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第四章

第八話 依頼内容はご令嬢の捜索

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~イルムガルド視点~



 俺ことイルムガルドは、ゲルマンと契約を交わし、牢屋から出ることに成功した。

「それにしても、良くここまで来られたな。ここって城の地下牢だろう。いくら貴族と言っても、簡単には入って来られるはずがないと思うのだが?」

「ああ、それはだな。この城に俺の息がかかったやつがいる。そいつに頼んで、人払いをさせたんだ。そのお陰で簡単に入ることができた」

 ゲルマンの説明を聞き、納得する。

 なるほど、こいつは意外と顔が広いからな。隣国にも知り合いの1人や2人いてもおかしくはないか。

「それで、仕事の件だが」

『ぐ~』

 ゲルマンが仕事の内容を話そうとしたところで、俺の腹から空腹を知らせる音色が奏でられる。

「まずは腹ごしらえからだ。腹が減っては、依頼はできぬからな。ゲルマン、奢れ」

「まったく、お前は騎士爵に降格しても変わらないな。爵位は俺の方が上なのに、上から目線かよ。まぁ、お前のそんなところは嫌いではないがな」

 最低限の会話をしながら階段を登り、扉を開けて外に出る。

 どうやら今は夜らしく、夜空に星が輝きを見せていた。

「今は夜か。なら、酒場だな。久しぶりに酒が飲みたい。ゲルマン、美味い酒と肉、それに綺麗な姉ちゃんがいる店に案内しろ」

 要求を言うと、彼は苦笑いを浮かべた。

「欲張りだな。そんなに都合の良い店を俺は知らない。綺麗な姉ちゃんはいないが、美味い酒と料理を提供してくれる店を知っている。そこに行こう」

 チッ、綺麗な姉ちゃんはいないのかよ。まぁ、良い。取り敢えずは美味い酒と肉だ。

 ゲルマンの隣を歩き、彼のおすすめの店に辿り着くと中に入る。

 店内は客どもが酒を浴びるように飲みながら騒いでいた。

 アルコールが入ってハイになっているのか、嫌でも会話が耳に入ってくる。

「おい、聞いたか? とうとうお姫様を笑わせることに成功したやつが出たらしいぞ」

「聞いた。聞いた。そいつすげーな! 凄腕の芸人ですら笑わせることに失敗したって言うのに。えーと、確かテオとか言ったか?」

 何! テオだと!

 会話の内容に、思わずその場に立ち止まってしまった。

「ねぇ、イルムガルド。あの客たちテオって言わなかった?」

「イルムガルド、俺にもテオって聞こえたけど、テオってあのテオか?」

 メルセデスとシモンが同時に声をかけてくる。

 2人が聞こえたってことは、どうやら聞き間違いではないってことだな。

「他人の空似だろう。たまたま同じ名前のやつが、偶然お姫様を笑わせたに違いない」

「そ、そうよね。あんな男がこの国にいる訳がないもの」

「そ、そうだよな。ユニークスキルも意味の分からないやつだったし。あのテオな訳がない」

 俺たちが追放したテオとは別人だと言うと、2人は納得したのか、表情を和らげる。

 追放したテオがお姫様を救ったなんて考えられるかよ。もし、あの客が言っている人物がテオ・ローゼなら、追放した俺がバカのようになってしまう。

「お前たち、何そこで突っ立っている。早くこっちに来い」

 その場に立ち尽くしている俺たちを見て、ゲルマンが席に来るように呼ぶ。

 とにかく今は、あいつのことを考えている場合ではない。一刻も早く、酒を飲んで飯を食い。腹を満たさなければ。

 ゲルマンの対面する場所に座り、俺の左右にメルセデスとシモンが座る。

「いらっしゃいませ。ゲルマン様、今夜は何に致しましょうか?」

 席に座ると、70代と思われる老人が注文を聞きに来た。

「マスター、いつもの酒を4人分と、それにあったツマミを適当に頼む」

「畏まりました」

 老人は一礼するとこの場から離れて行く。

 しばらくして酒とツマミが運ばれ、早速口に含む。

「あー! 生き返る! 久しぶりの酒は格別だぜ! マスター! おかわり!」

 一気に飲み干し、カウンターにいる老人に酒の追加を頼んだ。

「それで、俺たちに何を頼みたい?」

 アルコールが体内に入ったことで気分が良くなり、早速仕事の内容を訊ねる。

「お前たちにはある人を探して欲しい」

「人だと? そんなことで良いのかよ。俺はてっきり、もっとやばいものをさせられるかと思っていたぜ。それで、どんなやつだ? 男か? 女か?」

「女だ。交流のある子爵の御子息の縁談が決まったらしいのだが、その相手の令嬢は婚約が嫌で逃げ出したらしい」

「なるほど。その令嬢を見つけ出して捕まえ、お前のところ連れて行けば良いんだな」

「そうだ。その令嬢の名はルナ・グレイ、男爵家のご令嬢だ」

 ああ、グレイ家の令嬢な。会ったことはないが、名前だけは知っている。

「特徴を教えてもらっていいか。俺は会ったことがないから、名前くらいしか知らない」

「だいたいこんな感じだ」

 ゲルマンが懐をまさぐると、1枚の紙を取り出した。

 その紙には絵が描かれてあったのだが、顔料で描かれたものとは違っていた。鮮明に描かれてあり、まるで紙の中に存在しているかのように錯覚してしまう。

 紙には赤い髪の幼女が描かれてある。

「見た目の手がかりは幼少期のものしかない。それを頼りに探してくれ」

「分かった。それにしてもこの紙っていうか顔料か? なんか凄いな。こんなに鮮明な絵を見たのは初めてだ」

「イルムガルド、それは絵ではなく、写真と呼ばれるものらしい」

「写真?」

「ああ、写真だ。転生者伝説って知っているだろう?」

「あの子どもに読ませる御伽噺おとぎばなしだろう?」

「その物語に登場する魔道具、チェキと呼ばれるもので撮ったものらしい」

 ゲルマンの言葉を聞き、衝撃が走った。

「あの物語に登場するものが実在していたのか!」

 物語に登場する主人公は、ユニークスキルを使って、この世界には存在しない物を作り出し、人々に衝撃と新たな生活を提供している。

 そんなもの、ただの作り話だと思っていた。だが、実物を見てしまった以上、信じるしかない。

「分かった。捜索の件は任せろ。俺がどんな手を使っても、見つけて連れ来てやる。ただし報酬の追加だ」

「良いだろう。言ってみろ」

「俺たちがルナを連れて来た場合、俺の功績を王様に言って、爵位を元に戻すように進言してくれ!」











最後まで読んでいただきありがとうございます。

第五章からは、第二部となります。
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