追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる！

第五章

第十三話 桜花賞の後で

　～大和鮮赤ダイワスカーレット視点～





　ダイワスカーレットが１着でゴール板を駆け抜けることができたことに対して、驚きつつも安堵していると、そこに茶髪の髪をモテの王道であるクラシカルストレートにしている女の子が、茶褐色の馬に乗ったまま近付いて来た。

「優勝おめでとうございます。さすが、第６７代目の桜の女王ですね」

「明日屯麻茶无アストンマーチャン、あなた今回のレース優勝するつもりなかったでしょう。まるで、あたしのアシストをしているような走りだったわ」

「なんのことですか？　私は私の作戦で走っていただけですよ？　あなたの勘違いじゃないのですか？」

　アストンマーチャンに騎乗している状態だからか、彼女はいつもよりもハキハキとした口調ではぐらかしてくる。

　どう言う理由なのか知らないけれど、どうやら悪役を押し通したいみたいね。なら、ここは彼女の意思を尊重して、これ以上は追求しないでおきましょう。

　これ以上は首を突っ込まないようにしておこうと思っていると、視線を感じた。そちらに顔を向けると、銀髪のゆるふわロングヘアーの女の子が、赤い瞳で睨んでいた。

「うわー、怖いですね。どうやら私が邪魔をしたことを怒っているみたいです。彼女が怖いので、私は早々に退散しますね」

　言葉では怖がっているも、全然そのような表情を見せないまま、明日屯麻茶无アストンマーチャンはこの場から離れて行った。

「ダイワスカーレットの騎手」

　明日屯麻茶无アストンマーチャンが離れたタイミングで、襟無衣装ローブデコルテが近付いてきた。わざわざ名馬の騎手といった遠回りな言い方は、彼女なりの配慮なのでしょう。

　別にあたしはダイワスカーレットとしか契約していないから、真名がバレてもそこまで気にしないのだけど。

「帰国子女の樫の女王」

　相手が遠回しな言い方で呼んだので、こちらも彼女のことを二つ名で呼ぶ。

「今回はまんまとあなた達の策に嵌ったわ。でもいいこと！　今回のローブデコルテは本来の力を発揮できていなかったわ。次の優駿牝馬オークスで決着を付けてあげる」

　捨て台詞を吐くと、襟無衣装ローブデコルテはこの場から離れて行った。

　ローブデコルテは優駿牝馬オークスの優勝馬、名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース、１７年ぶりのレースレコードザ・ファーストレースレコード・イン・セブンティーンイヤーズは、優駿牝馬オークスでその力をより発揮するはず。そのことを考えても、ただの負け惜しみで言った訳ではないのでしょう。

　もし、優駿牝馬オークスで再戦することになれば、今回のように、歴代の桜の女王たち並の強敵となって帰って来るはず。

　彼女との再戦が少しだけ怖いような、楽しみなような、そんな複雑な気分になった。

　ダイワスカーレットに騎乗したまま観客席側ホームストレッチに向かうと、観客たちから声援が送られてきた。

『やったー！　やったー！　ダイワスカーレットの勝利だ！　今日は赤飯だね！　帝王が勝っても、大和鮮赤ダイワスカーレットが勝っても、明日屯麻茶无アストンマーチャンが勝っても、魚華ウオッカが勝っても、なぞなぞ博士が勝っても、私が知っているみんなが勝てば赤飯だ！　赤飯パラダイス！』

　ハルウララの言葉が耳に入った瞬間、思わず吹き出しそうになる。

　何言っているのよ。本当にハルウララは面白いわね。レースの疲れなんて、吹っ飛びそうだわ。

　観客達から称賛の言葉を受け、その後芝ターフから建物内に入ると、あたしはダイワスカーレットから降りる。すると、大会関係者の１人が来ると、ダイワスカーレットに今年度の桜花賞優勝レイが掛けられた。

　その後、優勝者インタビューを受け、差し障りのない受け答えをして、無事にインタビューを終えた。

　こうして、今年のあたしの桜花賞は、優勝と言う形で終わった。





　その日の夜、あたしはタブレットを見てダイワスカーレットのステータスなどを確認する。

　今回のレースで優勝して経験を得た彼女は、ステータスが上昇していた。

　次のレースに向けて、アビリティを見直そうと思い、アビリティを管理する画面を開く。

　すると、画面には、絆アビリティと言うものが追加されてあった。

「何これ？」

　思わず声が漏れる。

　絆アビリティと言うものなど聞いたことがない。授業でもアビリティは自動能力オートアビリティと任意能力アービトラリーアビリティしかないと教わっている。

　何かのバグかしら？　そうじゃないと、授業で学んだことが嘘になるわ。

「でも、なんだか面白そうね。試しに装備させてみようかしら」

　絆アビリティの項目を押してみると、アビリティの名前が表示される。

「先頭への拘りオブセッションウィズバトルって、ダイワスカーレットの名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースじゃない」

　どうして必殺技がアビリティ化されているのか不明だけど、これってもう一度アビリティとして必殺技が使えるってことじゃないの！

　ワクワクした気持ちで装備画面を操作して、ダイワスカーレットに絆アビリティを装備させようとする。

　しかし、エラーが発生して装備することができなかった。

　画面には『このアビリティはダイワスカーレットには装備することができません』と表示されている。

「ダイワスカーレットには装備ができない。なら、別の馬には装備ができるってこと？」

　つまり譲渡専用のアビリティの可能性がある。

「試しに魚華ウオッカに送ってみようかな？　あいつ、あたしからプレゼントを貰ったら、どんな反応をするのかしら」

　悪戯をする子どものように思わずニヤつく。

　タブレットを操作して、試しに魚華ウオッカにプレゼントとして絆アビリティを送ってみる。

　しかし、またしてもエラーの文字が現れ、送ることができなかった。

「うーん、こうなってくると、バグで存在していないアビリティがまるで存在しているようになっていると考えた方が良さそうね」

　肩透かしを食らったような気分になりつつも、あたしはタブレットの操作を止める。

　何はともあれ、桜花賞を優勝することができた訳だし、今日はいい夢が見られそう。

　心の中でそんなことを思いながら、あたしは眠りに付いた。