薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十一章

第八話 タマモのけじめ

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 ~タマモ視点~





 今日のあたしは変だ。クリープ先輩たちからシャカールを頼まれ、彼を見張っているけれど、なぜかイライラしてしまう。

 別に今日は女の子の日と言う訳ではない。だけど、クラスメートの女子たちがヒソヒソとシャカールのことを話しているのを聞くと、心がモヤモヤしてくる。

 いったい、あたしはどうしてしまったのだろう。最初はあたしに隠し事をしていた。だから彼に裏切られた感じになり、怒りが募ってしまった。そう思っていたのだけれど、それだけではないような気がする。

 どうして、あたしは女子たちがシャカールの話をするのを耳にするだけで、こんなに心が騒めくのだろうか。

「とにかく、原因となるものをひとつずつ潰して行くしかないわね」

 ポツリと独り言を漏らし、あたしはこのモヤモヤの原因を突き止めるために、シャカールと直接対決をすることを決めた。

 別にレースで勝負するなんてことではないわ。今のあたしが、三冠王となった彼に勝てる訳がない。

 対峙して言葉をぶつけて、彼がどうしてあたしに内緒で行動をしていたのかを聞き出す。彼の本音を聞くことができれば、心の中に芽生えるイライラや、モヤモヤが解決するかもしれない。

 決断をすると、直ぐに果し状を書いた。

「これでよし、あとはシャカールの机の中に忍び込ませるだけね」

 タイミングを伺っていると、シャカールは立ち上がった。そして教室から出て行く。

 トイレかしら? まぁ、何でも良いわ。彼が廊下に出たことで、女子生徒たちの視線は廊下へと向けられている。

 今の内にこれを忍び込ませましょう。

「今日の天気ってどうだったかしら? 雲の様子でも見ようかな?」

 あたしは席から立つと、外の風景を見る素振りを見せ、シャカールの机に近付いた瞬間に素早く机の中に入れた。

 これでよし、後は時が来るのを待つだけ。






 その日の放課後、あたしは屋上でシャカールが来るのを待っていた。すると、屋上の扉が開かれ、黒髪の人族の少年が出て来た。

「タマモ、これはどんな冗談だよ。俺に果し状を出すなんて」

「冗談ではないわよ。それは、あたしが本気であなたと戦うために送ったものよ」

「へぇ、三冠王となった俺にレースを挑もうと言うのか。タマモは頭が良いと思っていたが、どうやら過大評価し過ぎていたようだな。まぁ、ハンデ戦くらいはしてやるよ。お前の得意な距離で勝負を――」

「あなたこそ、何を勘違いしているの? あたしは一言もレースで勝負をするなんて言ってもいないし、書いてもいないわよ」

「え?」

 彼のセリフを遮り、言葉を連ねる。あたしのセリフが意外だったのか、彼は豆鉄砲が当たった鳥のような顔をしていた。

「今回呼び出したのは、どうしてあたしに内緒で兄さんと結託して、あたしを庇うようなことをしたのか、それを話してもらうためよ」

「チッ、フェインのやつ、バラしたのかよ。まぁ、良い。そんなことのためにわざわざ呼び出したのなら、時間の無駄だ。俺は帰るぜ」

 呼び出した本当の理由を語ると、彼は舌打ちしてこの場から離れると言ってきた。

 やっぱり、話す気がないのね。でも、あたしは決めたのよ。もう、逃さないのだから。

「へぇー、こんなにか弱い女の子を目の前にして、尻尾を丸めて逃げるなんて、三冠王が情けないわね。そんなにあたしが怖いんだ。臆病者ね。クソ雑魚じゃない」

「はぁ? 誰がクソ雑魚だぁ?」

 逃げようとするシャカールに言葉を投げかけると、どうやら珍しく刺さったみたい。彼はもう一度あたしの方を向き直してくれた。

「だってそうじゃない。女の子に本当のことを言うのが怖くて怖くてしょうがない臆病者のチキン野郎じゃなければ、言えるはずよ。でも、言うことができないシャカールは、クソ雑魚と呼ばれても仕方がないわ」

「誰がチキン野郎だ! 俺はお前を気遣ってやっているんだぞ! そのことに気付けよ! 鈍感狐!」

「気付いているわよ! でも、それが余計なお世話なのよ! チキン走者!」

 あたしとシャカールは、互いに睨み合う。

「自分がチキンでないと言うのなら、それを証明してよ。全てを隠さずに、あたしに教えてよ! どんなことを言われても、あたしは全てを受け入れる覚悟なのに、どうして、あたしに相談もしてくれなかったのよ。あなたにとって、あたしはそんなに弱い存在なの!」

「ああ、弱い」

 シャカールの言葉が胸に突き刺さる。

 そうか。彼にとって、あたしはそんなに弱い認識なんだ。

「でも、本当に弱いのは俺だったみたいだ」

 彼が罰の悪そうな顔をして、少しだけ俯きがちになる。

「分かった。俺はもう逃げない。俺の心の弱さに向き合う。たとえ、その結果タマモとの関係が悪化したとしても、俺は俺の心の弱さからは逃げないと誓おう」

 逃げずに隠していたことを全て話すと告げると、シャカールは顔を上げてあたしのことを見た。

 そして、シャカールは語り始める。彼が話していることは、帰省した際に兄さんから聞かされた内容と同じだった。

「俺はタマモのことを考えた。奴隷落ちになってしまったタマモは、地獄のような日々を過ごすことになるだろう。下手すれば生きる希望を失い、研究所で実験動物モルモットにされていた俺のようになるかもしれない。タマモにはそんな人生を送ってほしくなかった。だから庇ったんだ」

 本音でシャカールが語ってくれた。でも、どうして隠していたの? 確かに当時そのことを話されたら、平静ではいられなかったかもしれないけれど、あたしだって犯人探しに強力することだってできたわ。

「どうして関係ないのに庇ってくれたのかは分かったわ。でも、どうして相談もしてくれなかったの?」

「それは……そんなの格好悪いじゃないか」

「え?」

「だって、そうだろう! 大見得を切って俺が解決すると宣言したのに、相談して協力してもらうってなったら、格好悪いじゃないか。そんなの、俺のプライドが許さない」

「プッ……あはは、あはははははは!」

 真剣に語るシャカールの言葉に、つい吹き出してしまった。そして堰を切ったようように、笑いが込み上げ、声を上げて大笑いする。

「あはははははは!」

「そ、そんなに笑わなくっても良いじゃないか」

「ご、ごめん。シャカールから想像できない言葉を出てきたから、つい。シャカールも見栄を張ることもするんだって思ったら、我慢できなくって。あーお腹が痛い」

 笑うことで、何だか心がスッキリしたような感じがした。

 そして今は、彼に対する怒りはどこにはない。むしろ、可愛いところがあるんだと思い、微笑ましくも思う。

「本音を聞けて安心したわ。でも、ひとつだけ言わせてもらうけれど、あたしの人生はあたしのもの。どうなろうと、あたしが考えて行動するわよ。もちろん、奴隷になるつもりはないから。シャカールは余計だと思うかもしれないけれど、あたしは自信を守るために犯人探しをするわ」

 わたし自身も犯人探しをすることを決めた。奴隷になるかもしれない未来に対して怖くない訳がないわ。でも、なぜかしらね。不安よりも、希望や安心といった気持ちの方が強い。まぁ、最悪の場合は兄さんの言ったように、シャカールに嫁入りをすれば良いでしょう。
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