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第三章
第六話 ナイスネイチャンじゃないッス!
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~東海帝王視点~
親父との約束をしたその日の翌日、俺は相手の要求を呑むことをクロたちに伝えた。
「あなたバカなの?」
「そうだよ! いったいどうしちゃったの? 帝王まで頭のネジが取れてしまったの?」
事実を告げた瞬間、大和鮮赤とクロから罵倒する言葉を投げかけられる。すると、ヌイグルミ状態のハルウララが俺から飛び降り、床を見渡す。
「おい、何をしているんだ?」
『帝王の頭のネジを探しているんだよ。早く見つけないと、バカが加速してしまう!』
「バカはお前だよ、クロの言っていることを本気にしやがって」
ハルウララの突拍子もない行動に呆れつつも、俺は彼女たちに視線を戻す。
「安心しろ。俺は真っ向勝負をしたいだけだ」
「真っ向勝負って、俄かには信じられないわね。もしかして新堀学園長から脅されたりしているんじゃないでしょうね」
「脅されっているって……でも、確かにあの人ならやりかねない。あんな条件を出してくる以上、どんな手を使ってでも、帝王を連れ戻そうとするだろうし。ねぇ、帝王、何かあったのなら話してよ。私たちの間で隠し事はなしだよ」
大和鮮赤に続き、クロまでもが怪しんできた。
大和鮮赤のやつ、察しが良すぎるだろう。困ったな。どうしようか。
思考を巡らせていると、あるアイディアが思い付く。
一か八かだが、賭けてみるか。
「そんな訳がないだろう。俺は本当に真っ向勝負をするつもりだ。まぁ、大和鮮赤には教えても良いかな」
俺は手招きをして大和鮮赤を近付けさせると、クロに背を向ける。
「え、ええ? ちょっと! 帝王! どうして大和鮮赤だけなの! 私にも教えてよ!」
仲間外れにされたクロが驚きと困惑が入り混じったような口調で言葉を放つも、彼女の声を無視して大和鮮赤にだけ小声で話す。
「俺は複数契約者だぜ。それに俺の真名を知っているのであれば、切り札も分かるだろう? 真っ向勝負をすることは可能だ」
「それはそうだけど、でも、普通に考えて全てのレースで1着を取り続けるのは厳しいわよ。実際にトウカイテイオーは、天皇賞・春にメジロマックイーンに敗れて無敗の夢を断たれた。もし、アストンマーチャンの時のようなことが起きれば、天皇賞・春=敗北に繋がる可能性だってありえるのよ」
大和鮮赤が冷静に語って来る。少し厳しめな口調の中にも、彼女なりの優しさが感じとられた。
「大丈夫だ。だって、俺はあの伝説の負け馬、ハルウララを2連勝させた実力を持っているんだ。絶対に勝つ。だから、クロには変な心配をさせないように、お前から上手い具合に説明してやってくれないか?」
これまでの実績があるから安心するように言うと、彼女は小さく息を吐く。
「分かったわよ。今回はあなたを信じてあげるわ。でも、何かあれば言いなさいよ。相談にも乗ってあげるし、手伝える範囲であれば、協力もしてあげるから」
「ありがとう。恩に着る」
大和鮮赤を納得させたことに安堵する。彼女の話術なら、クロも納得してくれるだろう。
俺がハルウララとしか契約をしていないことは、大和鮮赤は知らない。だからそこを突いて嘘を言えば、信じ込ませることができると思ったが、上手く言って何よりだ。
話が終わったところで、大和鮮赤はクロのところに向かい、ヒソヒソ話を始める。
「うーん、帝王がそう言うのなら、信じるしかないね。でも、何かあったら相談してよね。私、力になれることがあれば、協力するから」
クロからも同じことを言われ、言葉が胸に突き刺さる。
彼女たちを騙していることには気が引けてしまうが、みんなを守るために必要な嘘だ。
「ああ、何かあればその時は話す。だから、今は俺を信じてくれないか」
彼女たちに変な気遣いをさせないためにも、気丈に振る舞う。すると、廊下の奥から茶髪の髪をマッシュヘアーにしている男子生徒がこちらに向かって来た。
彼は俺と目が合うと、こちらに駆け寄って来る。
「奇跡の名馬、見つけたッス!」
どうやら彼は、俺に用があるようだ。
「俺に何か用か?」
「俺の二つ名はブロンズコレクターッス! 俺が霊馬学園に編入するための生贄となってもらうッス!」
「霊馬学園に編入……ってことは」
「察しが良いッスね。その通りッスよ。俺はあんたを倒して霊馬学園に編入するために送られた刺客ッス!」
親父が送って来た刺客だと知り、身構える。
週末に行われるG Iレース前に、刺客を送り込んで来るとは思ってもいなかった。
こいつは先ほどブロンズコレクターと言ったよな。てことは、こいつの真名ってもしかして。
『ブロンズコレクターってG Iレースで3着が多い馬に与えられる称号だよね! 私、その馬知っているよ! 有名だもの! えーと、確か名前は、ナイスネイチャン!』
「ナイスネイチャッス! ナイスネイチャンだったら、良いお姉さんって意味になるッスよ! ナイスネイチャは牡馬ッス!」
ハルウララのボケに対して、愛馬はナイスネイチャと暴露した男はツッコミを入れる。すると、彼は我に返ったようで、両手を頭に置いた。
「しまったッス! つい、ボケに反応して真名まで明かしてしまったッス! 何をやっているッスか! 俺は!」
男子生徒が嘆くと、そこにハルウララが近付く。
『まぁ、元気を出してよ。人間、生きて居れば失敗もするし、恥を掻く時もあるよ。恥の分だけ人は成長するのだから、堂々と恥を掻いていこう』
「余計なお世話ッス! くそう! こうなったら、お前たちをレースで恥掻かせてやるッス!」
男はタブレットを操作すると、俺のタブレットが振動を始める。
胸ポケットからタブレットを取り出すと、レースの申請があることを告げる画面が表示され、カウントダウンが始まった。
「俺、内巣自然は、東海帝王に勝負を挑ませてもらうッス」
内巣自然の言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
こいつ、俺の真名を知っていやがるのか。いや、そもそも親父の送った刺客だ。親父から俺の真名を聞かされていてもおかしくはない。つまり、こいつは俺がハルウララとしか契約ができていないことも知っているはず。
「早く承認してくださいッス。ハルウララとの契約で、拒否ができないことは知っているッスから」
早く承認のボタンを押すように促され、俺は言われたままに承認のボタンを押した。
「ど……どう……い……くぁん……が……あ、ありました」
レースを受け入れる意思表示をタブレットにした後、いつものように実況担当の中山と、解説担当の虎石がやって来る。
しかし虎石はなぜかモジモジとしており、落ち着きがない様子だ。
「おい、大丈夫か? もしかして具合が悪いのか?」
「いえ、トラちゃんはトイレを我慢しているだけですよ。トイレに入った瞬間に同意があったので、引き返して来ました」
心配になって訊ねてみると、中山が彼女の状態を説明してくれた。
いや、トイレに行きたいのならそのまま行けば良いだろう。何引き返して来ているんだよ。
「根性……根性……大……丈夫……まだ我慢はできる」
ポツリと言葉を漏らす虎石ではあるが、あんな状態でいられたら、俺たちの方が申し訳ない気持ちになってしまう。
「トイレに行きたいのなら行って来い。待っていてやるから」
「そうッス。こんなところで漏らされても困るッス。だから、トイレに行って来て良いッスよ。俺たち戻って来るまで待っているッス」
「本当に……待っていて……くれますか?」
「ああ」
「絶対に、絶対にですよ。勝手に始めないでくださいね」
「良いから、早く行け。漏らしても良いのか」
「分かりました。5分だけ待っていてください。直ぐに戻りますので」
少しだけ待つように言うと、虎石は早歩きでトイレへと向かって行く。
「それでは、トラちゃんがトイレに言ったことですし、早速抽選へと参りましょう。参加者はお手持ちのタブレットにご注目ください」
「いや、何を言っているんだよ。待つって言ったじゃないか。虎石からも念を押されただろう?」
「あれは芸人のギャグみたいなものです。押すな押すなと言ってはいても、本当は押してもらうことを期待しているのです。だからレースの抽選を始めます。トラちゃんはツンデレさんなのです」
微妙に違うようなことを言っているような気がするが、抽選が始まってしまっては、俺たちにはどうすることもできない。
俺の周りにクロと大和鮮赤が集まる。
さて、今回はどんなレース内容になるのだろうか。また短距離やマイルであってほしい。
親父との約束をしたその日の翌日、俺は相手の要求を呑むことをクロたちに伝えた。
「あなたバカなの?」
「そうだよ! いったいどうしちゃったの? 帝王まで頭のネジが取れてしまったの?」
事実を告げた瞬間、大和鮮赤とクロから罵倒する言葉を投げかけられる。すると、ヌイグルミ状態のハルウララが俺から飛び降り、床を見渡す。
「おい、何をしているんだ?」
『帝王の頭のネジを探しているんだよ。早く見つけないと、バカが加速してしまう!』
「バカはお前だよ、クロの言っていることを本気にしやがって」
ハルウララの突拍子もない行動に呆れつつも、俺は彼女たちに視線を戻す。
「安心しろ。俺は真っ向勝負をしたいだけだ」
「真っ向勝負って、俄かには信じられないわね。もしかして新堀学園長から脅されたりしているんじゃないでしょうね」
「脅されっているって……でも、確かにあの人ならやりかねない。あんな条件を出してくる以上、どんな手を使ってでも、帝王を連れ戻そうとするだろうし。ねぇ、帝王、何かあったのなら話してよ。私たちの間で隠し事はなしだよ」
大和鮮赤に続き、クロまでもが怪しんできた。
大和鮮赤のやつ、察しが良すぎるだろう。困ったな。どうしようか。
思考を巡らせていると、あるアイディアが思い付く。
一か八かだが、賭けてみるか。
「そんな訳がないだろう。俺は本当に真っ向勝負をするつもりだ。まぁ、大和鮮赤には教えても良いかな」
俺は手招きをして大和鮮赤を近付けさせると、クロに背を向ける。
「え、ええ? ちょっと! 帝王! どうして大和鮮赤だけなの! 私にも教えてよ!」
仲間外れにされたクロが驚きと困惑が入り混じったような口調で言葉を放つも、彼女の声を無視して大和鮮赤にだけ小声で話す。
「俺は複数契約者だぜ。それに俺の真名を知っているのであれば、切り札も分かるだろう? 真っ向勝負をすることは可能だ」
「それはそうだけど、でも、普通に考えて全てのレースで1着を取り続けるのは厳しいわよ。実際にトウカイテイオーは、天皇賞・春にメジロマックイーンに敗れて無敗の夢を断たれた。もし、アストンマーチャンの時のようなことが起きれば、天皇賞・春=敗北に繋がる可能性だってありえるのよ」
大和鮮赤が冷静に語って来る。少し厳しめな口調の中にも、彼女なりの優しさが感じとられた。
「大丈夫だ。だって、俺はあの伝説の負け馬、ハルウララを2連勝させた実力を持っているんだ。絶対に勝つ。だから、クロには変な心配をさせないように、お前から上手い具合に説明してやってくれないか?」
これまでの実績があるから安心するように言うと、彼女は小さく息を吐く。
「分かったわよ。今回はあなたを信じてあげるわ。でも、何かあれば言いなさいよ。相談にも乗ってあげるし、手伝える範囲であれば、協力もしてあげるから」
「ありがとう。恩に着る」
大和鮮赤を納得させたことに安堵する。彼女の話術なら、クロも納得してくれるだろう。
俺がハルウララとしか契約をしていないことは、大和鮮赤は知らない。だからそこを突いて嘘を言えば、信じ込ませることができると思ったが、上手く言って何よりだ。
話が終わったところで、大和鮮赤はクロのところに向かい、ヒソヒソ話を始める。
「うーん、帝王がそう言うのなら、信じるしかないね。でも、何かあったら相談してよね。私、力になれることがあれば、協力するから」
クロからも同じことを言われ、言葉が胸に突き刺さる。
彼女たちを騙していることには気が引けてしまうが、みんなを守るために必要な嘘だ。
「ああ、何かあればその時は話す。だから、今は俺を信じてくれないか」
彼女たちに変な気遣いをさせないためにも、気丈に振る舞う。すると、廊下の奥から茶髪の髪をマッシュヘアーにしている男子生徒がこちらに向かって来た。
彼は俺と目が合うと、こちらに駆け寄って来る。
「奇跡の名馬、見つけたッス!」
どうやら彼は、俺に用があるようだ。
「俺に何か用か?」
「俺の二つ名はブロンズコレクターッス! 俺が霊馬学園に編入するための生贄となってもらうッス!」
「霊馬学園に編入……ってことは」
「察しが良いッスね。その通りッスよ。俺はあんたを倒して霊馬学園に編入するために送られた刺客ッス!」
親父が送って来た刺客だと知り、身構える。
週末に行われるG Iレース前に、刺客を送り込んで来るとは思ってもいなかった。
こいつは先ほどブロンズコレクターと言ったよな。てことは、こいつの真名ってもしかして。
『ブロンズコレクターってG Iレースで3着が多い馬に与えられる称号だよね! 私、その馬知っているよ! 有名だもの! えーと、確か名前は、ナイスネイチャン!』
「ナイスネイチャッス! ナイスネイチャンだったら、良いお姉さんって意味になるッスよ! ナイスネイチャは牡馬ッス!」
ハルウララのボケに対して、愛馬はナイスネイチャと暴露した男はツッコミを入れる。すると、彼は我に返ったようで、両手を頭に置いた。
「しまったッス! つい、ボケに反応して真名まで明かしてしまったッス! 何をやっているッスか! 俺は!」
男子生徒が嘆くと、そこにハルウララが近付く。
『まぁ、元気を出してよ。人間、生きて居れば失敗もするし、恥を掻く時もあるよ。恥の分だけ人は成長するのだから、堂々と恥を掻いていこう』
「余計なお世話ッス! くそう! こうなったら、お前たちをレースで恥掻かせてやるッス!」
男はタブレットを操作すると、俺のタブレットが振動を始める。
胸ポケットからタブレットを取り出すと、レースの申請があることを告げる画面が表示され、カウントダウンが始まった。
「俺、内巣自然は、東海帝王に勝負を挑ませてもらうッス」
内巣自然の言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
こいつ、俺の真名を知っていやがるのか。いや、そもそも親父の送った刺客だ。親父から俺の真名を聞かされていてもおかしくはない。つまり、こいつは俺がハルウララとしか契約ができていないことも知っているはず。
「早く承認してくださいッス。ハルウララとの契約で、拒否ができないことは知っているッスから」
早く承認のボタンを押すように促され、俺は言われたままに承認のボタンを押した。
「ど……どう……い……くぁん……が……あ、ありました」
レースを受け入れる意思表示をタブレットにした後、いつものように実況担当の中山と、解説担当の虎石がやって来る。
しかし虎石はなぜかモジモジとしており、落ち着きがない様子だ。
「おい、大丈夫か? もしかして具合が悪いのか?」
「いえ、トラちゃんはトイレを我慢しているだけですよ。トイレに入った瞬間に同意があったので、引き返して来ました」
心配になって訊ねてみると、中山が彼女の状態を説明してくれた。
いや、トイレに行きたいのならそのまま行けば良いだろう。何引き返して来ているんだよ。
「根性……根性……大……丈夫……まだ我慢はできる」
ポツリと言葉を漏らす虎石ではあるが、あんな状態でいられたら、俺たちの方が申し訳ない気持ちになってしまう。
「トイレに行きたいのなら行って来い。待っていてやるから」
「そうッス。こんなところで漏らされても困るッス。だから、トイレに行って来て良いッスよ。俺たち戻って来るまで待っているッス」
「本当に……待っていて……くれますか?」
「ああ」
「絶対に、絶対にですよ。勝手に始めないでくださいね」
「良いから、早く行け。漏らしても良いのか」
「分かりました。5分だけ待っていてください。直ぐに戻りますので」
少しだけ待つように言うと、虎石は早歩きでトイレへと向かって行く。
「それでは、トラちゃんがトイレに言ったことですし、早速抽選へと参りましょう。参加者はお手持ちのタブレットにご注目ください」
「いや、何を言っているんだよ。待つって言ったじゃないか。虎石からも念を押されただろう?」
「あれは芸人のギャグみたいなものです。押すな押すなと言ってはいても、本当は押してもらうことを期待しているのです。だからレースの抽選を始めます。トラちゃんはツンデレさんなのです」
微妙に違うようなことを言っているような気がするが、抽選が始まってしまっては、俺たちにはどうすることもできない。
俺の周りにクロと大和鮮赤が集まる。
さて、今回はどんなレース内容になるのだろうか。また短距離やマイルであってほしい。
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