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第六章
第九話 約束を果たす訳がないだろう
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クロの下着を盗んで俺の鞄の中に入れた事件の犯人が、カラスとハルウララだと言うことが分かり、俺は脱力した。
まったく、今日は何て日だ。だが、無事に事件が解決し、警察沙汰にならなかっただけでも儲けものだろう。
「予定外のことになってしまったが、帝王、明日の朝7時には風紀委員会の部屋に来るように」
大気釈迦流に早朝から風紀委員の教室に来るように言われ、俺は首を傾げた。
「どうしてそんな時間帯に風紀委員の教室に行かないといけないんだよ」
「新米の風紀委員は、どの風紀委員よりも先に来て見回りなどの準備をしなければならない。安心しろ、明日は俺自ら風紀委員の仕事を指導してやる」
風紀委員の仕事だと言われ、俺はハルウララが彼と約束したことを思い出した。
そう言えば、犯人が俺ではなかった場合、冤罪をかけられるような人格を叩き直すために、風紀委員に入れると言っていたな。
「いや、あれはハルウララが勝手に言ったことだろうが。本人の承諾なしに勝手に決めても、それは無効だ」
「確かにそうだな。なら、直々にお願いしよう。どうか風紀委員のメンバーになってくれないか」
大気釈迦流が頭を下げ、風紀委員のメンバーに入るようにお願いしてきた。
あの鬼と呼ばれた風紀委員長が直々に頭を下げている。
彼の態度を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
ここまでされたら、彼の言うことを聞いてあげた方が……いやいや、何を考えているんだ俺は! 風紀委員に入ったら、面倒事に首を突っ込まないといけなくなる。
親父の件もあるし、トラブルに巻き込まれることは極力避けた方が良い。
「悪いが、断る」
「そうか。そこまで言うのであれば今回は引き下がろう」
断った瞬間、彼は俺の予想を超える言葉を放った。
あれ? 俺の予想では、魚華のように食い下がってきそうと思っていたのに。
まぁ、良いか。意外と良いやつなのかも知れないな。
「あ、そうそう。ひとつお前に頼みたいことがあるのだが良いか?」
突然、大気釈迦流が俺に頼みたいことがあると言ってきた。
さっき、風紀委員になるのを断ってしまったし、彼の頼みくらいは聞いてあげても良いかも知れないな。
「分かった。頼みと言うものを話してくれ」
「言質取ったからな」
頼み事が何かを尋ねた瞬間、大気釈迦流の口角が上がった。彼の表情を見た瞬間、寒気を覚える。
「頼みと言うのは、俺と勝負して負けた場合は風紀委員に入ると言うものだ」
「え?」
予想していなかった言葉に、俺の思考は一瞬だけ止まってしまう。
「こればかりは回避不可能だぜ。お前は『分かった。頼みと言うものを話してくれ』と言った。その瞬間、承諾する意思を示している。つまり、お前は内容をろくに聞かずに俺との約束を結んだと言う訳だ。本当に計算通りに動いてくれる」
彼の失笑を目の当たりにする中、俺は驚愕してしまう。
どこからなのかわからないが、彼は俺の言動や行動を予測していたのだ。そして正攻法では無駄だと判断し、絡め手を使ってきた。
『うわー、帝王が守備表示にした瞬間、トラップカードが発動してしまって、場のモンスターカードが全滅しちゃった感じだね。帝王ピンチ!』
俺の横で、ハルウララが大人気カードゲームで状況を例えている。だが、彼女の言いたいことが伝わっている人は少ないだろう。
「人間は、相手の頼みを断ると、少なからず罪悪感を抱く。その時に頼み事を軽くしてあげると、相手はこちらに譲渡したように思える。すると、罪悪感から逃れるために、譲渡されたお願いを聞いてしまうと言う訳だ」
チッ、俺はまんまと大気釈迦流の変法性の法則に嵌められたと言う訳か。
「まぁ、こちらもレース勝負での結果と言う形で譲歩してあげているんだ。恨まないでくれよ。お互いに納得のいく形で落とし所を付けたんだ」
確かに、大気釈迦流の言う通りだ。
勝負に負けたら風紀委員のメンバーに入ると言う約束であれば、仮に負けた場合であっても、自分の実力不足だと納得することができる。
それに、よく考えてみると、俺は親父との約束の方が強すぎて、彼の提案は赤子のように可愛いものとさえ思えてくる。
「分かった。負けた場合は風紀委員のメンバーに入ってやるよ」
「交渉成立だな。早速と言いたいところだが、俺は放課後には用事がある。勝負は日を改めてからとしよう。周滝音行くぞ!」
「東海帝王君が勝てば、下っ端としてコキ使ってあげようと思っていたのに、お預けか。それじゃ、勝負をする日を楽しみにしているね」
勝負は後日行うと言うと、大気釈迦流と周滝音は教室から出て行く。
彼の頭脳に嵌められ、レース勝負をすると言う約束をしてしまったが、とにかく勝つだけだ。
まったく、今日は何て日だ。だが、無事に事件が解決し、警察沙汰にならなかっただけでも儲けものだろう。
「予定外のことになってしまったが、帝王、明日の朝7時には風紀委員会の部屋に来るように」
大気釈迦流に早朝から風紀委員の教室に来るように言われ、俺は首を傾げた。
「どうしてそんな時間帯に風紀委員の教室に行かないといけないんだよ」
「新米の風紀委員は、どの風紀委員よりも先に来て見回りなどの準備をしなければならない。安心しろ、明日は俺自ら風紀委員の仕事を指導してやる」
風紀委員の仕事だと言われ、俺はハルウララが彼と約束したことを思い出した。
そう言えば、犯人が俺ではなかった場合、冤罪をかけられるような人格を叩き直すために、風紀委員に入れると言っていたな。
「いや、あれはハルウララが勝手に言ったことだろうが。本人の承諾なしに勝手に決めても、それは無効だ」
「確かにそうだな。なら、直々にお願いしよう。どうか風紀委員のメンバーになってくれないか」
大気釈迦流が頭を下げ、風紀委員のメンバーに入るようにお願いしてきた。
あの鬼と呼ばれた風紀委員長が直々に頭を下げている。
彼の態度を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
ここまでされたら、彼の言うことを聞いてあげた方が……いやいや、何を考えているんだ俺は! 風紀委員に入ったら、面倒事に首を突っ込まないといけなくなる。
親父の件もあるし、トラブルに巻き込まれることは極力避けた方が良い。
「悪いが、断る」
「そうか。そこまで言うのであれば今回は引き下がろう」
断った瞬間、彼は俺の予想を超える言葉を放った。
あれ? 俺の予想では、魚華のように食い下がってきそうと思っていたのに。
まぁ、良いか。意外と良いやつなのかも知れないな。
「あ、そうそう。ひとつお前に頼みたいことがあるのだが良いか?」
突然、大気釈迦流が俺に頼みたいことがあると言ってきた。
さっき、風紀委員になるのを断ってしまったし、彼の頼みくらいは聞いてあげても良いかも知れないな。
「分かった。頼みと言うものを話してくれ」
「言質取ったからな」
頼み事が何かを尋ねた瞬間、大気釈迦流の口角が上がった。彼の表情を見た瞬間、寒気を覚える。
「頼みと言うのは、俺と勝負して負けた場合は風紀委員に入ると言うものだ」
「え?」
予想していなかった言葉に、俺の思考は一瞬だけ止まってしまう。
「こればかりは回避不可能だぜ。お前は『分かった。頼みと言うものを話してくれ』と言った。その瞬間、承諾する意思を示している。つまり、お前は内容をろくに聞かずに俺との約束を結んだと言う訳だ。本当に計算通りに動いてくれる」
彼の失笑を目の当たりにする中、俺は驚愕してしまう。
どこからなのかわからないが、彼は俺の言動や行動を予測していたのだ。そして正攻法では無駄だと判断し、絡め手を使ってきた。
『うわー、帝王が守備表示にした瞬間、トラップカードが発動してしまって、場のモンスターカードが全滅しちゃった感じだね。帝王ピンチ!』
俺の横で、ハルウララが大人気カードゲームで状況を例えている。だが、彼女の言いたいことが伝わっている人は少ないだろう。
「人間は、相手の頼みを断ると、少なからず罪悪感を抱く。その時に頼み事を軽くしてあげると、相手はこちらに譲渡したように思える。すると、罪悪感から逃れるために、譲渡されたお願いを聞いてしまうと言う訳だ」
チッ、俺はまんまと大気釈迦流の変法性の法則に嵌められたと言う訳か。
「まぁ、こちらもレース勝負での結果と言う形で譲歩してあげているんだ。恨まないでくれよ。お互いに納得のいく形で落とし所を付けたんだ」
確かに、大気釈迦流の言う通りだ。
勝負に負けたら風紀委員のメンバーに入ると言う約束であれば、仮に負けた場合であっても、自分の実力不足だと納得することができる。
それに、よく考えてみると、俺は親父との約束の方が強すぎて、彼の提案は赤子のように可愛いものとさえ思えてくる。
「分かった。負けた場合は風紀委員のメンバーに入ってやるよ」
「交渉成立だな。早速と言いたいところだが、俺は放課後には用事がある。勝負は日を改めてからとしよう。周滝音行くぞ!」
「東海帝王君が勝てば、下っ端としてコキ使ってあげようと思っていたのに、お預けか。それじゃ、勝負をする日を楽しみにしているね」
勝負は後日行うと言うと、大気釈迦流と周滝音は教室から出て行く。
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