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第五章

第九話 桜花賞出走

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大和鮮赤ダイワスカーレット視点~





 出走時刻となり、ゲートが開いた。その瞬間、ダイワスカーレットに走る合図を送り、彼女を走らせる。

『ゲートが開きました。まずまずの揃ったスタートダッシュです。若干サイコーキララとスマイルトゥモローが出遅れたようです』

 自動能力オートアビリティの【全集中】が発動したようで、最初のスタートダッシュは綺麗に決まったわ。そしてもう1つの自動能力オートアビリティ【馬密集】の発動条件が重なり、ダイワスカーレットは更に加速力を上げてくれる。

『先行争いの結果、最初の順位が確定しました。先頭ハナに立ったのは、コスモマーベラス。半馬身程離れて、その隣をダイワスカーレットが追いかけます。そしてその後をショウナンタレントとロンドンブリッジが競り合う形で3番手争いをしています。先頭集団は逃げの脚質を得意とする名馬の塊となっていますが、その中でもサイコーキララとスマイルトゥモローが3馬身程離されていますね』

『あの2頭はスタートダッシュが遅れてしまいましたからね。ややスタートダッシュが遅れてしまっては、このような形になるのは仕方がないでしょう。ですが、この状況はサイコーキララにとっては痛いですね。追い抜こうにも、スタミナが持つかといったところです』

『2頭の後ろを1馬身差でアストンマーチャン。そして左側からワンダーガール。その後ろをローブデコルデが控えています。そこから1馬身、いえ、半馬身でしょうか、アドマイヤキッスとシャイニンルビーが競り合いながらも様子を伺っていると言った状況でしょうか。そして競り合っている2頭の後ろに優勝候補のアパパネが控えていますが、これは作戦でしょうか?』

『アパパネは差しの脚質ですし、まだレースは始まったばかりです。まだ様子を伺っていると言ったところでしょう』

『ここまでが中段グループ、そして3馬身離されてソーマジック。その後ろをレジネッタが追いかけ、ファレノプシスが追い付いて来ました。そしてその後ろをプリモディーネとゴッドインチーフが殿となっています』

『逃げ、先行の脚質の馬が多いので、縦長の展開となっていますね。果たしてどのタイミングでどの馬が仕掛けるのか。見物です』

『先頭から殿まで、およそ10馬身差と言ったところで、ここで先頭はややダイワスカーレットになりつつあると言ったところでしょうか』

 実況と解説の言葉が耳に入る中、あたしはひたすら前を見続けた。後続にはあの史上3頭目の牝馬三冠を成し遂げたアパパネが控えている。彼女が本気を出せば、簡単に距離は縮まるでしょう。今は少しでもリードを広げておかないと危険だわ。

 もうすぐ第3コーナーに迫るわね。ここは内側のコースとの分岐点。今回は外側のコースである以上、間違えないで真っ直ぐに進む必要がある。

 任意能力アービトラリーアビリティ【女王の威厳】はまだ使うタイミングではないわ。あのアビリティは、相手の馬を萎縮させ、速度を落とすデバフ系のアビリティ。だから今は使うタイミングではない。使うとすれば、優勝候補のアパパネが迫って来た時でしようね。

向正面バックストレッチの直線を抜け、現在先頭のダイワスカーレットが緩やかなカーブの坂を登っていきます。競り合っていたコスモマーベラスは1馬身程引き離され、ショウナンタレントとロンドンブリッジが追いつき3頭が並びます』

『後方に控えているアパパネを気にしているのでしょうか。先頭集団がいつもよりも速度を上げてかかった状態になっていますね。スタミナを最後まで維持できるかどうかと言ったところでしょうか』

 後ろにいる逃げ馬たちも速度を上げてきた。やっぱりアパパネの存在感はやっぱり大きいわ。ダイワスカーレットは、感冒風邪で発熱を起こさなければ、優駿牝馬オークスを優勝して3冠牝馬になっていたかもしれない名馬、アパパネにも引けは取らないはず。

 坂を駆け登り、中盤に入ったところで、ダイワスカーレットは下り坂に向けて加速する。

 自動能力オートアビリティ【しなやかな走り】が発動したようね。

 念の為に後方を確認する。するといつの間にかアストンマーチャンとローブデコルテが先頭集団に食い込んできていた。

『ここでアストンマーチャンとローブデコルテが加速し、先頭集団に食い込む。しかしローブデコルテはアストンマーチャンにブロックされているのか、それ以上前に進むことができない様子』

「あなた何やっているのよ! 作戦と違うじゃない!」

「何を言っているのですか? 私は私の作戦で動いているだけですよ?」

 後方から襟無衣装ローブデコルテ明日屯麻茶无アストンマーチャンの声が耳に入ってきた。

 ここで仲間割れ? まぁ、別に良いわ。何が起きているのか分からないけれど、仲間内で争ってくれているのなら、それはそれで助かるわ。

 彼女たちが争ってくれている分、スタミナは消費するでしょうし、後方に控えている馬たちも不用意に距離を縮めることができないはず。

 どうやら運は、あたしに味方をしてくれているみたい。このチャンスを絶対にものにしてみせる。

『先頭はダイワスカーレットのまま、馬群が縮まり始めました。先頭から殿まで、およそ7馬身と言ったところでしょうか。優勝候補のアパパネはまだ控えています。果たして、歴代の桜の女王たちはいつ動くのか!』
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