薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

第十二章

第六話 悪夢

「ここは……どこだ？」

　気が付くと、俺は暗闇の中に居た。辺りを見渡しても闇しか見えない。

　ここはいったいどこなんだ？　どうして暗闇しか見えない？

　どうしてこんな場所に居るのか不明だが、出口を探した方が良いだろう。

　明かりがある場所を求めて彷徨っていると、急に足元から黒髪の短髪の人族が飛び出してくる。

　吊り目の瞳と目線が合うと、俺は背筋に寒気を感じる。

「俺？」

『俺はお前じゃない……シャカールだ』

　自分にそっくりな男は自身をシャカールと名乗る。だが、シャカールは俺だ。

「何を言っている！　シャカールは俺だ！」

　変に感情が掻き立てられてしまい、咄嗟に声を上げる。

『お前は俺じゃない。お前は俺の名を頂いたにすぎない。そうだろう？　ナンバー０７２１』

　被験体番号を言われ、俺は固唾を飲み込む。

　そうだった。元々俺には名前など無かった。研究所から追放された後、ルーナから拾われてシャカールと名付けられたんだ。

　目の前の男に言われ、過去のことを思い出す。俺には名前がない。シャカールと言う名も、呼び名がないと不便だと言う理由で付けられた名だ。

「所詮は偽物の名だな」

『そうだ。お前は偽物のシャカールだ。そして、俺こそが真のシャカール』

　俺にそっくりな男は、自分は真だと良い、いきなり俺の首に両手を添えると、そのまま力強く絞めてきた。

「ク……クハッ……や……めろ」

　首を絞められ、思うように言葉が出ない。このままでは、絞殺されてしまう。

『俺の魔術回路、返してもらうぞ』

　意識を失うその刹那、俺にそっくりな男の言葉が耳に入ってきた。

　俺の魔術回路？　何を言っているんだ？　名前はともかく、魔術回路は俺自身のものだろう？






「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ！」

　目が覚めた俺は、ベッドから飛び起きるように勢い良く上体を起こす。

　心臓の鼓動が早鐘を打つ中、辺りを見渡した。

「ここは……俺の部屋か……なんて言う悪夢を見たんだ」

　レースで走った後の心臓のように、勢い良く動く鼓動を感じながら、胸に手を置く。

「俺の魔術回路を返せ……か」

　ポツリと言葉を漏らし、ベッドから降りる。

　悪夢のことを考えても仕方がない。早く校舎に向かう準備をするか。

　寝巻きから学園の制服に着替え、準備を整える。

　そして部屋を出ると、いつものようにシェアハウスのメンバーたちと朝食を食べて校舎へと向かった。

「シャカール君、大丈夫ですか？　なんだか顔色が優れていませんよ？」

　校舎へと向かって歩く中、クリープが俺の顔色が悪いことに気付き、心配して声をかけてくれた。

「いや、悪夢を見てしまったんだ。それで寝覚めが悪いだけで、別に体調が悪い訳ではない」

「そうなんですね。何かありましたら、ママに言ってくださいね。お薬をお出ししますから」

「ああ、その時はお願いする」

　彼女の気遣いを無下にできないので、一応好ましい返答をするが、できることなら遠慮したい。

　疑っている訳ではないが、この前のような発情パンデミックのように、バイオでハザードな出来事が脳裏に焼き付いてしまっているので、少しばかり抵抗があるようになってしまった。

「シャカールトレーナーにも、悪夢を見るってことがあるのですね。どんな夢でした？」

「別に、話すほどの物ではない」

　夢なんてものは、脳の記憶処理の最中に起きる現象だ。脳が勝手に過去の記憶を呼び起こし、夢としてあんなものを見てしまったのだろう。

「シャカールトレーナーが見そうな悪夢……もしや！　ピックさんからシャカールトレーナーのお尻の処女を奪われてしまったとか！」

「お前は俺をなんだと思っているんだ！」

「痛い！　暴力反対！」

　変なことを言い出したアイリンの頭に軽くチョップを当てる。

　ツッコミ感覚だったので、軽く当てるだけだったが、アイリンは大袈裟に頭を押さえて暴力だと言ってくる。

「はいはい、夫婦漫才はその辺にして、ちゃんと前を見ないと転ぶわよ」

　俺とアイリンのやり取りを見て、タマモがふざけないように忠告してきた。

　別に好きでこいつの相手をしている訳ではない。彼女が絡んでくるから、反射的にあんな対応を取ってしまう。

「ゼロナ兄、あまり悪い夢は気にしない方が良いよ。気にしすぎると、体にも心にも悪いから」

「でも、夢ってお告げの場合もあるよね？　気を付けなさいって神様からのメッセージだったり、正夢になったりするパターンもあるから、マーヤは一応気に留めた方が良いと思う」

　気にし過ぎるのも良くないし、少しは気にした方が良い場合もある。

　良く考えると、夢と言うのは奥深いものなのかもしれないな。

　そんなことを考えていると、校舎に辿り着いた。昇降口でみんなと別れ、俺はタマモと一緒に自分たちのクラスへと向かう。

　教室へと向かい、辿り着いて扉を開ける。すると、目の前に馬のケモノ族が居た。

「ルビーじゃないか。おはよう」

「おはようございます。丁度良かったです。シャカールさんは、ルーナ学園長に呼ばれているそうです。先ほど、担任の先生が連絡に来ました。ホームルームは居なくていいそうです。話が長引くようでしたら、一時限目も居なくて良いそうです。」

　ルーナが俺を呼んでいる？　いったい何のようだ？