120 / 141
第七章
第十八話 天皇賞・春決着
しおりを挟む
~周滝音視点~
『最終直線、残り400メートル! 先頭メジロデュレン、その後をタマモクロスとジャングルポケット、更にマンハッタンカフェが追いかける! メジロデュレン、このまま逃げ切れるか!』
ゴールまで残り400メートルを切った。今は最後方、普通に考えたら、絶対に勝てる訳がない。だけど、僕は彼を勝たせてやりたい。僕は間違っていたんだ。アグネスタキオンの名誉を守るためにバカを演じていたけれど、それが逆に彼を傷付けることになった。
その報いを受けるためにも、僕はアグネスタキオンを勝たせる!
「アビリティ発動! 【無敗伝説の走り】!」
最後のアビリティを使い、アグネスタキオンに鞭を打つ。
このアビリティは、無敗のまま引退した馬にしか使えないアビリティだ。その効果は、愛馬の闘争心を更に上げ、最後の直線で爆発的な末脚を発揮させることができる。
先ほど使用した【大食らい】のアビリティの効果と併用することができ、相乗効果で2倍の走りができるはずだ。
『ここでアグネスタキオンが動いた! ウインバリアシオン、リンカーンを追い抜き、今、エアシャカールに追い付く!』
「良い面構えになったじゃないか。どうやら、自分で決断することができたようだな」
「ありがとう。やっぱり君は、僕にとって最高の幼馴染だよ。悪いが、このレースは何があっても勝たせてもらう。君が相手でも、容赦はしない」
「お前が俺に勝てるとでも?」
「うん。だって、エアシャカールは、アグネスタキオンの兄の、アグネスフライトに負けたじゃない。だったら、弟のアグネスタキオンが負ける訳がないもん」
『アグネスフライト……東京優駿……7センチ差の敗北……うっ、頭が』
「おい! エアシャカール! しっかりしろ! チッ、このタイミングでバッドステータスの【7cm差】が発動してしまったか」
「やったね! エアシャカールのたった7センチ差で三冠を逃してしまった話は有名だからね。それをネタにすれば能力を低下させられると思っていたよ。それじゃ、僕たちは先に行くから、君たちはこの場でジタバタしているといいさ」
捨て台詞を吐くと、僕は手綱を振ってアグネスタキオンに速度を上げるように指示を出す。
バッドステータスを引き出す言動を言って、馬の走りを乱す。本来なら褒められた戦法ではないけれど、僕はアグネスタキオンを勝たせたいんだ。手段を選んでいる場合ではない。
『後方からグングンとアグネスタキオンが追いかけてくる! 残り200を切った! メジロデュレン、タマモクロス、マンハッタンカフェ、アグネスタキオンの4頭による優勝争いか! いや、ここでメジロデュレンが下がった! そして外側から、エアシャカールとダイワメジャーが上がってくる!』
よし、なんとか先頭グループに追い付くことができた。でも、優勝するには、少しでも前にでなければ。
『ようやく上ってきたか。お前との勝負はこうでなければな。あの時のように最後で差される訳にはいかないぜ! 名馬の伝説! 最優秀3歳牡馬の輝き!』
『ここで先頭はジャングルポケットに変わった!』
『ワイの引退後も、血気盛んな競走馬がおるやない。こりゃ、先輩の意地ちゅうものを見せんとあかんな。よっしゃ、いっちょワイの走りを後輩たちみ見せつけてやりますか! 名馬の伝説! 白い稲妻!』
『優勝経験のある俺が、負ける訳にはいかないんだ! 摩天楼と呼ばれた実力を見せてやる! 名馬の伝説! ターフに聳える摩天楼』
『しかし、タマモクロスとマンハッタンカフェも食い下がる! 3頭が並んだ!』
やっぱり、ジャングルポケットや歴代の優勝馬は凄いな。追い抜かれても、勝つために必死になって食らいつこうとする。
僕の名は滝音。だけど、アグネスタキオンのタキオンは、超高速の粒子を意味する。親はアグネスタキオンの由来通りに、超高速粒子と書いてタキオンと読ませたかったらしい。けれど、それだと長すぎると言うことで、滝音となった。
だけど、アグネスタキオンは名の通りの速い走りをした。名は人を表すと言うが、競走馬の場合は、名は走りを表すと僕は思っている。アグネスタキオンならやってくれるはずだ。
「行け! アグネスタキオン! 光よりも速い粒子の如く!」
『名馬の伝説! 無敗の超高速粒子!』
『ここでアグネスタキオンが躱して先頭に立った! しかし、2番手との差はクビと言ったところか。先頭アグネスタキオン、ここでジャングルポケットが上ってくる!』
「負けるな! アグネスタキオン!」
「ジャングルポケット行け!」
「差せー! 差すんだマンハッタンカフェ!」
「頼む! 負けてくれアグネスタキオン!」
ゴールが近づき、観客席から様々な思いの声が耳に入ってくる。
そうだ。レースでは馬や騎手たちの戦いだが、コースの外では観客たちも一緒になって戦ってくれているんだ。
馬券が外れそうになって負けろと言っている声もチラホラと聞こえてくるが、みんなの思いに応えるためにも負けられない。
これ以上鞭を叩いたところでアグネスタキオンは速度を上げることはできないだろう。
僕は鞭を打つのをやめ、手綱を握って前を見続けた。
後は彼の力しだいだ。アグネスタキオン、このレースに勝ちたいのなら、後は君が頑張るしかない。君の手で、夢を叶えるんだ。
『ゴールイン! 5頭横一直線に並んでのゴールです! 肉眼では判断できないため、写真判定となります』
ゴール板を駆け抜けた後、実況の声が耳に入ってくる。アグネスタキオンは、何着だったんだ?
『最終直線、残り400メートル! 先頭メジロデュレン、その後をタマモクロスとジャングルポケット、更にマンハッタンカフェが追いかける! メジロデュレン、このまま逃げ切れるか!』
ゴールまで残り400メートルを切った。今は最後方、普通に考えたら、絶対に勝てる訳がない。だけど、僕は彼を勝たせてやりたい。僕は間違っていたんだ。アグネスタキオンの名誉を守るためにバカを演じていたけれど、それが逆に彼を傷付けることになった。
その報いを受けるためにも、僕はアグネスタキオンを勝たせる!
「アビリティ発動! 【無敗伝説の走り】!」
最後のアビリティを使い、アグネスタキオンに鞭を打つ。
このアビリティは、無敗のまま引退した馬にしか使えないアビリティだ。その効果は、愛馬の闘争心を更に上げ、最後の直線で爆発的な末脚を発揮させることができる。
先ほど使用した【大食らい】のアビリティの効果と併用することができ、相乗効果で2倍の走りができるはずだ。
『ここでアグネスタキオンが動いた! ウインバリアシオン、リンカーンを追い抜き、今、エアシャカールに追い付く!』
「良い面構えになったじゃないか。どうやら、自分で決断することができたようだな」
「ありがとう。やっぱり君は、僕にとって最高の幼馴染だよ。悪いが、このレースは何があっても勝たせてもらう。君が相手でも、容赦はしない」
「お前が俺に勝てるとでも?」
「うん。だって、エアシャカールは、アグネスタキオンの兄の、アグネスフライトに負けたじゃない。だったら、弟のアグネスタキオンが負ける訳がないもん」
『アグネスフライト……東京優駿……7センチ差の敗北……うっ、頭が』
「おい! エアシャカール! しっかりしろ! チッ、このタイミングでバッドステータスの【7cm差】が発動してしまったか」
「やったね! エアシャカールのたった7センチ差で三冠を逃してしまった話は有名だからね。それをネタにすれば能力を低下させられると思っていたよ。それじゃ、僕たちは先に行くから、君たちはこの場でジタバタしているといいさ」
捨て台詞を吐くと、僕は手綱を振ってアグネスタキオンに速度を上げるように指示を出す。
バッドステータスを引き出す言動を言って、馬の走りを乱す。本来なら褒められた戦法ではないけれど、僕はアグネスタキオンを勝たせたいんだ。手段を選んでいる場合ではない。
『後方からグングンとアグネスタキオンが追いかけてくる! 残り200を切った! メジロデュレン、タマモクロス、マンハッタンカフェ、アグネスタキオンの4頭による優勝争いか! いや、ここでメジロデュレンが下がった! そして外側から、エアシャカールとダイワメジャーが上がってくる!』
よし、なんとか先頭グループに追い付くことができた。でも、優勝するには、少しでも前にでなければ。
『ようやく上ってきたか。お前との勝負はこうでなければな。あの時のように最後で差される訳にはいかないぜ! 名馬の伝説! 最優秀3歳牡馬の輝き!』
『ここで先頭はジャングルポケットに変わった!』
『ワイの引退後も、血気盛んな競走馬がおるやない。こりゃ、先輩の意地ちゅうものを見せんとあかんな。よっしゃ、いっちょワイの走りを後輩たちみ見せつけてやりますか! 名馬の伝説! 白い稲妻!』
『優勝経験のある俺が、負ける訳にはいかないんだ! 摩天楼と呼ばれた実力を見せてやる! 名馬の伝説! ターフに聳える摩天楼』
『しかし、タマモクロスとマンハッタンカフェも食い下がる! 3頭が並んだ!』
やっぱり、ジャングルポケットや歴代の優勝馬は凄いな。追い抜かれても、勝つために必死になって食らいつこうとする。
僕の名は滝音。だけど、アグネスタキオンのタキオンは、超高速の粒子を意味する。親はアグネスタキオンの由来通りに、超高速粒子と書いてタキオンと読ませたかったらしい。けれど、それだと長すぎると言うことで、滝音となった。
だけど、アグネスタキオンは名の通りの速い走りをした。名は人を表すと言うが、競走馬の場合は、名は走りを表すと僕は思っている。アグネスタキオンならやってくれるはずだ。
「行け! アグネスタキオン! 光よりも速い粒子の如く!」
『名馬の伝説! 無敗の超高速粒子!』
『ここでアグネスタキオンが躱して先頭に立った! しかし、2番手との差はクビと言ったところか。先頭アグネスタキオン、ここでジャングルポケットが上ってくる!』
「負けるな! アグネスタキオン!」
「ジャングルポケット行け!」
「差せー! 差すんだマンハッタンカフェ!」
「頼む! 負けてくれアグネスタキオン!」
ゴールが近づき、観客席から様々な思いの声が耳に入ってくる。
そうだ。レースでは馬や騎手たちの戦いだが、コースの外では観客たちも一緒になって戦ってくれているんだ。
馬券が外れそうになって負けろと言っている声もチラホラと聞こえてくるが、みんなの思いに応えるためにも負けられない。
これ以上鞭を叩いたところでアグネスタキオンは速度を上げることはできないだろう。
僕は鞭を打つのをやめ、手綱を握って前を見続けた。
後は彼の力しだいだ。アグネスタキオン、このレースに勝ちたいのなら、後は君が頑張るしかない。君の手で、夢を叶えるんだ。
『ゴールイン! 5頭横一直線に並んでのゴールです! 肉眼では判断できないため、写真判定となります』
ゴール板を駆け抜けた後、実況の声が耳に入ってくる。アグネスタキオンは、何着だったんだ?
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる