追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳

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第七章

第十五話 裏切られるアグネスタキオン

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 ~アグネスタキオン視点~





『第1コーナーを過ぎ、殆どが第2コーナーに入ろうとしている中、先頭はダイワメジャー、しかし2番手のメイショウサムソンとの距離は徐々につめられており、3馬身差が1馬身差まで詰められると言う展開となっております。後続も距離を詰め、先頭から殿まで7、8馬身差と言ったところでしょうか』

 中盤に差し掛かり、後続も徐々に距離を詰め始めてきたか。そろそろ仕掛けどころだと思った騎手は、愛馬に指示を出してくるかもしれないな。

 さて、僕の契約者はいつ仕掛けるように指示を出すのか。

 前を走るメジロデュレンや後方のジャングルポケットたちの動きにも注意しつつ、僕は勝負どころのために足をためる。

 第2コーナーをカーブして直線に入った。残り半周、そろそろ後続が更に距離を詰めてこようとする頃合いか。

「アビリティ発動! スピードスター!」

「アビリティ発動! 一休み」

「アビリティ発動! まくり準備」

 レースの中盤に入り、勝負を仕掛け始める段階になったことで、他の馬に騎乗する騎手たちがアビリティを使用し始める。

 それにより、先頭集団は速度を上げて引き離し、後続たちは距離を詰めた。

『おい、おい、どうした? アビリティを使わないのか? 渋っていると、ボロ負けしてしまうぞ』

 後方にいたジャングルポケットが隣を走り、僕に声をかけてくる。

 そんなこと分かっている。他の騎手がアビリティを使い始めたんだ。俺も何かしらのアビリティを使ってもらって速度を上げるなり、スタミナを回復させてもらわないとキツイ。

 アビリティなしで霊馬競馬に勝とうなんて考えているやつはバカだ。

 だけど僕の契約者は今のところアビリティを使う気配がない。きっと考えがあって温存しているのだろう。

 今のところは信じるしかない。とりあえずは、こいつにバカにされたままでは良くないので、余裕の走りであるように見せつけなければ。

『この僕がボロ負け? そんなの、あり得ないだろう。今はアビリティを使うタイミングではないのだと騎乗騎手も理解している。アビリティを使わないからと言って、油断していると後から差されるから気を付けるように』

『そうかよ。なら、俺様は先に行かせてもらう。最終直線で、お前と競り合うのを楽しみにしているからな。今回のレースでは絶対にお前に勝つ! そして、お前が引退した後に東京優駿日本ダービーで勝てたのはお前が居なかったからではないと言うことを照明してやる!』

 熱い言葉を最後に、ジャングルポケットは速度を上げて先頭集団の仲間入りを果たす。

 ジャングルポケットのやつ、外側の良い場所にポジション取りをしているな。このまま行けば、あいつが最終的に差しきり勝ちをするかもしれない。

 どんどん先頭から引き離され、後続からは距離を縮められる。いつの間にか、後方集団の仲間入りとなってしまった。

 このまま後方に居続けるのはまずい。僕の得意な走りは先行、続いて差しだ。最後方から一気に捲り上げる追い込みのような走りは苦手だ。

 一気に牛蒡抜ごぼうぬきできるような瞬発力や根性を持ち合わせてはいない以上、少しでも先頭集団に近付く必要がある。

 この男も、僕を呼び出した時点である程度のことは知っているはず。なのに、どうしてアビリティでサポートをしてくれない。

 分からない。この男が何を考えているのか、俺には何も理解することができない。

『良い加減に何かのアビリティを使ってくれないか? このままでは負けるぞ』

「あ、うん、分かった。アビリティ発動【小休憩】」

 騎乗騎手がアビリティを使った瞬間、僕の走る速度が下がった。その代わりに疲労が消え、走る気力が僅かに向上する。

 よりにもよって、そのアビリティかああああああああぁぁぁぁぁぁ!

 思わず心の中で叫んだ。

 任意能力アービトラリーアビリティ【小休憩】それは馬の速度を落とす代わりに疲労を回復し、最後まで走りきる気力を上げるアビリティだ。

 主に1番手や2番手の馬が、最終直線に備えて発動するアビリティであって、後続に位置する僕に対して使うべきではないアビリティだ。

 使用するアビリティのチョイスもタイミングも全然出鱈目だ。この男、本当に何を考えているんだ?

 とにかく、速度を落としてしまった分、取り返さないといけない。

『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

 僕は柄にもなく声を上げ、全力で速度を上げる。すると、先頭を走っているジャングルポケットに近付く。

『この迫力、良いじゃないか。お前とのレースはこうでなければな』

 追い付いたことで、ジャングルポケットは嬉しそうだ。

 だけど、全力で走っている僕とは違い、彼はまだ余裕がある。

 それもそうだろう。僕は自身の体に備わった身体能力だけで勝負をしている。けれど彼は、アビリティのサポートにより、走りやすい環境にあるのだ。

 こいつだけには無様な姿を見せる訳にはいかない。この僕を目標にしてくれているのだ。そんな彼に対して、全力で相手をしなければ失礼ではないか。

 騎乗騎手が使い物にならない以上、僕は僕だけの身体能力だけで、君の思いに応えてあげなければ。

『第3コーナが近付いたところでアグネスタキオンが上がってくる。ジャングルポケットを躱して5番手にまで順位を上げてきました』

『ですが、どうやら騎手との息が合っていませんね。人馬の呼吸が合わずに所謂『かかった』と呼ばれる状態となっています。スタミナが持つか心配ですね』

「アグネスタキオン、頑張っているね。それじゃ、後押ししようかな。アビリティ発動【俺を置いて先に行け】」

 騎乗騎手がアビリティを発動する。その瞬間、再び僕の速度が落ちた。

 またこれ系のアビリティかよ!

 任意能力アービトラリーアビリティ【俺を置いて先に行け】も、【小休憩】と似たようなアビリティだ。最終直線に備えて足をためるために敢えて速度を落としてスタミナを温存させる。

 だけど、これから坂を登るんだぞ? そのタイミングで速度を落とすようなアビリティを普通使うか?

 脳裏に嫌なことが思い浮かぶ。

 きっと気のせいだ。思い違いであってほしい。

「なぁ? お前、もしかしてこのレースに勝つ気がないのか?」

 頼む、何かの間違いで合ってくれ。こいつなりの考えで、敢えてこのような走りになっていると言うことを信じさせてくれ。

「あ、ようやく気付いたかい? うん、その通りだよ。僕はこのレースで勝つつもりはない。だって、強敵ばかりがいるこのレースで、全力で走って負けたら格好悪いじゃん」

 僕は彼の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
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