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第四章

第七話 俺をバカにしに来たのか

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~イルムガルド視点~



 俺ことイルムガルドは、お姫様を笑わせることに失敗した。最終手段として脇をくすぐろうとしたが、それが襲おうとしているように王様に捉えられた。それにより、兵士に捕まり、牢へとぶち込まれている。

 くそう。どうしてこんなことになってしまったんだ。

 牢屋は壁で覆われ、光が差し込まない。そのせいで今が昼なのか、それとも夜なのか区別が付かず、寝たいときに寝て目が覚めたら起きる生活を繰り返している。

 こうなってしまうと、完全に生活のサイクルが狂っており、簡単には普通の生活に戻れないだろう。

 脱出をしようにも、牢屋には魔力を封じる魔法が施されているようで、魔法を使用することができない。

「どうしてワタクシが、このような惨めな目に遭わないといけないのよ。これも全て、イルムガルドのせいよ」

 独り言を呟くメルセデスの言葉が耳に入る。ストレスが溜まっている俺は、ついそれに反応してしまった。

「何だと!」

「だってそうでしょう! ワタクシは何もしていないのに、イルムガルドがお姫様に手を出そうとしたから、巻き添えを食らってしまったわ。とんだ貧乏籤びんぼうくじよ!」

 このアマ! それでも俺の婚約者かよ! 婚約者なら一心同体のようなものじゃねぇか!

 心の中でメルセデスに文句を言うも、声には出さない。

 必要以上に叫ぶと体力を消耗してしまう。ムダなことにエネルギーを使いたくない。

「シモンもそう思うわよね?」

「ああ、全くだ。メルセデスの言う通りだよ。後先考えないで、行動に出るバカのせいで、とんだとばっちりを食らっちまった」

「テメー! なんだその口の聞き方は!」

 メルセデスの言葉には百歩譲って我慢することができた。しかしシモンの言葉には我慢することができず、声を荒げる。

「その口の聞き方って、俺たちの間にはもう上下関係はないだろう? 同じ騎士爵じゃないか。関係性は対等であるべき。いや、そもそもイルムガルドは爵位を剥奪されそうなところをギリギリ免れたから、実質俺の方が上なんじゃないのか?」

 口角を上げ、バカにするような口調で言葉を連ねるシモンに対して、怒りが込み上がってくる。

 だけどやつの言うことは真実だ。今は爵位に関しては同じだ。騎士爵同士である以上は、対等でなければならない。

 まぁ、良い。今だけ粋がっていろ。元の爵位を取り戻した暁には、テメーには地獄のようなことをさせてやる。

 今後のことについて考えていると、何者かが階段を降りる音が聞こえてきた。

 そろそろ飯の時間か。あー、腹が減った。何でもいいからとにかく腹に何かを詰め込みたい。

「ハハハ。噂を聞き付けて急いで来てみれば、本当に捕まっているとはな」

 人をバカにするような言葉を言いながら、男が鉄格子の前に立つ。

 赤い髪をツーブロックにしている優男には見覚えがあった。

「お前はゲルマン!」

「よぉ、久しぶりだな」

 ニヤリと笑みを浮かべ、白い歯を見せてくるこの男は、俺の知り合いのゲルマン・イロフスキー。俺の貴族仲間で、時々会っては交流を深めている。

「どうしてお前がここにいる」

「騎士爵に降格したと言う話しを聞いて、心配してお前の屋敷に行ったんだ。そしたらアズール国に向かったと聞いてこの国に来た。でも、さすがにここにいるとは思わなかったのでな。探し出すのに時間がかかってしまった」

 ゲルマンが牢屋を隅々まで見る。

「それにしても変わった宿屋に泊まっているな。一泊いくらだ?」

「ぶち殺すぞ!」

 本気で怒り、声を上げる。するとゲルマンは笑い出し、冗談だと言ってきた。

「悪い、悪い。あまりにも辛そうな顔をしていたのでな、ジョークのひとつでも言って笑わせてやろうかと」

「逆に怒りのボルテージの方が上がって行く!」

 再び声を荒げてしまうと、若干の気持ち悪さを覚える。

 これは本格的にまずいな。空腹とストレスで、体に悪影響が出ている。ここはゲルマンを追い払って寝た方が良さそうだ。

「俺を笑いに来たのならさっさと帰れ」

「別に笑いに来た訳ではないさ。お前を牢屋から出してやる」

「何だと!」

 予想外の展開に、驚く。

 何だよ。俺を助けに来たのか。それならそうと、最初から言えば良いじゃないか。持つべきものは知り合いだな。

「ただし、ひとつだけ条件がある。お前たちは俺の仕事をしてもらう」

「分かった。引き受けよう」

「イルムガルド! あなた正気?」

「仕事内容も聞かずに承諾するなんてバカだろう」

 即答する俺を見兼ねて、メルセデスとシモンが声を上げる。

「なら、お前たちは一生牢屋の中で過ごせばいいさ。俺はどんな仕事になろうと、牢屋にいるよりかはマシだ」

 仕事を承諾すると、ゲルマンは牢屋の鍵を外して扉を開ける。

 立ち上がると、力ない足取りであったものの、ゆっくりと歩き出して牢の外に出た。するとすぐに扉が閉められる。

 どうやらゲルマンの仕事をする者だけが出られるようだ。

 様子を窺っていると、メルセデスとシモンは互いの顔を見て、無言で頷く。

「ワタクシもやるわ」

「俺もだ。どんな仕事をさせられようと、牢屋に居続けるよりかはマシだ」

 2人が決意をすると扉が開かれ、メルセデスたちが出てくる。

 これで俺たちはある程度の自由を取り戻した。ゲルマンの仕事がどんなものであろうと構わない。本当にやばい仕事をさせられそうになった時は、逃げれば済む話だからな。
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