが待たされてそろそろ三十分にならないか? さすがに待たせすぎだろう。こんだけ待たせるのであれば、普通屋敷内に入れて待ってもらうのが普通なのではないか?
そんなことを考えていると、屋敷の扉が開き、一人の男が外に出てきた。顔立ちのいい男だ。見た目の年齢は二十代だろうか? 恐らく、あの人がエリーザの婚約者なのだろう。
よかった。これで俺たちが引き受けた依頼はクリアになる。あとはエリーザの父親である騎士爵様から報酬金をもらうだけだ。
男は門の前に立つとエリーザを見た。
「ぷっ、あはは、あーはははははは!」
エリーザの婚約者だと思われる男がいきなり吹き出したかと思うと、大声で笑い出した。
「まさか、本当に来るとは思ってもいなかったぜ。あの男、あの話を本気にしやがったのか、傑作だ!」
「それはどういうことだ!」
男のセリフの意味がわからず、俺は彼に尋ねた。
すると、子爵の息子はニヤリと口角を上げ、まるで見下すような視線を向けてくる。
「あんたも大変だったな。俺の遊びに巻き込まれて、ここまで騎士爵風情の娘を連れてくることになったなんて」
「遊びだと!」
「そうだ。平民に毛が生えた程度の階級しかない娘が、子爵の息子であるこの俺と釣り合いが取れるとでも思っているのか? あれは俺の暇潰しで言ったに過ぎない。それなのにあの騎士爵は本当にバカだよな。普通に考えればこんな話あり得ないってことに気づかないのかよ。お笑い草だ! あはは!」
男はバカにするような口調で言葉を連ねると、お腹を押さえて笑いだす。
「あれ? もしかしてバカの娘も本気にしていた? それはごめんね! もしかして夢を見ていた? 貧しい平民から貴族の仲間入りをするだなんてと思って胸踊らされていた? それは本当に悪かったね。でも、俺のおかげで少しはいい夢が見れたんじゃない?」
子爵の息子の言葉に、俺は力強く拳を握る。バカにされているのは俺ではないのに、まるで俺がバカにされているように聞こえていた。
「お前、それでも貴族なのかよ! 騎士爵も立派な貴族だ! 今の言葉を訂正しやがれ!」
「はぁ? お前誰に向かって口を聞いていやがる。この俺はこのへん一帯を領土にもつ子爵の息子だぞ! 貴族である俺がどうしてお前の指図を受けないといけないんだ? お前、脳味噌詰まっていないだろう。あーあ、これだから平民は嫌いだ。貴族に対する礼儀がなっていない」
男はまるで、道端にいる害虫を見るような目をして暴言を吐く。
俺は門の鉄格子を掴むと、子爵の息子を睨みつける。
「フン、本当にお前は身分の違いというものを何も知らないようだな。俺にそのような視線を向けて、ただで済むとは思っているのか?」
「それはこっちのセリフだ! エリーザや騎士爵様を侮辱してただで済むと思っているのかよ!」
こんな門、俺の呪文で簡単にぶっ壊せる。そのあとはお前を思いっきりぶん殴ってやる。俺には認識阻害の魔法が使えるんだ。記憶を改竄してしまえば証拠は残らない。
「エンハンスド……」
「シロウさんもういいですわ」
呪文を唱えようとすると、エリーザが俺の体に腕を回す。そしてそれ以上は何もしなくていいと言った。
「エリーザ……でも」
「元々は乗り気ではなかった婚約です。寧ろ、ただの遊びだとわかって安心しました」
エリーザの腕に力が入っているのを感じた。何がなんでも、俺に問題を引き起こしてほしくないのだろうな。
俺は歯痒い思いに駆られた
「どうしたの? 何か揉めごと?」
子爵の息子に嫌悪感を覚えていると、屋敷の扉が開かれて一人の女性が外に出てきた。緑髪の美しい女性だ。
「エマなんでもないんだ。そうだ! どうせだから、君たちにも紹介しよう。彼女が俺の婚約者のエマだ。彼女は今度開催される美少女コンテストで優勝間違いなしとも言われている。俺と釣り合えるのは彼女ぐらいだ。君のようなお子ちゃまとは違うんだよ。エリーザ。それじゃあな。用が済んだらさっさと帰ってくれ」
勝ち誇ったような態度で男は俺たちに背を向ける。そして女性を連れて屋敷の中へと帰って行った。
「口出しするべきではない空気だったので、今まで黙っていましたが、何なのですのあの男! 貴族の風上にも置けませんわ!」
「本当だよ! 私、あんな顔だけの男って大嫌い!」
「そうだね。男は顔だけではない。いい男というのは強さと優しさを兼ね揃えていないと。シロウみたいに」
「そうですわね。シロウさん、マリーお姉様、クロエさん、ミラーカさん、ご迷惑をおかけしました。このことはお父様にわたしから言っておきます。報酬のほうは絶対にお支払いいたしますので、ご安心ください。とにかく今日は宿屋のほうに泊まりましょう。明日には、お父様も到着するかもしれませんので。ささ、早く行きましょう」
一秒でも早くこの場から離れたいのだろう。エリーザは無理やり笑顔を作り、俺の腕を引っ張っていく。
エリーザに連れられて、俺は宿屋の前に来た。
うん? これは?
建物の壁に貼り付けてある紙が視界に入り、俺はその張り紙に目を通す。
これって、さっき子爵のバカ息子が言っていた美少女コンテストじゃないか。それに、まだコンテストの前日まではエントリーが可能だ。
美少女コンテストの張り紙を見た俺の頭の中に、妙案が浮かぶ。
もしかしたら、これを使ってあの男に一泡吹かせることができるかもしれない。
確かに俺は呪いのような魔法も使える。だけど、仮に俺が子爵の息子に対して魔法を使ったとしよう。でも、それではエリーザの気を晴らすのを半減させてしまうことになる。
やはり、彼女の手で決着を付けさせるべきだろうな。
「シロウさん、美少女コンテストがどうかしましたか?」
「なぁ、エリーザ」
「何ですか?」
「お前、美少女コンテストに出ないか?」
「え! 突然どうしたのですか?」
俺の提案にエリーザは驚く。まぁ、彼女からしたら当然の反応だろう。
「エリーザは本当に悔しくないのか! あんなことを言われて!」
エリーザの両肩に手を置き、彼女を見つめる。
「そ、それは悔しいですわよ! わたしのことならともかく、お父様やシロウさんのことまでバカにされたのですから」
「だったら、美少女コンテストに参加して、あの男を見返さないか? 子爵の息子の婚約者もこのコンテストに出る。そこでエリーザが優勝をすれば、あの男の鼻を明かすことができる」
「でも、所詮わたしなんて出ても、優勝どころか予選すらも通らないかもしれませんわよ。また笑われるだけですわ」
あまり自信を持っていないのだろう。エリーザは視線を逸らし、弱々しい口調で難しいという。
だけどそんなはずはない。彼女は絶対に優勝候補になれるはずだ。俺はそう信じている。
「いや、エリーザはとても可愛い。君の魅力に気付かないあの男は、どうかしている。エリーザは絶対に優勝できると俺は信じている。だから、君の手で子爵の息子の目を覚まさせないか?」
「エリ、もしあなたが参加するのでしたら、ワタクシもお手伝いいたしますわ」
「私も手伝うよ! あのときのスキンヘッドの男のときみたいに、どうにかしてざまぁできないか考えていたところだもん!」
「私も協力しよう。あの男には、シロウをバカにした罪を償う必要があるからね」
「皆さん。分かりました。わたし、美少女コンテストにでます! そして優勝してあの男に、お父様とシロウさんをバカにしたことを謝ってもらいます!」
マリーたちからも背中を押してもらい、エリーザは美少女コンテストに出ることを決心してくれた。
「絶対に優勝しような」
「はい! シロウさんのために、わたし頑張ります!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
【重要なお知らせ】
本日この前、間違えて連載を開始してしまった作品の再投稿を始めました。
『推しが必ず死ぬゲームのモブに転生した俺は、彼女を救うためにシナリオブレークします~俺の推し活は彼女を生かすための活動です~』
と言うタイトルです。
こちらの方は本日1時間毎に投稿する予定となっています。
アプリの方では検索していただくしかないかもしれませんが
ウェブ(スマホ)の場合は目次の下にある作者の他の作品のURLの下にあるタイトルをタップしていただけると作品を読むことができます。
ウェブ(パソコン)の場合は目次の下にある作者の他の作品のURLの下にあるタイトルをクリックするよりも、画面の左にある『仁徳の登録コンテンツ』の中にあるタイトルをクリックする方が早いです。
何卒宜しくお願いします。
追記
フリースペースにURLを載せたのですが、そちらからアクセスするとエラー画面になります。おそらく一度間違えて投稿して作品を削除したのが原因かもしれません。なのでアクセスする際は『仁徳の登録コンテンツの方からお願いします。
ジュラの森を抜けたことだし、そろそろデンバー国の領土内に入るころかな。
窓から外の風景を眺めていると、視線を感じ、そちらに顔を向ける。俺に視線を送っていたのはエリーザだった。彼女に顔を向けた瞬間、目を逸らされる。
またか。野盗の一件以来、馬車の中で何度もこんなことが繰り返されているんだよな。
結局、俺たちの関係は殆ど変わっていなかった。まぁ、俺が彼女を見ると、直ぐに暴言を吐かれていたのが、今はそのようなことはなくなった。そのことを考えれば、少しはマシになったとも言えるだろうか。
「ねぇ、マリーさん。やっぱりエリーザさん、シロウさんに対する態度変わりましたよね。これはひょっとしたら」
「やっぱりクロエもそう思います? まさかエリまでもが参戦してくるとは思いませんでしたわ。ですが、逆に言えば、それだけシロウが魅力的な殿方ということですもの。こればかりはしょうがありませんわ」
「うう、一番私がこの中で魅力がないのに、また強力な壁が一つ増えました」
マリーとクロエがヒソヒソ話をしているみたいだ。だけど声が小さすぎて、俺には会話の内容がよく聞こえない。
まぁ、二人のことだから、誰かの陰口を叩いているなんてことはないだろう。多分、デンバー国での洋服屋なんかの話をしているのだろうな。小声で話しているのは、今は観光ではなく依頼の途中であることを自覚しているからなのだろう。
あんまり気にしないようにして、窓の外を眺める。するとこれから先は、デンバー国内であることを表している国境の壁が見えた。
ふう、ようやく目的地に辿り着いたか。長かった依頼も、あともう少しだ。
国境の壁の前に到達すると馬車が一度止まり、しばらくして再び動き出す。
御者の男性が入国の手続きをしていたのだろう。
外から見える風景は、自然豊かなものから、たくさんの建物へと移り変わっていった。
もう一度馬車が止まり、今度は扉が開かれる。
「お客さん、目的地に着きました。ここでいいんですよね?」
「はい、ありがとうございました。お世話になりました」
御者の男性にお礼を言い、馬車から降りる。親善試合のあるデンバー城はまだまだ先になるが、エリーザの婚約者の住んでいる場所はここなのだ。
「さて、今からエリーザの婚約者のいる場所に向かうとしますか。子爵の家だし、直ぐに見つかるだろう」
俺たちは貴族が住んでいそうな建物を探し、ときには住民に道を尋ねながら歩く。数十分後には子爵家の建物前まで来ることができた。
さすが子爵の家だな。エリーザの家よりも豪華な建物だ。
俺たちが家の前で突っ立っていると、屋敷の扉が開く。すると中からメイド服の女性が外に出てきた。
彼女は俺たちに気付き、こちらにやって来る。
「子爵様に何か御用でしょうか?」
「あ、俺はエグザイルドのリーダー、シロウと言います。今回、騎士爵様の依頼で、娘さんのエリーザをお連れしました」
「あ、ぼっちゃんの。わかりました。少々お待ちください」
メイドは俺たちに背を向けると、屋敷の中に戻っていく。
数分待ってみたが、屋敷から誰かが来る様子がない。
もしかしたら、急に押しかけて準備ができていなかったのかもしれないな。もう少し待ってみるとするか。さすがにエリーザを残して、ここから離れるわけにもいかない。
その場で立ち尽くしたまま、さらに屋敷の人物が現れるのを待ってみる。しかし、それでも中々姿を見せることはなかった。
可笑しい。下手をすれば、俺たちが待たされてそろそろ三十分にならないか? さすがに待たせすぎだろう。こんだけ待たせるのであれば、普通屋敷内に入れて待ってもらうのが普通なのではないか?
そんなことを考えていると、屋敷の扉が開き、一人の男が外に出てきた。顔立ちのいい男だ。見た目の年齢は二十代だろうか? 恐らく、あの人がエリーザの婚約者なのだろう。
よかった。これで俺たちが引き受けた依頼はクリアになる。あとはエリーザの父親である騎士爵様から報酬金をもらうだけだ。
男は門の前に立つとエリーザを見た。
「ぷっ、あはは、あーはははははは!」
エリーザの婚約者だと思われる男がいきなり吹き出したかと思うと、大声で笑い出した。
「まさか、本当に来るとは思ってもいなかったぜ。あの男、あの話を本気にしやがったのか、傑作だ!」
「それはどういうことだ!」
男のセリフの意味がわからず、俺は彼に尋ねた。
すると、子爵の息子はニヤリと口角を上げ、まるで見下すような視線を向けてくる。
「あんたも大変だったな。俺の遊びに巻き込まれて、ここまで騎士爵風情の娘を連れてくることになったなんて」
「遊びだと!」
「そうだ。平民に毛が生えた程度の階級しかない娘が、子爵の息子であるこの俺と釣り合いが取れるとでも思っているのか? あれは俺の暇潰しで言ったに過ぎない。それなのにあの騎士爵は本当にバカだよな。普通に考えればこんな話あり得ないってことに気づかないのかよ。お笑い草だ! あはは!」
男はバカにするような口調で言葉を連ねると、お腹を押さえて笑いだす。
「あれ? もしかしてバカの娘も本気にしていた? それはごめんね! もしかして夢を見ていた? 貧しい平民から貴族の仲間入りをするだなんてと思って胸踊らされていた? それは本当に悪かったね。でも、俺のおかげで少しはいい夢が見れたんじゃない?」
子爵の息子の言葉に、俺は力強く拳を握る。バカにされているのは俺ではないのに、まるで俺がバカにされているように聞こえていた。
「お前、それでも貴族なのかよ! 騎士爵も立派な貴族だ! 今の言葉を訂正しやがれ!」
「はぁ? お前誰に向かって口を聞いていやがる。この俺はこのへん一帯を領土にもつ子爵の息子だぞ! 貴族である俺がどうしてお前の指図を受けないといけないんだ? お前、脳味噌詰まっていないだろう。あーあ、これだから平民は嫌いだ。貴族に対する礼儀がなっていない」
男はまるで、道端にいる害虫を見るような目をして暴言を吐く。
俺は門の鉄格子を掴むと、子爵の息子を睨みつける。
「フン、本当にお前は身分の違いというものを何も知らないようだな。俺にそのような視線を向けて、ただで済むとは思っているのか?」
「それはこっちのセリフだ! エリーザや騎士爵様を侮辱してただで済むと思っているのかよ!」
こんな門、俺の呪文で簡単にぶっ壊せる。そのあとはお前を思いっきりぶん殴ってやる。俺には認識阻害の魔法が使えるんだ。記憶を改竄してしまえば証拠は残らない。
「エンハンスド……」
「シロウさんもういいですわ」
呪文を唱えようとすると、エリーザが俺の体に腕を回す。そしてそれ以上は何もしなくていいと言った。
「エリーザ……でも」
「元々は乗り気ではなかった婚約です。寧ろ、ただの遊びだとわかって安心しました」
エリーザの腕に力が入っているのを感じた。何がなんでも、俺に問題を引き起こしてほしくないのだろうな。
俺は歯痒い思いに駆られた
「どうしたの? 何か揉めごと?」
子爵の息子に嫌悪感を覚えていると、屋敷の扉が開かれて一人の女性が外に出てきた。緑髪の美しい女性だ。
「エマなんでもないんだ。そうだ! どうせだから、君たちにも紹介しよう。彼女が俺の婚約者のエマだ。彼女は今度開催される美少女コンテストで優勝間違いなしとも言われている。俺と釣り合えるのは彼女ぐらいだ。君のようなお子ちゃまとは違うんだよ。エリーザ。それじゃあな。用が済んだらさっさと帰ってくれ」
勝ち誇ったような態度で男は俺たちに背を向ける。そして女性を連れて屋敷の中へと帰って行った。
「口出しするべきではない空気だったので、今まで黙っていましたが、何なのですのあの男! 貴族の風上にも置けませんわ!」
「本当だよ! 私、あんな顔だけの男って大嫌い!」
「そうだね。男は顔だけではない。いい男というのは強さと優しさを兼ね揃えていないと。シロウみたいに」
「そうですわね。シロウさん、マリーお姉様、クロエさん、ミラーカさん、ご迷惑をおかけしました。このことはお父様にわたしから言っておきます。報酬のほうは絶対にお支払いいたしますので、ご安心ください。とにかく今日は宿屋のほうに泊まりましょう。明日には、お父様も到着するかもしれませんので。ささ、早く行きましょう」
一秒でも早くこの場から離れたいのだろう。エリーザは無理やり笑顔を作り、俺の腕を引っ張っていく。
エリーザに連れられて、俺は宿屋の前に来た。
うん? これは?
建物の壁に貼り付けてある紙が視界に入り、俺はその張り紙に目を通す。
これって、さっき子爵のバカ息子が言っていた美少女コンテストじゃないか。それに、まだコンテストの前日まではエントリーが可能だ。
美少女コンテストの張り紙を見た俺の頭の中に、妙案が浮かぶ。
もしかしたら、これを使ってあの男に一泡吹かせることができるかもしれない。
確かに俺は呪いのような魔法も使える。だけど、仮に俺が子爵の息子に対して魔法を使ったとしよう。でも、それではエリーザの気を晴らすのを半減させてしまうことになる。
やはり、彼女の手で決着を付けさせるべきだろうな。
「シロウさん、美少女コンテストがどうかしましたか?」
「なぁ、エリーザ」
「何ですか?」
「お前、美少女コンテストに出ないか?」
「え! 突然どうしたのですか?」
俺の提案にエリーザは驚く。まぁ、彼女からしたら当然の反応だろう。
「エリーザは本当に悔しくないのか! あんなことを言われて!」
エリーザの両肩に手を置き、彼女を見つめる。
「そ、それは悔しいですわよ! わたしのことならともかく、お父様やシロウさんのことまでバカにされたのですから」
「だったら、美少女コンテストに参加して、あの男を見返さないか? 子爵の息子の婚約者もこのコンテストに出る。そこでエリーザが優勝をすれば、あの男の鼻を明かすことができる」
「でも、所詮わたしなんて出ても、優勝どころか予選すらも通らないかもしれませんわよ。また笑われるだけですわ」
あまり自信を持っていないのだろう。エリーザは視線を逸らし、弱々しい口調で難しいという。
だけどそんなはずはない。彼女は絶対に優勝候補になれるはずだ。俺はそう信じている。
「いや、エリーザはとても可愛い。君の魅力に気付かないあの男は、どうかしている。エリーザは絶対に優勝できると俺は信じている。だから、君の手で子爵の息子の目を覚まさせないか?」
「エリ、もしあなたが参加するのでしたら、ワタクシもお手伝いいたしますわ」
「私も手伝うよ! あのときのスキンヘッドの男のときみたいに、どうにかしてざまぁできないか考えていたところだもん!」
「私も協力しよう。あの男には、シロウをバカにした罪を償う必要があるからね」
「皆さん。分かりました。わたし、美少女コンテストにでます! そして優勝してあの男に、お父様とシロウさんをバカにしたことを謝ってもらいます!」
マリーたちからも背中を押してもらい、エリーザは美少女コンテストに出ることを決心してくれた。
「絶対に優勝しような」
「はい! シロウさんのために、わたし頑張ります!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
【重要なお知らせ】
本日この前、間違えて連載を開始してしまった作品の再投稿を始めました。
『推しが必ず死ぬゲームのモブに転生した俺は、彼女を救うためにシナリオブレークします~俺の推し活は彼女を生かすための活動です~』
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クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
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