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第六章

第二話 ルナさんの企み

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 ~テオ視点~



 ルナさんの勝手な行動で転移してきた俺たちは、港町を歩いていた。

 誰も一言も喋ろうとはしない。話しをしようにも、空気が重く感じられ、口を開くことができなかった。

『ぐぅー』

 そんな中、メリュジーナのお腹から空腹を知らせる音色が奏でられる。

「今日はみんな疲れただろう。宿屋を探して休もう」

「やった! ご飯! ご飯! お肉! お肉!」

 宿屋を探して1泊することを決めると、メリュジーナが声を上げてはしゃぐ。しかし、彼女の顔を見ると空元気のように思えた。

 この空気をどうにかするには、ルナさんから事情を話してくれるのが一番だ。それまでは、俺たちは彼女の家の事情などを訊ねることなどできない。

 港町の宿屋を見つけ、扉を開けて中に入る。

「いらっしゃい。三人だな。部屋は何部屋使う?」

 建物の中に入ると、カウンターにいる店主が声をかけてきた。

 ルナさんのことを考えると、しばらくは1人になる時間が必要だよな。少しお金がかかってしまうが、ここは3部屋借りることにしよう。さすがにメリュジーナと一緒の部屋に泊まる訳にはいかない。

 この前のように、全裸でベッドの中に忍び込まれても困る。

「3部屋――」

「3人部屋を1部屋貸してください。泊まる日数は、取り敢えず1泊だけで」

「3人部屋だね。ちょっと待っていてくれ」

 店主が3人部屋の鍵を取り出して渡すと、ルナさんが代金を支払う。

 チラリと彼女を見るが、上辺だけの彼女の表情はいつも通りだった。

 まぁ、ルナさんが3人部屋で良いのならそれで良いか。余計な気を使いすぎたのかもしれないな。

 泊まる部屋の中に入り、部屋にある椅子に腰を下ろす。

 さて、これからどうしようか。誘拐された女の子たちは、ゲルマンたちが家に帰してくれるだろうから心配しなくていいはず。

 次の目的はメイデスになるけど、その前にルナさんのことも気になる。彼女の事情を知ってしまった以上は、同じ仲間として放っておく訳にはいかない。

 いや、そもそもこの問題から俺は逃れることはできないだろう。だって、親御さんの目の前で俺とルナさんは唇を重ねてしまったんだ。もう、無関係では居られない。

 その場凌ぎだったのかもしれないけど、どうしてルナさんはあんな強行策に出てしまったのだろうか。

 早く龍玉を取り返さないといけないけど、まずはこっちから先に片付ける必要があるよな。

 額に手を置き、小さく息を吐く。

 それにしても何だかいつもよりも静かなような気がするな。何か忘れているような……そうだ! マーぺ!

「ルナさん! アイテムボックスに入れていたマーぺは!」

「あ、私も忘れていた」

 ルナさんがショルダーバッグ型のアイテムボックスに腕を突っ込み、中から人形を取り出す。

 救出作戦を実行する際に、マーぺは邪魔だった。なので、アイテムボックスの中に収納していたのだが、生きているだろうか?

『もう! いきなりバッグの中に押し込むなんて酷いじゃないか! びっくりしたじゃないか! アイテムボックスの中にいたせいで僕は兄ちゃんと――』

「兄ちゃんと?」

『兄ちゃん人形と一緒にいられて良かったよ。アハハ!』

 気になるワードが耳に入ったので、マーぺに訊ねる。すると彼は直ぐにはぐらかした。

 何か気になるな。そう言えば、次にいつ情報交換をするのか言っていなかったので、あれ以来敵側の情報を得ることができていない。

 もし、俺の知らないところで情報交換が行われていた場合は、厄介だな。

『何そんなにジロジロと見ているのさ。そんなに見詰められると照れてしまうよ』

 ジッと視線を送っていると、マーぺがふざけ出した。とにかくこいつをまた鳥籠の中に入れて、魔法だけは封じておかないと。

 ルナさんからマーぺを受け取り、そのまま魔力を封じる鳥籠の中に入れる。
 




 それから数時間が経ち、ルナさんはシャワーを浴びに行っている。メリュジーナも外の様子を見て来ると言って出ているので、今の俺はこの空間に1人だ。

 ベッドで横になりながら天井を見ていると、あることがフッと脳裏を過ぎる。

「そう言えば、ルナさんってタオルを持っていったっけ?」

 気になってしまい、ルナさんのアイテムボックスを開けて中身を確認する。タオルを取り出したつもりが、彼女のブラやパンツを掴んでいたが、これはなかったことにしよう。

 ルナさんごめん。

 心の中で彼女に謝りつつ、今度こそタオルを取り出すと枚数を確認する。

「やっぱりルナさんはタオルを忘れている」

 タオルを手に取り、そのままバスルームの扉の前に立つ。そしてドアノブを握って捻り、ゆっくりと開けた。

 少しだけ開けて隙間から覗くも、脱衣所にはルナさんの姿は見当たらない。

 どうやらまだ、ルナさんは脱衣所には来ていないようだ。

 なるべく音を立てないように気をつけつつ、脱衣所に入る。

 なんでだろう。別に覗きをするつもりはないのに、妙に鼓動が激しくなってくる。

 変な緊張感に包まれる中、そっとタオルを籠の中に入れようとする。

 その瞬間、彼女の着替えだと思われる下着が視界に入った。

 そのパンツには見覚えがある。これはメリュジーナが初めて人の姿になった時に、ルナさんが履かせていたエロティックな大人の下着だ。

 ル、ルル、ルナさん。まさか、今日はこの下着を履くつもりなのか!

 いや、まさかな。偶然に決まっている。

 よく見たら、上下のセットが別のやつだった。きっと間違えて持って来てしまったのだろう。流石に下着をすり替えてちゃんとしたものを持って来る訳にはいかない。

「こうなってしまった以上、手段を選んでいる訳にはいかないよね。数日中に攻略して、それでも無理なときはアレを使うしかないわ。本当はアレを使うなんてことはしたくないから、とにかく私自身が頑張らないと……お父様に見つかった以上、私に残された時間は少ない」

 扉越しにルナさんの声が耳に入る。

 数日中に攻略? 無理なときはアレを使う? 何を言っているんだ?

 彼女の言っている意味が分からない中、俺はタオルを籠の中に入れると、そっと脱衣所から出た。
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