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第六章

第四話 学園盗難事件

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「下着泥棒?」

 クロと校舎に向かって歩きながら会話をしていると、下着泥棒の話題を彼女がしてくる。

「そうなのよ、近隣の家やマンションが被害に遭っているんだって。怖いよね。ねぇ、どうして男の人って下着に興奮するの?」

「いや、知らないよ」

 頭に浮かんだ疑問を解消しようとクロが訊ねて来るも、彼女の好奇心を満たす答えを知らない俺は、咄嗟に知識がないことを伝える。

「えー、男の子なのに?」

「いくら男と言う生物学的に共通点があっても、全員が下着に興奮する訳じゃないからな」

 寧ろ俺の方は知りたい。あんなのただの布切れにすぎないのに、どうすれば興奮することができるのだろうか?

 そんなことを思いながら歩いていると、校舎に辿り着く。玄関に入って下駄箱で校舎用の靴に履き替え、教室へと向かった。

 教室に入ってクラスメートたちに朝の挨拶を交わし、自分の席に着くとホームルームが始まるのを待つ。

 しばらくしてチャイムが鳴り、担任教師の愛馬先生が入ってきた。

「皆さん、おはようございます。朝から残念なお知らせがあります」

 残念なお知らせ? いったい何を言われるのだろうか?

 生唾を飲み込み、担任教師の言葉を待つ。

「先生、振られてしまいましたぁー。ギャンブルをする人とは付き合えないってー! 競馬は確かにギャンブルかもしれませんが、負けない賭け方をすれば投資になるんですー。うえーん」

 振られたことを暴露する愛馬先生に、思わず力が抜けた。

 朝から何を言われるのかと思っていたが、まさかそんなことかよ。そんなことをいちいち生徒に報告する必要性はないだろう?

「先生! 競馬をバカにするような男なんて、そんな男は先生に相応しくありません!」

「そうですよ! 競馬をギャンブルなんて一括りにするようなやつは、ろくに競馬の良さを知らないでイメージで言っているだけです! 先生には、もっと相応しい人がいます!」

「そうだ! そうだ! 先生は俺好みです! 先生と生徒と言う立場でなければ、俺が告白していますよ!」

 次々と生徒たちから慰めの言葉が投げかけられる。

「皆さんありがとう。私はこんなに優しい生徒たちを受け持って嬉しいです」

 馬の刺繍が施されたハンカチをポケットから取り出し、愛馬先生は涙を拭う。

 もしかして、みんなが慰めてくれることが分かっているから、振られたことを暴露したのだろうか。

「皆さんのお陰で元気が出ました! 次にマッチングしてお会いする方は、競馬を理解している方にしますね。では、早速ホームルームを始めましょう」

 確かに、今のは連絡事項ではなかったな。

「近隣で下着泥棒による盗難事件が多発していると言うニュースは、皆さんも耳にしているかと思います。ですが、ついに女子寮でも盗難事件が起きました」

 愛馬先生の言葉に、教室中が騒めく。

「被害に遭った女子生徒はベランダに干した後に盗まれたとのことです。女子の皆さん、これからは下着を干す時は部屋干しでお願いします。一応この件に関しては警察に連絡して見回りも強化することにしました。なので、怪しい行動は絶対にしないでくださいね。それでは、これでホームルームを終わります。1時限目は体育です。女子生徒は更衣室に移動してください」

 ホームルームが終わり、愛馬先生は教室から出て行く。彼女が廊下に出ると、女子生徒たちが立ち上がって荷物を持ち、更衣室へと向かって行った。

 俺たち男子は、女子全員が教室を出て行くのを見計らって服を脱ぎ、体操服に着替えはじめた。

 いくら霊馬騎手を育成する学園であっても、一般の学校と同じ教育を受ける必要がある。

 今日は徒競走だったか。

 着替え終わって教室を出ると競技場に向かった。殆どのクラスメートは競技場に来ており、女子生徒は全員揃った状態で整列して担当の先生が来るのを待っていた。俺も男子生徒の列に入る。

 しばらくすると授業開始のチャイムがなり、体育教師が競技場に出て来た。

「今日は徒競走だったな! 1000メートルの短距離を全速力で走ってもらうぞ!」

 体育教師の言葉に、俺は青ざめた。

 いやいや、おかしいだろう? 1000メートルと言えば中距離にならないか?

「先生! 1000メートルの短距離は、競走馬基準じゃないですか! 私たちは人間ですよ!」

「あはははは! そうだったな。悪い、悪い。職業病のようなものだと思ってくれ。それじゃ、1000メートルの合格ラインは1分30秒までとする」

「だから! 私たちは馬じゃなです! 1000メートルを1分台で走れる訳がないじゃないですか!」

「大丈夫だ! 気合いで走ればなんとかなる」

 いや、気合いの問題じゃないだろう? 確かに人間は、理論上では足の筋肉の収縮速度をより早くすれば、時速56キロから64キロメートルで走ることができるとされている。

 だが、実際にそんなに早く走ることはできない。もし、それを可能にした人がいたら、オリンピックで優勝確実となるだろう。

「それじゃ、新潟競馬場、アイビスサマーダッシュ芝1000メートルの直線コースを走ってもらう」

 この学園はVR競馬場がある代わりグラウンドは存在していない。なので、体育の時はここを利用するのだが、これでは俺たちが競走馬になった気分だ。

 ウマキュンシスターズじゃないのだから。

「それでは、全員位置に付け、5着以内入賞できるように頑張れよ」

 いや、だから競馬じゃないのだから。

 そんなことを思いながらも、スタートの合図と共に走り出す。






「ゼー、ハー、ゼー、ハー」

 1000メートルを全速力で走った俺は、疲労困憊となった。少しでも速度を緩めようとすると、体育教師が愛馬に乗った状態で追いかけ、無理やり走らされる。本当に競走馬になったような気分だ。

「よーし、皆んな良く頑張った! 今日の授業はこれまでとする。チャイムが鳴ったら、回復した者から教室に戻るように」

 1000メートル全速疾走と言う本日の授業が終わり、俺たちは残り時間を休憩として使えるらしい。

 しばらくすると授業の終わりを告げるチャイムがなり、動ける状態になった者から教室に戻って行く。

 俺も歩けるだけの体力が回復した後に教室へと戻った。

「あれ? 先に教室に戻ったやつがいるかと思ったが、誰も居ないな」

 俺1人で教室に居る中、制服に着替える。着替えている最中に、次々と他の生徒が戻って来て、俺は次の授業の準備を行う。

 さて、次は競馬の歴史の授業だったな。

 カバンを開いたその瞬間、俺は一瞬だけ時が止まったかのように硬直した。

 なぜ、俺のカバンの中にブラジャーが入っている?
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