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第七章

第一話 復活の大和主流

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 ~大和主流ダイワメジャー視点~





 俺はスプリングステークスで愛馬のダイワメジャーと共にターフの上を駆ける予定だった。

 しかしゲートが開いたと同時に、ダイワメジャーが尻尾を掴まれた。そのことに驚いた彼は暴れてしまい、乗っていた俺は振り落とされてしまった。

 意識を失ってしまったが、幸運なことに命に別状はなかった。

 競馬は一歩間違えれば命を失うスポーツでもあるから、落馬だけはしないようにしなければならない。

「兄さん、退院おめでとう!」

 妹の大和鮮赤ダイワスカーレットが笑みを向けて花束を渡してくれた。俺の退院を心待ちにしてくれていたのが伝わってくる。

「ありがとう。それにしても豪華だな。結構な金額だったのではないのか?」

「桜花賞で優勝したから、それなりのポイントを持っているのよ。それにあたしだけがお金を出した訳ではないわ。友達も自分のポイントを使ってくれたのよ。兄さんが知っているのは、東海帝王トウカイテイオウくらいかな?」

「そうか。今度会った時に、礼を言わなければな」

「それなら、あたしが代わりに言っておいてあげるわ。同じクラスだし」

「いや、直接言わないと意味がない。それに、彼に聞きたいことがあるしな」

「聞きたいこと?」

 妹が小首を傾げて問いかけてきた。

「いや、大したことではない」

  そこまで重大なことではないと妹に嘯く。だが、本当はとても大事なことだ。

 彼には妹を大切にすると約束をしてくれたからな。

 妹とどこまで関係を深めているのか。もう既にキスをしているのかなどだ。さすがに子を作る行為などはしてはいないと思うが、その辺りも知りたい。

 さすがにこんなことは妹には聞けないからな。男同士なら、ちょっとした下ネタ話をしても問題ないだろう。

 病院を出て俺たちは学園へと戻る。

「俺は生徒会に行って、退院したことを報告してくる」

「分かった。生徒会も大変よね。仲間の退院にも駆けつけられないなんて」

「まぁ、それだけ忙しいんだ。俺の退院の迎えに来られなくとも不思議ではない。お前も生徒会のメンバーに入れば分かるさ」

「生徒会は遠慮しておくわ。兄さんの忙しさが話を聞いただけで伝わってくるから」

「そうか。それじゃ、俺はこっちだから」

 妹と別れ、校舎へと入って行く。そして階段を登り、3階にある生徒会室へと向かった。

 扉の前に立ち、一度扉をノックする。

「どうぞ」

 扉越しに入室の許可を出す女性の声が聞こえ、扉を開けた。

大和主流ダイワメジャー、ただいま戻りました」

 帰還したことを告げ、生徒会室を見渡す。

 生徒会長の机には、肩にかかるセミロングの黒髪の女性が座っていた。

「生徒会長だけですか? 他の生徒会のメンバーは?」

「今は生徒会の仕事で出払っていますわ」

 生徒会長は座っている椅子から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。その姿は優雅であり、育ちの良い令嬢を思わせる歩き方だった。

 彼女は制服のスカートを摘むと、貴族令嬢の挨拶のように、少しだけ持ち上げて片足を後に下げ、軽く頭を下げる。

大和主流ダイワメジャー、あなたの帰還をお待ちしていましたわ」

「ご心配をおかけしました。すぐに仕事にかかります。俺はまず、何をすれば?」

「あなたは退院したばかりですので、仕事は明日からで良いです。今日は体を休めてください」

「いや、ですが」

「これは命令です。このワタクシ、生徒会長である貴婦人ジェンティルドンナに逆らうつもりですの?」

 生徒会長が向ける視線を感じた瞬間、背筋が一気に寒くなるのを感じた。

 史上4頭目の牝馬三冠を成し遂げた偉業を持つ霊馬と契約しているだけのことはある。これ以上、彼女の機嫌を損なうのは避けた方が賢明だろうな。

「わ、わかりました。生徒会長のお心遣いに感謝致します」

「それでよろしいのです。素直な子は大好きですよ」

 良くない意味で、心臓の鼓動が早鐘を打つ中、俺は彼女に頭を下げて生徒会室から出て行く。

 ふぅ、貴婦人ジェンティルドンナ生徒会長、機嫌が悪かったな。それだけ生徒会の仕事が大変なのだろう。明日は気合を入れて仕事に取り組まなければならなさそうだ。

「あれ~そこに居るのは大和主流ダイワメジャーじゃないか? 退院したんだね?」

 廊下を歩いて学生寮に戻ろうとしていると、1人の男が声をかけてきた。

 茶髪の男には、風紀委員の腕章が付いている。

周滝音アグネスタキオンか。俺に声をかけるなんて珍しいな」

「久しぶりに顔を見たんだ。声くらいはかけるよ。いやー君が退院してくれて本当に良かった。君が入院している間は、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんが学園と病院を往復しないといけなかったからね。娘が心配する姿は、見ていて心を痛めたよ」

「何が娘だ。妹は俺たちの両親の子どもだぞ」

 こいつは本当に昔から変わっていないな。競走馬の血縁関係を理由に、妹と親子関係を築こうとしていやがる。

「毎回言っていると思うが、アグネスタキオンとは種違いの子どもであるダイワメジャーと同じ名前を持つ君とは、親子関係になるつもりはないからね」

「そんなの俺もお断りだ。想像しただけで気持ち悪い。俺が居ない間に、妹にちょっかい出していないよな」

「そんなことする訳がないじゃないか! 大切な娘に嫌われるようなことはしない。初めて会ったときに、興奮して抱きしめようとしたことはあったのだけど」

「既にちょっかいを出しているじゃないか!」

 思わず声を上げてしまった。だが、妹からは被害を受けたと聞かされてはいない。恐らくこいつのスキンシップは失敗したのだろう。

「その時もあの子に邪魔をされてね。蹴り飛ばされてしまったよ。あの時は本当に痛かった」

 あの子と言われ、俺の脳内には東海帝王トウカイテイオウが思い浮かんだ。

 ちゃんと俺との約束を守ってくれているようだな。彼が妹の側に居て守ってくれているのであれば、こいつを見張る必要はなさそうだ。

「言っておくが、妹には彼氏が居る」

「え?」

 妹には彼氏が居ることを告げると、周滝音アグネスタキオンはその場で固まり、一時的に動きを止めた。

「ど、どこのどいつだ! そんな馬の骨とも分からないやつ! お父さんは許さないからな!」

「誰がお父さんだ! 妹の恋愛に、お前の許可は要らない! それに、少なくとも俺は認めている」

「君が認めても、僕は認めないからな! こうしては居られない。早くその馬の骨を見つけ出して、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんに金輪際近付かないようにボコらないと!」

 東海帝王トウカイテイオウを探しに、周滝音アグネスタキオンは走り去ってしまった。

 彼には迷惑をかけてしまったな。いや、俺は名前を出してはいない。きっと彼に辿り着くまでには時間がかかるだろう。今すぐに対策を取る必要はないはず。
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