薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十三章

第二十三話 ニホンカップの決着

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 ギミックの隙を付き、どうにか最終ギミックを突破した俺は、ゴールに向けて全力で走る。だが、俺が天照大神アマテラスオオミカミやヒノカグツチの相手をしている間に、ルビーが先にギミックエリアから抜け出していた。

 彼女との差は約5メートル。普通に考えれば慣れない芝のコースである以上、勝てないだろう。

 大半の人がそう思っているに違いない。だけど、俺は勝利への種を既に蒔いている。そしてその種が芽を出し始めている。

『先頭はルビー走者、5メートル差でシャカール走者ですが、これは厳しい』

 実況者の声が耳に入る。みんな俺の勝利は厳しいと思っているだろう。では、そろそろ俺の本気の走りを見せるとするか。

 足が地面に付いた瞬間、芝を踏んだ際の地面の沈み具合を確かめる。

 この沈み具合、間違いない。俺が最高のパフォーマンスができる環境が整った。

『最後の直線、先頭はルビー走者のままだ。シャカール走者、万事休すか! いや、ここでシャカール走者が意地を見せた! 5メートル差が3メートル、2メートルまで縮める!』

「そんなバカな! 和の国の芝に適応したと言うのですか!」

 俺の接近に気付いたようで、ルビーが声を上げる。

「芝に適応? そんな訳がないだろう。レース中に環境に適応するなんてほぼ不可能だ。それは限られた天才にしかできない。俺は凡才だからな、環境に適応できなかった。なら、どうして今の俺が俊足系の魔法を使用しないで、ここまでのスピードで走れるか分かるか?」

 彼女に質問しながら更に距離を詰め、並走する。

「俺がこのレースで勝つための方法を、お前自身が語ってくれていたじゃないか」

「私自身が……あなたが勝つための方法を教えた……まさか!」

 どうやらルビーも気づいたようだな。なら、答え合わせと言う名の種明かしといこうじゃないか。

「そう、答えは上空にある空だ。今も降り注いでいるこの雨が、俺に力を与えている!」

 ルビーはレース出走前に言っていた。

《でしょうね。雨が降って芝が水分を含めば、あなたがこれまで走った芝のコースとさほど変わらないでしょうが、今日の天気は晴れ、雨が降る可能性も低いです。なので、あなたは今回のレースでは勝つことができないでしょうね》

 だから俺は、さっきの神々のギミックで雨を降らせた。熱対策と見せかけ、本当の狙いを隠すために。

「だから高熱の火球に対して、意味のない雨を降らせたと言う訳ですか。先の展開を考えて先手を打つ。その頭の回転には称賛致します。ですが、勝つのは私です。スピードスター!」

 自身に俊足の魔法を発動し、ルビーは俺から距離を離す。

『追い付いたシャカール走者ですが、ここでまた引き離されてしまった! 再び3メートル程の差が開く! まもなく、ルビー走者は魔法禁止エリアに突入する! シャカール走者が妨害しようにも、間に合わない!』

 ルビーが魔法禁止エリア内に入った。これで彼女を狙って後から攻撃することができなくなる。

 だが、そもそも俺はそんなことをするつもりはない。

 ルビー、お前の負けだ。最後の魔法を使うのであれば、加速ではなく、俺を減速させる方の魔法を使うべきだったな。

 彼女に遅れて、俺も魔法禁止エリア内に入った。無理に魔法を発動しようとしても、このエリア内にいる限り、魔法の効果は失われる。

 だが、俺には魔法を使用しなくとも加速する力がある。

 ユニークスキル発動! メディカルピックル!

 俺のユニークスキル、メディカルピックルは、過去に使われた薬物の効果が肉体に起きていると脳に錯覚させ、肉体をその時と同じ状態にすることが可能だ。

 今の俺は、ドーピングされている状態と同じだ。

 足の筋肉の収縮速度をより早くし、足のバネを最大限に使って芝の上を駆け抜ける。

『魔法禁止エリア内に入って、シャカール走者が加速する! 信じられないことですが、これが無敗の三冠王の力か! 今ルビー走者に並び、そして追い抜いた!』

「悪いな。芝の状態が走り慣れた環境に近い状態になった段階で、お前の負けが決まっていた。俺に備わったユニークスキルがある限り、魔法禁止エリア内で負けることはない」

 捨て台詞を吐き、俺はゴール板に向かって懸命に走る。

『シャカール走者がどんどん引き離す! これが世界中で名を馳せた実力者の力だ! 5メートル差、6メートル差、7、8、9、10! 10メート以上引き離し、大差でシャカール走者がゴールイン! シャカール走者、和の国でも無敗伝説を更新だ!』

 俺が1着でゴール板を駆け抜けた瞬間、喝采が沸いた。

 特に俺関連の走券購入者だと思われる人が喜んでいるように見受けられる。

「まさか、この私が大差で負けるようなことになるなんて」

 後方からルビーの声が聞こえてきた。

 もしかしたら小言のようなことを言われるかもしれない。そう思ったが、彼女は俺の予想を良い意味で裏切る反応を示した。

「おめでとうございます。こんな負け方は生まれて初めてです。私もまだまだですね。世界には、こんなに強い方が居たなんて」

 ルビーは満足気な笑みを浮かべていた。

「俺に負けて悔しくはないのか?」

「悔しいですが、負けたことは事実です。全力で挑んで負けたのであれば、寧ろ清々しいですよ」

 ギャップと言うやつだろうか? 彼女の普段見せることのない笑みを見てしまうと、一瞬だけドキッとしてしまう。

『他の走者はリタイアしてしまったようですし、表彰に移りたいと……あれ? あれは?』

「おい、あれはなんだよ! 雲の切れ目から何かが!」

 観客が指を差し、俺は上空に顔を向ける。

 魔法の効果が切れ、雲が消え始めると天使の輪と呼ばれる現象が上空に現れる。

 太陽光が降り注ぐ雲の間から1人の女の子が降りてきた。

「天使?」

 天使の輪から現れる女の子を見て、ポツリと言葉を漏らす。

 女の子はある地点で上空に止まった。

「我は魔王プリパラである」
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