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第四章

第四話 おい、オルテガ! 話が違うじゃないか! どうして魔物の軍隊が東と西にも現れる!

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 俺は今、冒険者たちを引きつれ、町の北側の入り口付近に来ている。

 彼らは今できる最大限の装備をしているようだが、正直防具に関してはあまり効果がないだろう。

 なにせ、俺の魔法で肉体を強化すれば、平服でも防ぐことができる。

 だけどまぁ、気持ち的にも安心したいのだろうなぁ。

 そんなことを考えていると、上空に信号弾が発射された。赤色の煙が青空に伸びて行く。

 赤色の信号弾は、魔物が現れたという合図だ。

「どうやら魔物が現れたようだな」

 冒険者たちに手の平を向けると、俺は呪文を唱える。

「エンハンスドボディー、スピードスター」

 この場にいる全員に、肉体強化と俊足魔法を付与する。

 とりあえずはこれでバフは完了だな。あとは敵の魔物たちにデバフの魔法をかけるだけだ」

 入口のほうを見ると『ウオオオォォォ』と唸り声を上げながらこちらに走ってくる魔物たちの姿が見えた。

 敵はゴブリン、オーク、オーガといったごく普通の魔物たちだ。

「さて、もうひとつの仕事をしますかな。サルコペニア」

 今度は魔物たちに手を向け、呪文を唱えた。

「これでよし、マリー頼めるか?」

「わかりましたわ!」

 マリーは駆けて魔物に接近する。その瞬間、彼女が消えたかと思うと、前線の敵の前に現れた。そして鞭を横薙ぎに振ると、魔物たちは勢いよく吹き飛ばされた。

『ぐぎゃあああああぁぁぁぁ』

 吹き飛ばされた魔物は悲鳴を上げながら後方に飛ばされ、更に後続の魔物を巻き込んでいく。

 その光景を見て、俺は上手くデバフが作用したことに安堵する。

 サルコペニアは筋肉の量を減少させる弱体化魔法。

 あの魔法を受けると、筋肉の元となる筋タンパク質の分解が、筋タンパク質の合成を上回せる。それにより筋肉の量を減少させたのだ。

 すると、全身の筋力低下が発生し、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなる。

 この魔法はひとつで三つの効果を与えることができる。さらに、速度が落ちたことで回避率が下がり、攻撃側は必中に近い状態になる。

 こんな魔法を考えられるのは俺ぐらいだろう。本当に異世界の知識さまさまだな。

「うおー! すげー!」

「俺たちもあんな感じで戦えるのかよ!」

 マリーの戦いかたを見て、冒険者たちにやる気が出たようだ。彼らは闘志を燃やしている。

 だけど変だ。情報では魔物の数は千体だったはず。それなのに、ざっと見ても三百体いるかいないかだ。

 まだ第一陣しか来ていないということなのか?

「シ、シロウさーん」

 戦場の様子に違和感を覚えていると、クロエの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

 彼女は町民の避難誘導役を任せていた。

「どうした? 何かあったのか?」

「ハァ、ハァ、そ……それが」

 どうやら彼女は急いで走ってきたようだ。息切れをしており、言葉が途切れ途切れになっている。

「スタビライティ―スピリット」

 強制的にリラックスさせる魔法をクロエにかける。

 魔法の効果がすぐに現れ、彼女の息切れは治った。

「ありがとう。シロウさん」

「それで何があった?」

「そ、そうでした! 大変なんです! 実は、東と西からも、魔物の軍団が現れそうなのです。魔物たちはもうすぐ町に近づくころかと」

「何だと!」

 クロエの言葉にオルテガが驚きの声を上げる。

 彼女はエルフだ。種族特有の遠くの音や小さい音を聞き取る力により、魔物の接近を把握したのだろうな。

「こうしてはいられないな。今から班を三つに分ける。こっちから一番端のやつまではこの場に残り、残りはオルテガと一緒に西のほうに向ってくれ。クロエは引き続き町民の避難誘導を頼む」

「シロウ! まさか一人で東側の魔物を相手にするというのか!」

「そうだけど」

「それはあまりにもむちゃですよ! 一人で東側の魔物を相手にするなんて」

 俺はむちゃだと訴えるクロエの頭に手を置き、笑みを浮かべる。

「安心しろ。一人でも戦える策があるからこそだ。この策は最悪の場合は周囲に被害を及ぼすかもしれない。だから俺一人のほうがいいんだ」

「その言葉、信じてもいいのだろうな」

 オルテガが厳しい目つきで俺を見てくる。

「ああ、信じろ! 絶対に勝ってみせる」

「わかった。おい、お前ら、俺たちは西側に向かうぞ!」

「おおー!」

 オルテガは自分の班である冒険者たちに声をかけると走っていった。魔法の効果により、瞬く間に姿が見えなくなる。

「それじゃあ、俺も行ってくる」

「絶対に負けないでくださいよ。私との約束ですからね」

「ああ、約束しよう。もし、万が一にでも俺が負けるようなことになったのなら、その時はクロエのお願いをひとつ叶えてやるよ」

 彼女にそういうと、俺は急ぎ街の東側へ向かった。












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