上 下
55 / 191
第七章

第一話 レオ、隣国に向かう

しおりを挟む
 ~レオ視点~


 俺ことレオは、酒場で出会った男、ブラゴと共に行動をしていた。今はシロウを叩きのめす舞台を用意してもらうために、隣国のデンバー城に向かうところだ。

「デンバー城には船で向かいます」

「船での移動か。でも、どうしてシロウを倒すのにわざわざ隣国までいかないといけない」

「その件に関しては、今は話さないほうがいいでしょう。詳しい話はお城にいる王様を交えて話したほうがいいと思いますので」

「チッ」

 ブラゴの言葉に、俺は舌打ちする。

 この男は本当に秘密主義だ。最初にすべてを話しておけばいいものの、少しずつ情報を開示しやがる。

「ねぇ、レオ。本当にこのままあの男について行ってもいいの? どうしても胡散臭いのだけど」

 隣を歩ていたエリナが、小声で話しかけてくる。

「確かにあいつは怪しいし、何を考えているのか分からない。だけど、シロウを叩きのめす場を用意してくれるのならば、付いて行くしかない。いやならお前はついて来なくていいぞ」

「レオ一人であんな男と一緒にさせるわけにはいかないから、私も付いて行くわ」

「本当にお二人は仲がいいですね。羨ましい」

 俺たちのひそひそ話が聞こえていたのか、前を歩いていたブラゴが振り返ることなく声をかけてくる。話が聞かれたことに驚いた俺は、腕に鳥肌が立った。

「やっぱり付いて行くのは止めたほうがいいかもしれないな」

「それは困ります。あなたが来ていただけないと、僕はあなたにシロウとの決着の場を用意することができないのですから」

 引き返すべきかもしれないと声に出して言うと、ブラゴは足を止める。そして踵を返して俺たちのほう向き、両手を前に出す。

「だったらどんな方法でシロウと戦う機会を作ってくれるのか、その説明をしてくれ。でなければこれ以上お前に付いては行かないからな。俺たちは借金の返済もしないといけない!」

「分かりました。では、その辺の情報の開示だけしておきましょう」

 やれやれと言いたげな口調で、ブラゴは右手を後頭部に持っていく。

「あなたに提供する場というのは、大勢の観客たちの前で行われるデンバーとブリタニアとの親善試合です。きっとブリタニア王は、現在英雄と言われているシロウを親善試合に出すでしょう。なので、あなたにはデンバー代表として出場してもらいたい」

 男の説明を聞き、俺は呆れる。

 やつはただの予想で、俺たちをデンバー城に連れて行こうとしているのだ。

「それってまだ確定していないじゃない! もし、シロウがブリタニアの代表にならなかったら行き損になるわよ」

 俺の代わりにエリナがブラゴに指摘する。

「大丈夫です。その辺りは根回しをしておりますので、シロウが代表になるでしょう。万が一にでもシロウが代表にならなかったときは、僕があなたの借金を返済してあげます。どうですか? この条件ならどっちに転ぼうとも、あなたたちには利益しかない」

 ブラゴの言葉に、俺はそれなら付いて行っても何も問題はないなと思った。

 デンバー代表にさえなれば、シロウと戦う機会を得られる。もし、シロウが代表にならなかったときは、やつが俺の借金を返済してくれるのだ。

 あの男の言うとおり、俺には利益しかない。

 俺はあまりにも上手い話しに口角を上げる。

「わかった。なら、お前を信じてデンバー城に行ってやる」

「ありがとうございます。いやー、それにしても楽しみですね。親善試合が始まれば、あのシロウがレオ君にボコボコにされるのですから」

 ブラゴはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

「なぁ、お前はシロウにどんな怨みを持っているんだ?」

 どうしてやつがシロウに執着しているのかが気になり、俺はブラゴに尋ねる。

「あの男は僕たちの計画を邪魔しやがった! そのせいで仲間の一人を失い、その分の負担が僕に集中している! あの男さえいなければ、今の僕たちは違った未来を歩いていたんだ! シロウさえいなければ!」

 そうとうシロウに対して怨みを持っているようだ。ブラゴは歯を食い縛りながら顔を引き攣らせ、語気を強めて言葉を連ねる。

「だから、レオ君にやつを完膚なきまでに叩きのめしてもらいたい。優秀な君になら、あの男を倒せる」

 真に迫る表情でブラゴは俺の肩を掴む。男の顔から、シロウに対しての恨みが伝わってきた。

「わかった。シロウをブッ倒してお前の怨みを晴らしてやろう。何せ、ティルヴィングのお陰で俺は強くなったからな。もしかしたら既にシロウを越えているかもしれない」

「ありがとうございます。ですが、その言葉は事実かもしれないですよ。僕の見立てでは、レオ君はティルヴィングの影響を受け、身体能力が向上しております」

 ブラゴの言葉に俺は再び口角を上げながら、帯刀している剣に触れる。

 そうだ。俺は圧倒的に強くなった。まだティルヴィングを使ったのは一回だけだが、たった一回の戦闘だけで、過去の自分を凌駕していることに気づいた。

 あのスピードは尋常ではない速さだ。人間の限界に近い。あんなスピードで接近されたのならば、魔法使いのシロウでも瞬時に対応できないだろう。

 俺は頭の中でシロウとの戦いをシミュレーションしてみる。

 開始の合図と共に、俺の技の中で最も早い剣技、一閃突きを放つ。するとどうだろう。あまりの速さにシロウは対応できなくなり、俺の技に吹き飛ばされる。そしてやつは闘技場の外にまで吹き飛ばされて地面に転がり、泥まみれになりながら胃の中のものをぶちまける。

 それを見た民衆たちは、シロウを罵り、観客席から物を投げつけられる。

 惨めな姿を晒したシロウを見ながら俺は優越感に浸ることができるのだ。

 いいぞ! そんな未来が俺にも見えてきた。これなら俺が勝つことが約束されたようなものではないか!

 ああ、早く当日にならないだろうか。早くこの手でシロウを叩きのめし、シミュレーションを現実のものにしたいぜ!

「ブラゴ、船着き場まで案内しろ! 一秒でも早くデンバー城に向かうぞ!」

「分かっております。こちらですよ」

 俺は気分を良くしながら、ブラゴに船着き場まで案内させた。









最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!

など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。

【感想】は一言コメントや誤字報告でも大丈夫です。気軽に書いていただけると嬉しいです。

何卒宜しくお願いします。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...