薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十章

第二十二話 所長の変貌

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~シャカール視点~





『おめでとう! 下ネタ番号、これでお主は人類初の三冠王じゃ』

 呼吸を整えていると、カレンニサキホコルが声をかけてきた。

 観客席からは俺の名を声に出し、三冠を讃える言葉を投げかけられる。

 本当に、俺は三冠を達成したのか。

『これでナナミはお主のものじゃ、良かったのぉ、シスコンとして愛する妹が常に側にいてくれるぞ。うりうり』

 肘で俺の腕をグリグリとしてくるカレンニサキホコル。もしかして、彼女は最初からこうなるように動いていたのではないか。そう思ってしまうのは、俺の自惚れだったりするのだろうか?

『そろそろ他の走者たちもゴールする頃だろう。早くトロフィーを受け取って来るが良い。妾は入賞賞金を受け取った後に着替えて合流するのでな』

 また後で会おう。そう言うと、カレンニサキホコルはこの場から去って行った。

 優勝トロフィーを受け取り、三冠を達成したと言うことで、珍しくインタビューに答えてあげた。

 その後更衣室に戻り、着替えを終えるとそのまま外に出た。

「ゼロナにい優勝おめでとう! やっぱり凄いよ!」

 外に出ると、黒髪のショートヘアーの女の子が声をかけてきた。

 この口調はナナミか。どうやらカレンニサキホコルは、ナナミと入れ替わったようだ。

「俺が優勝したんだ。これから俺たちは一緒だ」

「うん!」

 満面の笑顔を向け、ナナミは喜んでくれた。

 さて、レースも終わったことだし、ルーナたちと合流するとするか。

 そう思って顔を左右に振る。

「あれ? ルーナたちはまだ来ていないようだな。まだやるべきことが終わっていないのか?」

「ねぇ、ゼロナ兄? あの人たちじゃない」

 ナナミが指を向け、そちらに顔を向ける。

 こちらに向かってルーナたちが歩いて来ていた。クリープの手にはリードらしきものが握られている。

 犬の散歩をしていたのか? それが彼女の用事だったのだろうか?

 そう思うと、なんだか心がモヤモヤしてしまう。俺の三冠がかかったレースよりも、犬の散歩を優先させられていたのだから。

 そのようなことを思っていると、犬が走る速度をあげてしまったようで、クリープはリードを手放してしまった。

 犬はこちらに向かって真っ直ぐ走って来るが、その犬はスーツ姿だった。

 犬も服を着せる時代になったんだな。

 そんなことを思っていた俺だったが、犬と思っていたものの容姿がはっきりと見えた瞬間、恐怖で顔が歪む。

 犬と思ったら、所長じゃないか!

 彼は四足歩行でこちらに向かって来た。そして俺の前に来ると、頭を地面に付けた。

「この度は、誠に申し訳ありませんでしたあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 いきなり謝罪を始める所長に困惑する中、彼は言葉を続ける。

「これからはシャカール様をご主人様と敬い、心を入れ替えさせていただきます! 手始めに、忠誠の証として、靴を嘗めさせていただきます」

 所長が俺の靴に顔を近付けてきた。

 寒気を感じつにはいられなかった俺は、一歩下がる。

「しょ、所長! お前、いったい何を考えているんだ!」

「何をとは? そんなの忠誠の証を示すために決まっているではないですか?」

 いったい彼の身に何が起きたと言うんだ?

「所長、おすわり」

 こちらに向かって歩いていたクリープが、所長に向かって座る体勢を取るように告げる。すると彼は指示に従い、犬のおすわりの体勢を取る。だが、犬のように上手く座れないようで、どちらかと言うとカエルのポーズとなっていた。

「クリープ、これはいったいどう言うことなんだ? 知っていたら、説明をしてくれないか?」

「えーと、ですね。どんなに悪い子でも良い子に戻れる手術をしたのです。一応成功したのですが、目が覚めるとこんな感じになってしまったのです」

「これのどこが成功だよ! 失敗じゃないか! 変態を生み出しただけだろう!」

 思わず声を上げてしまう。

「ご主人様、どうかお情けを! 私にご主人様の靴を嘗めさせて……ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!」

 俺に忠誠を誓わせて欲しいと発言した所長だったが、いきなり彼の尻に矢が飛んで来て突き刺さった。矢には手紙のようなものが括り付けられている。

 矢文か? これはまた古風だな? いったい誰からだ?

 所長に突き刺さった矢を引き抜き、付いていた手紙を取り外すと中身を読む。

『シャカール様をご主人様と呼んで良いのは私だけです。キャラが被ってしまいます』

 ロ、ローレル?

 え? ローレルは学園でお留守番をしていたような? もしかして近くに来ているのか?

 辺りを見渡すが、ローレルの姿は見当たらなかった。なぜ彼女のメッセージ付きの矢文が来たのか、ある意味怖い。

「所長、俺のことをご主人様と言うのは禁止な」

「分かりました。では、シャカール様と呼ばせていただきます。ですので、忠誠の証に靴を嘗めさせてください」

「どうしてそうなる! 別に俺に忠誠を誓おうとはしないでくれ!」

 くそう。せっかくの三冠王となった記念日が台無しじゃないか。

 小さく息を吐く。

「こんな結果になってしまったが、シャカールよ。考えてみたまえ、所長がお前の下僕となれば、研究所に隠された研究データーも見つけることができる。つまり、あの事件の真相に近付くことができると言う訳だ。デメリットばかりではない」

 残念がる俺を見て、ルーナが声をかけてきた。

 確かに、そのように考えることもできるな。だが、所長に靴を嘗めさせる訳にはいかない。俺は変態ではないのだから。

「あ、そうだ。三冠王になった君にアドバイスと言うか、忠告しておかないといけないことがある」

「なんだよ」

「これは私が三冠を取った時にも実際に体験したことだが、これから君は、様々な試練が待ち受けているだろう。時には逃げ出したいと思うかもしれないが、良く考えて行動するように。好き勝手にしても良いが、やり過ぎは身を滅ぼすことにもなるぞ」

 アドバイスと言いつつ、彼女の言っている意味が良く分からなかった。

 まぁ、何が起きるのか分からないが、普段通りの俺でいれば問題ないだろう。

 その後、俺たちは所長を研究所に帰らせ、ナナミは学園へと向かうことになった。

 そして、俺が三冠を取ってから一週間が過ぎたその時、学園の女子の殆どが学園から姿を消した。

 そう、ナナミを除いたシェアハウスのメンバーたちも。
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