上 下
67 / 122
第五章

第十話 育ての親との再会

しおりを挟む
「それじゃ行くわね」

 誘拐犯の黒幕の1人であろうと思われるシモンに接触することにした。

 結局はわざと捕まり、内部から捕まった人々を救出する作戦を実行することした。

 背後には認識阻害の魔法で野盗に成り済ました2人がおり、ゆっくりと近付く。

「待たせたな」

 メリュジーナがシモンに声をかけると、彼はこちらに顔を向ける。

「おう、お前たちか。思ったよりも遅かったな。それに今回の収穫は1人だけか」

 どうやら魔法の効果が発揮されているらしく、シモンには野盗に見えている様子。

「ああ、邪魔者がいたせいで、このざまぁだ。まぁ、どうにか1人だけでも連れて来ることはできた」

 話し合って決めたセリフをメリュジーナが言うと、シモンはジロジロと自分の顔を見てきた。

「ふむふむ。俺は写真を見ていないが、今回は当たりの様な気がするな。後のことは俺に任せて、お前たちは早く次の仕事に取り掛かれ」

「はいはい、分かりましたよ」

 二人が離れると、シモンが腕を引っ張り、強引に船に乗せられる。甲板に上がり、顔を上げるとメリュジーナがもう1人を掴んで空を飛んでいる姿が見えた。

 彼女の飛行能力なら、例え海を移動しても見失うことはないだろう。

「何をボケっとしている。乱暴されたくなければ大人しく引っ張られろ」

 その場に立ち止まってしまったからか、シモンが声を上げて引っ張り、船内に連れられる。階段を降りて最下層と思われる場所に辿り着くと、牢屋の中に入れられた。

「目的地に着くまでは、その中で大人しくしておれ。まぁ、女1人でどうにかなるとは思えないがな」

「あら? それは失礼しちゃうわね。こう見えても強いのだけどなぁ?」

「ワハハハハハ! 野盗に簡単に捕まるやつが強いだと? 寝言は寝てから言うんだな」

 笑いながら、シモンはこの場から立ち去って行く。

 油断しているのか、それともバカなのだろうか。いや、きっと両方だろう。わざと捕まったと言う考えを思考から外している。

 首を左右に振って周囲を確認する。他に捕まっている人は居らず、自分だけがこの場にいる。

「ファイヤーボール」

 魔法を唱えると空中に火の玉が出現する。

「どうやら魔法を封じる結界は施されていないみたいね。では早速」

 生み出した火球を鉄格子に当てる。すると火球は弾かれ、こちらに飛んできた。

「反射魔法! ウォーターボール」

 自身に向かって来る火球に向け、水球を放ち、火球をかき消す。

「まさか反射魔法が施してあるとは思わなかったわね。上級魔法なら突破できるかもしれないけれど、そしたらシモンに気付かれるかもしれない。ここは大人しく牢屋にいたほうが良さそうね」

 その場に座り込み、船が目的地に辿り着くのを待つ。

「メリュジーナたちは、ちゃんと付いて来ているのかしら?」

 この作戦は彼女たちの協力も必要。2人が外から揺動し、内部に侵入した自分が攫われた女の子たちを救出して外に逃す。

 揺動側が欠けても、自分が失敗しても女の子たちを逃すことが難しくなる。

「絶対に作戦を成功させないと」

 周辺に窓がないのでどれくらい時間が経ったのかは分からない。しばらくしてシモンが再びやって来た。

「着いたぞ。さぁ、こっちに来るのだ」

 彼に従い、ゆっくりと立ち上がるとシモンに近付く。彼は持っている縄を使い、逃げられない様に両手を縛る。

「女の子をこんな扱いするなんて貴族として最低よ」

「何! どうして俺が貴族だと分かった!」

 声を上げて驚きの表情を見せる彼に、失敗したと思った。

 ルナさんからしたら、シモンが貴族だと言うことを知らない。なのに、今の言葉は失言だった。

「だ、だって。あなたが着ている服って高そうじゃない? 平民の私には一生かかっても着られそうにないなぁと思ったから」

「なるほど、確かにこの服は一般人が手を出せない額だ。それで俺が貴族であると分かったのだな。納得した」

「あはは」

 苦笑いを浮かべ、その場を誤魔化す。

 シモンがバカで本当に良かった。

 両手を縛られ、縄を引っ張られた状態で階段を登り、甲板に上がる。

 顔を上げて上空を見上げると、メリュジーナたちの姿が見えた。

 良かった。無事に追跡できたみたいだ。

 彼女たちにアイコンタクトを送り、シモンに引っ張られるまま付いて行く。

 しばらく歩くと、大きな屋敷が視界に入った。きっとあの中に捉えられた女の子たちがいるのだろう。

 屋敷前に来ると、シモンが扉を開けて中に入り、彼に付いて行く。

「この中に入れ!」

 部屋の中に入る様に促され、扉が開かれる。中に入ると、そこには金髪の髪をランダムマッシュにしている男と、紫髪をロングにしている女がいた。

「イルムガルド、メルセデス、新しい女を連れて来た」

「今回は1人か。だんだんと数が減っているな。もし、こいつが違っていれば、次の町に移動するか」

 イルムガルドは懐から一枚の紙を取り出し、見比べる様に交互に見てくる。そして彼は口角を上げた。

「メルセデス、シモン。朗報だ。こいつ、ルナの可能性が高い」

「それは本当!」

「マジか。これでゲルマンの依頼達成だな」

「まだ確信はない。この女は他の女たちとは別にしておけ」

「了解した。さぁ、確認は終わった。今度はこっちに来い!」

 縄を引っ張られ、部屋から追い出されると今度は階段を降り、地下へとやって来る。

 地下は牢屋になっており、牢の中にはあの町や付近で捕まった赤髪の女の子たちがいた。

「さぁ、お前はこっちの牢に入るんだ」

 彼女たちとは違った牢に入れられると、シモンはこの場から去って行く。

「よし、行ったな。それじゃあ作戦開始と行きますか」

「さっきまで女の子だったのに、男になっている」

 反対側の牢にいる1人の女の子がポツリと呟く。

 そう、俺は認識阻害の魔法を使い、俺のことをルナさんだと周囲に思わせていたのだ。











最後まで読んでいただきありがとうございます。

昨日追加されたエール機能ですが、2人の方からエールをいただきました。

本当にありがとうございます。

どうせ私の作品にエールをしてくれる人なんていないだろうと思っていただけに、嬉しい誤算です。

名前までは分からないのですが、もしかしたらあの人でしょうか? とにかくエールをしてくださった方、本当にありがとうございます。

お陰で今後の執筆にも気合を入れて書くことができます。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

処理中です...