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第一章

第十話 本気のドラゴンにも圧勝です

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 フェアリードラゴンの前に魔法陣が展開され、巨大な氷柱が現れると、俺に向かって放たれる。

『アハハハハ! 我の氷の魔法で貫かれるが良い!』

 ドラゴンが高笑いをする。

 きっと自分の勝利を確信しているのだろうな。でも、悪いがその自信を氷と一緒に砕かせてもらう。

「ゼイレゾナンス・バイブレーション!」

 魔法を発動すると、巨大な氷柱が俺の肉体に触れる前に砕け散る。

『何だと! そんなバカな! 我の魔法が破壊されるとは!』

 己の本気で生み出した魔法を破壊され、フェアリードラゴンのメリュジーナが驚きの声を上げる。

「別に驚くことはないさ。氷も所詮は物質だ。この魔法は、物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することを可能にする。氷柱と同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、氷が疲労破壊を起こしたってだけの話だ」

『くそう。炎ではなく、不思議な魔法で我の氷を無力化しやがって! なら、これならどうだ!』

 再びドラゴンが声を上げると、やつの前に魔法陣が現れ、中から筒状の水が勢いよく吹き出す。

 ウォーターポンプか。さすがフェアリードラゴンだけあって、威力が高い。だけど、それでも所詮は水でしかない。気体にさせれば良いだけの話だ。

「ファイヤーボール!」

『アハハハハ! 気でも狂ったか。炎で対抗しようなど笑止千万、しかもファイヤーボールなどという下級魔法を使いやがって! 早くも魔力切れでも起こしたか』

 俺の魔法を見て、メリュジーナは嘲笑する。

 バカにすればいいさ。再びお前を驚かせてやる。

「ただのファイヤーボールだと思うなよ!」

 発動した火球に酸素を送り込む。すると、敵の水が火球に触れた瞬間に水蒸気を発生させ、ドラゴンの水魔法を消し去る。

『こんなのあり得ない! 水に炎が勝つと言う魔学の相性を覆すだけではなく、下級の魔法が中級を打ち砕くなんて! 我は悪い夢でも見ているのか!』

「夢なんかじゃなく、現実だ! 炎が水を打ち消すのは炎の発熱量を冷却効果が上回ったときだけ。水は100度に達すると、水の水分子は活発に動いてバラバラになる。だから炎は残り続けると言う訳だ」

 どうして俺の魔法が相性を無視して打ち消すことができたのか説明をしながら、ドラゴンに駆け寄る。

「サルコペニア! エンハンスドボディー!」

 ドラゴンに弱体化の魔法をかけ、自分自身に肉体強化の魔法をかける。

『く、来るな! 我に近付くな!』

 フェアリードラゴンのメリュジーナが声を上げる。その声音には、俺に対する恐怖心が入り混じっているようにも聞こえた。

 ドラゴンが尻尾で横薙ぎに振ってくる。魔法が通用しないのなら、直接攻撃と言う訳か。

 黒光した太くて大きい尻尾が左側にぶつかるも、吹き飛ばされることはなかった。

『嘘だろう。我の直接攻撃を受けてもびくともしないなんて』

「悪いな。お前の攻撃は、何ひとつとてダメージを受けることはない」

 尻尾を掴み、魔法の力で強化された肉体に力を入れると、ドラゴンの体が浮く。

『バ、ババ、バババ、バカな! 我を持ち上げるだと!』

 ドラゴンは驚くも、仕掛け人である俺に取っては当然のことだ。

 サルコペニアは、筋肉の量を減少させる弱体化魔法だ。

 あの魔法を受けると、筋肉の元となる筋タンパク質の分解が、筋タンパク質の合成を上回せる。それにより筋肉の量を減少させたのだ。

 デバフの影響で全身の筋力低下が発生し、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなる。

 筋力が低下したことでドラゴンの体重に変化を与えた。

 そしてエンハンスドボディーの効果は2種類あるが、攻撃側で使うと、脳のリミッターを外して人の限界に近い力を発揮させることができる。

 人が重い物を持ち上げることが可能な限界は500キログラムだ。

 サルコペニアとエンハンスドボディーの魔法を組み合わせたことで、ドラゴンを持ち上げることを可能にした。

「痛いかもしれないが、これで大人しくしろよ!」

 持ち上げたドラゴンの肉体を床に叩きつける。するとヒビが入り、床が砕けた。

『こ、降参だ。我の負けだ。人の子よ。バカにして悪かった』

 フェアリードラゴンが謝罪の言葉を述べる。だけど、討伐依頼である以上、こいつを生かす訳にはいかない。

「テオ君危ない!」

 ルナさんの危険を知らせる声が耳に入った瞬間、俺の体はドラゴンの尻尾に巻きつかれた。

 しまった。負けを認めて俺を油断させる算段だったか。
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