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第四章
第五話 ホームグラウンドでの走り
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『ゲートが開きました。予定よりも遅い出走となったからでしょうか。バラツキのあるスタートとなりました』
ゲートが開き、俺はハルウララに走るように促す。砂のコースは芝とは違う。馬が走れば砂が舞い、騎手の視界が奪われてしまう。
なので、砂のコースは騎手全員がゴーグルを嵌め、舞い上がる砂から目を守っている。
『先行争いはなんとハルウララとコパノフウジン! そしてレディサバンナの3頭が争う形となりました。そして1馬身程離れてミリョクナムスメ、ラッキートップが追いかけ、その後をコガネニシキ、そしてその外側をレインボーシャトルが走っています。そしてその2馬身半程でしょうか。殿をシルクコンバットとオノゾミドオリ、そしてライデンリーダーが走っております』
『差しの脚質を得意とするハルウララが、まさかの先頭を奪い合う展開に持って来るとは予想外でしたが、スタットダッシュのバラツキを考えれば、こうなってしまうのでしょう』
『やった! やった! 先行争いだ! このまま先頭を奪ってやる!』
スタートダッシュにバラツキがあったお陰で、ハルウララは先行し、先頭争いに食い込めた。
だけど彼女は中断後方に控え、最後の直線で追い抜く差しの脚質が得意だ。それにアプリ上ではバットステータスが消えているとは言え、気持ち良く走らせては、後半満足してしまう可能性はあると考えた方が良い。
偶然にも先頭集団入りをすることができたが、ここは本来の脚質の走りをさせるべきだろう。
『ここでコパノフウジンとレディサバンナがハルウララを抜いた! その後もミリョクナムスメ、ラッキートップ、レインボーシャトルにも抜かれた! 先頭争いをしていたハルウララがここでペースダウンか!』
『どうして下げるのさ! せっかく先頭を走っていたのに!』
「お前の得意とする脚質は何だ? 『差し』だろう? なら、慣れない逃げをするよりも、ここは下がって後方に控えていた方が良い」
『それはそうだけど、せっかく格好良くスタートダッシュを成功させたのに、何だかもったいない』
「悪い、でも今は俺を信じてくれ」
ハルウララの言い分も分かる。せっかく先頭に立ったんだ。彼女の逃げが、どれくらい通用するものなのか試したい。
これが普通の競馬なら、脚質に適正があるのかを確認するために、負ける覚悟で逃げを採用するだろう。
でも、俺は敗北を許されない立場だ。好奇心でリスクの高いことをやるよりかは、盤石の体勢で勝利を掴む方が良いに決まっている。
現在は6位か。もう少し順位を落としても良いが、馬群に呑まれる可能性を考えると、今の順位をキープしておきたい。
ハルウララに装備しているアビリティは【登山大好きっ子】星1つ、【マイル適正】星1つ【スピードスター】星1つ【闘魂注入】星2つ【最後の踏ん張り】星2つだ。
原因不明だが、アビリティが買えなくなっているお陰で砂コース用のアビリティを買うことが出来なかった。だから新しいアビリティはない。
はっきりと言って、手持ちのアビリティでは心許ない。カードゲームで言えば、手札事故が起きている状態だ。
いや、カードゲームなら、デスティニードローができるだけマシか。ドローすら出来ない状況の中、やりくりしないといけないからな。
自動能力の【登山大好きっ子】はほとんど効果がない。そして【マイル適正】は既に発動している。【闘魂注入】や【最後の踏ん張り】はラストスパートに使う。そうなると【スピードスター】のタイミングが勝敗の分け目になりそうだな。
思考を巡らせながら考えていると、観客席側をすぎ、第1コーナーへと差し掛かる。
『先頭はコパノフウジンのまま最初のコーナーに差し掛かります』
『見た目は平面に見えるコースですが、第1コーナーから第2コーナーにかけて緩やかな上り坂になっています』
もう直ぐ第1コーナーに入る。さて、どんな風にコーナーリングをさせようか。
『帝王! ここは私に任せて!』
自分に任せるようにハルウララが言う。
今走っているコースは彼女のホームグラウンドである高知競馬場だ。このコースに関しては、ハルウララはベテランの競走馬とも言える。
「分かった。お前を信じる。好きなように走れ!」
『ありがとう! 絶対に後悔をさせないから!』
ハルウララに任せると、彼女は急なカーブを曲がる。他の馬たちは速度を落としているようだが、ハルウララだけは速度が落ちていないように感じた。
113回も、このコースを走り続けた彼女だからこそ、このコースを走るコツが身についているのだろう。
第1コーナーを曲がり、第2コーナーにかけての緩やかな坂をハルウララが走る。だが、彼女がこの坂で速度を上げることはなかった。
やっぱり自動能力の【登山大好きっ子】は不発に終わったか。仮に発動したとしても、焼け石に水程度のものだったかもしれない。
任意能力の【スピードスター】を使うか? いや、カーブでの加速は危険だ。使うなら直線か、おむすび型の第3コーナーから第4コーナーにかけての緩やかなカーブで使用した方が良い。
他の馬たちを見るに、まだアビリティらしきものを使っている騎手はいなさそうだ。みんな、使う場面は後半戦に入ってからだと判断しているのかもしれないな。
第2コーナーを曲がり、向正面を走るその時、他の騎手に動きがあった。
「任意能力発動! 【砂かけ!】」
前方を走っていたラッキートップの走者がアビリティを発動すると、ラッキートップの蹴り上げた砂が通常よりも高く舞い上がった。
目を覆っているゴーグルに砂が張り付き、視界が防がれる。
しまった! 視界が塞がれた状態では、まともに指示を出せない。でも、手綱からは手を離すことはできない。鞭を握っている状態で手綱も握っているからだ。
もし、ゴーグルに付いた砂を払い除けようとして鞭を落とすようなことになれば、アビリティも発動できない。
取り敢えずは首を左右に降り、最低限の視界を確保することはできた。
『帝王! 大丈夫!』
「視界の一部が塞がれているが、問題ない。この状況でも、お前を勝たせてやる」
彼女に心配をかけないために強がっているが、正直不安だ。
限られた視界の中で、周囲の情報を集めて、適切に判断しないといけない。
『ここで、レインボーシャトルがハルウララを抜いた! シルクコンバットとオノゾミドオリも迫って来ているぞ!』
どうする? 後方からも馬が迫って来ている。早く、限られた視界で可能な限り判断することのできる打開策を見出さなければ。
ゲートが開き、俺はハルウララに走るように促す。砂のコースは芝とは違う。馬が走れば砂が舞い、騎手の視界が奪われてしまう。
なので、砂のコースは騎手全員がゴーグルを嵌め、舞い上がる砂から目を守っている。
『先行争いはなんとハルウララとコパノフウジン! そしてレディサバンナの3頭が争う形となりました。そして1馬身程離れてミリョクナムスメ、ラッキートップが追いかけ、その後をコガネニシキ、そしてその外側をレインボーシャトルが走っています。そしてその2馬身半程でしょうか。殿をシルクコンバットとオノゾミドオリ、そしてライデンリーダーが走っております』
『差しの脚質を得意とするハルウララが、まさかの先頭を奪い合う展開に持って来るとは予想外でしたが、スタットダッシュのバラツキを考えれば、こうなってしまうのでしょう』
『やった! やった! 先行争いだ! このまま先頭を奪ってやる!』
スタートダッシュにバラツキがあったお陰で、ハルウララは先行し、先頭争いに食い込めた。
だけど彼女は中断後方に控え、最後の直線で追い抜く差しの脚質が得意だ。それにアプリ上ではバットステータスが消えているとは言え、気持ち良く走らせては、後半満足してしまう可能性はあると考えた方が良い。
偶然にも先頭集団入りをすることができたが、ここは本来の脚質の走りをさせるべきだろう。
『ここでコパノフウジンとレディサバンナがハルウララを抜いた! その後もミリョクナムスメ、ラッキートップ、レインボーシャトルにも抜かれた! 先頭争いをしていたハルウララがここでペースダウンか!』
『どうして下げるのさ! せっかく先頭を走っていたのに!』
「お前の得意とする脚質は何だ? 『差し』だろう? なら、慣れない逃げをするよりも、ここは下がって後方に控えていた方が良い」
『それはそうだけど、せっかく格好良くスタートダッシュを成功させたのに、何だかもったいない』
「悪い、でも今は俺を信じてくれ」
ハルウララの言い分も分かる。せっかく先頭に立ったんだ。彼女の逃げが、どれくらい通用するものなのか試したい。
これが普通の競馬なら、脚質に適正があるのかを確認するために、負ける覚悟で逃げを採用するだろう。
でも、俺は敗北を許されない立場だ。好奇心でリスクの高いことをやるよりかは、盤石の体勢で勝利を掴む方が良いに決まっている。
現在は6位か。もう少し順位を落としても良いが、馬群に呑まれる可能性を考えると、今の順位をキープしておきたい。
ハルウララに装備しているアビリティは【登山大好きっ子】星1つ、【マイル適正】星1つ【スピードスター】星1つ【闘魂注入】星2つ【最後の踏ん張り】星2つだ。
原因不明だが、アビリティが買えなくなっているお陰で砂コース用のアビリティを買うことが出来なかった。だから新しいアビリティはない。
はっきりと言って、手持ちのアビリティでは心許ない。カードゲームで言えば、手札事故が起きている状態だ。
いや、カードゲームなら、デスティニードローができるだけマシか。ドローすら出来ない状況の中、やりくりしないといけないからな。
自動能力の【登山大好きっ子】はほとんど効果がない。そして【マイル適正】は既に発動している。【闘魂注入】や【最後の踏ん張り】はラストスパートに使う。そうなると【スピードスター】のタイミングが勝敗の分け目になりそうだな。
思考を巡らせながら考えていると、観客席側をすぎ、第1コーナーへと差し掛かる。
『先頭はコパノフウジンのまま最初のコーナーに差し掛かります』
『見た目は平面に見えるコースですが、第1コーナーから第2コーナーにかけて緩やかな上り坂になっています』
もう直ぐ第1コーナーに入る。さて、どんな風にコーナーリングをさせようか。
『帝王! ここは私に任せて!』
自分に任せるようにハルウララが言う。
今走っているコースは彼女のホームグラウンドである高知競馬場だ。このコースに関しては、ハルウララはベテランの競走馬とも言える。
「分かった。お前を信じる。好きなように走れ!」
『ありがとう! 絶対に後悔をさせないから!』
ハルウララに任せると、彼女は急なカーブを曲がる。他の馬たちは速度を落としているようだが、ハルウララだけは速度が落ちていないように感じた。
113回も、このコースを走り続けた彼女だからこそ、このコースを走るコツが身についているのだろう。
第1コーナーを曲がり、第2コーナーにかけての緩やかな坂をハルウララが走る。だが、彼女がこの坂で速度を上げることはなかった。
やっぱり自動能力の【登山大好きっ子】は不発に終わったか。仮に発動したとしても、焼け石に水程度のものだったかもしれない。
任意能力の【スピードスター】を使うか? いや、カーブでの加速は危険だ。使うなら直線か、おむすび型の第3コーナーから第4コーナーにかけての緩やかなカーブで使用した方が良い。
他の馬たちを見るに、まだアビリティらしきものを使っている騎手はいなさそうだ。みんな、使う場面は後半戦に入ってからだと判断しているのかもしれないな。
第2コーナーを曲がり、向正面を走るその時、他の騎手に動きがあった。
「任意能力発動! 【砂かけ!】」
前方を走っていたラッキートップの走者がアビリティを発動すると、ラッキートップの蹴り上げた砂が通常よりも高く舞い上がった。
目を覆っているゴーグルに砂が張り付き、視界が防がれる。
しまった! 視界が塞がれた状態では、まともに指示を出せない。でも、手綱からは手を離すことはできない。鞭を握っている状態で手綱も握っているからだ。
もし、ゴーグルに付いた砂を払い除けようとして鞭を落とすようなことになれば、アビリティも発動できない。
取り敢えずは首を左右に降り、最低限の視界を確保することはできた。
『帝王! 大丈夫!』
「視界の一部が塞がれているが、問題ない。この状況でも、お前を勝たせてやる」
彼女に心配をかけないために強がっているが、正直不安だ。
限られた視界の中で、周囲の情報を集めて、適切に判断しないといけない。
『ここで、レインボーシャトルがハルウララを抜いた! シルクコンバットとオノゾミドオリも迫って来ているぞ!』
どうする? 後方からも馬が迫って来ている。早く、限られた視界で可能な限り判断することのできる打開策を見出さなければ。
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