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第四章

第六話 限られた視界の中の希望

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 前方を走っていたラッキートップのアビリティの効果で、蹴り上げた砂がゴーグルに付着してしまった。そのせいで最低限の視界しかない状況に陥ってしまう。

 その結果、上手くハルウララを誘導させることができずに、次々と追い抜かれ、現在は7位になっている。

 くそう。ゴーグルに砂が張り付いているせいで、視界が限られて良く見えない。

『ここでシルクコンバットとオノゾミドオリがハルウララを抜いた! そして先頭はコパノフウジンのまま、間も無く第3コーナーへと差し掛かろうとしています』

 シルクコンバットとオノゾミドオリにも抜けられたか。これで9位だ。このままでは、ライデンリーダーにまで追い抜かれてしまう。

 このままではまずい。負けてしまう。負ければ、俺は親父の経営する学園に編入することになる。

 必死になって思考を巡らせるも、焦った状況では何も良いアイディが思い浮かばない。

 順位を上げる鍵はアビリティだが、視界に制限がある状態では、タイミングを間違えれば他の馬との接触することになり、落馬する危険性がある。

『ここで先頭ハナを走っているコパノフウジンが、第3コーナーに入りました。先頭から殿まで、およそ8馬身差と言ったところでしょうか』

 実況担当の中山の声が耳に入る度に焦ってしまう。

 時間は待ってくれない。1秒1秒確実に過ぎていく。1400メートルのレースは約80秒の世界だ。ボーッとしている暇なんてない。

 くそう。早く逆転できる策を考えたくとも、思考がはっきりとしない。焦って、何も考えられなくなる。

『てい……おう……ていおう……帝王! ねぇ! 私の言葉が聞こえているの!』

 頭の中が真っ白になっている中、ハルウララの声が耳に届き、俺は現実の世界に意識が戻り、ハッとする。

「ハルウララ……すまない。このままでは、お前に3連勝してやれない。霊馬学園に編入することになれば、簡単には優勝をプレゼントして上げることはできないかもしれない。でも、あっちの学園でも、お前に優勝をプレゼントできるように頑張るから」

『帝王のバカ! 大馬鹿野郎だよ!』

 突如罵倒され、俺は困惑する。

『どうして簡単に諦めてしまうの! 諦めるなんて、帝王らしくないよ!』

 俺らしくない。確かにそうかもしれない。でも、俺だって人間なんだ。心が折れることだってある。

 残りの距離的に逆転するのは難しい。しかも、視界に制限のあるハンデ付きなんだ。いくらアビリティがあると言っても、タイミングが分からない。

『私が札幌競馬場のメイクデビューで満足してレースに飽きた時、帝王は諦めなかった。必死になって私に訴えて、私の心を動かした! レースに勝ちたいと言う、競走馬としてのプライドと誇りを思い出させてくれたんだ! 帝王は私に言ってくれたよね、私がレースで優勝するところを見たいって! なら、今度は私が見たい! 帝王がハンデのある状況で、私を優勝させるところを! 私の騎手は、世界最高の騎手だってところを、みんなに見せつけるんだ!』

 彼女の言葉が胸に突き刺さる。ハルウララはこんな状況下でも、俺のことを信じている。なら、彼女の想いに応えて上げるのが騎手じゃないか。

「すまない。それとありがとう。おかげで目が覚めた」

 ハルウララの一喝により、俺の迷いと言う頭の中の靄がなくなり、スッキリする。

 そうだ。ここはハルウララのホームグラウンドだ。なら、彼女の力を借りるのが今できるベストな状況だろう。

「ハルウララ、俺の目となってくれ! 状況を教えてくれれば、制限された視界の中でも、手綱を操作することができる」

『分かった! まずは目の前にオノゾミドオリがいるよ。そして1馬身先にシルクコンバットとレインボーシャトルが並走している。そしてレインボーシャトルの左斜め前にラッキートップがいるから、追い抜こうとすれば3ゲート、いや、4ゲート分ずれた方がいいかも』

 ハルウララの言葉を聞き、前の状況が一部分かった。そして脳内に今の俺たちの位置と、他の馬の位置をマッピングする。

 だいたいこんな感じになっているのか。追い越すのはまだ控えた方が良さそうだな。

『もう直ぐ、第3コーナーだよ。今、ラッキートップが内側に入って、レインボーシャトルの進路を塞いだ。そのせいで、レインボーシャトルとシルクコンバットが速度を落としている』

「追い抜くラインが見えた!」

 脳内で作った馬の位置のマッピングを参考にしていると、追い抜くラインが完成した。第3コーナーを曲がり、下り坂に差し掛かるタイミングで、ハルウララを外側に移動させる。

「アビリティ発動! 【スピードスター】!」

 アビリティを発動させるためにハルウララの体に鞭を打つ。すると、効果が発動し、ハルウララは加速した。

『先頭は依然コパノフウジンのまま、レディサバンナが半馬身差で追いかける。そしてその後をミリョクナムスメとコガネニシキが走っており、その後をラッキートップが……ここでハルウララが動いた! 外側から追い上げる! ラッキートップに並び……いや、追い越してそのままコガネニシキに追い付いた!』

 よし、ハルウララのお陰で追い抜くラインが見えた。そのお陰で順位を上げることができている。

『さっきも中山ちゃんが言っていたけど、どうする? まだサポートはいる?』

「いや、この位置からなら、前の馬たちの状況は分かる」

『コパノフウジンが先頭のまま第4コーナーを抜け、最後の直線に入った! 馬群がグッと縮まり、ラストスパートをかける! 先頭はコパノフウジンのまま! このまま逃げ切り勝利を飾るのか!』

『ヤッフー! このまま俺の逃げ切り勝ちだ! ハルウララなんかに負けたのは偶然不運に見舞われただけだ!今こそ、風水が俺の味方をしている!勝利の風が俺に吹いているぜ!』

 前方を走っているコパノフウジンが勝利を確信したのか。声を上げていた。

 しかし、俺は焦らない。だって、俺にはこの高知競馬場をどの馬よりも知り尽くしているハルウララがいるのだから。

『コパノフウジンは知らないんだ! この第4コーナーが差し馬の不利を和らげるってことを!』

『ここでハルウララが見事なコーナーリングを見せる! 速度を上げつつ走り、コガネニシキとミリョクナムスメ、そしてレディサバンナを抜いてコパノフウジンに並んだ!』

 俺たちも第4コーナを曲がって最後の直進だ。後はゴール板を目指して走り抜けるだけ。

『何故だ! どうしてお前がこの俺に追い付いてくる!』

『ふん、これだから無知は嫌だね。コースのことを全然理解していないのだから』

 驚くコパノフウジンに対してハルウララがいさめる中、俺は優勝するために鞭を上げる。

「アビリティ発動! 闘魂ちゅう――」

 任意能力アービトラリーアビリティの【闘魂注入】を発動しようとした時だ。

『ライデンリーダーが名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース11連勝の捲りザ・エンドオブアン・イレブンウイニングストリークを発動! 外から! 外から! 怒涛の追い上げを見せるライデンリーダー! 物凄い末足で、次々と前の馬たちを躱わして前に行く! あっと言う間にコパノフウジンに並んだ!』

「最後の直線はやっぱり盛り上がるな! 勝ちを確信したその時、離れた位置から優勝を掻っ攫う! 捲りこそが、一番気持ちの良いざまぁだ! このまま痺れるようなソールの叫びで、観客たちとの一体感を成そうじゃないか!」

 コパノフウジンを追い抜き、ライデンリーダーがハルウララと並ぶ。
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