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最終章

第十五話 自称魔王は倒せない?

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 シュヴァルツの犠牲活躍により、巨大な魔物と化した男への道が切り開かれた。

 しかし、次々と出現する魔物たちによりその道も消え始め、俺とプリパラは急いでやつのもとへと向かう。

「シュバルツ! 大丈夫か!」

「い……いつものことだ。これが俺たち兄妹のスキンシップ……あとのことは任せた」

 親指を突き上げ、グッドラックのサインを出すと、彼は目を閉じて動かなくなる。胸が僅かに上下に動いていることから、どうやら気絶しているようだ。

「シュバルツ、お前の犠牲は無駄にしない」

 彼に言葉を投げかけ、巨大な魔物と化した男の前に辿り着く。

『ここまで良く来たな。だが、お前たちもここまでだ。アリが人間に勝てないように、巨大化した私には絶対に勝つことはできない』

 禍々しいオーラを放ちながら言葉を放ってくる巨大な魔物と化した男が、俺たちを見下ろす。

「アリが人間に勝てないのなら、俺は蚊になってやろう。知っているか? 転生者が居た世界では、人間を一番殺しているのは蚊なんだぜ」

『この状況でも皮肉を言えるとはそこだけは称賛してやろう。だが、お前が蚊になると言うのであれば、叩き潰すまでだ!』

 声を上げながら、巨大な魔物と化した男が太い拳を叩き付けてくる。

 後方に下がり、巨大な拳を躱すが、拳が地面を砕き、その破片が石礫となって追撃してくる。

「グラビティプラス!」

 重力を操る魔法を放ち、飛んでくる石礫を叩き落とす。

『俺はこの世界に新たに誕生した魔王だ! 魔王は世界の絶対的な強者である!』

「自称魔王とか可哀想だな。みんなが認めてくれないから、自分で自称するしかないとはな。真の魔王ではないから、お前の攻撃なんて全然怖くないぜ」

 魔王と名乗る男に悪態を吐く。

 正直に言ってギリギリだ。少しでも気を抜くとやつの攻撃が直撃して戦闘不能に追いやられるかもしれない。だが、ここで少しでも弱気を見せればやつが有利な状況であることを悟らせてしまう。

 俺が強気の姿勢を見せることで、互いの力は互角であると誤認させる。

 やつに勝つには、まず心理戦に勝たなければならない。

「魔王を名乗るのであれば、まずは我を倒すことだな。アイシクル」

 プリパラが魔法を放つと、巨大な氷柱が現れ、自称魔王に突き刺さる。

『グアアアアアアアアアァァァァァァァァ』

 流石に真の魔王の攻撃は利いたようだ。自称魔王は声を上げ、苦痛に顔を歪ませる。

『痛い。痛い。だが、ただ痛いだけだな。私を倒すには至らないダメージだ』

 肉体に突き刺さった氷柱を引き抜くと、やつはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 あいつはどうしてあんなに余裕なんだ? いくらダメージが少なくとも、攻撃を受け続ければいずれ倒れることになることくらい分かっているはずだ。

 自分が倒れる前に決着が付くと思っているのか?

『そうだ。特別に、文字通りに出血大サービスといこうじゃないか。1分間だけ好きなだけ攻撃していいぞ。俺はここから一歩も動かない』

 突然のサンドバック宣言に俺の脳は理解ができなくなった。

 こいつは何を言っているんだ。何か裏があると言うのは明白だ。だが、その裏が読めない。

 攻撃を受けても1分間は耐えられる自信があるのだろうか? いや、それだけではないような気がする。

 下手に攻撃するのは下策かもしれない。

「ほう、好きなだけ攻撃をして良いか。なら、遠慮なく攻撃をしてくれよう。今の言葉後悔させてくれる!」

「待て! やつに攻撃をするな! プリパラ!」

「デスボール! アイシクル! エアカッター! ストロングウインド! ライトニング! ダークネス!」

 俺の制止を聞くことなく、プリパラは自称魔王に攻撃を仕掛ける。

『グアアアアアアアアアァァァァァァ!』

 様々な攻撃を食らい、やつはボロボロになっていく。皮膚は焼け爛れ、切り傷からは出血し、腕も吹き飛んで風穴が開いている箇所もあった。

 どこからどう見ても瀕死だ。

『ネイチャーヒーリング!』

 自称魔王が魔法名らしきものを呟いた瞬間、やつの体に変化が生じる。まるで時が巻き戻ったかのように、次々と傷は癒え、失った腕も元通りの状態となった。

『ガハハハハハ! どうだ! これが回復魔法の力だ!』

「回復魔法だって!」

 俺は思わず声を上げる。

 回復魔法は、異世界の転生者が魔王プリパラを倒した際にこの世界から消えたと言われる伝説の魔法だ。

 そんな魔法を、どうしてやつが使える。

「そうか。どことなく見覚えがあると思っておったが、お前、我を倒した転生者の仲間の子孫だな」

『そうだ! 私のご先祖様は、魔族でありながら転生者に協力していたお方だ! そして回復魔法はこの世から消えたと言うが、あれは真実を隠すための嘘だ。転生者の仲間だけは、回復魔法を子孫に伝えてある』

 なるほど、だから転生者の仲間の子孫であるあいつは回復魔法が使えたのか。

 それなら、あの自信も納得がいく。だが、これで一気に不利になった。

 瀕死になっても元に戻る力を持つ自称魔王と回復魔法が使えない俺たちとでは、持久戦になれななるほど、勝率が下がってしまう。

『さぁ、気が済むまで攻撃をするが良い。まぁ、俺が死ぬよりも先に、お前たちの魔力が空になる方が先だろうがな。ガハハハハハ!』

 くそう。いったいどうすれば。

「シャカール君!」

 クリープの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

「これを受け取ってください!」

 彼女はアイテムボックスのポーチから筒状の物体を投げ付けた。

「中に入っている紙を読んでください」

 投げられた筒の蓋を外し、中に入っている紙を読む。

 これは! もし、ここに書かれてあることが事実だった場合、回復魔法は万能ではない。回復魔法は、時には体を蝕む毒にもなる。

「ママは転生者の仲間も子孫です。その証拠をお見せします! ネイチャーヒーリング!」

 クリープが魔法名を言った瞬間、俺の体の傷が次々と癒えていく。

「ダメージを受けた場合はママがサポートします。なので、シャカール君は全力で戦ってください」

「分かった。サポートは任せた!」
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