上 下
130 / 166
第八章

第七話 かしわ記念作戦会議

しおりを挟む
 かしわ記念当日、俺はいつものようにクロたちとかしわ記念の作戦会議をしていた。

 いつもは大和鮮赤ダイワスカーレットが居るが、今回は珍しくジャンケンに負けたようで、明日屯麻茶无アストンマーチャンがこの場に居る。今頃大和鮮赤ダイワスカーレットは場所取りをしている頃だろう。

「それじゃ、いつものように作戦会議を始めるわよ」

 クロがタブレットを操作し、空中ディスプレイを表示させると、船橋競馬場のコースが移り出す。

「船橋競馬場の特徴は、スパイラルカーブよ。普通の競馬場は綺麗な半径を描いているのだけど、船橋競馬場のカーブは、コーナーの入り口は緩やかで、出口はきつくなっているの。その影響でスピードはそれほど落とさずに侵入できて、コーナーの出口でバラけやすくなっているの。だから馬群に包まれている馬にもチャンスが生まれるわ」

 スパイラルカーブか。今までの競馬場にはなかったギミックだな。

「後方の馬にもチャンスが生まれる作りになっているわ。それにより、逃げ馬の勝率が他の競馬場よりも激減しているのよ。もし、賭ける側になったのなら、逃げ馬が群を抜くような実力がない限り、極力馬券には組み込まない方が良いわ」

「かしわ記念のスタート位置はここね。距離が1600メートルだから、観客側ホームストレッチからスタートして左回りで走り、コースを1周してこの辺りがゴールになるわ」

 指差し棒を使い、クロがコースの流れを説明する。

「細かいことを言うと、スタートから第1コーナーまで距離が220メートルとやや短めになっているの。だから先行力のない馬は、厳しいコースになるわ」

「先行力がない馬は厳しいか」

 俺はハルウララへと顔を向ける。

『て、帝王! その目はなんだよ! 確かに私は、先行力はないけれど、さっきのスパイラルカーブのことを思い出してよ! 差し馬にもチャンスがあるって言っていたじゃない!』

「いや、別にお前の走りを疑っている訳じゃない。それに普通の競馬とは違って、霊馬競馬にはアビリティがあるからな。それらを使えば速度を上げて先頭集団に食らいつくことだってできるはずだ」

「ゴホン。話を続けるわね。力量や先行力が然程変わらない下級中級クラスのレースは、内側インの先行が強く、重賞クラスや多頭数での競馬となると、逆に内側の成績が下がって馬券に絡んでくることがあまりなくなるの。だから有利な枠であっても、油断はできないわ。他の馬の先行力差、能力差、スタミナ差、末脚の切れ味なども考慮して本番は走った方が良いわね」

 今回のレースはG Iのかしわ記念だ。先ほどの話だと、内側の枠、つまり1枠から3枠あたりの枠番だとハンデを背負うことになるのかもしれないな。

 そんなことを思っていると、俺のタブレットから着信があった。それに応答をすると、空中ディスプレイが表示されて解説担当の虎石が移り出す。

『みんな私のことが見えているかな? お待ちかねの抽選の時間となりました! この枠の抽選でレースでの有利不利が決まってしまうので、騎手の運が試されます。それでは、抽選スタート!』

 虎石が言い終えると抽選が始まり、ランダムで枠番が決まっていく。

 俺とハルウララが走る枠は3枠3番となった。

「3枠って、一番勝率の低い枠番じゃない!」

「これはぁ、厳しい戦いにぃ、なりましたねぇ」

 抽選結果を見たクロは声音を強めて声を上げ、明日屯麻茶无アストンマーチャンはいつものように間延びした口調で感想を述べた。

『これにて抽選は終了です。それでは出走する騎手は控え室にお越しください』

 最後のセリフを言い終えると、通話が終了したようで空中ディスプレイは消えた。

 3枠ってそんなに悪いのか? どちらかと言うと中央寄りだから1枠や2枠よりもマシなイメージなのだが?

「中央よりだけど、3枠ってそんなに悪いのか?」

「枠番の中では1番勝率が低いわね。勝率が12パーセントある7枠に比べて、3枠の勝率は7パーセント。連対率は14パーセント、複勝率は22パーセントと最も低いわ」

 勝率が一番高い7枠と比べると、5パーセントも差があるのか。

「さっき内枠の成績は良くないと言ったけれど、1枠の勝率は8パーセント、2枠の勝率は9パーセント。誤差の範囲と言えばそれまでだけど、この2枠と比べても、3枠の勝率が低いのは事実よ。更に脚質別で言うと、馬券に絡む確率、つまり3着以内に入る確率も、逃げ31パーセント先行29パーセント差しと追い込みが16パーセントとなっていて、ハルウララに取っては3着以内に入るのも厳しいわ」

「でもぉ、そんなに嘆くことはないですぅ。今回は馬場に救われていますぅ」

 勝率が低いことで不穏な空気が漂っていると、明日屯麻茶无アストンマーチャンが明るめに言葉を言ってくる。

「馬場に救われた?」

 彼女の言っている意味が良くわからず、首を傾げながら問い返す。

「実はぁ、3枠には道悪実績と言うのがありましてぇ、馬場状態が悪いとぉ、好走して番狂わせを起こしてくれる場合があるのですぅ。普段は勝率がもっとも低い枠番ですがぁ、馬場状態が悪いと好走することが多いのですよねぇ」

 道悪実績、そんなものもあったのか。確かに今回のかしわ記念の馬場は重となっている。ある意味ジンクス頼りとなってしまうが、完全に心が折れて消沈するよりも、僅かな希望に縋った方が良いな。

 今回クロから教えてもらったことも踏まえて、装備するアビリティを考えた方が良さそうだな。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 次にアビリティを考えようとしたその時、びっくりするほどの大声をクロが上げ、反射的に彼女の方を見た。

 彼女は顔色が悪そうにしており、そしてポツリと言葉を漏らす。

「ごめん、帝王。あなたの勝率0パーセントになってしまったわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

ハミット 不死身の仙人

マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。 誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。 世紀末と言われた戦後の世界。 何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。 母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。 出会い編 青春編 ハンター編 解明編 *明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。 *過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...