薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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最終章

第十話 魔王杯出走

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「久しぶりだな。シャカール。さぁ、世界の運命を賭けた魔王杯を始めようではないか」

 魔王プリパラが近づき、声をかけてきた。彼女は魔族の王らしく、堂々とした佇まいでこちらを見ている。

「久しぶりだな。悪いが、魔王であるお前に負ける訳にはいかない。俺たちが勝つことを望んでいる奴らがいる。あいつらの思いに応えるためにも、今回のレースは俺たちが勝たせてもらう」

 魔王プリパラから視線を外し、観客席に視線を向ける。そこには、シュバルツやマーヤの両親など、過去に俺が出会い、そして縁が結ばれた人々が居た。

「そうか。だが、我も理想とする世界に作り直すためにも、全力で勝ちに行かせてもらう。お互いに悔いの残らないレースにしようではないか」

 魔王プリパラが手を差し伸べ、俺も手を出して彼女と握手を交わす。

 根は良い奴なのだろうが、それでも魔王だ。油断はできない。そもそも、俺たちが不利になるギミックを用意している段階で、スポーツマンシップにのっといてはいない。

「さて、そろそろ時間じゃな。我は先にゲートに入っておく。作戦会議をするなら今の内じゃぞ」

「そうかよ。でも安心しろ。作戦は事前に決まっておるから」

 余計なお世話だと言うことを告げ、俺もゲートの中に入って行く。

『さぁ、全ての走者がゲート入りを果たし、我々の運命を賭けた最大級のレース、魔王杯が始まります……今、ゲートが開きました。各走者、一斉にスタートです』

 ゲートが開き、俺たちは一斉に走り出す。

『スタートダッシュに成功し、先頭に立ったのは魔王プリパラ、続いてウイニングライブ、タマモ、その後方にサザナミ、右側を走りましてマーヤ。その左側をサイレントキルとカルディア、そしてルビー、彼女の後をガロンが走る。そしてキリングとクリープが後に控えその外を走りましてナナミ、そして内を走りますコールドシーフ。その横をロバートが続いて行く。そしてその後方にブリーザ、そしてシャンデリアン。更に1メートル後方にアイリンとシャカールの順番となっています』

「シャカールトレーナー!」

「アイリン、作戦通り頼むぞ」

「はい!」

 走りながらアイリンが俺のところに近づくと、道を塞ぐようにして前に走り始めた。

 今回のレースは、普段のレースとは違ってチーム戦だ。つまり、仲間同士の協力が要求される。

 俺は勇者役として、最後は魔王プリパラとの一騎打ちと言うことになるだろうと想定された。彼女と最後まで勝負するには、最大限の体力を温存しておく必要がある。

 そこでアイリンが提案してきたのが、自身の体を使っての風除け作戦だ。

 走ると当然風の抵抗を受け、余計な体力を消耗する。

 最後まで走りきる自身のないアイリンが、せめて俺の風除けの壁となってサポートをしたいと言い出した時には悩んだものだが、最終的には彼女の意思を尊重する形となった。

 普段よりも若干走りやすい。やっぱり体力の温存にはスリップストリーム走行が使えるな。

『さぁ、各走者、最初のギミックに到達しました。最初のギミックはランダムで選ばれた走者の足元が全て芝から砂に変わるギミックです。適性のない走者はここで一気に速度低下となるでしょう』

 実況の説明が終わると、足を置いた瞬間に芝が砂に変わり、足が離れると再び芝に戻る。

 なるほど、こんな感じのギミックなのか。でも、このギミックは想定のうちだ。

 俺たちは体力作りと言う名目で砂のコースを走っている。俺たち全員には砂の適性が上がっているので、殆ど効果はない。

 選ばれたのは、俺たちのチーム全員以外にも、魔王軍にはウイニングライブとキリング、それにロバートとの足元にギミックが発生している。

 だが、あいつらの走る速度は殆ど変わることはなかった。

 なるほどな。俺たち全員が集中的にギミックを受けていては怪しまれる。だから魔王軍にも数名が選ばれるようになってはいるが、全員が砂の適性持ちとなっていると言う訳か。

『各走者、順位が殆ど変わらない状況の中、難なくギミックエリアを突破しております』

『まぁ、このギミックは前菜のようなものですからね。難なくクリアしても問題はないでしょう』

 最初のギミックは難なく突破することができたな。だが、これも奴らにとっては想定内だと思っていた方が良いだろう。

「アイリン、まだいけそうか」

「はい。これくらいならまだまだ体力は残っています。あ! シャカールトレーナー! 頭を下げてください!」

 頭を下げるように言われ、戸惑いながらも彼女の指示に従う。すると、頭上に何かが通り過ぎたような音が聞こえた。

「チッ、躱されたか。あんな詰まらないギミックでは満足できないだろう? 次のギミックまで、アタシの用意したギミックに付き合ってくれよ。それ、トリモチ弾!」

 前方からコールドシーフの声が聞こえてくる。

 そう言えば、こいつはそんなやつだったな。

 少しだけ体をずらし、前方を見る。すると、コールドシーフが自分よりも後を走っている走者に向けて黒い弾丸を飛ばしていた。

 しかもその弾は、足場に接触すると同時に弾け、内部に入っていたと思われる白い物体が飛び散った。

「シャカールトレーナー! 大変ですよ! あれはトリモチと言って、触れると簡単には外れません。靴に触れたのなら、靴を捨てないといけませんし、勝負服に着いたら服を脱がないといけなくなりますよ!」

 アイリンがトリモチに付いて語ってくる。

 あんな物に触れたら、相当な時間ロスになってしまうな。しかも身に付けている物を捨てないといけないとは、ある意味変態行為とも捉えることができる。だが、これは逆に利用しようと思えばできそうだな。

「シャカールトレーナー! 前方がトリモチで塞がれてしまいました。わたしたちの跳躍力では、飛び越えることはできそうにないですよ」

 アイリンの言う通り、俺たちの前にはトリモチが敷き詰められているかのように塞いでいる。

 普通にジャンプしても、乗り越えることはできないだろう。

「アイリン、少しの間我慢してくれ。ウイング!」

 飛行の魔法を使い、背中に翼を出現させる。その瞬間、アイリンをお姫様抱っこすると、そのままトリモチの上を通り抜け、コールドシーフに近づく。

「トリモチを使って動きを封じた上に衣服を脱がせようとするなんて。お前って意外とスケベだな」

「はぁ? ス、スケベじゃないし! 何を言っているんだよ!」

 俺の挑発を受け、顔を真っ赤にしたコールドシーフは、言い訳を言いつつ腕を振り回す。その際にトリガーに触れてしまったようで、トリモチ弾が発射された。

「うおっ危ない!」

「バカ! 何をやっているんだ! 俺たちは味方だろうが!」

 羞恥心に見舞われたコールドシーフは、周囲が見えていないようで、仲間に向けて打ち始めた。

 これで、こいつらは少しでも足止めができるな。今の内に順位を上げておくか。

 アイリンを芝の上に立たせ、再度走りを再開する。

「シャカールトレーナー、いきなりお姫様抱っこをしたら驚くじゃないですか! 事前に言ってくださいよ」

「すまない。でも、これで先に進められたのだから良いじゃないか」

 若干顔を赤らめつつも文句を言ってくる中、俺たちは次のギミックに向かって行く。

 さて、次のギミックは何だ?

「マッスルキック!」

 聞き覚えのある声と共に殺気を感じた俺は、再びアイリンを抱き寄せて後方に跳躍する。

「まさか、あんたが邪魔をして来るとは思わなかった。ギミックのひとつとして捉えて良いのか? マッスル先生?」

「マッスルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!」
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