薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
230 / 269
第十三章

第二話 いざ和の国へ

しおりを挟む
~シャカール視点~





 俺の視界には、どこまでも続きそうな青い海が広がっている。

 現在俺は、和の国で開催されるニホンカップに出場するために、船に乗って移動しているのだ。

 この船には、引率の先生役のルーナ、そして同じくニホンカップに出走するルビー、そして俺の応援をするために、シェアハウスのメンバーたちも乗っている。

 ただし、ルオは自宅警備員の仕事を任せているので、シェアハウスでお留守番だ。

 前日まで俺も行くと言って駄々を捏ねていたが、説得するのに骨が折れた。

「ねぇ、見てよダーリン。どこまでも続く青い空、結婚記念日に相応しい天気で良かったわ」

「そうだね。マイハニー。僕と君との記念日をまるで神までが祝福しているみたいだ」

 デッキで外の風景を見ていると、イチャイチャしている男女の声が耳に入ってくる。

 学園専用の船がないので、一般人を乗せる船に乗っている。そのため、他の客人も和の国へ向かうこの船に乗っているのだ。

「妹よ、風加減はどうだい?」

「全然涼しくないです。もっと気合いを入れてください」

 聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに顔を向ける。するとビーチチェアに腰をかけ、兄に団扇うちわあおがせているルビーの姿があった。

 彼女はサングラスをかけており、どこかの金持ちが従者を付き添わせて旅行をしているように見える。

「もう良いです。兄さんに頼んだ私がバカでした。もう、自分の魔法で風を生み出します。本当に使えないですね。魔法以下ではないですか。視界に入ってほしくないので、どっかに行ってください」

 この場から離れるように指示を受けると、シュヴァルツは肩を落としてトボトボとこちらに向かって歩いてくる。

 血筋では兄なのに、力関係は妹の方が上とは、兄としてのプライドはやるせないだろうな。

「お前も大変だなシュヴァルツ」

「あ、シャカールか。いつものことだよ。僕はルビーから馬車馬のようにこき使われている。まぁ、もう慣れてはいるがね」

 苦笑いを浮かべているが、妹からこき使われるのは精神的疲労も半端ないだろう。

「まぁ、こんな思いもニホンカップまでだろうからね。だって君がルビーを叩きのめして、天狗になった鼻をへし折ってくれるだろうから。俺は君に期待しているからね」

 左手で肩を掴まれ、彼は右手の親指を上げる。

「応援してくれるのはありがたいが、レースで絶対はない。和の国のコースは、俺たちの国とは違うのだろう?」

「あ、うん。そうだね。まず芝が違う。君たちの国の芝は柔らかく、水分を含んでいるけど、和の国の芝は固くてパサ付いている。だから走る時に感じる芝の感覚が違うから、違和感を覚えてしまうだろうね。それにこんなジンクスもある。海外の強豪走者は、ニホンカップには勝てない。海外から来た走者で、このジンクスを破った者は未だに1人もいない」

「だったら、俺を応援するだけ無駄じゃないか。そのジンクスがある限り、俺はニホンカップで優勝することができないのだから」

 ジンクスと言うのはバカにはできない。ジンクスと言うのはオカルトチックなところがあるが、それには論理的な理由が存在する。

 おそらく、芝の違いや国の環境の違いから、走者が慣れない状態で出走する。万全の状態で挑むことができないので、優勝する可能性がとても低いのだろう。

「確かにジンクスを考えたら、シャカールは100パーセント勝てない。でも、君ならそのジンクスすら、打ち破る方法を編み出して優勝してくれるのではないかと期待しちゃうんだよね」

 論理性もなく、彼はただ直感で俺に可能性を見出しているようだ。

 まぁ、今まで無敗でこられたんだ。ここで負けたらとても悔しいだろう。

 国が違うから、環境が違うから負けたなんて言い訳は、自分の弱さを正当化する鎧にしかすぎない。

 例え負けたとしても、後悔は残ってしまうだろう。

 俺は優勝するつもりで、全力で挑む。結局後悔すると言うことは、努力が足りていないから起きてしまうのだ。全力でやりきり、自分の力を100パーセント出し切って、それでも負けてしまったのなら悔いは残らない。むしろ清々しい気持ちになる。

 勝つにしても、負けるにしても、笑顔で和の国を去りたいものだ。

 そんなことを考えながらフット海の方に顔を向ける。すると、違和感を覚えた。

「なぁ、シュヴァルツ。この船ってもしかして止まっていないか?」

「そんな訳ないだろう? 船は目的地に向けて前進しているはず……本当だ。止まっている」

 海の上を移動するはずの船は、なぜか停止していた。

 この船は基本的に風を利用して前進する。もし風が止んでしまっても、船員が船底でかいを使って漕ぐので、船は前進していく。

 しかし、今は風が吹いて船が動くはずだ。それなのに、どうして船が止まっている? 何かトラブルが起きたのか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...