94 / 149
第六章
第十九話 皐月賞発走前
しおりを挟む
下見所へと向かい、俺はクロにトウカイテイオーの様子を伺う。
「クロ、下見所でのトウカイテイオーの調子はどうだ?」
「うん、普段通りだと思うよ。調子もう良さそうだし、コンディションはバッチリだと思う」
「そうか。今日も頑張ろうな」
『ああ、他の馬たちも同じだろうが、皐月賞馬のプライドに賭けて絶対に1着を取ってみせる』
俺の声かけに、トウカイテイオーは意気込みで返してくれた。これなら、相手がエアシャカールやゴールドシップが相手でも、良い勝負ができそうだ。
トウカイテイオーに騎乗すると、赤いロングの髪に軽くパーマを当て、緩くウエーブがかけられている女性が視界に入る。
彼女は装飾が付けられた誘導馬に騎乗し、赤いドレスを着用していた。
髪色と同じく燃えるような赤い瞳と目が合い、彼女に近づく。
「大和鮮赤、どうしたんだ? その格好?」
「見て分からないの? 誘導馬役をすることになったのよ。今日担当する子が体調不良でできないから、あたしに話が回って来たの。この子も本来は担当する子が騎乗するはずだったのだけどね」
白馬の頭を撫でながら、大和鮮赤は誘導馬を担当することになった経緯を語る。
誘導馬は白毛の馬だと思われがちだが、芦毛の馬が、色素を失って白くなった姿の場合もある。その理由としては、白毛の馬は個体数が少ないからだろう。
人間の髪が色素を失って白髪になるのと同じだ。
でも、召喚される霊馬は全盛期の時の姿で召喚される。だから、霊馬競馬の場合は白毛の馬が採用されることが多い。
「大和鮮赤のドレス良いな。今度あたしも立候補しようかな? あ、でも契約している馬は白馬ではないから難しいかな?」
クロが大和鮮赤の着ているドレスを見て、羨ましがる。
彼女の言葉に釣られて、俺はもう一度大和鮮赤に視線を向ける。
真っ赤なドレスを来ている姿はどこかの貴族令嬢を思わせる雰囲気があり、普段以上に彼女が魅力的に映った。
「何よ? ジロジロと見て?」
「あ、いや、とても似合っているなと思って」
「当たり前でしょう。あたしは優雅で可憐な名馬、ダイワスカーレットと同じ名を持つ者よ。彼女の名に恥じないように、身に着ける物がどんなものでも、着こなしてみせるわ」
俺の褒め言葉に対して、大和鮮赤は動じることなく淡々と言葉を連ねる。
因みに誘導馬の騎乗する人の服装にはいくつかある。
ヴィクトリアマイルのように、牝馬限定レースの場合は、女性誘導騎手はドレス姿が多い。しかし他のレースでは、赤や黒のスーツ姿。男性はタキシードにシルクハットが多い。
どうして大和鮮赤が皐月賞なのにドレス姿なのかは不明だが、失った普通の競馬と、霊馬競馬の違いなのだろう。もしかしたら、個人の意思を尊重してあるのかもしれない。
「可憐なる貴族! 早く行かないと他の人たちに迷惑をかけるわよ!」
「あ、ごめんなさい!もう行かないといけないから、先に行くわね。さぁ、行きましょう。ユキチャン」
騎乗している白馬に声をかけ、大和鮮赤はこの場から離れて行く。
「さて、俺たちもそろそろ行くか」
手綱を操作してトウカイテイオーを歩かせ、コースへと向かって行った。
『白馬に誘導され、次々と名馬たちがやって来ました。では、1頭ずつ紹介していきましょう。生前最後のレースとなってしまったこの皐月賞の舞台で、リベンジを果たそうと言う意気込み。果たして生前のトラウマを克服することができるのか。1番、ラガーレクルス』
『これまで全戦全勝の負けなし。先行馬に取って有利な内枠での発走。テイオーの名に恥じぬ走りで1着を狙います。2番トウカイテイオー』
『マスクに書かれた『なぞ?』のマークはトレードマーク。OP馬だからと言って油断はできない。謎の走りで逃げ切りを狙います。3番ナゾ』
『生前ゴールドシップに敗れて2着に終わった悔しい生前の記憶を胸に、今日こそリベンジを果たそうではないか。4番ワールドエース』
『第73回の優勝馬、G I馬の誇りに賭けて、このレースは勝ってみせる。5番ロゴタイプ』
『第50回の優勝馬、しかし今回のレースは己を超える強敵ばかり! しかし、意地をみせて優勝を目指します。6番ハクタイセイ』
『第56回の優勝馬、7番イシノサンデーは、あのサンデーサイレンス四天王の一角だ! 四天王の名に恥じぬ走りで優勝を掻っ攫うことができるのか』
『祖父はあのスーパーカーと呼ばれたマルゼンスキー! 祖父と同じ逃げのスピードで会場をあっと言わせて見せよう。8番、サクラスピードオー』
『第77回の優勝馬! 父親はあのディープインパクト! 当初9番人気であったのに関わらず優勝した実績をもつダークホースだ! 9番アルアイン』
『皐月賞は4着に終わったが、13番人気で4着を取る実績はバカにできない! 例え人気がないからと言って油断のできない馬だ! 10番クリンチャー』
『生前アルアインとのクビ差で2着に終わった無念を晴らすべくリベンジに燃える。11番ペルシアンナイト』
『クビ差で無念の皐月賞を経験している名馬がここにも居る。打倒エアシャカールを達成することができるか! 12番ダイタクリーヴァ』
『人気はなくとも優勝に燃える馬、トップコマンダーは13番』
『生前皐月賞は2着で敗れた。ライバルのアグネスタキオンとジャングルポケットがいないこの皐月賞、なら1着を取るしかない! ダンツフレームは14番』
『生前4着。しかし霊馬となった今では1着を狙います。15番シンコウカリド』
『大きな大会での優勝経験はなくとも、生前稼いだ金額は億を超える! 16番ミスキャスト』
『第60回の優勝馬、斜行伝説がライバルたちに襲い掛かる! 17番エアシャカール』
『後方から追い縋るその脚質は、どの馬よりも驚異とも言える。G I6勝の走りが復活だ! 刮目して見よ! 18番ゴールドシップ! 以上、18頭が出走です』
「クロ、下見所でのトウカイテイオーの調子はどうだ?」
「うん、普段通りだと思うよ。調子もう良さそうだし、コンディションはバッチリだと思う」
「そうか。今日も頑張ろうな」
『ああ、他の馬たちも同じだろうが、皐月賞馬のプライドに賭けて絶対に1着を取ってみせる』
俺の声かけに、トウカイテイオーは意気込みで返してくれた。これなら、相手がエアシャカールやゴールドシップが相手でも、良い勝負ができそうだ。
トウカイテイオーに騎乗すると、赤いロングの髪に軽くパーマを当て、緩くウエーブがかけられている女性が視界に入る。
彼女は装飾が付けられた誘導馬に騎乗し、赤いドレスを着用していた。
髪色と同じく燃えるような赤い瞳と目が合い、彼女に近づく。
「大和鮮赤、どうしたんだ? その格好?」
「見て分からないの? 誘導馬役をすることになったのよ。今日担当する子が体調不良でできないから、あたしに話が回って来たの。この子も本来は担当する子が騎乗するはずだったのだけどね」
白馬の頭を撫でながら、大和鮮赤は誘導馬を担当することになった経緯を語る。
誘導馬は白毛の馬だと思われがちだが、芦毛の馬が、色素を失って白くなった姿の場合もある。その理由としては、白毛の馬は個体数が少ないからだろう。
人間の髪が色素を失って白髪になるのと同じだ。
でも、召喚される霊馬は全盛期の時の姿で召喚される。だから、霊馬競馬の場合は白毛の馬が採用されることが多い。
「大和鮮赤のドレス良いな。今度あたしも立候補しようかな? あ、でも契約している馬は白馬ではないから難しいかな?」
クロが大和鮮赤の着ているドレスを見て、羨ましがる。
彼女の言葉に釣られて、俺はもう一度大和鮮赤に視線を向ける。
真っ赤なドレスを来ている姿はどこかの貴族令嬢を思わせる雰囲気があり、普段以上に彼女が魅力的に映った。
「何よ? ジロジロと見て?」
「あ、いや、とても似合っているなと思って」
「当たり前でしょう。あたしは優雅で可憐な名馬、ダイワスカーレットと同じ名を持つ者よ。彼女の名に恥じないように、身に着ける物がどんなものでも、着こなしてみせるわ」
俺の褒め言葉に対して、大和鮮赤は動じることなく淡々と言葉を連ねる。
因みに誘導馬の騎乗する人の服装にはいくつかある。
ヴィクトリアマイルのように、牝馬限定レースの場合は、女性誘導騎手はドレス姿が多い。しかし他のレースでは、赤や黒のスーツ姿。男性はタキシードにシルクハットが多い。
どうして大和鮮赤が皐月賞なのにドレス姿なのかは不明だが、失った普通の競馬と、霊馬競馬の違いなのだろう。もしかしたら、個人の意思を尊重してあるのかもしれない。
「可憐なる貴族! 早く行かないと他の人たちに迷惑をかけるわよ!」
「あ、ごめんなさい!もう行かないといけないから、先に行くわね。さぁ、行きましょう。ユキチャン」
騎乗している白馬に声をかけ、大和鮮赤はこの場から離れて行く。
「さて、俺たちもそろそろ行くか」
手綱を操作してトウカイテイオーを歩かせ、コースへと向かって行った。
『白馬に誘導され、次々と名馬たちがやって来ました。では、1頭ずつ紹介していきましょう。生前最後のレースとなってしまったこの皐月賞の舞台で、リベンジを果たそうと言う意気込み。果たして生前のトラウマを克服することができるのか。1番、ラガーレクルス』
『これまで全戦全勝の負けなし。先行馬に取って有利な内枠での発走。テイオーの名に恥じぬ走りで1着を狙います。2番トウカイテイオー』
『マスクに書かれた『なぞ?』のマークはトレードマーク。OP馬だからと言って油断はできない。謎の走りで逃げ切りを狙います。3番ナゾ』
『生前ゴールドシップに敗れて2着に終わった悔しい生前の記憶を胸に、今日こそリベンジを果たそうではないか。4番ワールドエース』
『第73回の優勝馬、G I馬の誇りに賭けて、このレースは勝ってみせる。5番ロゴタイプ』
『第50回の優勝馬、しかし今回のレースは己を超える強敵ばかり! しかし、意地をみせて優勝を目指します。6番ハクタイセイ』
『第56回の優勝馬、7番イシノサンデーは、あのサンデーサイレンス四天王の一角だ! 四天王の名に恥じぬ走りで優勝を掻っ攫うことができるのか』
『祖父はあのスーパーカーと呼ばれたマルゼンスキー! 祖父と同じ逃げのスピードで会場をあっと言わせて見せよう。8番、サクラスピードオー』
『第77回の優勝馬! 父親はあのディープインパクト! 当初9番人気であったのに関わらず優勝した実績をもつダークホースだ! 9番アルアイン』
『皐月賞は4着に終わったが、13番人気で4着を取る実績はバカにできない! 例え人気がないからと言って油断のできない馬だ! 10番クリンチャー』
『生前アルアインとのクビ差で2着に終わった無念を晴らすべくリベンジに燃える。11番ペルシアンナイト』
『クビ差で無念の皐月賞を経験している名馬がここにも居る。打倒エアシャカールを達成することができるか! 12番ダイタクリーヴァ』
『人気はなくとも優勝に燃える馬、トップコマンダーは13番』
『生前皐月賞は2着で敗れた。ライバルのアグネスタキオンとジャングルポケットがいないこの皐月賞、なら1着を取るしかない! ダンツフレームは14番』
『生前4着。しかし霊馬となった今では1着を狙います。15番シンコウカリド』
『大きな大会での優勝経験はなくとも、生前稼いだ金額は億を超える! 16番ミスキャスト』
『第60回の優勝馬、斜行伝説がライバルたちに襲い掛かる! 17番エアシャカール』
『後方から追い縋るその脚質は、どの馬よりも驚異とも言える。G I6勝の走りが復活だ! 刮目して見よ! 18番ゴールドシップ! 以上、18頭が出走です』
10
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる