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第三章

第四話 敗北は転校を意味する

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 親父と言い合いをしていると、そこに1人の人物が現れた。

 茶髪の髪をゆるふわ縦ロールにしており、女性にしては背も高く、そして出るところは出て、引っ込むべき場所は引っ込んでいる素晴らしいプロポーションの持ち主だ。

丸善好マルゼンスキー学園長」

「全く、わたくしが直々に迎えに行くと言ったのに、どうして先走ってしまうのかな? 君は! お陰で授業の妨げになったし、教室の空気も変になってしまったじゃないのよ」

 丸善好マルゼンスキー学園長が親しげに親父に話しかけてくる。

 2人は知り合いなのだろうか? まぁ、お互いに学園の経営者だ。顔見知りではあるだろう。

丸善好マルゼンスキー学園長は引っ込んでもらおうか。これは親子の問題だ」

「そう言う訳にはいかないのよ。まったく、あなたって本当に昔から自分勝手よね。学園内での揉め事は勘弁してほしいのよ。話を纏めると、あなたは父親として義理の息子を迎えに来た。でも、奇跡の名馬君はこの学園に残りたい。それもそうよね。こんな仏頂面のオッサンよりも、わたくしのようなボン、キュッ、ボンのお姉さんが経営する学園に通いたいもの」

 丸善好マルゼンスキー学園長は、何故か自分のスタイルの良さを自慢するかのような格好を取る。すると、ほぼ全ての生徒が彼女を見た。

 おそらく男子生徒は、彼女の胸や尻にスケベな視線を送り、女子生徒は自分の劣っている部分を比較しながら、嫉妬の視線を送っているように感じ取れた。

「あら? そんなに見つめられると、お姉さん恥ずかしいわ」

「ふん、何がお姉さんだ。若作りのババァが若い子振りやがって」

 親父が丸善好マルゼンスキー学園長に対して悪態を付いた瞬間、彼女は足を振り上げ、親父の又の間へと入れる。

「それ以上、乙女の禁句を言うのであれば、今度は完全に当てるわよ。今回だけは忠告として寸止めにしてあげる」

 丸善好マルゼンスキー学園長の行動を見て、殆どの男子生徒が己の股間に手を当て、まるで自分も受けたかのように顔を引き攣る。

 俺も股間を抑えることはなかったが、冷や汗を掻いてしまった。

「そのまま蹴り上げられないのが、お前の甘さだ」

 まるで何事もなかったかのように口を開く親父だったが、膝がガクガクと振れている。

 口では強がって見せているが、実際は怖かったのだろう。

 股間を蹴られた時の痛みは尋常じゃないからな。

「そのまま蹴り上げても良かったのだけど、わたくしの足が汚れてしまうから、やめてあげたのよ。勘違いしないでほしいわね。とにかく話を戻すけれど、互いに譲れないのであれば、互いに勝負をして決着を付ければ良くない。負けた方は勝った方の指示に従うってことで。それなら、恨みっこなしでしょう?」

 確かに、丸善好マルゼンスキー学園長の言う通りだ。ここで言い合いをしても、平行線のままだ。なら、互いが納得する形で決着を付ける方がベストだろうな。

「俺はそれで良い」

「帝王がそれで良いのであれば、その提案に乗ろうではないか。では、勝負方法の詳細は、また後で丸善好マルゼンスキー学園長に連絡を入れる。今日のところはこの辺りにしよう。ではな、帝王、来年はワシのところに戻って来るのだ。年末までに、転校の準備をしておくように」

 捨て台詞を吐くと、親父は教室から出て行く。

 だが、俺は義父の言葉に疑問を抱いた。

 来年ってどう言う意味だよ。今すぐに連れて帰りたかったんじゃないのかよ。






 親父が教室に乱入して来た翌日、移動教室のためにクロと大和鮮赤ダイワスカーレットと一緒に廊下を歩いていると、前方に丸善好マルゼンスキー学園長の姿を見かける。

 彼女は俺と目が合うと、早歩きをしながらこちらに向かって来た。

「奇跡の名馬君、ちょうど良かったわ。今、昨日のバカ……あなたのお父様から連絡が来て、勝負の内容が送られて来たわ。はっきり言って、この勝負は受けなくて良いわよ。頭のネジが飛んでいるとしか思えない内容だから」

 前置きを聞かされ、いったいどんな勝負を持ちかけて来たのだろうかと思ってしまった。頭のネジが飛んでいると言う表現から、普通の人間では考えつかないような滅茶苦茶な勝負なのだろうな。

「今から、あの人のメッセージを見せるわね」

 丸善好マルゼンスキー学園長が懐からタブレットを取り出して操作をすると、空中ディスプレイが表示され、親父の姿が映り出される。

『よぉ、昨日のレースのことだが、今年はトレイセント学園がG Iレースを開催する学園と言うこともある。なので、勝負の内容は年末に行われるG Iレースの有馬記念で、ワシと勝負だ』

 年末に行われる有馬記念のレース、それが親父との直接勝負だと知らされ、軽く拳を握る。

 今のところは普通だ。でも、これのどこが頭のネジが飛んでいるのだろうか?

『ただし、年末まで勝負をお預けにしてあげた分、こちらの有利になる条件を出させてもらう。G I、G II、G III、オープン特別を含む全てのレースで、お前が一度でも敗北をした場合、年末の有馬記念に関係なく、ワシの学園に転入してもらう。こちらからは以上だ』

 最後のセリフを聞き、なるほどなと思った。

 確かにこれは頭のネジが飛んでいるとしか思えない。親父と勝負するまでに、1回でも敗北をしたのであれば、転校させられるなんて、常識のある人間では出ない発想だ。

「何よこれ、本当に意味が分からないじゃない。全てのレースに勝ち続けるなんて不可能よ」

 親父のメッセージを見た大和鮮赤ダイワスカーレットが語気を強めて言葉を放つ。

 それもそうだ。

 親父の提案を受け入れれば、俺は確実に転校をすることになる。

 競馬と言うのは、1着を取った馬だけが勝者となる。掲示板入り5着以内で入賞したとしても敗者扱い。黒星だ。

 親父の提案を受ければ、俺は敗北をしてはならず、常に1着を取り続けなければならない。

 今のところはハルウララで2連勝してはいるが、これから先はハルウララで1着を取り続けるのは100パーセント不可能だ。

 その理由としては、ハルウララの適性にある。

 ハルウララは基本的にダートの短距離が得意で、良くてマイルが限界だ。これまで走ってこられたのは、芝の適性を上げるアビリティのお陰なのだ。

 現在、芝適性星2が3個、登山大好きっ子星1が1個、スピードスターが1個の状態で登録してある。

 仮に芝のレースで中距離を走ることになった場合、適性を上げるアビリティーを全て外した状態では、芝と中距離はともにGだ。そして適性を上げるには、その適性に適したアビティーを装備させる必要がある。

 適性をGからFに1段階上げるのには、星がひとつ必要だ。そしてまともにレースを行うには、最低Aにまで引き上げる必要がある。Aにするには、星の数が6個必要だ。

 仮に芝の適性星3が2個あったとして、残りの3つのアビリティのうち、2つの枠を中距離適性星3にしたとしても、空いている枠はひとつしかない。たった1個のアビリティだけで勝てるほど、中距離や長距離戦は甘くはないのだ。

 負け馬として名を馳せているハルウララは特に影響が大きい。

 これらの理由により、いくらアビリティで誤魔化したとしても、レースで1着を取るのは不可能だ。

「帝……奇跡の名馬、どうするの?」

「こんなの受け入れる訳がないじゃないか。断固として反対だ」

 拒否をすると決断したその時、タブレットに振動が起き、メッセージが送られたことに気付く。

 俺はトイレに行くと言って、個室に入り、メッセージを確認した。

「なんだって!」





お知らせ

明日屯麻茶无アストンマーチャンのレギュラー入りが決まりました。本来はサブレギュラーとしてたまに出すつもりでしたが、読者様のレギュラー入りを望む声がありましたので、作者の脳内会議の結果、彼女をレギュラーメンバーに昇格することになりました。

なので、今までの明日屯麻茶无アストンマーチャンの口調とは少し違う感じで再登場をすることになります。

もし、今後登場するキャラクターたちの中で、気に入った! もっと出番を増やして欲しい! と感じたキャラなどがいましたら、お気軽にコメントしていただけると嬉しいです。
確実に昇格させる約束はできませんが、できる限り、読者の皆様のお声を反映させていきたいと思います。

長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今後も宜しくお願いします。
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