上 下
68 / 122
第五章

第十一話 救出作戦開始

しおりを挟む
 さて、それじゃそろそろ始めるとしますか。まずはこの牢屋に、魔法封印や魔法反射が施されていないかを確認するとするかな。

 俺は手始めに、火球を生み出そうとする。するとイメージ通りに火球が生まれ、魔法を発動することができた。

「ダメ! この牢屋には反射魔法がかけられている! 自分で自分を傷付けることになるわ!」

 火の玉を生み出した瞬間、対面の牢屋に閉じ込められている女の子の1人が叫ぶ。

 やっぱり反射魔法が施されているのか。でも、自分の目で確かめない限りは、そう易々とは信じることができない。

 幸いにもこの牢屋には俺しかいない。やるだけのことはやってみるとするかな。

 火球を鉄格子の扉に放つ。すると火の玉は鉄格子に当たった瞬間に跳ね返り、こちらに飛んで来た。

「ウォーターボール!」

 目の前に水球を生み出し、火球にぶつけることで相殺する。

「あなたバカなの! 人がせっかく親切に教えてあげているのに!」

「悪いな。俺は用心深いんだ。他人の言うことなんかを簡単に信じるほど、お人好しではないんでね」

 教えてくれた女の子に謝り、牢の端に移動すると床を見る。

 彼女の言う通り、この牢屋には反射魔法が施されている。なら、次はこの牢全体に反射魔法が施されているのかを確認すべきだな。

 右手を前に出し、床に向けて魔法を放つ。

「パップ!」

 魔法を発動した瞬間、床が砕け散る。砕けた範囲は通路の一部まで到達しており、鉄格子の下をくぐり抜けて脱出することができそうだった。

 どうやら床にまで反射魔法がかけられていなかったみたいだな。もし、反射されたら、音の力で吹き飛ばされるところだった。

 空気の振動だけで物を壊すことは、空気の振動が対象物の強度を上回ればできる。この性質を利用し、音の力だけで床を破壊したが、上手くいって良かった。

 空いた空間から鉄格子をくぐり抜け、通路へと出る。

「あなた何者?」

「ただの旅人だよ。ちょっとした縁があったから、君たちを救出しにきた」

「救出ねぇ……それにしても、捕まるなんておっちょこちょいじゃないの?」

「これは作戦だ。俺は敢えて捕まった。外から侵入して内部に潜り込むよりも、内部から君たちを解放した方が危険性は低いからな」

 女の子と会話をしながら思考を巡らせる。

 さてと、取り敢えず俺は脱出したが、彼女たちはどうやって助けるかな。音の魔法で床を破壊したら、牢の内側にいる彼女たちにまで被害を受けることになる。ここは肉体強化の魔法を使ってこじ開けてみるか。

「エンハンスドボディー」

 肉体強化の魔法を発動し、脳のリミッターを外して限界ギリギリまで筋力を強化させる。

 鉄格子を握り、思いっきり横に動かす。鉄はグニャリと曲がり、どうにか人ひとりが通れるくらいの空間を開けることができた。

 どうやら反射魔法は、牢の中にかけられているだけだったみたいだ。外側からの魔力には反応しないみたいだな。

「これでよし、みんな、もう出て来ても大丈夫だ。この屋敷から抜け出して家に帰ろう」

 家に帰れることを伝えると、女の子たちの顔が綻ぶ。

 1人ずつ牢から抜け出し、全員が通路に出た。すると、上の階から足音のようなものが聞こえてくる。

 こちらに来る様子はない。どうやらルナさんとメリュジーナが、頑張ってイルムガルドたちを誘導してくれているみたいだ。

「仲間が誘拐犯の気を引いている内に、この屋敷から脱出する。落ち着いて俺に着いて来てくれ」

 囚われた女の子たちに指示を出すと、階段を上がって1階に向かう。

 1階には人の姿が見当たらない。このまま玄関とは反対側に向かい、窓を叩き割って外から脱出するとするか。

「みんな、こっちだ。着いて来てくれ」

 玄関側とは反対側に歩いて行くも、俺は違和感が拭えきれないでいる。

 可笑しい。どうして兵士の1人も屋敷にいないんだ? 全員がルナさんたちと戦っている? いや、普通なら万が一のことも考えて、屋敷の中にも兵士を配置しておくものだ。

 そう言えば、牢屋にも見張りがいなかった。今思えば違和感だらけしかない。

 これは何かの罠なのか? 手薄と見せかけて本当は俺たちの思考を読み、脱出しようと思っている場所に兵士を配置しているのか?

 おかしな点がありすぎて、様々な憶測を考えてしまう。

 だけど今やるべきことは、連れ去られた彼女たちを家に帰してあげること。そのことだけを考えよう。

 奥に進んでいると、白い粉の入った瓶が転がっていた。

「これは……もしかして」

 首を左右に振ると、キッチンらしき部屋が見えた。もしかしたらあの部屋にあったものなのかもしれない。

 白い粉の入った瓶を拾い、懐に仕舞うと奥へと歩き出す。

 玄関とは反対側の壁に辿り着き、窓を開けて外の様子を窺う。

 外には人ひとりすらいなかった。

 嘘だろう。どうしてここまで兵士がいない。俺の知らない間にイルムガルドたちに何かあったのか? 例えば問題を起こして爵位の降格などがおき、満足に兵士を雇えない状況下に陥っているとか。

 そんなことを考えるも、直ぐに首を振る。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。見張りの兵士がいないなら、好都合だ。

「みんな大丈夫だ。このまま窓から脱出しよう」

 よじ登って窓から外に出ると、建物の中にいる女の子たちに声をかける。

 屋敷の奥には森が続いているみたいだ。

「みんな着いて来て」

 女の子たちを誘導して森の中を歩いて行くと、途中で洞穴を発見した。

 中を確認すると、獣などはいなさそうであり、しばらくの間は身を隠すのに丁度良さそうだ。

「しばらくの間この中に居て。多分大丈夫だと思うけど、万が一何かが起きたら、この転移石を使って真っ先に町に帰るんだ。いいね」

 俺に声を掛けてくれた女の子に転移石を渡すと、彼女は無言で頷く。

 さて、ルナさんたちの加勢に入るか。勘当されてはいるが、元身内の蛮行は許す訳にはいかない。

「スピードスター!」

 俊足の魔法を発動すると、すぐさま来た道を引き返す。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

処理中です...