213 / 269
第十二章
第五話 復活の条件
しおりを挟む
~シャカール視点~
ブッヒーの狙い、それが魔王の魂を他の肉体に移植させることだと知った俺は、やつがこの世界に魔王を復活させようとしているのだと悟った。
「歴史では勇者と言われるようになった異世界転生者は、魔王プリパラにとどめを刺すことができずに、肉体と魂を切り離し、魂の方を封印したと言われている」
俺の持っている資料を覗き込みながら、今まで黙っていたルーナが口を開き、歴史を語り出した。
「封印か。でも、この資料を見る限り、魔王を復活させようとしているブッヒーには、既に魔王の魂を手に入れていると思っていた方が良さそうだな」
「そうね、時間は限られていると思っていた方が良さそうだわ」
魔王の復活を止めるにしても、情報が少ない。情報を集めるには人手が必要だ。
この世界に魔王が復活する。その話を広めたとしても、多くの人たちは信じようとはしないだろう。
頭のおかしいやつだと思われ、異端者扱いされる可能性だってあり得る。
やっぱりブッヒーのやつが住んでいる場所に乗り込み、やつを止める方が一番の近道となるだろうな。
「ルーナ、ブッヒーの居場所はどこなのか知っているか?」
「残念ながら、ワタシは知らない。噂では、走者委員会の奴らは住居をいくつも持っており、その時の気分で移り住んでいるらしい。もし、住居を特定したとしても、もぬけの殻となっている可能性もあるだろうな」
住居を複数所持しているのか。一ヶ所を特定するのも難しそうなのに、それが数多くあるとは。虱潰しをしている時間はない以上、一回でブッヒーの居場所を突き止める必要がある。
「所長、ブッヒーとコンタクトを取ってくれ。魔王の魂を移植する実験の過程で面白いものを発見したと言えば、食いついてくるはず」
相手の居場所が分からなければ、相手の方から来させれば良いだけのこと。そう思って、所長に指示を出した。
「悪いがそれはできない。ブッヒーからは一方的に連絡が来るのだが、こちらからは連絡を取ろうとすることができない。以前、リピートバードにメッセージを授けたが、相手の居場所を突き止めることができずに帰ってきた」
こちら側から連絡が取れない事実に、歯を食い縛る。
「魔王の魂の研究はどこまで進んでいた。もし、まだ未完成なら、痺れを切らして向こうからやってくるはず」
最後の望みに縋る気持ちで所長に訊ねる。だが、彼は首を横に振った。
「残念だが、魔王の魂の実験は既に完成している。そしてその方法はやつに送っていたのだ。KINNGU賞の前日にな」
所長の言葉に衝撃を受け、額から脂汗が噴き出る。
「どうしてそれを最初に言わない!」
「聞かれなかったからな。お前たちが命令したのは、研究データーの資料だ。ふふふ、お前たちへの俺からのプチざまぁだ……ぎゃ!」
所長の言葉に腹が立ち、俺は咄嗟にクリープの匂いがする香水を彼にかけた。
その瞬間、所長は短い悲鳴を上げ、急いでトイレへと向かっていく。
事件の真相を知った時には既に遅い。物語などでは起きることだが、現実に体験する日が来るとは思ってもいなかったな。
「いや、まだ魔王は復活できない」
「復活できないって、何を根拠に?」
いつの間にか、俺の手から資料を引ったくっていたルーナが資料を見つつ、呟く。
「ここには、魔王の魂の移植に必要な肉体が重要と書かれてある。どうやら魂と肉体の相性が良くないと、完全に復活とは言えないようだ。ナナミとカレンニサキホコルのようにひとつの肉体に二つの魂が存在してしまい、両方の魂が消滅して肉塊となってしまうらしい。それに、他にも月の満ち欠けも重要とのことだ」
「と言うことは、どちらかが欠けていれば、直ぐに魔王を復活することはできないか」
タイミングが合わねば、魔王が復活することはない。
安心しきることはできないが、今は魔王の魂を移植できる人物が発見されないことを祈るしかないな。
~ブッヒー視点~
「ブッヒー、例の件は順調か?」
「ええ、あなた様の希望通り、事が進んでおります。魔王様の魂の移植実験は完成しており、時を待つだけだと」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、対面している魔族に恭しく応対する。
「そうか。魔王様復活の時は近い」
「ええ、そうですね。魔王様が復活すれば、この世界は暗黒時代の再臨となるでしょう」
魔族の男に言葉を返し、俺はソファーに寝かされている少女に視線を向ける。
魔王様の魂と相性の良いと思われる少女を見つけ出し、拉致することができた。今は睡眠魔法で深い眠りに付いている。
全ての駒は揃った。後は儀式を行うだけ。満月の夜に少女の肉体に魔王様の魂を入れ、魔王様を復活させる。
そうすれば、この世界の魔物たちは凶暴化し、異世界転生者が活躍していたあの時代と同じことになる。人々は魔物に恐怖を抱き、苦しみ、嘆く。
土地は荒れ、食物が育たなくなり、生物は生き残るために同族を殺し合う混沌の世界になるだろう。
「満月の夜が楽しみだな」
「ええ、そうですね」
魔族の男に言葉を返し、俺は祈った。
どうか、あの女が魔王様の器としての適性がありますように。
ブッヒーの狙い、それが魔王の魂を他の肉体に移植させることだと知った俺は、やつがこの世界に魔王を復活させようとしているのだと悟った。
「歴史では勇者と言われるようになった異世界転生者は、魔王プリパラにとどめを刺すことができずに、肉体と魂を切り離し、魂の方を封印したと言われている」
俺の持っている資料を覗き込みながら、今まで黙っていたルーナが口を開き、歴史を語り出した。
「封印か。でも、この資料を見る限り、魔王を復活させようとしているブッヒーには、既に魔王の魂を手に入れていると思っていた方が良さそうだな」
「そうね、時間は限られていると思っていた方が良さそうだわ」
魔王の復活を止めるにしても、情報が少ない。情報を集めるには人手が必要だ。
この世界に魔王が復活する。その話を広めたとしても、多くの人たちは信じようとはしないだろう。
頭のおかしいやつだと思われ、異端者扱いされる可能性だってあり得る。
やっぱりブッヒーのやつが住んでいる場所に乗り込み、やつを止める方が一番の近道となるだろうな。
「ルーナ、ブッヒーの居場所はどこなのか知っているか?」
「残念ながら、ワタシは知らない。噂では、走者委員会の奴らは住居をいくつも持っており、その時の気分で移り住んでいるらしい。もし、住居を特定したとしても、もぬけの殻となっている可能性もあるだろうな」
住居を複数所持しているのか。一ヶ所を特定するのも難しそうなのに、それが数多くあるとは。虱潰しをしている時間はない以上、一回でブッヒーの居場所を突き止める必要がある。
「所長、ブッヒーとコンタクトを取ってくれ。魔王の魂を移植する実験の過程で面白いものを発見したと言えば、食いついてくるはず」
相手の居場所が分からなければ、相手の方から来させれば良いだけのこと。そう思って、所長に指示を出した。
「悪いがそれはできない。ブッヒーからは一方的に連絡が来るのだが、こちらからは連絡を取ろうとすることができない。以前、リピートバードにメッセージを授けたが、相手の居場所を突き止めることができずに帰ってきた」
こちら側から連絡が取れない事実に、歯を食い縛る。
「魔王の魂の研究はどこまで進んでいた。もし、まだ未完成なら、痺れを切らして向こうからやってくるはず」
最後の望みに縋る気持ちで所長に訊ねる。だが、彼は首を横に振った。
「残念だが、魔王の魂の実験は既に完成している。そしてその方法はやつに送っていたのだ。KINNGU賞の前日にな」
所長の言葉に衝撃を受け、額から脂汗が噴き出る。
「どうしてそれを最初に言わない!」
「聞かれなかったからな。お前たちが命令したのは、研究データーの資料だ。ふふふ、お前たちへの俺からのプチざまぁだ……ぎゃ!」
所長の言葉に腹が立ち、俺は咄嗟にクリープの匂いがする香水を彼にかけた。
その瞬間、所長は短い悲鳴を上げ、急いでトイレへと向かっていく。
事件の真相を知った時には既に遅い。物語などでは起きることだが、現実に体験する日が来るとは思ってもいなかったな。
「いや、まだ魔王は復活できない」
「復活できないって、何を根拠に?」
いつの間にか、俺の手から資料を引ったくっていたルーナが資料を見つつ、呟く。
「ここには、魔王の魂の移植に必要な肉体が重要と書かれてある。どうやら魂と肉体の相性が良くないと、完全に復活とは言えないようだ。ナナミとカレンニサキホコルのようにひとつの肉体に二つの魂が存在してしまい、両方の魂が消滅して肉塊となってしまうらしい。それに、他にも月の満ち欠けも重要とのことだ」
「と言うことは、どちらかが欠けていれば、直ぐに魔王を復活することはできないか」
タイミングが合わねば、魔王が復活することはない。
安心しきることはできないが、今は魔王の魂を移植できる人物が発見されないことを祈るしかないな。
~ブッヒー視点~
「ブッヒー、例の件は順調か?」
「ええ、あなた様の希望通り、事が進んでおります。魔王様の魂の移植実験は完成しており、時を待つだけだと」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、対面している魔族に恭しく応対する。
「そうか。魔王様復活の時は近い」
「ええ、そうですね。魔王様が復活すれば、この世界は暗黒時代の再臨となるでしょう」
魔族の男に言葉を返し、俺はソファーに寝かされている少女に視線を向ける。
魔王様の魂と相性の良いと思われる少女を見つけ出し、拉致することができた。今は睡眠魔法で深い眠りに付いている。
全ての駒は揃った。後は儀式を行うだけ。満月の夜に少女の肉体に魔王様の魂を入れ、魔王様を復活させる。
そうすれば、この世界の魔物たちは凶暴化し、異世界転生者が活躍していたあの時代と同じことになる。人々は魔物に恐怖を抱き、苦しみ、嘆く。
土地は荒れ、食物が育たなくなり、生物は生き残るために同族を殺し合う混沌の世界になるだろう。
「満月の夜が楽しみだな」
「ええ、そうですね」
魔族の男に言葉を返し、俺は祈った。
どうか、あの女が魔王様の器としての適性がありますように。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!
仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。
知識0でも安心して読める競馬物語になっています。
S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。
とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。
面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる