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第三章

第八話 触媒召喚

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 明日屯麻茶无アストンマーチャンが裏技を使ってみてはと提案をしてきたので、この場にどよめきが起きる。

 霊馬召喚システムにそんな抜け道があったのか。

「一応確認しておきたいのだけど、裏技と言いつつ、オカルトなんてものじゃないでしょうね?」

「あ、競走馬のマチカネフクキタルの人形やオモチャを所持しながら、霊馬召喚をすると望んだ馬と契約ができるとか、霊が降臨しやすい時間帯で召喚すると成功するとかがあったね」

 明日屯麻茶无アストンマーチャンの裏技に対して、大和鮮赤ダイワスカーレットが訝しみ、オカルトにも詳しいクロが知識を披露する。

「そんなオカルトがあったのですねぇ。うーん、まぁ、オカルトと言えばオカルトなのかもしれませんがぁ、私の言う裏技は信憑性が高いですぅ。まぁ、信じるかどうかはその人次第なのですけれどねぇ」

 確かに裏技とオカルトは紙一重かもしれない。要は成功するかどうかだ。

「とにかく、その裏技と言うのを話してくれないか?」

 彼女の提案する裏技が何なのか知りたかった俺は、明日屯麻茶无アストンマーチャンに開示するように促す。

「それはですねぇ。触媒を使った触媒召喚なのですぅ。霊馬召喚システムは、縁と縁を繋いで霊馬をこの世に具現化させるシステムなのでぇ、より縁のある物を捧げることで、その縁を強固なものにするのですぅ。具体的には、霊馬召喚システムの魔法陣の中央に、召喚したい馬に関連した蹄鉄や優勝レイ、身に付けていた物などを置き、召喚しますぅ」

 裏技の方法と手順を聞き、確かにこれなら、オカルトよりも可能性は高いと思った。

 因みに優勝レイとは、競走馬がレースで優勝したときに、背中にかける布の装飾のことだ。

 生前の馬たちが身に付けていた物なら、縁は深いだろう。でも、それは現段階では無理だ。

「確かに、その方法なら可能性は高いわ。でも、それには触媒となる物が必要よ。蹄鉄にしろ、優勝レイにしろ、簡単には手に入らないわ。もし、見つかったとしても、取引は高額なものになる。今からの入手はほぼ不可能よ」

 大和鮮赤ダイワスカーレットが俺の心の中で思ったことを代弁してくれた。彼女の言う通り、触媒召喚に使われるものはどれも入手し辛く、高額で取引されている。

「まぁ、大和鮮赤ダイワスカーレットさんが言うのも間違ってはいません。ですがぁ、それはこの場にない場合の話ですぅ。これ、何でしょう?」

 明日屯麻茶无アストンマーチャンが懐から何かを取り出した。

 それはUの形をしているが、馬の蹄を守る蹄鉄だった。

「「「蹄鉄!」」」

 俺たちは揃えて声を上げる。

 すると、俺たちの表情を見た明日屯麻茶无アストンマーチャンが、悪戯に成功した子どものように、ニヤリと笑みを浮かべる。

「そうですぅ。蹄鉄ですぅ。しかもぉ、奇跡の名馬さんがぁ、喉から手が出るほど欲しいトウカイテイオーの蹄鉄ですよぉ」

「トウカイテイオーの蹄鉄! 明日屯麻茶无アストンマーチャン、それをどうして持っている!」

「私って、二つ名が学園のアイドルじゃないですかぁ? だからぁ、ファンが多いのですよねぇ、ファンの子たちにお願いしたらぁ、血眼になって探してくださいましたぁ。お金もその人が払って、私にプレゼントしてくれたのですよぉ」

 入手経路を離すと、明日屯麻茶无アストンマーチャンは俺にトウカイテイオーの蹄鉄を渡す。

「こちらを差し上げますぅ。必要ですよねぇ」

「あ、ありがとう」

 思いがけないプレゼントに、驚きと困惑で頭の中が整理できていない中、蹄鉄を受け取る。

「怪しいわね。彼に恩を売って、後で何をさせる気よ」

 あまりにも俺にメリットがありすぎる展開となり、大和鮮赤ダイワスカーレットが訝しんでくる。

「恩を売るなんて人聞きが悪いですぅ。私は恩を返しただけですよぉ? アストンマーチャンと再会させてくださったお礼ですぅ」

「お礼って言っても、差がありすぎるわよ!」

「そうだよ! 帝王に何かさせるって言うのなら、私がその蹄鉄を買い取らせてもらうから、だから金額を教えて」

 どうやら2人は完全に信用していないようだ。でも、確かに差がありすぎる。

 馬がこの世からいなくなり、蹄鉄だけでも現代では高額だ。しかもトウカイテイーとくれば、額が違う。

「いや、だって。アストンマーチャンの再召喚は金が要らなかったじゃないか」

「私もポイントは1ポイントも使っていませんよぉ?」

「それは、お前の代わりにファンの子が出したからだろう!」

 このままでは、色々な意味でまずいな。時間は刻一刻と過ぎているし、トウカイテイオーを召喚できるのであれば、早々に召喚しておきたい。

「そうですねぇ、なら、奇跡の名馬さんには小さいお願いを何度か叶えてもらうと言うのはどうでしょうか? 別に奇跡の名馬さんに交際と言う意味でのお付き合いを申し込むようなことはしませんので。これならぁ、大和鮮赤ダイワスカーレットさんもぉ、隣にいるえーと、クロさんでしたかぁ? あなたも納得できるかと」

 明日屯麻茶无アストンマーチャンの提案に、彼女たちはぶつぶつと独り言を始める。声が小さかったので、俺には聞こえてはいないが、雰囲気で葛藤しているように見えた。

「まぁ、小さいお願いなら、変なことにはならないでしょう」

「まぁ、流石に小さいお願いくらいなら」

「では、決まりですねぇ。ではぁ、奇跡の名馬さん、私の頭を撫でてください」

「頭を撫でる?」

「はい。競争中に落馬した際に、手を握って助けてくれたじゃないですかぁ。あの時感じたあなたの手はとても暖かくってぇ、大好きだったお爺ちゃんの温もりを感じたのですぅ」

 明日屯麻茶无アストンマーチャンが頭を撫でてもらいたい理由を語るが、まぁ、それくらいお安い御用だ。

 彼女の頭に手を乗せ、優しい手付きで頭を撫でる。すると、祖父から撫でてもらった頃の記憶が蘇っているのか、明日屯麻茶无アストンマーチャンは気持ちよさそうな笑みを浮かべながら目を細めていた。

「ありがとうございますぅ。もう大丈夫ですぅ」

 それからしばらく頭を撫でていると、満足したようで、これ以上は必要ないと言われたので手を離す。

「それではぁ、霊馬召喚を行いに行きましょうかぁ。丸善好マルゼンスキー学園長には許可を貰っていますぅ。今頃待っているかと思いますよぉ」

「マジか。それは段取りが良くって助かった。急ごう」

 俺たちは急いで霊馬召喚ができる教室へと向かう。

 それにしても、どうして俺がトウカイテイオーを召喚していないことを知っていたのだろうか?

 謎ではあるが、もしかしたら彼女なりに恩を返そうと思って、俺のことを調べていたのかもしれないな。
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