上 下
79 / 136
第六章

第四話 学園盗難事件

しおりを挟む
「下着泥棒?」

 クロと校舎に向かって歩きながら会話をしていると、下着泥棒の話題を彼女がしてくる。

「そうなのよ、近隣の家やマンションが被害に遭っているんだって。怖いよね。ねぇ、どうして男の人って下着に興奮するの?」

「いや、知らないよ」

 頭に浮かんだ疑問を解消しようとクロが訊ねて来るも、彼女の好奇心を満たす答えを知らない俺は、咄嗟に知識がないことを伝える。

「えー、男の子なのに?」

「いくら男と言う生物学的に共通点があっても、全員が下着に興奮する訳じゃないからな」

 寧ろ俺の方は知りたい。あんなのただの布切れにすぎないのに、どうすれば興奮することができるのだろうか?

 そんなことを思いながら歩いていると、校舎に辿り着く。玄関に入って下駄箱で校舎用の靴に履き替え、教室へと向かった。

 教室に入ってクラスメートたちに朝の挨拶を交わし、自分の席に着くとホームルームが始まるのを待つ。

 しばらくしてチャイムが鳴り、担任教師の愛馬先生が入ってきた。

「皆さん、おはようございます。朝から残念なお知らせがあります」

 残念なお知らせ? いったい何を言われるのだろうか?

 生唾を飲み込み、担任教師の言葉を待つ。

「先生、振られてしまいましたぁー。ギャンブルをする人とは付き合えないってー! 競馬は確かにギャンブルかもしれませんが、負けない賭け方をすれば投資になるんですー。うえーん」

 振られたことを暴露する愛馬先生に、思わず力が抜けた。

 朝から何を言われるのかと思っていたが、まさかそんなことかよ。そんなことをいちいち生徒に報告する必要性はないだろう?

「先生! 競馬をバカにするような男なんて、そんな男は先生に相応しくありません!」

「そうですよ! 競馬をギャンブルなんて一括りにするようなやつは、ろくに競馬の良さを知らないでイメージで言っているだけです! 先生には、もっと相応しい人がいます!」

「そうだ! そうだ! 先生は俺好みです! 先生と生徒と言う立場でなければ、俺が告白していますよ!」

 次々と生徒たちから慰めの言葉が投げかけられる。

「皆さんありがとう。私はこんなに優しい生徒たちを受け持って嬉しいです」

 馬の刺繍が施されたハンカチをポケットから取り出し、愛馬先生は涙を拭う。

 もしかして、みんなが慰めてくれることが分かっているから、振られたことを暴露したのだろうか。

「皆さんのお陰で元気が出ました! 次にマッチングしてお会いする方は、競馬を理解している方にしますね。では、早速ホームルームを始めましょう」

 確かに、今のは連絡事項ではなかったな。

「近隣で下着泥棒による盗難事件が多発していると言うニュースは、皆さんも耳にしているかと思います。ですが、ついに女子寮でも盗難事件が起きました」

 愛馬先生の言葉に、教室中が騒めく。

「被害に遭った女子生徒はベランダに干した後に盗まれたとのことです。女子の皆さん、これからは下着を干す時は部屋干しでお願いします。一応この件に関しては警察に連絡して見回りも強化することにしました。なので、怪しい行動は絶対にしないでくださいね。それでは、これでホームルームを終わります。1時限目は体育です。女子生徒は更衣室に移動してください」

 ホームルームが終わり、愛馬先生は教室から出て行く。彼女が廊下に出ると、女子生徒たちが立ち上がって荷物を持ち、更衣室へと向かって行った。

 俺たち男子は、女子全員が教室を出て行くのを見計らって服を脱ぎ、体操服に着替えはじめた。

 いくら霊馬騎手を育成する学園であっても、一般の学校と同じ教育を受ける必要がある。

 今日は徒競走だったか。

 着替え終わって教室を出ると競技場に向かった。殆どのクラスメートは競技場に来ており、女子生徒は全員揃った状態で整列して担当の先生が来るのを待っていた。俺も男子生徒の列に入る。

 しばらくすると授業開始のチャイムがなり、体育教師が競技場に出て来た。

「今日は徒競走だったな! 1000メートルの短距離を全速力で走ってもらうぞ!」

 体育教師の言葉に、俺は青ざめた。

 いやいや、おかしいだろう? 1000メートルと言えば中距離にならないか?

「先生! 1000メートルの短距離は、競走馬基準じゃないですか! 私たちは人間ですよ!」

「あはははは! そうだったな。悪い、悪い。職業病のようなものだと思ってくれ。それじゃ、1000メートルの合格ラインは1分30秒までとする」

「だから! 私たちは馬じゃなです! 1000メートルを1分台で走れる訳がないじゃないですか!」

「大丈夫だ! 気合いで走ればなんとかなる」

 いや、気合いの問題じゃないだろう? 確かに人間は、理論上では足の筋肉の収縮速度をより早くすれば、時速56キロから64キロメートルで走ることができるとされている。

 だが、実際にそんなに早く走ることはできない。もし、それを可能にした人がいたら、オリンピックで優勝確実となるだろう。

「それじゃ、新潟競馬場、アイビスサマーダッシュ芝1000メートルの直線コースを走ってもらう」

 この学園はVR競馬場がある代わりグラウンドは存在していない。なので、体育の時はここを利用するのだが、これでは俺たちが競走馬になった気分だ。

 ウマキュンシスターズじゃないのだから。

「それでは、全員位置に付け、5着以内入賞できるように頑張れよ」

 いや、だから競馬じゃないのだから。

 そんなことを思いながらも、スタートの合図と共に走り出す。






「ゼー、ハー、ゼー、ハー」

 1000メートルを全速力で走った俺は、疲労困憊となった。少しでも速度を緩めようとすると、体育教師が愛馬に乗った状態で追いかけ、無理やり走らされる。本当に競走馬になったような気分だ。

「よーし、皆んな良く頑張った! 今日の授業はこれまでとする。チャイムが鳴ったら、回復した者から教室に戻るように」

 1000メートル全速疾走と言う本日の授業が終わり、俺たちは残り時間を休憩として使えるらしい。

 しばらくすると授業の終わりを告げるチャイムがなり、動ける状態になった者から教室に戻って行く。

 俺も歩けるだけの体力が回復した後に教室へと戻った。

「あれ? 先に教室に戻ったやつがいるかと思ったが、誰も居ないな」

 俺1人で教室に居る中、制服に着替える。着替えている最中に、次々と他の生徒が戻って来て、俺は次の授業の準備を行う。

 さて、次は競馬の歴史の授業だったな。

 カバンを開いたその瞬間、俺は一瞬だけ時が止まったかのように硬直した。

 なぜ、俺のカバンの中にブラジャーが入っている?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

えっちのあとで

奈落
SF
TSFの短い話です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

処理中です...