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第三章
第七話 帝王、暴露される
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実況担当の中山の進行により、トイレに向かった虎石を待つことなく抽選が始まった。
タブレットの画面には、スロットのように文字が次々と入れ替わり、競馬場、レース名、距離、右か左か、芝か砂か、天候、馬場状態が決まっていく。
「出ました! 中山競馬場! 弥生賞! 2000メートル! 右回り! 芝! 天候は曇り! 馬場状態は稍重!」
レースの抽選結果の画面を見た俺は、驚愕してしまった。
ちゅ、中距離が来てしまった!
なんてことだ。いずれこんな日が来ると覚悟はしていたが、早すぎる。これは完全に詰みだ。ハルウララでは、100パーセント勝てない。
「やったッス! 得意の中距離ッスよ!」
俺とは正反対に、得意なレースで走れることになったことが嬉しいようで、内巣自然はその場で軽く跳躍する。そして俺の方を見るとこちらに指を向け、ニヤリと口角を上げた。
「このレース、俺が貰ったッス! 東海帝王なのにハルウララとしか契約できていないのにも関わらず、複数契約者だと嘘を吐いていた罰が当たったッスね」
内巣自然の言葉を聞き、俺は一歩後退する。
こいつ、平然と俺が嘘を吐いていたことを暴露しやがって。
「それじゃ、俺はここら辺で失礼するッス。G IIレースではあるので、ナイスネイチャのデメリットステータスは発動しないだろうし、優勝を目指すッス」
踵を返して俺に背を向けると、内巣自然はこの場から立ち去った。
「ねぇ、どう言うことなのよ、あいつの言っていたことは本当なの? あなたは複数契約者ではなくって、ハルウララとしか契約していないって」
背後から大和鮮赤が話しかけ、振り返る。彼女は若干顔を俯かせているせいか、暗い表情をしているようにも見えた。
「えーと、それはだな」
どう言い訳をしようかと悩んでいると、大和鮮赤が少し顔を上げる。彼女は怒っているようで、目を吊り上げていた。そして右手を振り上げる。
あ、これは彼女から殴られるパターンだ。まぁ、嘘を吐いていたし、当然の報いか。
ビンタを受ける覚悟を決めたその瞬間、大和鮮赤の振り上げた手が俺に向かってきた。
「やめて!」
だが、俺が予想していた展開とは裏腹に、クロが間に入って大和鮮赤の手首を握る。
彼女の行動のお陰で叩かれずに済んだが、なんとも言えない気持ちになった。
「どうして止めるのよ! こいつはあたしを騙していたのよ! さっきだって、あたしはこいつの言葉を信じて協力してあげていたのに、あたしの気持ちを踏みにじった!」
大和鮮赤の目尻からは涙が流れる。彼女の流した涙を目撃した瞬間、胸が痛くなった。
「叩くなら、私を叩いて! 彼に偽るように言ったのは私だから、あなたを傷付けたと言うのであれば、私を叩きなさい!」
クロが大和鮮赤に訴える。
だが、俺は彼女から偽るようには言われていない。真名のことを知ってから、俺なりに考えてこの決断をしたのだ。
クロは昔から、お姉さんぶって俺を助けてくれた。今回も俺を助けようとしているに違いない。
「えーと、とにかく抽選は終わりました。3時間後に開始しますので、遅れずに来てください」
この場の空気に耐えかねてか、中山が逃げるように言葉を吐き捨て、そそくさと離れて行く。
そんな中、俺は思考を巡らして自問自答を繰り返していた。
クロのお陰で大和鮮赤から叩かれずに済んだ。そして彼女は俺に変わって罪を被ってくれようとしている。でも、これで良いのか? 俺は彼女に守られてばかりで。
自分の罪と向き合わずに、逃げてばかりの人生、そんなものは楽しい訳がない。
そうだ。こうなってしまった現状を作ったのは俺自身だ。クロも、そして大和鮮赤も悪くはない。悪いのは、俺だ。
「クロ、庇ってくれるのはありがたいが、お前が変わりに罪を被ろうとしないでくれ。悪いのは、嘘を吐き続けた俺にあるんだ」
「帝王、でも」
「お祭り娘、早くその手を退かしてよ。あたしはあいつに1発叩き込まないと気がすまないのよ」
「クロ、俺の頼みを聞いてくれ。じゃないと、俺はお前のことを嫌いになりそうだ」
俺は今の本心を告げる。すると、クロは掴んでいた大和鮮赤の手を離し、俺たちから距離を取る。
「覚悟はできているようね」
「ああ、どんと来い! 俺は男だ。女に守られるようでは男として情けない」
覚悟を決め、歯を食い縛る。
「は~い。そこまでにしましょうかぁ。廊下での揉め事は、他の生徒さんたちに迷惑ですよぉ」
もう一度大和鮮赤が右手を後に下げてビンタの体勢に入ったその時、第三者の声が聞こえてきた。
つい、声が聞こえた方に顔を向けると、茶髪の髪をモテの王道であるクラシカルストレートにした、クリッとした可愛らしい目の女の子がこちらに向かって歩いて来る。
「明日屯麻茶无」
「そうですぅ。学園のアイドルこと明日屯麻茶无ですよぉ。話は聞かせてもらいましたぁ。確かに嘘を吐かれるのは嫌ですよねぇ、しかもそれが信頼していた相手だと尚更ですぅ。でも、いくら感情的になったとしてもぉ、暴力はいけないですよぉ?」
通常モードの彼女は、レースの時とは違い、間延びした口調で話しかけてくる。
「そこで、私に考えがあるのですよぉ。嘘を真実に変えてみてはどうでしょうか?」
「嘘を真実に? いったいどうやって?」
明日屯麻茶无の言っている意味や方法が分からず、彼女に訊ねる。
「簡単ですよぉ。トウカイテイオーを再召喚させるのですぅ。そうすれば、帝王さんは正真正銘の複数契約者となることができますぅ」
トウカイテイオーの再召喚を提案され、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
確かに彼女の言う通り、再召喚をすれば、ワンチャン呼び声に答えてくれるかもしれない。だけど、それは確率的には低い。
一度失敗していると言うことは、その時点で縁がなかったと言うことになる。一度失っている縁を再び手繰り寄せるのは、ほぼ不可能だろう。
「きっとトウカイテイオーにも事情があったのですよぉ。呼び声に応えたくても応えられない何かが。だって、同じ名前の縁は、通常召喚よりも成功率が高いのですぅ。きっと何か事情があったに決まっていますぅ」
「でも、1回目の召喚に比べ、2回目の再召喚は失敗する可能性が高くなる。いくら名の縁があったとしても」
「うふふ、それが出来ちゃう裏技が存在するのですよぉ。それを使えば、きっとトウカイテイオーを召喚することができますぅ」
トウカイテイオーを召喚することができる裏技。その言葉を聞いて更に鼓動が早くなる。
霊馬召喚システムに、そんなものがあったのか。
タブレットの画面には、スロットのように文字が次々と入れ替わり、競馬場、レース名、距離、右か左か、芝か砂か、天候、馬場状態が決まっていく。
「出ました! 中山競馬場! 弥生賞! 2000メートル! 右回り! 芝! 天候は曇り! 馬場状態は稍重!」
レースの抽選結果の画面を見た俺は、驚愕してしまった。
ちゅ、中距離が来てしまった!
なんてことだ。いずれこんな日が来ると覚悟はしていたが、早すぎる。これは完全に詰みだ。ハルウララでは、100パーセント勝てない。
「やったッス! 得意の中距離ッスよ!」
俺とは正反対に、得意なレースで走れることになったことが嬉しいようで、内巣自然はその場で軽く跳躍する。そして俺の方を見るとこちらに指を向け、ニヤリと口角を上げた。
「このレース、俺が貰ったッス! 東海帝王なのにハルウララとしか契約できていないのにも関わらず、複数契約者だと嘘を吐いていた罰が当たったッスね」
内巣自然の言葉を聞き、俺は一歩後退する。
こいつ、平然と俺が嘘を吐いていたことを暴露しやがって。
「それじゃ、俺はここら辺で失礼するッス。G IIレースではあるので、ナイスネイチャのデメリットステータスは発動しないだろうし、優勝を目指すッス」
踵を返して俺に背を向けると、内巣自然はこの場から立ち去った。
「ねぇ、どう言うことなのよ、あいつの言っていたことは本当なの? あなたは複数契約者ではなくって、ハルウララとしか契約していないって」
背後から大和鮮赤が話しかけ、振り返る。彼女は若干顔を俯かせているせいか、暗い表情をしているようにも見えた。
「えーと、それはだな」
どう言い訳をしようかと悩んでいると、大和鮮赤が少し顔を上げる。彼女は怒っているようで、目を吊り上げていた。そして右手を振り上げる。
あ、これは彼女から殴られるパターンだ。まぁ、嘘を吐いていたし、当然の報いか。
ビンタを受ける覚悟を決めたその瞬間、大和鮮赤の振り上げた手が俺に向かってきた。
「やめて!」
だが、俺が予想していた展開とは裏腹に、クロが間に入って大和鮮赤の手首を握る。
彼女の行動のお陰で叩かれずに済んだが、なんとも言えない気持ちになった。
「どうして止めるのよ! こいつはあたしを騙していたのよ! さっきだって、あたしはこいつの言葉を信じて協力してあげていたのに、あたしの気持ちを踏みにじった!」
大和鮮赤の目尻からは涙が流れる。彼女の流した涙を目撃した瞬間、胸が痛くなった。
「叩くなら、私を叩いて! 彼に偽るように言ったのは私だから、あなたを傷付けたと言うのであれば、私を叩きなさい!」
クロが大和鮮赤に訴える。
だが、俺は彼女から偽るようには言われていない。真名のことを知ってから、俺なりに考えてこの決断をしたのだ。
クロは昔から、お姉さんぶって俺を助けてくれた。今回も俺を助けようとしているに違いない。
「えーと、とにかく抽選は終わりました。3時間後に開始しますので、遅れずに来てください」
この場の空気に耐えかねてか、中山が逃げるように言葉を吐き捨て、そそくさと離れて行く。
そんな中、俺は思考を巡らして自問自答を繰り返していた。
クロのお陰で大和鮮赤から叩かれずに済んだ。そして彼女は俺に変わって罪を被ってくれようとしている。でも、これで良いのか? 俺は彼女に守られてばかりで。
自分の罪と向き合わずに、逃げてばかりの人生、そんなものは楽しい訳がない。
そうだ。こうなってしまった現状を作ったのは俺自身だ。クロも、そして大和鮮赤も悪くはない。悪いのは、俺だ。
「クロ、庇ってくれるのはありがたいが、お前が変わりに罪を被ろうとしないでくれ。悪いのは、嘘を吐き続けた俺にあるんだ」
「帝王、でも」
「お祭り娘、早くその手を退かしてよ。あたしはあいつに1発叩き込まないと気がすまないのよ」
「クロ、俺の頼みを聞いてくれ。じゃないと、俺はお前のことを嫌いになりそうだ」
俺は今の本心を告げる。すると、クロは掴んでいた大和鮮赤の手を離し、俺たちから距離を取る。
「覚悟はできているようね」
「ああ、どんと来い! 俺は男だ。女に守られるようでは男として情けない」
覚悟を決め、歯を食い縛る。
「は~い。そこまでにしましょうかぁ。廊下での揉め事は、他の生徒さんたちに迷惑ですよぉ」
もう一度大和鮮赤が右手を後に下げてビンタの体勢に入ったその時、第三者の声が聞こえてきた。
つい、声が聞こえた方に顔を向けると、茶髪の髪をモテの王道であるクラシカルストレートにした、クリッとした可愛らしい目の女の子がこちらに向かって歩いて来る。
「明日屯麻茶无」
「そうですぅ。学園のアイドルこと明日屯麻茶无ですよぉ。話は聞かせてもらいましたぁ。確かに嘘を吐かれるのは嫌ですよねぇ、しかもそれが信頼していた相手だと尚更ですぅ。でも、いくら感情的になったとしてもぉ、暴力はいけないですよぉ?」
通常モードの彼女は、レースの時とは違い、間延びした口調で話しかけてくる。
「そこで、私に考えがあるのですよぉ。嘘を真実に変えてみてはどうでしょうか?」
「嘘を真実に? いったいどうやって?」
明日屯麻茶无の言っている意味や方法が分からず、彼女に訊ねる。
「簡単ですよぉ。トウカイテイオーを再召喚させるのですぅ。そうすれば、帝王さんは正真正銘の複数契約者となることができますぅ」
トウカイテイオーの再召喚を提案され、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
確かに彼女の言う通り、再召喚をすれば、ワンチャン呼び声に答えてくれるかもしれない。だけど、それは確率的には低い。
一度失敗していると言うことは、その時点で縁がなかったと言うことになる。一度失っている縁を再び手繰り寄せるのは、ほぼ不可能だろう。
「きっとトウカイテイオーにも事情があったのですよぉ。呼び声に応えたくても応えられない何かが。だって、同じ名前の縁は、通常召喚よりも成功率が高いのですぅ。きっと何か事情があったに決まっていますぅ」
「でも、1回目の召喚に比べ、2回目の再召喚は失敗する可能性が高くなる。いくら名の縁があったとしても」
「うふふ、それが出来ちゃう裏技が存在するのですよぉ。それを使えば、きっとトウカイテイオーを召喚することができますぅ」
トウカイテイオーを召喚することができる裏技。その言葉を聞いて更に鼓動が早くなる。
霊馬召喚システムに、そんなものがあったのか。
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