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第七章

第六話 屋敷に潜入テオの作戦

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 アバン子爵たちによって巨大化させられたキャスパークを助けた俺たちは、急ぎルナさんが囚われている屋敷に向かう。

「メリュジーナ、俺たちも急いで屋敷に向かうぞ。ルナさんを救出だ」

「うん、わたしの羽で空中から追いかければ、まだ間に合うかもしれない」

『待ってよ! 僕を置いて行かないで! 足場が砂地のせいで前に進めない!』

 メリュジーナの手を握り、彼女に連れて行ってもらおうとする。その時、マーペが声を上げ、動けない状況にあることを告げた。

 彼の方を見ると、いつものように魔力を封じる鳥籠を倒して中から押している。けれど足場が砂地のせいで、さっきから砂場を抉っているだけだった。そのせいで一向に前に進まず、逆に足場を抉り続けることで沈んで行く。

「こんな時にまで足を引っ張りやがって」

 メリュジーナと手を繋いだままマーペに近付き、鳥籠を持ち上げる。

 時々こいつがわざとやっているのではないかと思えてならない。

 鳥籠からマーペを出し、腕に嵌める。

 マーペは兄のパペット人形であるパーぺと魔力線で繋がっている。そしてそのパーぺは、アバン子爵の別邸にいるとのことだ。その魔力線を辿れば、迷わずに屋敷に辿り着くことができる。

 パペット人形を腕に嵌めたことで、視界に青色の帯状のものが見えた。

 いつもの魔力線だ。こいつを辿って行けば、屋敷に辿り着くはず。

 マーぺを嵌めたままの腕で鳥籠を掴む。その瞬間彼は何かをわめこうとしたが、既にに鳥籠を掴む部分を口で咥えさせられていたので、なにを言っているのか聞き取ることができない。

 まぁ、おそらく文句の類いに決まっている。きっと『乱暴に扱うな!』とか『僕を嵌めたまま物を掴まないで!』みたいなことを言っているのだろう。

「今度こそ準備OKだ。飛んでくれ」

 飛翔するようにメリュジーナに頼むと、彼女は妖精の羽を羽ばたかせて上空に上がる。そして細い指示を出しながらメリュジーナに飛んでもらうと、魔力線は森の中央付近で降下していることに気付く。

「あの辺に降りてくれ」

「でも、どこにも屋敷のようなものは見えないよ?」

 メリュジーナの言う通り、俺の目にも建物らしきものは見当たらない。

 この小島に辿り着いた時も、上空からは見えなかった。やっぱりなにかしらの魔法で認識できないようにしてあるのだろうな。

「大丈夫だ。あの辺りに屋敷がある」

「分かった。しっかり捕まっていてね」

 指示を出したところに向かってメリュジーナが素早く移動する。彼女が早く移動したことで空中の気流が変わり、風が発生して風圧を受けることになったが、そんなことで動じる訳にはいかない。

 数秒後には森の中に突入して大地に降り立つと、俺の心臓は予想以上に早鐘を打っていた。

 慣れないことで体がびっくりしているのかもしれないな。

 顔を上げて視線を前に向ける。すると、目の前に大きな屋敷が見えた。

ご主人様マスターの言った通りだったね。森の外からでは全然分からなかったのに、屋敷があった」

 メリュジーナが言葉を漏らす中、俺は腕に嵌めているマーぺを外し、鳥籠の中に入れる。

「早速ルナを助けに行こうよ。わたしが暴れるから、その隙にご主人様マスターはルナを救出して」

 作戦を告げ、屋敷に向かって歩こうとしている彼女の腕を掴む。

「いや、それではダメだ。それでは何も解決しない」

 数分前までは、キャスパークの戦闘やアバン子爵の悪行の数々を聞かされて、怒りや焦りから俺たちがルナさんを連れ去ろうと考えていた。でも、冷静に考えるとそれでは今の状況をただ延長しているだけに過ぎない。

 一番の解決方法は、アバン子家の悪行を伝え、ルナさんの婚約を諦めてもらうように仕向けることだ。それができれば、大団円で終わらせることができる。

 そのためにも、こちらから色々と罠を仕掛ける必要がある。

「それじゃあ始めるとするか。インピード・レゴグニション」

 認識阻害の魔法を唱え、魔力を放つ。魔法で放たれた魔力を吸引した人物は、脳に異常が起き、俺たちを別人だと認識するはずだ。

「これでよし。今、認識阻害の魔法で俺たちは別人に見えるようにした。多分俺の都合の良いようになっているはずだから、この屋敷で働いている使用人に見えていると思う。まずはこの屋敷の状況と、ルナさんがいる場所を探し出すか」

「分かった。それなら二手に分かれた方が良いよね。私は外周の方からルナを探してみるよ」

「なら、俺は屋敷の中からだな。後で合流して情報の共有をしよう」

 その場でメリュジーナと分かれ、屋敷の中に入っていく。

『ねぇ、ねぇ、今認識阻害の魔法を使ったでしょう? 僕って何に見えているの?』

 廊下を歩いていると、鳥籠の中からマーぺが訊ねてくる。

「ああ、お前は大事な役目を担っているぞ。俺が怪しまれないように、水の入ったバケツに見えるようにしてある。しかも汚れた水で雑巾が縁に掛けられているな」

『掃除用具にさせられている! しかもなんていう設定なのさ! 雑巾はともかく、水くらい綺麗にしてよ! まるで僕が汚いみたいじゃないか!』

 いや、どう見てもお前の体は汚れているじゃないか。

 文句を言うパペット人形の言葉を無視しながら歩く。

 しばらく屋敷の中を探索していると、扉から話し声が聞こえてきた。

 どうやら誰かいるみたいだな。もしかしてルナさんか?

 扉に近付き、聞き耳を立てる。

「いやーどうも。お久しぶりです。アバン子爵、この度はあなた様の別邸をお貸し頂きありがとうございます」

「何を言うか。この婚約が成功すれば、我々は親戚となるのだ。息子の未来の花嫁の父親の頼みを聞くことなど造作もない」

「本当にありがとうございます。それにしても、到着が少し遅くなりましたね。それに予定では他の使用人たちもお越しに来るはずでは?」

「ああ、ちょっとしたトラブルがあってね。到着が遅れてしまった。他の使用人たちも遅れて来ることになっている。安心してくれ」

 扉越しに聞こえたこの声は、グレイ男爵とアバン子爵だな。他にも誰かいたりするかのか?

「こちらが我が自慢の息子のストライクです」

「初めまして義父様おとうさま、ストライクです。この度は僕に素晴らしい縁談をくださりありがとうございます。今からルナさんに合うのが待ち遠しいです」

 扉越しにストライクの声も聞こえてきた。

 それにしても何が『素晴らしい縁談をくださりありがとうございます』だ。ルナさんを性欲処理の道具としてしか見ていなかっただろうが。

「おお! なんと言うイケメンなんだ! 若い頃のアバン子爵に似ておる。これならルナも満足してくれるはず。明日の対面が待ち遠しいですな」

 更に聞き耳を立てると、明日の日程までが聞こえてくる。

 なるほど、明日がルナさんとストライクの初めての顔合わせか。それまでになんとか対策を考えないとな。

「すみません。トイレを貸していただけますか?」

「ええ、良いですよ。誰かストライク殿を案内してくれないか」

 グレイ男爵が使用人を呼んでいる。これはチャンスだ。

 扉を開けて中に入る。

「お……私が案内します」

「頼んだよ」

 部屋に入った瞬間、バレないか心配であったが、彼らはしっかりと俺の魔法にかかっているようだ。これを利用して作戦を開始しよう。

「それでは、こちらになります」

 俺はストライクを案内する。しかし連れて行くのはトイレではない。
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