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第三章

第十二話 弥生賞出走

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 レース出走の時間が迫り、俺は急いでレース会場へと向かう。そして選手控え室に入ると、解説担当の虎石が一度俺に視線を向ける。

「奇跡の名馬さんが来ましたか。後はブロンズコレクターだけですね」

 どうやら内巣自然ナイスネイチャはまだ来ていないようだ。

 しばらく待っていると扉が開かれ、茶髪の髪をマッシュヘアーにした少年が入って来る。

「いやー、お待たせしたッス。ちょっと野暮用で電話をしていたので」

「まだ時間内なので問題はないですが、早めに下見所パドックへと連れて行きましょう。皆さん、今日出走させる愛馬の顕現をお願いします」

「了解ッス! 来い! ナイスネイチャ!」

 内巣自然ナイスネイチャが声を上げると、彼の隣に馬が現れる。

 茶褐色の馬の頭には緑と赤のストライプのマスクを被っており、中央にナイスネイチャのイニシャルであるNNが載っている。そして人間で言う膝や肘の部分にあたる腕節わんせつ部分から下は黒色をしていた。

 この特徴はどこからどう見てもナイスネイチャだ。馬は落ち着きがないのか、辺りをキョロキョロと見渡している。

 画像で見た通りだ。やっぱり真名と同様にナイスネイチャで来たか。

東海帝王トウカイテイオウ、さっさとハルウララを出すッス」

 ハルウララを顕現させるように促され、俺は今回出走させる愛馬をこの場に呼び寄せる。

 俺の愛馬を見た瞬間、内巣自然ナイスネイチャは顔色を変えた。

「これはどう言うことッスか! どうしてトウカイテイオーが顕現しているッス!」

 俺のトウカイテイオーを見た瞬間、内巣自然ナイスネイチャは両手を頭の上に置いて嘆いた。

「こんなのおかしいッス! あんた、ハルウララとしか契約できていなかったはずッス」

 彼の慌てように思わず可笑しくなり、笑いが込み上げて来る。しかし、声を出して笑う訳にはいかないので、口角を上げるだけに留めた。

「お前、その情報は時代遅れだ。歴史とは、常に動き続けているものだからな。俺がトウカイテイオーと契約できていないままな訳がないだろう?」

「くそう! せっかくハルウララの対策をしてきたッスのに、意味がないじゃないッスか! 今から作戦の練り直しッス!」

 自分の立てた作戦が水泡に帰したことで、内巣自然ナイスネイチャは悔しそうに顔を歪める。

 彼の予想が外れたことで、少しは有利になっただろうか。でも、油断はできない。空いては3年連続3着になったナイスネイチャだ。馬の実力は十分にある。けして油断をして良い相手ではない。

 俺たちが愛馬を顕現させると、続いて他の騎手たちも愛馬を顕現させる。

「ナイスネイチャ、トウカイテイオー、ラシアンジュディ、タイティアラ、ナショナルフラッグ、シロキタテイオー、オースミロッチ、エリモパサー、ヤマニングローバル、カミノグレッセ、ホワイトストーン、シャコーグレイド、ツルマイナス、ハシノケンシロウ、ダイナミックバードですね。では、今から下見所パドックに連れて行きます。皆さん入って来てください」

 虎石が手を叩くと、扉が開き、厩務員きゅうむいんが入って来た。当然、今回もクロがそのメンバーの中におり、当然のように俺たちのところにやって来る。

「それじゃ、トウカイテイオーを下見所パドックに連れて行くね」

「ああ、任せた。俺も時間になったらそっちに向かう」

 クロにトウカイテイオーを預け、しばらくの間控え室で待機する。そして時間になると下見所パドックに向かい、クロにトウカイテイオーの調子を聞いてみる。

「クロ、トウカイテイオーの調子はどうだ?」

「うん、歩き方も軽やかだったし、元気良く尻尾も振っていたから、絶好調だと思うよ」

『当然だ。霊馬となっても、競走馬である以上は、最高のコンディションで挑むのが普通だからな』

 トウカイテイオーの調子が絶好調だと言うことを知り、俺は安堵した。馬の調子が悪いと、少なからずレースに影響が出るからだ。

 トウカイテイオーに騎乗をすると、俺は芝のコースへと向かって行く。すると本馬場入場の曲が耳に入って来た。

『あの皇帝の息子が霊馬となって復活だ! 3度の骨折を乗り越え、有馬の舞台で優勝したあの走りが今蘇る! 3番トウカイテイオー。騎手は2連勝中の奇跡の名馬』

 俺たちが芝のコースに入ると、実況担当の中山が愛馬の紹介を始めた。

「よし、トウカイテイオー、お前の十八番おはこを見せてやれ」

『了解した。俺のステップで観客を魅入らせてやる』

 トウカイテイオーにアレをするように告げると、愛馬は斜めを向きながら膝を高く上げ、弾むように歩き出す。

『出ました! トウカイテイオーの得意とするステップ、テイオーステップだ! まさかこの目で見る日が来るとは!』

 トウカイテイオーが軽やかにステップを踏むと、観客席ホームストレッチから歓声が上がった。

 よし、これでトウカイテイオーが絶好調であることを観客に知らせることができただろう。下見所パドックでも良い感じでアピール出来ていたみたいだし、それなりにパドックランキングでは、人気が上位に入りそうだな。

『さぁ、最後に入って来ましたのは、3年連続有馬記念で3着を取ったスーパースター! 10番、ナイスネイチャ! 前走はなんと3着と言う結果、今回も果たして3着を取ることができるのか!』

 ナイスネイチャーの入場に観客たちが賑わい、声を上げる。

「ナイスネイチャ! 今回も3着を期待しているぞ!」

「今回のレースは2着を当てるレースだ! 絶対に3着を取ってくれよ! 応援しているからな!」

「「「「「3着! 3着! 3着! 3着! 3着!」」」」」

 観客席ホームストレッチから3着コールが鳴り響く。みんな、ナイスネイチャが3着になることを望んでいるようだ!

「どうしてみんなは俺たちを3着で期待するんッスか! 前走が3着だったからッスか! 今回こそは優勝してみせるッス! 今の内にナイスネイチャを1着予想しておかないと後悔することになるッスよ!」

 観客たちから3着を期待され、それに対して内巣自然ナイスネイチャが憤慨し始めた。それもそうだろう。いくらナイスネイチャがブロンズコレクターとして名を馳せていたとしても、優勝するつもりでいるのだから。

 3着を期待する声を聞かされている彼らに対して、少しだけ憐れんでいると、内巣自然ナイスネイチャを乗せてナイスネイチャがこちらに向かって来る。

東海帝王トウカイテイオウ、観客たちはあんなことを言っているッスが、勝つのは俺たちッス。トウカイテイオー対策は、どうにか形にすることができたッス」

 ニヤリと口角を上げると、内巣自然ナイスネイチャを乗せたナイスネイチャはこの場から離れる。

 俺たちの対策をしたと言うことは、アビリティを変えてきたのだろうか? それともレース中の作戦を変えたのか?

 どっちにしても、この短時間の間に対策を講じてきたのだ。やっぱり油断ができない。

『へい、そこの彼女! 今時間ある? 俺ッチと話をしない?』

『え? 少しなら良いけれど?』

『ありがとう! その前髪、キュートだね。それにお尻の側面の臀端でんたんも良い感じに膨らんで肉付きが良いし、その下の大腿や下腿の筋肉も素晴らしいよ! 生前相当トレーニングをしていたんじゃないの?』

『ありがとう。そうなのよ。やっぱり競走馬として生まれて来た以上、肢体はしっかりと鍛えないとね。お尻ではなく、臀端でんたんを褒めるなんて、ポイント高いわよ』

『尻を褒めるとか、それって変態の言うことじゃないか。俺ッチはそこまでスケベじゃないって。そうだ! 今日あったのも何かの縁だし、良かったら、レースの後に一緒に干草を食べに行かない? 穴場のスポットを偶然見つけてさ。その場所で見る風景を楽しみながら、食べる干草は格別に美味いんだ。君のような美しい牝馬ひんばと食べれば、美味しさも2倍、3倍となると思うんだ』

『えー、どうしようかな? 一応、霊馬だけど、私、生前交配しているし、子どももいるし』

 ナイスネイチャに対して覚悟を決めていると、やつは牝馬に近付き、ナンパを始めていた。

 あいつ、こんな時でもナンパかよ。さすが29歳差で恋愛を成立させたプレイボーイだ。

 確か今ナイスネイチャが声をかけているのは、ラシアンジュディとか言う牝馬ひんばだったか。

 レース前にも関わらず、平然とナンパをするナイスネイチャを放って置いて、俺たちはひとまず先にポケットへと向かう。

 屋根の付いている建物の向かっていると、急にトウカイテイオーが足を止めた。

「どうかしたか?」

『いや、どこからか視線を向けられているんだ。このレースに出走している競走馬からの視線と言うことだけは分かっているが、どの馬からの視線なのかは分からない』

 視線を向けられていると言われ、俺はナイスネイチャを見た。彼は今もラシアンジュディに話しかけているので、ナイスネイチャからのものではない。

なら、彼の言う馬の視線はどこから? もしかしたら、今回の出走馬の中に、トウカイテイオーと因縁のある馬でもいるのか?

「とにかく、今はポケットの中に入ろう」

ポケットの中に入る様に促し、手綱を操作してトウカイテイオーを移動させる。

 ポケットに入り、中をぐるぐると回って、本馬場入場で昂ったトウカイテイオーを落ち着かせると、ナイスネイチャもポケットに入って来た。

『そこの彼女! 今時間ある? レース前に少しだけお話ししない?』

 またナイスネイチャがナンパを始めやがった。内巣自然ナイスネイチャのやつは注意しないのかよ。

 ナイスネイチャを注意するように内巣自然ナイスネイチャにアイコンタクトを送る。しかし、彼は俺の訴えを無視して、愛馬の好きなようにさせていた。

 まぁ、良い。少し騒がしいが、俺が集中すれば良いだけの話だ。

 精神を集中させ、ナイスネイチャの言葉をなるべくシャットアウトさせていると、出走時刻となったようだ。ポケットからトウカイテイオーを出すと、芝のコースへと戻り、ゲート前で待機する。

 すると、今度は整馬係ゲート係となったクロが俺のところに来た。

『それでは、ファンファーレの時間となりました。演奏してくださるのは、吹奏楽部の皆さんです』

 ファンファーレの時間となったことを告げると、待機していた吹奏楽部の生徒が楽器を構え、合図と共に演奏を始める。

『ファーン、ファファーン、ファファファーン! ダダダダーン! ファファファファーン! ダダダダーン! ファファファファーン! ダダダ・ダアーン! ダン! ファ・ファ・ファ・ファ・ファ・ファーン! タタタターン、ファ・ファ・ファ・ファ・ファ・ファーン! ファファファファーン!』

「やっぱりファンファーレって良いね! この曲を聞くと、今からレースが始まるんだって気分になって、テンションが上がる!」

「そうだな」

 彼女の言葉に返事をすると、俺たちがゲート入りをする番となり、クロに誘導されながらゲート入りを完了する。

『それでは、全ての馬がゲート入りを終えるまでの間、こちらのコーナーといきましょう! 中山と!』

『トラちゃんの!』

『『馬券対決!』』

『それでは、まずは私から、今回の出走馬を見る限り、1着と3着は恐らく着順は決まったものだと思ったので、3連単にしました。1着トウカイテイオー、2着ダイナミックバード、3着ナイスネイチャです。3連単とは1着から3着まで全てが的中すれば払戻金が発生します。では、トラちゃんの予想はどうですか?』

『はい、私も同じく3連単です。ただ、2着の予想はヤマニングローバルにしています』

『トラちゃん、ありがとうございます。さて、恐らく多くの方が3連単で馬券を買っているかもしれませんが、如何でしょうか。皆さんのビックな夢を背負って、15頭の馬が走ります』

 馬券対決のコーナーが終わったところで、全ての馬がゲート入りを果たした。

『全ての馬がゲート入りを終えました。まもなく、弥生賞の始まりです』

 実況担当の中山が言葉を言い終えた瞬間、ゲートが開いた。





今回のオッズ

人気順               倍率
トウカイテイオー          2.1倍
オースミロッチ           2.8倍
ナイスネイチャ           3.3倍
カミノグレッセ           8.2倍
ヤマニングローバル         12.6倍
ナショナルフラッグ         24.5倍
シャコーグレイド          32.3倍
ツルマイナス            33.8倍
エリモパサー            40.2倍
タイティアラ            42.5倍
ダイナミックバード         83.8倍
ホワイトストーン          102.5倍
ハシケンシロウ           132.6倍
シロキタテイオー          156.4倍
ラシアンジュディ          158.8倍










最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回ファンファーレを取り入れましたが、作者が音痴なので、再現するのはこれが限界です。雰囲気だけでも伝われば幸いです。
誰か正しい中山レース場のファンファーレの書き方を教えて!

中山競馬場のファンファーレに興味のある方は、YouTubeなどで検索してみてください。
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