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第三章

第五話 これで交渉成立だ

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  ~新堀シンボリ学園長視点~

「さて、そろそろかな」

 ワシは自分の自室にある椅子に座りながら、その時が来るのを待っていた。

 ポツリと言葉を漏らしたその数秒後、デバイスに振動があり、画面を除くと義理の息子である東海帝王トウカイテイオウの名前が表示されていた。

 それを見たワシはニヤリと口角を上げる。

 応答のボタンを押すと、空中ディスプレイが現れ、画面には義理の息子が映り出す。しかし彼の顔色はあまり良くはなさそうだった。

 彼はワシのことを睨んでいたが、画面越しではこれっぽっちも怖くはない。

 どうやら、あの憎たらしいハルウララヌイグルミも側にはいないようだ。

『親父、勝負の条件だが、呑んでやる。だけど、約束は守れよ』

「ああ、もちろんだとも。ワシとの勝負の条件を承諾してくれれば、トレイセント学園や学園に暮らす学生たちには危害を加えぬ。男同士の約束だ。もし、破ったその時は、皇帝の契約者として恥じぬ死に様を見せてやろう」

『言質取ったからな。もし、約束を破ったその時は、俺がアンタを殺す』

 最後のセリフを聞いた後、空中ディスプレイが消える。どうやらあいつの方から通話を終わらせたようだ。

「ククク、アーハハハハ! これでワシの完全勝利だ! ハルウララしか居ない今の帝王なら、その内レースに負ける。そうなれば、ワシのところに戻って客寄せパンダとして可愛がってやろうではないか。これで来年の寄付も約束されたもの。再び贅沢な暮らしができると言うものだ」

 本当に今日は気分が良い。ドンペリでも飲むとするか。

 棚から1本のボトルを取り出す。このドンペリは、ドン・ペリニヨンエノテーク、別名ドンペリブラックと呼ばれ、大変希少で高価な酒だ。1本17万はする酒ではあるが、寄付金のお陰で好きなだけ高い酒が飲める。

 キャップのシールを剥がし、中にあるコルクを開けると、グラスに注ぎ込む。

 そして匂いを楽しみつつ口に含むと、口の中で泡が踊り、鼻から樽の匂いが抜けていく。

「あー、美味い! さすが何十年と熟成をした酒だ」

 空っぽになったグラスを一度テーブルの上に置き、タブレットを取り出す。そしてとある人物に通話をかけると、応答してくれたようで、空中ディスプレイが表示された。

 そこには茶髪のマッシュヘアーの少年が映り出される。

『オイッス! ブロンズコレクターッス! オッサン久しぶりッス! 今日は何の様っスか?』

 馴れ馴れしく語りかけてくる少年だが、別にそんなことは気にしてはいない。何せ、今日は高級な酒を飲んで気分が良いからだ。

「ブロンズコレクター、お前に頼みがある。もし、ワシの願いを叶えることができたら、霊馬学園の生徒として編入させてやろうではないか」

 空いたグラスに酒を注ぎながら用件を伝えると、少年の目が輝き始める。

『それは本当ッスか! 何ッスか? 俺にできることなら、何でもするッス!』

「ほう、何でもと来たか。それは頼もしいな。お前に頼みたいこと、それは、東海帝王トウカイテイオウを倒して欲しいのだ」

『へー、トウカイテオウを倒すッスか。うん? トウカイテイオー?』

 ワシの言葉を反芻していたブロンズコレクターであったが、頭に疑問符が思い浮かんだように小首を傾げる。そして一気に顔色を悪くすると、首を左右に降った。

『ムリ、ムリ、ムリッス! だって俺、ブロンズコレクターッスよ? 俺の契約している愛馬では、絶対にトウカイテイオーを倒すことはムリッス! 恥を掻くだけじゃないッスか』

 ブロンズコレクターは承諾しかねる理由を語る。

 どうやらこいつは勘違いをしているようだな。

「ワシが言っているのは東海帝王トウカイテイオウだ」

『だから、トウカイテイオーはムリって言っているじゃないッスか。俺の愛馬が、生前勝てなかった実力を持っているんッスよ!』

 ダメだこいつ。完全にワシの言う東海帝王トウカイテイオウとトウカイテイオーを勘違いしている。

「ワシが言っているのは、騎手の方だ。ワシの義理の息子の東海帝王トウカイテイオウのことを言っている! ハルウララの騎手である奇跡の名馬、そいつの真名が東海帝王トウカイテイオウだ」

『ハルウララを2連勝させたと噂のあの奇跡の名馬……その真名が東海帝王トウカイテイオウだったのッスか』

「ああ、そしてあやつはハルウララとしか契約をしていない。つまり、中距離戦のレースで挑めば、間違いなくお前は勝つことができる」

 ワシの説明を聞いたブロンズコレクターは胸の前で腕を組み、思案顔を作り出した。

『なるほど、あの男はハルウララとしか契約していないんッスか。それなら俺でも勝ち目はあるッスね。分かったッス! でも、レースはランダムッスよ。俺の愛馬は短距離、マイルは苦手ッス。もし、そっちになれば、いくら適性を上げても、騎手としての力量の違いから負けると思うッス』

 心配そうにするブロンズコレクターにワシはため息を吐く。

 今から負けることを考えてどうするんだ。

「安心しろ。手は打ってある。お前が東海帝王トウカイテイオウにレースを挑む時には、必ず得意な中距離戦となることを約束しよう」

『そうッスか。なら、一か八か挑戦してみるッス。でも、約束は守ってくださいッスよ。俺がハルウララに勝った時には、霊馬学園に編入させてくださいッス』

「分かっている。もし、お前が東海帝王トウカイテイオウを倒した暁には、ブロンズコレクターを我が生徒として迎え入れよう」

『分かったッス! ブロンズコレクター、東海帝王トウカイテイオウを倒して来るッス!』

 ブロンズコレクターの方から通話を切ったようで、空中ディスプレイが消える。

「さて、これで盤面は整った。ハルウララでは絶対にブロンズコレクターの愛馬には勝てないだろう。今からあいつの負けるレースを見るのが楽しみだ。ククク、アーハハハハ!」
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