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第七章

第二十話 勝った分の払い戻し金が別の者の手に渡る事件

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 ~新堀学園長視点~





「良くやった! アグネスタキオン! ワシはお前を信じていたぞ!」

 天皇賞・春の結果を見て、ワシはウハウハだった。

 アグネスタキオンを1着固定の軸に、2着をジャングルポケット、そして3着が絞りきれなかったので、マンハッタンカフェとタマモクロス、そしてダイワメジャーを3着にした三連単を買ったのだが、まさか全て的中することになるとは思わなかった。

 今日のレースは珍しい展開だった。3着4着が同着扱いをされることはあっても、5着まで同着になるとは。大体ハナ差扱いされそうなものだが、相当判断が難しかったのだろう。

 しかし、そのお陰でワシは天にも昇る思いではある。3頭を同着だと判断してくれた者には感謝をしなくてはならないのう。

「これで、前回の負けは取り返した。次のかしわ記念は今回の払い戻し金を全て注ぎ込むつもりでいよう。もちろん、賭ける対象は、ワシが送り込む刺客ではあるがな。ワハハハハハ!」

 高笑いを上げた後、ワシはある男に通話をかけた。しばらくすると応答してくれたようで、空中ディスプレイに霊馬学園の制服に身を包んだ男が映り出す。

『これは、これは、新堀学園長ではないですか? 何か用ですか? 今、苫小牧のPR動画の作成中なのですが? 私の使命は苫小牧を全国に広め、多くの方に来て頂くようにすること。あなたと話している時間はないので、手短にお願いします』

 男の言葉を聞いた瞬間、一瞬ムカっと来てしまった。故郷のPRより、ワシのお願いの方が重要だろうが。

「それは悪かったな。実は、お前にお願いがある。次のかしわ記念では、お前に出てもらう。そのためにも、万全の状態で挑んでもらえるように準備をしてもらいたい」

『なるほど、そんなことでわざわざ通話をしてきたと? ではお断りさせていただきます』

「そうか、そうか。引き受けてはくれないかぁ。それは困った……って、何で断る!」

 断られるとは思ってもいなかったワシは、思わず声を上げてしまった。

『先ほども言いましたでしょう? 私は苫小牧の宣伝で忙しいのです。だって私、二つ名もそうですが観光大使なんですよ? レースよりも観光大使としての仕事を優先しなければならないのです』

 断る理由を語られ、ワシは苦虫を噛み潰したかのように歯を食い縛る。

 こいつに断られてしまうとまずい。かしわ記念優勝経験を持つ馬と契約しているこいつに断られてしまうと、次の馬券予想が難しくなる。

 どうにかして、こいつに出馬してもらえるように交渉しなければ。

 頭痛を感じる中、思考を巡らせる。すると、どうにか良いアイディアを思い付く。

「観光大使よ、良く考えてみろよ。ダートのGIだぞ。それで優勝すれば間違いなく注目度が上がる。それに優勝することができれば、勝者インタビューが待ち受けている。苫小牧の絶好のPRとなると思うが?」

『な、なるほど! 確かにインタビューは全国の人が見ていますものね。その時に苫小牧のPRをすれば、大きな宣伝となりますね。分かりました。では、苫小牧の宣伝のために出馬を致しましょう』

 出馬する意思があることを知り、どうにかなったと安心したワシは深い息を吐く。

 ふぅ、これでホッコータルマエを軸に馬券を決めることができる。あとは船橋の特徴などを考え、勝率の高い枠番からスタートできるようにしなければな。

『あ、そうそう。出馬するにあたってひとつ条件があるのですが?』

「条件だと? なんだ? 言ってみろ」

『開催場所となっているトレイセント学園で、苫小牧のPRをしたいと思っております。なので、あちら側の学園長に、許可を取ってもらいたいのですが』

「なんだそんなことか。良いぞ。それくらい安いものだ」

『では、交渉成立と言うことで。もし、許可が取れないなんてことになった場合は、出馬を取り消させていただきます』

 条件が達成できない場合、出馬を取り消すと捨て台詞を吐かれた後、相手の方から通話を切ったようで、空中ディスプレイが消えた。

「さて、さっさと許可を取って、今日勝った分の払戻金でキャバクラにでも行くとするか」

 タブレットを操作して、今度はあの女に通話をかける。しばらくすると、応答してくれたようで、空中ディスプレイに丸善好マルゼンスキー学園長が映った。

『何よ。こんな時に電話をかけてきて』

 空中ディスプレイに映った彼女は、何やら不機嫌そうな顔だった。

 まぁ、ワシからの通話は普段から歓迎されていないからな。こうなるのは分かりきっていた。

「実は、ワシのところの生徒が観光大使を努めているのだが、そちらで今度PRをさせてくれないか?」

『いくら出すの?』

「はぁ?」

 思わず声が漏れる。まさか金を請求されるとは思ってもいなかった。

「金を取るのか?」

『当たり前でしょう。わたくしの学園を使わせてあげるのだから、使用料はきっちり払ってもらわないと』

 まさか金を取られるとは思ってもいなかった。知り合いだから融通が効くと思っていたが、考えが甘かったようだな。

「分かった。いくら欲しい」

『そうねぇ、知り合いだし、特別に割引をして、100万ポイントでどう? あ、支払いは今日でお願いね。別日の支払いは認めないから』

 100万も取るのかよ!

 金額を言われ、ワシの残高を確認する。

 払い戻しの金を全て使うことになるが、今すぐに100万を支払うことはできる。だが、そうした場合、キャバクラで遊ぶ金がなくなってしまう。次回のレースで使う馬券代も残しておかないといけないし、さてどうしたものか。

 ババァに貢ぐくらいなら、綺麗なお姉ちゃんたちに貢いだ方がマシだが、そうなると観光大使は出馬してくれなくなる。そうなると、次の馬券の考察が難しくなってしまう。

「わ、分かった。100万ポイント振り込もう」

 タブレットを操作して、ワシは丸善好マルゼンスキー学園長に100万ポイントを送金した。

『今受け取ったわ。それじゃ、その人にはいつでも来て良いと伝えておいて』

 彼女が捨て台詞を吐くと、空中ディスプレイが消えた。

 痛い出費だが、次の馬券を当てるための投資だと思っておくしかない。

 キャバクラの姉ちゃんたちに自慢したかったが、今度にしよう。今日は安物の酒でやけ酒だ。
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