Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第七章

第七話 居なくなるエリーザ

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 馬車の中で揺られながら、俺はエリーザから見つめられていた。当然その視線は好意を寄せるような熱いものではなく、親の仇でも見るような鋭い視線なのだ。

 ハァー、彼女からしたら当然の反応かもしれないが、ずっとこの視線を受けたままなのは正直心にくるものがある。どうしたものか。

「なぁ、そんなに怖い顔をしないでくれ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

 どうにかして少しでも彼女のご機嫌を取ろうと、取り合えず褒めてみる。しかしエリーザは俺の声に無反応を示し、敵意を向けたままだ。

「エリ、あなたはワタクシの次に可愛いのですから、そんなに怖い顔はしないほうがいいですわよ」

「わたしそんなに怖い顔をしていましたの? マリーお姉さまに不快な思いをさせて申し訳ありませんわ」

 彼女の態度を見て、俺は苦笑いを浮かべる。先ほどからこんな調子だ。俺が声をかけると無視するが、マリーや他の女性陣たちからの声にはしっかりと反応を示す。

 本当に嫌われたものだな。まぁ、パーティーのリーダーである俺が、彼女たちに指示を出して強引にも馬車に乗せたのだ。当然の反応ともいえる。

 俺だって彼女の言う通り馴れ合うつもりはない。だけどデンバー国に辿り着き、無事に貴族のもとに送り届けるまでは、最低限のコミュニケーションは取らなければとも思っている。

 こうなったら、直接では無理でも間接的に会話を成立させよう。

 仲間に視線を送り、アイコンタクトをする。

 みんなに俺が何をしたいのか伝わってくれればいいのだが。

 そんなことを思っていると、なぜかマリーたちは頬を赤らめた。

 うん、どうやら何も伝わってはいないようだな。こうなったら仕方がない。一か八かでやってみるしかないだろう。

「なぁ、婚約の相手はエリーザよりも貴族としての位は上なんだから、何も問題はないじゃないのか? むしろこれまでの暮らしよりも楽になると思うのだけど?」

 もう一度声をかけてみるも、やはりエリーザは俺からの質問に無反応だ。

「ねぇ、エリ。婚約の相手は子爵の息子なのですのよ。あなたは騎士爵の令嬢。普通に考えれば、位が上がることになるのですから生活は楽になるかと思いますわ。騎士爵というのは平民とほとんど変わらないですし」

「そうですけれども、わたしは全然嬉しくないですわ」

 よかった。どうにかマリーには、俺のアイコンタクトで訴えたかったことが伝わっていたようだ。

「俺だったら喜ぶけどな」

「私だったら大喜びするよ! だって貴族になれるのだもの! 何不自由なく、贅沢な暮らしができるのだから」

 どうやらマリーの話し方から察してくれたようだ。続いてクロエが、俺の言葉を代弁してエリーザに伝えてくれる。

「子爵の義理の娘になったからと言っても、贅沢な暮らしができるわけではないですもの。マリーお姉さまから何度も聞いております。貴族は民の代表とも言える存在、民の手本とならなければならない。規律を守り、人としての模範でならなければならないらしいのです」

「それはお父様の受け入りですわ」

「確かに、貴族は民たちの憧れでもある。教養を強いらなければならないものな。だけど、その努力があるからこそ煌びやかに見えるんだ。努力を怠った名ばかりの貴族は、いずれ落ちぶれる」

「確かに貴族は民の憧れでもあるね。だけど教養を強いられる。だけど、その努力が形となって今の立ち位置を確立しているのだよ。努力を怠る貴族はいずれ落ちぶれる。大体落ちぶれるのは二代目が多いらしいね。親の七光りで調子に乗って、今の権力は自分の実力だと勘違いをしているバカが」

 おいおい、ミラーカよ。俺はそこまで言っていないだろう? 何か私怨的なものまで混ざっていないか?

 うーん、とりあえず間接的に会話をしてみたけれど、やっぱり壁を感じるな。やっぱり直接会話をしなければ、ちゃんとしたコミュニケーションはとれないようだ。

 そんなことを考えていると、乗っていた馬車が急に上下に揺れ、強い振動を発した。

「キャッ!」

 振動でエリーザが座席から離れ、俺のところに飛び込んでくる。俺は咄嗟に彼女を受け止め、ケガがないように抱きしめた。

「大丈夫か?」

「ええ……って! どうしてわたしを抱きしめる必要があるのですの! 離してください」

 エリーザは目細めて睨むと、俺を突き放す。

「いや、だって受け止めないとケガするだろう?」

「そうですけれども、どうせ受け止めてくれるのであれば、マリーお姉様かクロエさん、もしくはミラーカさんに抱きしめてもらいたかったです。あなたには触れてほしくはなかったですわ」

「そうですか。願望どおりにならなくて残念ですね」

 エリーザを席に座らせると、俺は扉を開けて馬車の外に出る。

 馬車の周辺を見てみると、車輪の一部が外れていた。

 先ほどの振動は、車輪が外れたことで生じたものみたいだな。

「あちゃあ、車輪が外れたか」

 走行不能になった馬車を見ていると、御者の男性がこちらにやってきた。

「直せそうですか?」

「うーん、そうだな。車輪が外れただけで壊れてはいないみたいだから問題はないだろう。だけど少し時間がかかる」

「分かりました。では、それまでは適当に時間を潰しておきます」

 マリーたちに、しばらくは走行できないことを伝えたほうがいいよな。

 俺は馬車の扉を開けて仲間たちをみる。

「どうやら車輪が外れたみたいだ。今から修理をするらしいけど、少し時間がかかる。それまでは馬車の中で待機をしておこう」

「わかりましたわ」

「はーい」

「では、それまではどうやって時間を潰そうか」

 三人が返事をすると、俺はエリーザがいないことに気づく。

「あれ? エリーザは?」

「え! シロウと一緒ではないですの? エリはワタクシに、馬車の様子を見にいくと言っていましたのに」

「何だって! 俺は全然見ていないぞ」

「まさか、このトラブルに乗じて逃げましたの!」

 マリーの言葉に、俺は冷や汗が噴き出る。

 マズイ! エリーザに逃げられては、依頼失敗とみなされて報酬がもらえないじゃないか!

「直ぐに探そう」

「キャアー!」

 エリーザの捜索を始めることを仲間たちに告げると、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 この声はエリーザの声だ。声の感じからして、とても良くないことが起きているに違いない。

「マリーとクロエは、俺と一緒に悲鳴の聞こえた場所に向かうぞ。ミラーカは念のためにここに残っておじさんを守ってくれ。野盗がこの森にいるらしい」

「わかった。あの男の護衛は任せてくれ」

「俺は先に行く。スピードスター!」

 エリーザ、頼むから無事でいてくれよ!

 俊足魔法を唱えて心の中で彼女の無事を祈りつつ、俺は声の聞こえた方角に向けて走り出す。










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