追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳

文字の大きさ
上 下
134 / 179
第八章

第十一話 控え室にて

しおりを挟む
 不機嫌になったハルウララに引っ張られる形で、俺は控え室へと向かう。

 扉を開けると、どうやら他校の生徒たちも来ているようだった。

「おはようございます。私は観光大使と申します。北海道苫小牧の観光大使を務めております。苫小牧をどうかよろしくお願いします」

 扉を開けて中に入るなり、観光大使が今回の出走する馬に騎乗する騎手たちに挨拶を交わしながら、苫小牧の宣伝をする声が耳に入ってくる。

 さすがと言うべきか、隙があればいつでもどこでも苫小牧をPRしてくるな。

「おや、あなたは以前お会いしましたね。どうですか? 私が作ったパンフレットの方は? お気に召したでしょうか?」

 部屋の中に入ってきた俺に気付いたようで、観光大使が近付く。

「ああ、良かったと思う。友達とも話して、今度行く遊びに行くことになった」

 苫小牧に行くことになったことを告げると、彼は満面の笑みを浮かべる。

「それは良かった。苫小牧はとても良いところですので、ぜひお越しください。それでは、私は他の方に苫小牧の良さを伝えに行きますので」

 軽く一例をすると、観光大使は俺から離れ、別の騎手へと向かっていく。

 うーん、積極性があって頑張っているイメージがあるから、悪いやつではないのだろうけれど、若干パワハラ気味なような気がするんだよな。

 観光パワーハラスメント、略してカンハラ。

 しばらく残りの騎手が来るのを待ちつつ、観光大使の様子を見る。すると、彼は部屋へと訪れた騎手に挨拶をして苫小牧のPRを始め、ドン引きされていた。

「それでは、時間となりましたので、皆様騎乗する馬の顕現をお願いします」

 解説担当の虎石が霊馬の顕現を促すと、俺はハルウララに視線を向ける。すると、ぬいぐるみの中から彼女が飛び出した。

 俺や虎石は慣れているので、特に驚くことはないが、突然ぬいぐるみの中から霊馬が現れると言う光景は新鮮だったらしく、ほかの騎手たちは驚き、響めく。

「今回出走する霊馬は、ハルウララ、ホッコータルマエ、エスポワールシチー、シャア、ベストウォリアー、ハッピースプリント、ミッキーヘネシー、フリオーソ、タガノビューティー、ソルテ、タマモストロング、ストロングブラッド、ゴールドドリームですね。では、厩務員きゅうむいんの皆さん、お願いします」

 虎石が扉に向けて声をかける。すると、厩務員の人たちがやってきた。いつものように、厩務員を担当してくれているクロが俺の前にやってくる。

「それじゃ、ハルウララを連れて行くわね」

「ああ、今回も良い感じで歩かせてくれ」

 ハルウララをクロに任せると、次々と馬たちがこの場から出て行く。

「まさか、あなたが奇跡の名馬、いえ、東海帝王トウカイテイオウだったとは思っていませんでした」

 全ての馬が部屋から出て行くと、観光大使が俺に近付いてくる。

「いや、ハルウララのヌイグルミが常にいたから察せるだろう? 俺はてっきり、知っていて敢えて知らないような振りをしていたのかと思っていた」

「いえ、純粋に気付かなかったです。私はてっきり、ハルウララが大好きで推しにしている方なのかと。心の中でハルウララオタクと呼んでいました」

 彼の言葉に苦笑いを浮かべる。

 誰がハルウララオタクだ。

「それにしても、あなたは運が悪いですね。勝率0パーセントの枠での出走だなんて。これで、あなたは負け、お父上の経営する学園へと転校することになるでしょう」

「確かに、3枠の馬は勝てないと言うジンクスは強力だろう。だけど、それは普通の競馬の話であって、霊馬競馬には通用しない可能性だってある。それを、今回のレースで証明してやる」

 まだ勝負が始まってすらいないのに負けだと決めつけられ、俺は対抗心から言葉で反撃する。

「ほう、それは楽しみですね。ですが、私にも負けられない理由があるのですよ。私は私の目的のために、全力で今回のレースを勝ちに行かせてもらいます。因みに私のホッコータルマエは、生前優勝した時と同じ6枠からの出走です。それでは、良いレースになることを期待しておりますよ」

 観光大使が手を差し伸ばしてきた。なので、俺も手を伸ばして彼の手を握り、握手を交わす。

 その後時間が経過し、ハルウララに騎乗する時間となったので、彼女の待つ下見所パドックへと向かった。

 夜の時間の開催設定と言うだけあって、パドックの頭上の空は暗闇が再現されてあった。月明かりと照明の光がパドック内を照らしている。

「クロ、ハルウララの調子はどうだ?」

「うん、悪くはないとは思うのだけど、なんか身体に力が入っていると言うか、緊張しているみたいで、動きが固いかな?」

『き、緊張なんてし、していないよ! ただ3枠のジンクスのことを考えたら、どう走るのかを私なりに考えていただけだから』

 ハルウララが緊張しているなんて珍しい。彼女は強がってはいるが、声や立ち振る舞いからしても、緊張しているのが伝わってくる。

 やっぱり、勝率0パーセントと言われている中で、優勝を勝ち取らないといけない。平常心を保とうとしても、やっぱり心の片隅には、そのことが残ってしまっているのだろう。

 プレッシャーを感じているのは俺も同じだ。だけど、ここで俺が弱気になってしまえば、それがハルウララにも伝わって、最高の走りをさせてあげることができなくなるだろう。

「安心しろ。お前には俺が付いている。そして俺にはお前が付いているんだ。俺たちが協力し合えば、ジンクスなんて言うのは、きっと打ち破れるはず」

 強がってしまっているが、こうでもしないと、ハルウララの緊張をほぐしてあげることはできないだろう。

 俺はハルウララの背に騎乗する。

「さぁ、行こう。絶対に優勝を勝ち取るぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...