Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第三章

第九話 蘇った冒険者って、どう見てもゾンビになっているじゃないか!

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 新たにできた通路を歩きながら、俺は周囲を警戒する。

 探査魔法で調べたとおり道が一本で、分かれ道や隠し扉のようなものもなさそうだ。

「今のところ変わったところはないな」

「そうですわね。何かしらのトラップでも仕かけてあっても良さそうですのに」

「お二人とも歩くのが早いですよ。待ってください」

 後方からクロエの声が聞こえ、振り返る。いつの間にか、エルフの女の子と距離が開いていた。

「あ、ごめん。警戒し過ぎて早歩きをしていた。たぶん普通に歩いていても問題はないと思う」

「クロエ、安心なさい。何かあれば、シロウがワタクシたちを守ってくださいますから、ね!」

 青い瞳の目を片方だけ瞑り、マリーはウインクをしてくる。

「まぁ、マリーとクロエは、実力で言えば俺よりもランクが下だからな。自分の身を守れないような状況に陥ったときは、それは当然助けるさ」

「もう、もう少し気の利いたセリフ言ってくださらない。マネットライムからワタクシを守ってくださったときのように」

「あのとき、何か言っていたか? 全然覚えていないな」

「ワタクシは当然覚えておりますわ。シロウはワタクシにこう言ってくださいました。マリーは――」

「二人とも止まってくれ」

 過去の俺が言ったセリフをマリーが言おうとしたところで、俺は前方から異臭を感じ、二人に止まるように言う。

 何だ? この異臭は?

「何ですの? この臭いは?」

「腐った臭いがしますね」

 あまり嗅ぎたくない臭いだ。念のためこちら側に来ないようにしておいたほうが良さそうだな。

「ウインドウ」

 この場の気圧に変化をもたらし、奥に向けて風を送る。

「あれ? 急に臭いがしなくなった」

「臭いを感じるということは、臭い物質が鼻に入って脳にその情報が送られるからだ。臭い物質そのものを吸引しなければ、臭いを感じることはない」

「さすがシロウですわ。ワタクシたちが風上にいることで、臭いがしないのですね」

「このまま風を送りつつ、前進する」

「わかった」

「了解しましたわ」

 前方に風を送りつつ、ゆっくりと歩く。すると、奥のほうから数人の人がこちらに歩いてくるのが見えた。彼らもこちらに向けてゆっくりと歩き、手には、剣や斧といった武器が握られている。

 あの男たち、ギルドで見たことがある。行方不明となった冒険者たちだ。

「あの人見覚えがあります。きっと行方不明になった冒険者たちですよ」

「良かったですわ。見つかって」

 クロエとマリーが安堵の表情を見せる。

 だけど何か変だ。彼らが本当に行方不明の冒険者なら、俺たちを見て何も反応を示さないはずがない。

 普通は何か言ってくるよな?

「ファイヤーボール」

 火球を生み出す魔法を唱え、こちらに向ってくる男たちに放つ。

「ちょっと、何をやっているんですか! シロウさん!」

「そうですわ! 冒険者を殺してしまっては、冒険者資格を剥奪されますわよ!」

 俺の行動に二人は声を荒げる。

「まぁ、まってくれよ。スピードは遅い。簡単に避けられる」

 ファイヤーボールは鈍足で動く。冒険者なら、例えランクが低くとも簡単に避けられる速度だ。

 火球の行く末を見守っていると、男たちは火球を避けることもなく前進し続け、最後は触れて火だるまになる。

「これで決まりだな」

 ゆっくりと歩くことや、人間らしい反応を示さないこと、そして先ほどの攻撃を避けようとしないことや、臭ってきた異臭。これらを考えるならば、彼らは既に人間を止めていることになる。

 そう、彼らはゾンビになってしまったんだ。

「マリー、クロエ、彼らは何者かにゾンビに変えられた。人間ではなく魔物だ。早いところ倒して成仏をさせてやろう」

「わかりました。成仏してくださいね」

 クロエが弓を構え、そして矢を放つ。先ほどの経験を活かしているようで、俺のサポートなしでゾンビに命中させた。

 彼女の放った矢は頭部に当たるも、魔物は前進を止めない。

「全然効いていません!」

「ゾンビの脳は既に死んでいる。痛覚がない以上は、本能で動くだけだ。奴を止めるには燃やすのが手っ取り早い。ファイヤーアロー」

 空中に炎の矢を出現させ、俺は右手を上げて合図を送る。その瞬間、炎は魔物にヒットすると敵を燃やす。

 身体が燃えたゾンビはそのまま地面に倒れて動かなくなった。

「クロエ、危ないですわ!」

「え!」

 マリーがクロエに注意を促し、その声に反応した俺は彼女を見る。

 いつの間にか回り込んでいたゾンビがおり、彼女に向けて口から液体を吐き出していた。

「きゃ!」

 マリーの声かけに反応したクロエは、ギリギリで敵の攻撃を躱す。しかし完全に避けきることができずに、彼女の服の一部に付着してしまった。

 その瞬間、クロエの着ている服が溶けだす。

「え、え! どうして服が溶けるのよ!」

「この変態ゾンビ、これを食らうといいですわ」

 鞭を巧みに使い、マリーは液体を吐いたゾンビの顔面をブッ叩く。

「ゾンビの吐く液体には気をつけろ! 消化効果で肉が溶けて骨のみになるからな!」

「それを早く言ってください! この洋服気に入っていたのですよ!」

「悪い。今からその対策を取るから安心しろ。シャクルアイス」

 氷の呪文を唱えた瞬間、水分子を集めて水を作ると、この場にいるすべてのゾンビの口周りを覆う。そして水に限定して気温を下げると氷に変化した。

「よし、これなら皮膚に氷が引っ付いて消化液を出すことができない」

 突然口周りが凍ったことでゾンビたちは困惑しているようだ。動きが鈍くなり、狙いがつけやすくなっている。

「これで終わりにしよう。ファイヤーアロー」

 矢の形を象った複数の炎を生み出し、ゾンビたちに当てる。

 魔物は身体が燃えると地面に倒れた。

「クロエ、大丈夫ですか?」

 敵の攻撃を受けたクロエに、マリーが近づく。

「ケガはないよ。でも、お気に入りの服が」

「シロウ、魔法で元に戻すことはできませんの?」

「さすがに時を巻き戻すような魔法は俺には使えない」

「え! シロウの魔法って万能ではないですの?」

 彼女の言葉を聞いた俺は、右手を額の上に置く。

 マリーのやつ、俺の魔法を何でもできる便利なものだと思っているなぁ。俺のスキルで生み出した魔法は、あくまでも異世界の知識を利用したもの。異世界の知識でも解明することのできないことを魔法にすることはできない。

「俺のスキルは万能ではないからな。あくまでも全知全能に近いことしかできない。まぁ、なんだ。この依頼が完了したら、新しい服を買ってあげるから、それまで待っていてくれ」

 俺の言葉に、クロエは顔を綻ばせる。

「本当ですか! 絶対ですよ! 嘘ついたらセンボンザクラを飲ませますからね」

「センボンザクラは魔物じゃないか! そんなものを飲ませようとするなよ!」

「センボンザクラってなんですの?」

 マリーはセンボンザクラという魔物を知らないようだ。俺に訊ねてきた。

「センボンザクラはハリセンボンの魔物だ。見た目はハリセンボンがピンク色になったようなイメージだな」

『ガチガチガチガチ』

 彼女に魔物のことを教えると、変な音が聞こえる。俺は周囲を見ると、焼死体となったゾンビの肉体から骨が出てきた。

 それはまるで、さなぎから蝶が出てくる瞬間のように。











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