Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第二章

第三話 子を失った親の怒り

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 ギルドの依頼で、卵の真相を確かめるために東のダンジョンに入った俺とマリーは、現在地下の十四階層に来ていた。

「ここまでひとつも卵なんてものはありませんわね」

「ああ、ここまでくると、偽の情報をギルドがつかまされたと思うのが自然だな」

 だけど、ギルドマスターのオルテガが言っていたことも気になるよなぁ。これまで卵の調査のために、様々なランクの冒険者が、このダンジョンの中に入ったらしい。けれどその冒険者たちは、二度と戻ってくることはなかったと言っていた。

 このダンジョンで既に魔物に殺されていると考えるのが自然だよな。でも、ここまで人間の死体のようなものが確認できていないのが、疑問だ。

 この辺の階層までは誰も殺されていないのか? それとも、骨すら残されない状態になるまで、消し炭にされたのだろうか?

 色々と考えながら歩いていると、地下の十五階層につながる階段を発見した。

「ここから先が十五階層のようですわね」

「階層から考えると、そろそろ最下層だと思うのだけど」

 階段を下りると、あることに気づく。

 ここから先は、他の階層とは違う。

 直感的にそう感じた。

 階段を降りて十五階層の光景を目の当たりにした俺は息を呑む。

 これはグロイな。マリーには刺激が強いだろうし、彼女には見せないほうがいい。

 俺はマリーの視界を塞ぐように彼女を抱きしめる。

「え、え! シ、シロウ! こ、こんなところで、大胆すぎですわよ。でも、強引なのも嫌いではないですわ」

 抱きしめた途端、マリーは意味の分からないことを言いだす。

 いったいこのお嬢様は何を考えているんだ?

「いいから俺の言うとおりにするんだ。いいか? 絶対に目を開けていいと言うまでは、何があってもに目を開けるなよ」

「わ、わかりましたわ。リーダーの命令は絶対ですもの」

 珍しく聞き分けがいいな。いったいどういう心境の変化なのだろうか?

 抱きしめる力を緩め、彼女を解放する。

 すると、マリーは両の目を閉じると顔を前に出してきた。

 なぜ目を閉じろと言っただけなのに、顔を俺に近づけさせる?

 マリーの行動理由がわからなかった俺は、とりあえず彼女の身体を抱きかかえ、そのまま地下十五階層を歩く。

「まぁ、シロウのことだから、こんなことになるだろうとは思っていましたわよ」

 お姫様抱っこをされているマリーが、何かをぶつぶつと言っている。けれど声が小さすぎて俺にはよく聞こえなかった。

 ここの階層はマリーには見せられたものではない。いたるところに死体が転がっており、口で表現したくないほどのグロテスクな場となっている。

 いくら冒険者でも、マリーはお嬢様だ。こんなものを見てしまっては、トラウマになってしまうかもしれないからな。

 ここの階層で多くの冒険者が殺された。どこかに彼らを殺した魔物が潜んでいる。

 先をあるいていると、広いフロアに出た。ここのフロアには死体もなく、血の跡もない。

 ここなら、目を開けさせても問題ないだろう。

 お姫様抱っこをしているマリーを地面に立たせる。

「マリー、もう目を開けてもいいぞ」

「ええ! もう終わりですの! せっかく幸せな時間を過ごせていましたのに! もう一往復お願いしますわ」

 マリーは右手の人差し指を伸ばして前に突き出す。

 いったい何を言っているんだこのお嬢様は?

「いいから目を開けてくれ。リーダーの命令は絶対何だろう?」

「そうでした。こうなるのであれば、あのとき言わなければよかったですわ」

 ぶつぶつと言いながらも、マリーは目を開ける。そして周囲を見渡した。

「ここはどこですの?」

「ここは地下十五階層の開けた場所だ」

『卵! 我のたまごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

 現在地をマリーに教えた瞬間、どこからか嘆くような叫び声が聞こえてきた。

 そしてズシン、ズシンと何者かが音を立ててこちらに歩いてくる。

「レッサーデーモン!」

 こちらに歩いて来ているのがレッサーデーモンだと知り、俺は拳を握る。

 レッサーデーモンは、全長三メートルの魔物だ。魔法使い殺しの異名を持つ。俺と相性が悪い。

 状況によっては少し苦戦することになるかもしれない。

『見つけたぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 我の赤ちゃんを殺した冒険者ああああぁぁぁぁぁぁ!』

 魔物が俺たちを見るなり叫び声を上げる。

 やつの言葉を聞く限り、どうやら我を忘れている。俺たちのことを、卵を壊した犯人だと思い込んでいるようだ。

『我の赤ちゃんを返せえええええぇぇぇぇぇぇぇ』

 翼を羽ばたかせて俺の前に移動すると、レッサーデーモンは両手を組んで振り下ろす。

 俺は後方に跳躍してその一撃を躱す。勢いの余った拳は、地面に叩きつけられた。拳が触れた地面が割れてつぶてが周囲に飛ぶ。

「ちょっと待ってくれ! 俺たちはここに来たばかりだ。卵なんて一度も見ていない!」

『赤ちゃんの仇いいいいいぃぃぃぃぃぃ!』

 弁明をするが、魔物は聞く耳を持たない。

 まったく、人の話ぐらいちゃんと聞いてくれよな。

 できることなら話し合いで解決しようと思ったが、こうなっては仕方がない。倒して正気を取り戻させよう。

「マリー、やつの音波には気をつけろ! 食らえば精神が安定しなくなり、魔法が発動できなくなる」

 マリーに注意を促しつつ、俺はレッサーデーモンの尻尾を躱す。

 レッサーデーモンの音波を浴びると、脳がダメージを受ける。それによりホルモンバランスが崩れ、精神的なプレッシャーで魔法が撃てなくなるのだ。

「やつが音波を放つ前に正気を取り戻させる! ショック!」

 敵の音波を警戒しつつ、俺は失神魔法を放つ。

 神経を活性化させて、心臓に戻る血液の量を減少させて意識を失わせれば、正気に戻るのではないかと考えたからだ。

『ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

 魔法が発動し、レッサーデーモンは悲鳴を上げる。

 これで大人しくなってくれればいいのだが。

『己えええええぇぇぇぇぇぇぇ冒険者ああああぁぁぁぁぁぁ』

 しかし、レッサーデーモンはその場で倒れることなく、再び暴れ出す。

 意識を失わないのかよ、意外とタフだな。一発で正気を取り戻してくれないとなると……。

 次の方法を考えている最中、敵の攻撃が襲いかかる。

 魔物は完全に正気を失っているようだ。デタラメに攻撃をしてくる。そのせいで、やつの動きを読むことが難しい。

 俺を殴ってきたかと思うと、急に方向転換をして床を殴るといった具合だ。

 でも、その様子を見て疑問に思う。

 いくら怒りで我を失っているからと言って、敵の居場所を把握することができないほど、理性を失うなんてことはまずないはずだ。これには何かある。

 考えろ、これには何かあるはずだ。

 情緒不安定なレッサーデーモンの様子に激しい感情、そしてそこに存在しているかのように錯覚している攻撃。これらの情報から考えるに…………わかった。

 レッサーデーモンが意味不明な行動をとっている原因に、思い当たる部分があった俺は、直ぐに呪文を唱える。

「ブレインセラピー」

 呪文を唱え、しばらく様子を窺う。

 すると、最初は暴れていたレッサーデーモンだが、急に動きを止めて呆然としだした。

『アレ? 我は今まで何を……確か卵を二人組に破壊されて……それから』

 どうやら予想が当ったようだな。

 やつは幻覚を見せる魔法を受け、今まであのようなことになっていた。

 魔法を受け、幻覚を見せる成分が脳内に増幅した。それにより、脳が異常を起こし、混乱を起こす。その結果暴れ出したのだ。

 俺が魔法で幻覚成分を遮断したことで、余計な情報が入らなくなり、やつは正気を取り戻した。

「どうだ気分はよくなったか?」

『人間? どうしてこんなところ……に』

 言葉の途中でレッサーデーモンは突如倒れる。

「倒してしまいましたの?」

「いや、眠っているだけだ」

 脳の治療を行うブレインセラピーは、副作用が存在する。

 この魔法を使うと、脳の神経のひとつが活発になり、睡眠物質が増加してしまう。そのせいで眠気が誘発してしまうのだ。

 レッサーデーモンが目を覚ますのを待つと、背後から殺気が感じられ、俺は振りかえった。

 そこには、片手で鞭を持ち、今にも振り下ろそうとしているマリーがいた。












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