薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
180 / 269
第十章

第十三話 ナナミ対策

しおりを挟む
 ちょっとした恥ずかしい思いをしたが、取り敢えずは切り替えよう。

「さて、どうしてナナミ……いや、カレンニサキホコルがあんなものを送ってきたかだが、ルーナはどう思う?」

「そうだな。普通に考えたら、自分がどれくらいの強さなのかを思い知らせるために送ったと思える。だが、それは彼女よりも実力が下の者に対してだ。ワタシの見立てでは、あの映像を見た限りに言及させてもらうが、シャカールの方が上のように思える」

 ルーナの言葉が恥ずかしくも嬉しかった。少なくとも、彼女は俺の方が実力は上だと思ってくれている。

 カレンニサキホコルが俺よりもナナミが上だと思い込んでいる可能性もあるが、彼女はそこまでバカではないような気がする。

 水晶玉は俺が破壊したので、もうあの映像を見直すことはできない。けれど、頭の中には鮮明に残っている。

 自分の活躍を集めたハイライトを見せることで、俺に何かを伝えたかったのだろうか。

 思考を巡らせてカレンニサキホコルが考えそうなことを考える。

 もし、あの映像の中に、暗号のようにしてメッセージが隠されていたとしたら。いや、それは流石に考えすぎか。推理モノの物語ではないんだ。そんなに深く考えすぎるのも良くはない。

「あの映像……いや、憶測で物事を語るのはやめておいた方が良いか」

「何か気付いたのか?」

 ルーナが何かに気付いたようで、ポツリと言葉を漏らす。彼女の言葉が耳に入り、気になった俺はルーナに訊ねた。

「いや、何でもない。先ほどのように、憶測で物事を語る訳にはいかない」

「それでも良い。俺も似たようなことを考えたかもしれない。同じことを考えているのかを、確かめたい」

 彼女の目を見て、真剣に語る。すると、ルーナは根負けしたようで、小さく息を吐いた。

「分かった。そこまで言うのであれば思い当たったことを言おう。だが、あくまでも参考程度にしておくれよ。あの映像の中には、彼女からのメッセージのようなものが隠されていたのではないかと思っただけだ。でも、推理モノの物語ではないのだから、深く考えすぎたと思う」

「ルーナも同じことを考えていたのか」

 確かに考えすぎだ。でも、2人とも同じことを考えているのであれば、可能性が0と言うことはないはず。一応頭の片隅にでも置いておいた方が良いだろうな。

「とにかく、ナナミ……いや、カレンニサキホコルがあの映像を送ってくれたのは幸運だったな。少しではあるが、対策を取ることができる」

「ああ、ナナミはレース中の駆け引きが上手かった。そして、敵の攻撃に対しても、回避が早い」

「あの回避はワタシも正直すごいと思った。魔法が放たれた直後に回避していたからね。あの芸当はワタシもできない。回避に関しては、ワタシ以上だと思っていた方が良い」

「ルーナでも、あんな風にできないのか?」

 彼女の言葉に衝撃を受ける。無敗の三冠王コレクターと呼ばれたルーナなら、可能だろうと思っていたのだ。それなのに、彼女はできないと否定している。

 ルーナにできないことをナナミは可能にした。

 いったいナナミに何が起きているんだ?

 思いだせ。きっとあの映像にルーナには不可能でも、ナナミには可能にできる何かが隠されているかもしれない。

 脳内にある記憶を頼りに、数分前に見た映像を思い出す。

『ここでアストレイ走者が風の刃を放つ! しかし放たれた頃には狙ったものは既にいない! ナナミ走者、難なく躱していきます。彼女に攻撃を当てることはできるのか!』

 あの時、実況者はあんな風に状況を語っていた。

 そして俺は『敵の攻撃もまるで後に目があるのではないかと思われるようなタイミングで躱しているな』と思った。

 そう、彼女の回避は、まるで後に目があると思えるような走りだ。だが、物理的に考えて、後に目があるなんてことはあり得ない。そんなことが可能なのは、目を複数持つモンスターくらいなものだろう。

 研究所の薬を使って視界が広くなった? いや、そんなことはないな。人間の目の位置を考えて、いくら視野が広くなったとしても、せいぜい耳側を90度から100度にするのが限界だ。

 薬で視野が広くなったのではなく、情報を与えられたと考えることはできないか? もし、部外者から情報を受け、敵の攻撃が来ることをいち早く伝えれば……いや、それも物理的に考えて不可能だ。

 いくら実況者が状況を伝えても、観客席からでは細かい部分は見えない。仮に見えていたとしても、魔法が放たれた直後に指示を出していては、タイムラグによってタイミングが合わない。

 つまり、事前に魔法が放たれることを知っていた上で、伝えないと不可能と言うことだ。

 色々な可能性を潰していくと、最終的に到達するところは、ナナミが異常な程の危険察知能力に優れ、その才能により事前に攻撃されることを読んで居たと言うことになる。

 それか、考えられるとすれば未来予知などによる事前の把握によるものか?

 俺が研究所に居た頃はそのような実験はされていなかった。だが、俺が研究所から捨てられた後、未来予知ができる人物を作り出した。

 そのように思考が向いた瞬間、俺は自身の額に手を置く。

 ナナミの不思議な回避能力になんてことを考えているんだ。そもそも、ナナミの実験は、異世界の転生馬をナナミに取り入れると言う実験だったはず。未来予知の実験もされていたと言う内容は、研究所にあった資料には書かれていなかったじゃないか。

 冷静になって、もう一度考えよう。そう言えば、ナナミの優勝インタビューで。

『なるほど、レース中は他の走者から集中的に狙われる展開などもありましたが、その全てを躱しておりました。あれは何かコツのようなものがあったのでしょうか?』

『私には先ほど話した大切な友人がいます。彼女と共に走り、人馬一体となることで、直ぐに察知することができます』

 あの映像にはインタビューをする人とナナミがあのようなやりとりをしていた。

 そうか。そう言うことだったのか。やっと回避の謎が解けた。

 普通に考えたらあり得ないことだが、1つの肉体に2つの魂が宿っている特殊状態だからこそ、できた芸当だったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...