Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第六章

第五話 深淵の洞窟って本当に暗いな

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 俺たちは現在、オルテガが用意した依頼を受けに、深淵の洞窟の前に来ていた。

 ダンジョンの目印として入り口には松明が置かれている。奥のほうを覗いて見るが、一メートル先は暗闇に包まれ、ほとんど先の様子が分からない。

「噂どおりに真っ暗だな。ちょっと試してみたいから、最初は俺だけが行ってみるよ」

 本当に松明の効果がほとんどないのか、それを試してみたくなった。

 松明に火をつけ、先に俺だけが洞窟内に入って行く。

「なるほど、これは確かに噂どおりのダンジョンだな。松明の明かりが意味をなさない」

 数メートル歩いてみたが、不思議なことに、足元しか明かりが照らされていなかった。

 これじゃあ魔物が襲ってきても分からないな。気づいたときには手遅れになりそうだ。

 噂を確かめることもできたことだし、そろそろ皆と合流しますか。

 歩いた道を引き返し、入り口で待っているマリーたちのところに戻る。

「シロウ、戻って来ましたわね」

「それで中はどうだったの?」

「噂どおり、松明の明かりは持っている人の足下しかわからなかったよ」

「それで、どうやって周辺が分かるようにするのか、解決策はあるのかい?」

「とりあえずは、いつものように俺のファイヤーボールで周辺を明るく照らしてみるよ」

 ミラーカの問いに答え、もう一度ダンジョン内に入る。

「ファイヤーボール」

 いつもみたいに火球を生み出す。松明のときとは違い、周辺を明るく照らすことができた。けれど、それでも照らせられる範囲は通常の半分程度になっている。

 本当に不思議なダンジョンだよな。俺の魔法を半減させるなんて。

「ここのダンジョンは鍾乳洞のようになっていますわね」

「こんな感じのダンジョンに入ったのは初めてだよ……キャ!」

 いきなりクロエが短い悲鳴を上げたかと思うと、いきなり俺の腕に抱きついてきた。

「ビックリした。どうした? 何かあったのか?」

「ごめん、シロウさん。急に首筋に水滴が落ちたからビックリしちゃって」

 クロエが抱き着いてきた理由を答えると、俺の頭にも水滴が落ちてきた。

 まぁ、洞窟タイプのダンジョンなら、こんなこともあるだろうな。

「きゃーあ」

「いやーん」

 天井から落ちてきた水滴に意識が向いていると、マリーとミラーカまでもが抱きついてきた。

「シロウ、ワタクシにも水滴が落ちてきましたわ」

「私にもさ」

 お前たちは絶対にわざとだろう! 声がわざとらしかったぞ。

「とにかく離れてくれないか? 歩きにくい」

「別にこのままでもいいではないですの。どうせまた水滴が落ちれば同じことが起きますわ」

「マリーさんの言うことも一理ありますね」

「同じことを繰り返して、シロウをビックリさせるわけにはいかないからね」

「いや、普通に歩いているのだから、確率から考えても当たること自体が低いだろう」

 水滴が肌の敏感なところに落ちて反射的に驚くことは殆どない。だから安心するように彼女たちに言うも、マリーたちは俺から離れようとはしない。

 本当に歩きづらいから止めてほしいのだけどなぁ。

「ほら早く離れてくれ。リーダーの命令は絶対って、マリーがこのパーティー内のルールを決めたじゃないか」

 こんな言い方は権力を行使する感じであまりいい気分にはならないんだよな。だけどこうでもしないと、彼女たちが自ら離れてくれないからしょうがない。

「そう言われると弱いですわ」

「マリーさんの決めたルールって、時と場合によっては邪魔ですよね」

「シロウがもっと積極的であれば、そのルールも有意義に使えるのに」

 三人が渋々といった様子で俺から離れる。

 ふう、これで解放された。正直嫌ではなかったけど、いつ魔物が現れるのか分からないからな。いつでも戦えるようにしておかないと。

「こうなったら、低い確率を引き当ててみせますわ! 水滴が落ちそうな場所はどこにありますの」

 首を左右に振り、マリーが必死になって天井部分を見る。

 その努力をできれば別の場所に向けてほしいのだけど。

 マリーに対して少々呆れつつも、俺は奥のほうに歩いて行く。

「シロウさん、待ってください。足音が聞こえます。少しづつ大きくなっているので、こちらに向っているかと」

 何者かが近づいているとクロエが教え、俺はその場で足を止めた。

「足音? 私には何も聞こえないのだけど?」

 ミラーカが両の耳に手を持っていくが、彼女は何も聞こえないと言う。

「それもそうですよ。本当に小さい音なんですから。エルフである私にしか聞きとれません」

 クロエが自身の胸に手を置くと、声高らかに言葉を連ねる。

 「同じ依頼を受けている冒険者はいないはずだ。状況から考えても、こちらに向っているのは魔物だと思っていい。全員戦闘準備」

 仲間たちに戦う準備をするように言い、俺も軽く構える。

 様子を窺っていると、明かりに照らされて魔物が肉眼で見えるようになった。

 六体のゴブリンだ。やつらの手には、弓や剣などの武器が握られている。こちらに気づくと地面を駆け、俺たちに接近してきた。

「シロウさんには近づけさせません!」

 クロエが弓で矢を放つ。射出された矢は、ゴブリンの眼球に突き刺さる。

『グギャア!』

 片目を失った影響で、先頭にいたゴブリンはその場で足を止める。

「この洞窟にはゴブリン程度しかいないのかい? なら、これで十分だろう」

 ミラーカが、懐から緑色の液体が入った瓶を取り出す。そして片目を失ったゴブリンに投げつけた。

 瓶はゴブリンに触れると割れ、中の液体が魔物の肌に付着する。

『ギャアアアアアアァァァァァァァ』

 緑色の液体が付着したゴブリンは、断末魔の悲鳴を上げると暴れ出す。そしてその後、地面に倒れると動かなくなった。

「どうだい? 私特性の毒薬ポーションは? 凄い効き目だろう? だけど私の攻撃はこれだけではないさ」

 ミラーカがパチンと指を鳴らす。その瞬間、地面に倒れたゴブリンの肉体から骸が出てきた。

「魔物から魔物を生み出す研究はまだ発展途上だけど、上手くいったようだ。さぁ、ボーンゴブリンよ。目の前のゴブリンたちを攻撃しろ!」

 ミラーカの指示に従い、骸となったゴブリンは通常のゴブリンたちに襲いかかる。

 同士討ちをさせるなんていう戦法は、なかなかエグイな。

 元同胞が骨となって襲いかかる姿に、ゴブリンたちのほうも戸惑ってしまったのだろう。 ボーンゴブリンは通常のゴブリンたちを次々と倒していく。

 数分もしないうちに、ゴブリンたちは全滅していた。

「さて、こいつらも戦力に加えるとしますか」

 再びミラーカはパチンと指を鳴らす。すると先ほどと同じように死体の肉が裂け、中の骸が現れた。

「これで私たちの盾役は揃っただろう。さぁ、シロウ。先に進もう」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる彼女に、俺は苦笑いで返す。

 さすが魔族と言うべきか、俺ができないような戦い方をする。今回は魔物だったからよかったが、もし人間の死体を利用しようなんて考えた場合は、止めさせないといけないな。









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