Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第三章

第二話 エルフの女性、クロエは雑務担当です

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 スキンヘッドの男のパーティーと合同で依頼を受けることになった俺は、新しく発見されたダンジョンの中を歩いていた。

「そろそろ視界が悪くなってきたな。おい、クロエ! 早く松明を用意しろ!」

 先頭を歩いていたスキンヘッドの男が大声を出すと、エルフの女性は背負っていたリュックを地面に下ろし、松明を探す。

「おい、なにチンタラしていやがる! 早くしないか! 普段から俺が言っているだろうが! ダンジョン攻略のときに一番必要なものは、すぐに取り出せるように考えて収納しろって!」

「ご、ごめんなさい」

 男の怒声に、クロエと呼ばれたエルフの女性は、弱々しい声で謝りながら松明を探す。

 女性はびくびくしながら探しているからか、中々松明が見つからないようだ。

 このままではまたあの男が、喚き散らすのは時間の問題だろう。

「ファイヤーボール」

 彼女のことが不憫ふびんに感じた俺は、呪文を唱えて火球を生み出すと、周囲を明るく照らす。

「お、急に明るくなりやがった」

「相方のパーティーリーダーのファイヤーボールのお陰なのか?」

「マジかよ! 火球の魔法でここまで明るくなるなんて聞いたことがないぞ」

 男のパーティーメンバーが口々に驚きの声を上げる。しかし、俺は彼らを無視してエルフの女性に近づいた。

「明るくするのは俺がするから、君は魔物が出たときのためのアイテムの準備をしておいてくれるかい?」

「はい……わかりました」

「すまないな、クロエがグズのせいで迷惑をかけて」

「いや、問題ない」

 クロエが散らかしたアイテムを収納し直したのを確認して、俺たちはダンジョン探索を再開する。

「本当にムカつきますわね。あのハゲ頭。いくらパーティーリーダーであっても、言って良いこと悪いことがありますわ」

 俺の隣を歩いているマリーが、彼らに聞こえないように小声で言う。

「確かに、最初に感じた印象とはかなり変わっているな」

「シロウ、魔物が出てきたときに、どさくさに紛れてあの男を鞭で叩きのめしてもよろしくて」

「ダメに決まっているだろう。そんなことをしては、ギルドに報告されてしまう。最悪活動停止になるかもしれないぞ」

「さすがにそれは困りますわね。わかりました。では、魔物があの男を痛めつけるように、神にお願いをするしかありませんわね」

 マリーの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

「あ、止まってください」

 前を歩いていたクロエが小さい声で足を止めるように言う。

 後を歩いていた俺は、彼女の声がギリギリ聞こえていた。なので、その場で立ち止まったのだが、スキンヘッドの男たちは聞こえていないようだ。どんどん先に進んでいく。

「あ、止まって……ください」

 クロエは右手を前に出してもう一度彼らに声をかけるが、先頭は次々と先に歩いて行った。

「どうしたのですクロエ? 急に止まるように言われましたが」

「魔物……こっちに……来ています」

「エルフ特有の能力だな」

 エルフの耳が大きいのは、より多くの音を取り入れるためだ。そのような身体の作りになっているため、人間よりも遠くの音や小さい音を聞き入れることができる。

「うあああああぁぁぁぁぁぁ」

 前方から絶叫する声が聞こえてきた。あの声は、スキンヘッドの仲間の声だ。彼女の言うとおりなら、魔物に襲われていることになる。

「どうやら魔物が現れたようだ。俺たちも急ごう」

 マリーとクロエに声をかけ、先に進む。

 すると、スキンヘッドの男たちがオオカミ型の魔物に襲われていた。

「シルバーファングだ。あいつらは集団で襲ってくる」

 俺は周囲を見渡す。魔物の数は五体いた。

「シロウ、明かりがなくなったと思ったら、急に魔物が襲ってきやがった」

 洞窟内を照らす明かりは、俺のファイヤーボールだ。俺から離れれば、当然真っ暗になる。クロエの声が聞こえないで、明かりの範囲外に入ってしまった者の結末としては、当然の結果だ。

「ふん、いい気味ですわ」

 マリーがポツリと言葉を洩らす。彼女の気持ちはわからなくもないが、今はそれどころではない。

「俺たちも加勢するぞ」

「いや、その必要はない。明かりさえあれば、この程度の魔物は俺たちだけで十分だ。お前は明かりのほうに集中してくれ」

 スキンヘッドの男が加勢はいらないと言う。彼からすれば、俺が戦いに加わわると明かりを失うとを懸念しているのかもしれない。けれど俺からすれば、明かりを維持しつつ戦うのは容易だ。これまで何度も同じことをしてきた。

 しかしスキンヘッドの男は、俺のことをよく知らない。当然の反応とも言える。

 戦いに参加してもいいのだが、彼らがどの程度の実力があるのかを知るチャンスでもある。

 ここは彼に従って、見守ってもいいかもしれないな。

 俺は傍観者として戦闘を見守る。

 彼らの実力は本物だった。次々とシルバーファングを倒していく。

「シロウ、彼らは確かに強いようです。けれど」

「ああ、全然チームワークが取れていない。あれでは個人戦だ。だけど魔物はCランクの冒険者が相手にするシルバーファング。彼らがB以上の冒険者なら、あの戦い方も納得がいくのだが」

 彼らの戦闘スタイルについてマリーと話していると、どうやら敵を全て倒したようだ。

 動かなくなったオオカミ型の魔物が地面に横たわっている。

「大丈夫! しっかりして!」

 スキンヘッドの仲間の女性が、傷を負った男性に駆け寄り、声をかける。

「この傷ではもう助からねぇ、俺はどうやらここでリタイアのようだ。俺のことはほっといて先に進んでくれ」

 男は致命傷を負っているようであり、大量の血が流れている。

「待っていろ、今ヒールをかけるからな」

「止めろ、これだけ多くの血を失っているんだ。回復魔法をかけたところで手遅れだ。魔力を使うのなら、この先のためにとっておけ」

 どうやら仲間同士は本当に仲がいいようだ。感動的なシーンに、思わず心が揺らぐ。

 だけど、こんなところで死なれては寝覚めが悪い。

 重症の男に近づくと、彼に手の平を向ける。

「ネイチャーヒーリング」

 回復魔法を男にかけ、彼の細胞を活性化させる。すると自己修復が行われ、彼は傷跡すら残らない状態まで肉体が回復した。

「なんと!」

「嘘! ほんの数秒で傷がなくなっている! こんな魔法見たことがない!」

 スキンヘッドの仲間が、目の前のできごとに驚きの声を上げた。

「ブラッドプリュース」

 続けて血液生産魔法を唱える。傷が癒えた男の骨髄から血液を生産させ、失った分の血を補わせる。

「おお! さっきまで気分が悪かったのが嘘のようだ! むしろ、ダンジョンに入る前よりも絶好調だぜ!」

「ありがとう。君のお陰で仲間が死なずに済んだ。君は命の恩人だ」

「まるで神様のようだ」

 スキンヘッドの仲間たちが、俺に感謝と称賛の言葉を言う。

 まぁ、これぐらい朝飯前だ。だけど、さすがに神は言い過ぎだな。俺はそんな抽象的な存在ではない。せめて言うのならば現人神あらびとがみだ。

 俺が称賛の言葉を浴びせられていると、エルフに近づく人物がいた。











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