Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第一章

第三話 チーム赤いバラ、スライムには勝てなかったよ。 前編

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 ~マリー・オルウィン視点~


 ワタクシ、赤いバラのリーダー、マリー・オルウィンは、仲間のレオとエリナを引き連れて、隣町のサザークに来ております。

 この町の近くにあるダンジョン。そこに生息しているスライムに、他の冒険者たちが手を焼いているらしいのです。ワタクシの所属しているギルドのマスターから、変わりに依頼を受けろと言われたから、この町に来たのですわ。

 お世話になっているギルドマスターのお願いを、断ることのできなかったワタクシは、その依頼を受けることにしましたの。ですが、依頼の紙はサザークにしかないとのことなので、わざわざここまで出向いたと言うわけです。

 Sランクのワタクシたちなら、スライムなんかちょちょいのちょいですわ。

「さて、サザークに来たことですし、ギルドに向かいましょうか」

「そうですね。マリー様。Sランクとしての初めての依頼です。頑張りましょう」

「エリナの言うとおりだ。早く依頼を終わらせて祝杯をあげましょう」

 仲間のエリナとレオの士気も、十分に上がっているようです。これなら怖いものはありませんわ。ワタクシには、最高の剣士と最高の魔法使いがついていますもの。

 気分を高揚させながら、ワタクシたちはギルドに向かいます。

 ギルドの中に入り、受付のお姉さんに声をかけました。

「ごきげんよう。ワタクシ、赤いバラのチームリーダー、マリー・オルウィンですわ。今日はホワイトチャペルのギルドマスターの依頼で、こちらに掲載されているスライム討伐の依頼を受けに来ましたの」

 ワタクシは優雅にここに来た理由をお姉さんに伝えます。すると、なぜか彼女は申し訳なさそうな表情をするではないですか。いったい何があったというのです?

「すみません。その依頼は予約が入っております」

「よ、予約!」

 予想外の言葉に、ワタクシは思わず声を上げてしましました。令嬢として恥ずかしいですわ。でも、声を出さずにはいられませんでした。

「予約とはどういうことだ! そんな話、初耳だぞ!」

 レオが力強くカウンターを叩きます。彼の行動に驚いてしまったのでしょう。受付のお姉さんはビクッと身体を動かします。

 ですが、彼の気持ちもわかります。ギルドの依頼で予約があるなんてことは、これまで一度もありませんでしたわ。早い者勝ち。それが全世界に共通するギルド内の暗黙のルール。

「私たちは、ギルドマスターの依頼で来たのよ!」

 エリナもレオに続いて問い詰めます。

「お気持ちは分かるのですが、こちらもギルマスに言われての処置ですので」

 受付のお姉さんは困った様子で説明をします。

「納得できるか! 俺たちは隣町からわざわざ来てやっているんだぞ。ギルドマスターを出しやがれ!」

 レオが声を荒げます。彼の気持ちは痛いほど分かりますが、全然優雅ではありませんわ。あのような態度では、赤いバラの名に傷がついてしまうことになります。

 受付のお姉さんも彼に怯えているような感じですし、ここはリーダーとして皆を纏めなければいけません。

「レオ、エリナ。それ以上は止めなさい。受付のお姉さんを怖がらせてはいけません。所詮は雇われの身なのです。上からの指示には逆らえないのですから、ワタクシたちがこれ以上迷惑をかけるわけにはいきませんわ」

「マリー様がそうおっしゃるならば」

「わかりました」

 どうやら2人は納得してくれたようです。さすがワタクシが見込んだ人材ですわ。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ではごきげんよう」

 ドレスのスカートを軽く摘まんで持ち上げ、軽く頭を下げます。そしてそのままギルドを出ました。

「本当によかったのですか?」

 しばらく歩いてギルドから離れたころ、レオが尋ねてきます。

「何を言っているのです? ワタクシはまだ諦めていませんわ。予約なんてふざけるのもいいとこです。正式な手順は踏んではいないですが、本来ギルドは早い者勝ちが暗黙のルール。なので、ワタクシたちが先にスライムのいるダンジョンに入り、スライムを倒せばいいのです」

「なるほど! さすがマリー様! 私たちとは頭のできが違いますね!」

 エリナがワタクシを褒めます。少し優越感を覚えますが、調子に乗るという行為は全然優雅ではありません。

「当然です。何せワタクシたちはSランク。スライムとも戦ったことがありますし、既に勝っております。今回の討伐も簡単に終わるでしょう。それでは、今回も優雅に可憐に大胆に行きますわよ」

 はしたないと思いながらも、右手でグーを作ると空に向って突き上げます。

 ダンジョンに向けて歩き、スライムがいると言われる洞窟に辿り着きました。

「それでは、ダンジョンに入りますわよ」

 ワタクシたちは洞窟の中に入って行きます。入り口付近は、松明が置かれて明るいのですが、奥のほうには明かりがありません。なので、自前で用意する必要があります。

「そろそろ目だけでは危険な暗さになりましたわ。レオ、松明をお願いしますわ」

「わかりました。エリナ、松明の用意をしろ」

「え! 私! レオが用意しているんじゃないの?」

「何を言う。普段から俺が用意しているわけがないだろう」

「それは私も一緒だよ。雑用はあいつに任せていたのだから」

 2人の会話に、ワタクシは悲しくなりました。いつもの感覚が抜けきれないのは、人間である以上は仕方がありません。ですが、まさか2人とも準備をまともに行っていないとは、思ってもいませんでしたわ。

「マリー様、引き返しますか」

「そんなにのんびりしている暇はありませんわ。あの依頼を予約なんてしているバカが、いつ来るのかもわかりません。なるべく早く討伐しなければなりませんわ。エリナ、あなたの魔法で明るく照らしなさい」

「わかりました。ファイヤーボール」

 ワタクシの指示に従い、エリナが魔法で火球を生み出します。ですが可笑しなことに、彼女が生み出した火の球は小さく、明るく照らすには不十分です。

「あれ? 可笑しいなぁ。今日は調子が悪いみたい」

「おいおい、何をやっているんだ。いつもはもっと明るいだろうが」

 魔法で生み出した火球があまりにも小さかったので、レオが彼女に対して呆れています。

「レオ、それ以上は彼女を責めないであげてください。人間ですもの。調子の悪いときぐらいありますわよ」

「マリー様」

 まるで女神を見るような眼差しで、エリナはワタクシを見てきます。彼女の態度を見ると、何だか嬉しくなりますわ。

「とりあえずは先に進みましょう」

 小さい明かりを頼りに、足元を確認しながら前進していきます。

 すると、どこからか歌声のようなものが聞こえてきました。この洞窟の中に誰かがいる。

 でも、どうして魔物のいる洞窟の中で歌っているのでしょうか?

「ふあーぁ」

 そんなことを考えていると、急に眠気を感じて欠伸が出てしまいました。ワタクシは咄嗟に手で口元を隠します。

「マリー様、眠くなったのですか? ふあーぁ」

「そういうあなたも欠伸が出ていますわよ」

 欠伸と言うものは、連鎖していくもの。ワタクシが欠伸をしたことで、レオに移ってしまったようです。

「ふあーぁ」

 レオの欠伸が、今度はエリナに移りました。どうやら皆、眠気を感じていらっしゃるようですわね。

 眠気を感じてはいますが、こんなものはすぐに吹っ飛ぶでしょう。ワタクシたちは先を進むことにしました。

 しばらく歩いていると、異変に気づきます。不思議なぐらいに眠くてたまりません。まるで徹夜したあとの早朝のように。

 ですが、こんなところで眠ってしまうのは愚かなことです。ワタクシは必死に眠気に耐えようとしました。けれど耐えようとすればするほど、眠気は強くなっていきます。とうとう耐えきれなくなってしまったワタクシは、両の瞼を閉じてしまったのです。
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