Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第一章

第五話 スライム討伐 前編

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 ~シロウ視点~



「ようやく見つけたぞ! さんざん逃げやがって、もう逃がさないからな!」

 俺は討伐対象の魔物、クックルーの討伐にやって来ていた。

 この魔物は、ニワトリを巨大化させたような生き物だ。山に入った人々を襲い、食料を奪う。だけど、ただ大きいだけではない。図体がでかいのに、素早いのだ。

 ようやく崖に追い詰めることができた。

「さぁ、逃げ道はないぞ。これでお前も終わりだ! シャクルアイス!」

 呪文を唱えると、ニワトリの足付近に水分子が集まったことで水が出現し、直ぐに気温が下がって氷へと変化した。

 氷はクックルーの足に張りつき、身動きを封じる。

「さっさと終わらせよう。ファイヤーボール」

 続いて火球を出現させる呪文を唱える。生み出した炎は酸素を飲み込み、巨大化していく。

「鳥の丸焼きにしてくれる!」

『コケー!』

 火球が魔物に当った瞬間、クックルーは悲鳴を上げる。

 肉が焼け焦げる臭いが漂い、ついお腹がなってしまった。

「こいつをギルドに届けて飯にするか」

 全体に黒ずんでいる魔物の足を持ち、引きずりながらギルドに戻って行く。

「おめでとうございます。これであなたはAランクになりました」

 受付嬢が討伐した魔物を確認し、昇格したことを教えてくれる。

「俺の見込んだとおりの男だ。まさかこんな短期間にAランクまで上りつめるとはな。俺の予想を遥かに越える。お前は我がギルドの誇りだ」

 ギルドマスターのオルテガが、笑顔を浮かべながら称賛の声を上げる。

 どうやら彼の予想を超えるスピードで、昇格をしてしまったようだ。だけど、このぐらいのことは、俺にとっては普通でしかない。

 まぁ、褒められて悪い気はしないけど。

「それでどうする? 今からスライム退治の依頼を受けるか?」

「いや、お腹が空いたから、一旦昼食を取ることにするよ」

 2人に背を向けて、ギルドの出入口に向おうとする。

「あ、待ってください」

 昼ご飯を食べに行こうとすると、背後から受付嬢が声をかけて呼び止めた。

 彼女が呼び止めるとは珍しいな。何かあったのか?

「何か用か?」

「先ほど、赤いバラの皆さんが訪れて、スライムの討伐に来たと言われたのです。あのクエストはギルマスの指示で、シロウさんが予約していることにしているので断ったのですが、もしかしたらまた来るかもしれません」

「へー、あいつらがこの町に来ているんだ。まぁ、俺にはもう関係のないことだけどね」

 そう、追放された以上はもう、俺には何も関係がない。ただの顔見知り程度の関係だ。

 右手を上げて軽く左右に振りながら、ギルドから出て行く。

 確か出店があったよな。昼食はそこで販売されているのを食べよう。

 歩いていると、目的の出店に辿り着き、売っていた肉を買うことにする。

「おばちゃん。焼きたてをひとつくれ」

「いらっしゃい少し待ってね」

 焼けたばかりの肉を受け取り、代金を払う。そして目的もなく、ただ食べ歩きをした。

 うーん、やっぱり焼きたての肉は美味い。

 肉の味に舌鼓を打つと、先ほど受付嬢が言った言葉を思い出す。

「あいつらがスライムの討伐になぁ。マリーの性格を考えれば、もしかしたら依頼を無視して、洞窟の中に入っているかもしれないよな」

 俺たちはもう、何の関係性もなくなった。だけど目的の場所にあいつらがいる可能性がある以上は、鉢合わせすることになるだろう。

「仕方がない。あいつらが数日でどれぐらい強くなったのかを見させてもらうとするか……そう言えば、塩と砂糖を切らしていたな。依頼を受ける前に買っておくとするか」

 ギルドに立ち寄る前に、食料品を売っている店に向かい、調味料を購入。その後にギルドで手続きを行い、スライムのいる洞窟前に来た。

「さて、中に入るとしますか。ファイヤーボール」

 魔法で生み出した火球を、松明代わりに使う。周囲を明るく照らしたお陰で、周辺の状況を把握することができる。

「あいつら、松明とか用意しているのだろうか。いや、俺がパーティーにいたころは、準備に関してはすべて俺がやっていた。たぶん何も準備をしていないで来ているだろう。と言うことは、今の俺のように、火球を明かり代わりにしているに違いない。だけど俺のサポートなしで、どれぐらいの火球を生み出すことができていたっけ?」

 俺とあいつらはもう何も関係ない。先ほどそのように考えていたのに、いつの間にか心配している自分がいることに気づく。

「まぁ、関係は断ってしまったけど、あいつらとは1年間一緒にいた。少しぐらい情が移っても仕方がないか」

 手がかかるやつほど可愛いという言葉がある。今の俺は、あいつらをそんな風に見ているのかもしれない。

 スライム以外にも、この洞窟には魔物がいるはずだ。まぁ、俺にとってはどんな魔物だろうと、ザコの2文字で片付いてしまうがな。

 さっさとスライムを倒してこの洞窟から出よう。

 そんなことを思いながら、洞窟内を歩いていると、広いフロアに出た。

『ラララ―』

 これは歌声か? こんな洞窟に珍しい。いったい誰が歌っている?

「ふあーぁ」

 そんなことを考えていると、思わず欠伸が漏れてしまう。

 あまりにも簡単な依頼なので、気が抜けているのだろうか。

 最初はそう思っていたが、しばらくすると違和感を覚えた。

 可笑しい。いくら気が抜けていたとしても、ここまで眠くなるのは不自然だ。つまり、俺は何ものかの攻撃を受けていることになる。

 そしてこの眠気の原因はあの歌声によるものだろう。

 だが、全知全能に近い力を得ている俺には、なぜ、こんなに眠いのかがわかる。そしてその対策も万全だ。

「ウエークアップ!」

 眠気を吹き飛ばす回復魔法を唱える。魔法の効力により、俺は眠気を感じない。

「俺にはお前の攻撃は通用しないぞ、出て来い!」

 姿を見せるように言うと、歌声の持ち主が現れた。見た目はオウムだが、尻尾が尾鰭になっている。相手を眠らせることに長けたオカリナマーメイドだ。

 その数は10体。

 やつの声を聞くと、脳に睡眠物質を増加させられて眠ってしまう。

 だけど、さきほど使用した覚醒魔法のウエークアップは、脳の神経を抑制することで、睡眠物質の蓄積情報を遮断させることができる。それにより、眠気がなくなったかのように錯覚させることが可能だ。

「さて、どうやって倒そうか」

 複数の相手に有効な技は、範囲で攻める系の魔法がいいだろう。オカリナマーメイドは、洞窟の天井付近を飛行している。ならば、羽ばたくのが困難な状況に追い込めばいい。

「ストロングウインド」

 呪文名を言った瞬間、周辺の気圧に変化を起こし、この場に強風を発生させる。強い風が発生したことで、オカリナマーメイドは上空で羽ばたくことが困難になり、吹き飛ばされた。洞窟の壁に激突すると、辺りどころが悪かったようだ。魔物はそのまま動かなくなる。

「まぁ、こんなものだろう」

 地面に倒れた魔物たちの間を横切り、先に進む。

 ここから先は階段になっているな。どうやら地下1階はクリアしたようだ。

 階段を下り、地下2階へと進む。

 地下2階も魔物たちが襲ってきたが、俺の敵ではなかった。瞬く間に倒し、下の階に下りて行く。

 スライムはいったいどこにいるんだ? 正直、最下層まで下りていくのは面倒臭い。

 3階、4階、5階と下りて行き、今は地下9階にいる。

「いた! スライムだ」

 地下9階のとあるフロアで、複数のスライムを発見した。だけど、どいつも杖らしきものを持っていなかった。スライムたちの先に、地下10階へとつながる階段がある。

「はずれか。仕方がない。そのまま階段を下りていくとするか」

 この場にいるスライムたちは無視しよう。

 先に進むことを決めると、堂々と階段に向って歩いて行く。しかし、スライムたちは侵入者を見逃す気はなかったようだ。

 跳躍して飛びかかろうとすると、捕食するためにジェル状の身体を伸ばす。

「そんなに食いたいのなら、こいつを食べさせてやるよ」

 懐から、粉の入った瓶を取り出す。蓋を開けて中身を握り、襲いかかるスライムに振りかけた。その瞬間、スライムは地面に倒れ、水溜まりのように広がっていく。そして核が剥き出しの状態になっていた。

 他のスライムたちも襲ってくる。

 まったく、目の前で同族が溶けているというのに、本当にこいつらは知能がないよな。

「ほらよ、お前たちにも食わせてやる」

 先ほどと同じように粉を振りかけた。

 この場にいるすべてのスライムは、水溜まりのような形状となり、核が丸見えだ。

「一応こいつらの核を壊しておくか」

 腰に差している短剣を抜き、スライムの核に突き立てる。

 赤色の核は刃が触れると、ヒビが入って割れた。

「これでよし、さて先に進むとしよう」
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