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第十章
第十三話 ナナミ対策
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ちょっとした恥ずかしい思いをしたが、取り敢えずは切り替えよう。
「さて、どうしてナナミ……いや、カレンニサキホコルがあんなものを送ってきたかだが、ルーナはどう思う?」
「そうだな。普通に考えたら、自分がどれくらいの強さなのかを思い知らせるために送ったと思える。だが、それは彼女よりも実力が下の者に対してだ。ワタシの見立てでは、あの映像を見た限りに言及させてもらうが、シャカールの方が上のように思える」
ルーナの言葉が恥ずかしくも嬉しかった。少なくとも、彼女は俺の方が実力は上だと思ってくれている。
カレンニサキホコルが俺よりもナナミが上だと思い込んでいる可能性もあるが、彼女はそこまでバカではないような気がする。
水晶玉は俺が破壊したので、もうあの映像を見直すことはできない。けれど、頭の中には鮮明に残っている。
自分の活躍を集めたハイライトを見せることで、俺に何かを伝えたかったのだろうか。
思考を巡らせてカレンニサキホコルが考えそうなことを考える。
もし、あの映像の中に、暗号のようにしてメッセージが隠されていたとしたら。いや、それは流石に考えすぎか。推理モノの物語ではないんだ。そんなに深く考えすぎるのも良くはない。
「あの映像……いや、憶測で物事を語るのはやめておいた方が良いか」
「何か気付いたのか?」
ルーナが何かに気付いたようで、ポツリと言葉を漏らす。彼女の言葉が耳に入り、気になった俺はルーナに訊ねた。
「いや、何でもない。先ほどのように、憶測で物事を語る訳にはいかない」
「それでも良い。俺も似たようなことを考えたかもしれない。同じことを考えているのかを、確かめたい」
彼女の目を見て、真剣に語る。すると、ルーナは根負けしたようで、小さく息を吐いた。
「分かった。そこまで言うのであれば思い当たったことを言おう。だが、あくまでも参考程度にしておくれよ。あの映像の中には、彼女からのメッセージのようなものが隠されていたのではないかと思っただけだ。でも、推理モノの物語ではないのだから、深く考えすぎたと思う」
「ルーナも同じことを考えていたのか」
確かに考えすぎだ。でも、2人とも同じことを考えているのであれば、可能性が0と言うことはないはず。一応頭の片隅にでも置いておいた方が良いだろうな。
「とにかく、ナナミ……いや、カレンニサキホコルがあの映像を送ってくれたのは幸運だったな。少しではあるが、対策を取ることができる」
「ああ、ナナミはレース中の駆け引きが上手かった。そして、敵の攻撃に対しても、回避が早い」
「あの回避はワタシも正直すごいと思った。魔法が放たれた直後に回避していたからね。あの芸当はワタシもできない。回避に関しては、ワタシ以上だと思っていた方が良い」
「ルーナでも、あんな風にできないのか?」
彼女の言葉に衝撃を受ける。無敗の三冠王コレクターと呼ばれたルーナなら、可能だろうと思っていたのだ。それなのに、彼女はできないと否定している。
ルーナにできないことをナナミは可能にした。
いったいナナミに何が起きているんだ?
思いだせ。きっとあの映像にルーナには不可能でも、ナナミには可能にできる何かが隠されているかもしれない。
脳内にある記憶を頼りに、数分前に見た映像を思い出す。
『ここでアストレイ走者が風の刃を放つ! しかし放たれた頃には狙ったものは既にいない! ナナミ走者、難なく躱していきます。彼女に攻撃を当てることはできるのか!』
あの時、実況者はあんな風に状況を語っていた。
そして俺は『敵の攻撃もまるで後に目があるのではないかと思われるようなタイミングで躱しているな』と思った。
そう、彼女の回避は、まるで後に目があると思えるような走りだ。だが、物理的に考えて、後に目があるなんてことはあり得ない。そんなことが可能なのは、目を複数持つモンスターくらいなものだろう。
研究所の薬を使って視界が広くなった? いや、そんなことはないな。人間の目の位置を考えて、いくら視野が広くなったとしても、せいぜい耳側を90度から100度にするのが限界だ。
薬で視野が広くなったのではなく、情報を与えられたと考えることはできないか? もし、部外者から情報を受け、敵の攻撃が来ることをいち早く伝えれば……いや、それも物理的に考えて不可能だ。
いくら実況者が状況を伝えても、観客席からでは細かい部分は見えない。仮に見えていたとしても、魔法が放たれた直後に指示を出していては、タイムラグによってタイミングが合わない。
つまり、事前に魔法が放たれることを知っていた上で、伝えないと不可能と言うことだ。
色々な可能性を潰していくと、最終的に到達するところは、ナナミが異常な程の危険察知能力に優れ、その才能により事前に攻撃されることを読んで居たと言うことになる。
それか、考えられるとすれば未来予知などによる事前の把握によるものか?
俺が研究所に居た頃はそのような実験はされていなかった。だが、俺が研究所から捨てられた後、未来予知ができる人物を作り出した。
そのように思考が向いた瞬間、俺は自身の額に手を置く。
ナナミの不思議な回避能力になんてことを考えているんだ。そもそも、ナナミの実験は、異世界の転生馬をナナミに取り入れると言う実験だったはず。未来予知の実験もされていたと言う内容は、研究所にあった資料には書かれていなかったじゃないか。
冷静になって、もう一度考えよう。そう言えば、ナナミの優勝インタビューで。
『なるほど、レース中は他の走者から集中的に狙われる展開などもありましたが、その全てを躱しておりました。あれは何かコツのようなものがあったのでしょうか?』
『私には先ほど話した大切な友人がいます。彼女と共に走り、人馬一体となることで、直ぐに察知することができます』
あの映像にはインタビューをする人とナナミがあのようなやりとりをしていた。
そうか。そう言うことだったのか。やっと回避の謎が解けた。
普通に考えたらあり得ないことだが、1つの肉体に2つの魂が宿っている特殊状態だからこそ、できた芸当だったのだ。
「さて、どうしてナナミ……いや、カレンニサキホコルがあんなものを送ってきたかだが、ルーナはどう思う?」
「そうだな。普通に考えたら、自分がどれくらいの強さなのかを思い知らせるために送ったと思える。だが、それは彼女よりも実力が下の者に対してだ。ワタシの見立てでは、あの映像を見た限りに言及させてもらうが、シャカールの方が上のように思える」
ルーナの言葉が恥ずかしくも嬉しかった。少なくとも、彼女は俺の方が実力は上だと思ってくれている。
カレンニサキホコルが俺よりもナナミが上だと思い込んでいる可能性もあるが、彼女はそこまでバカではないような気がする。
水晶玉は俺が破壊したので、もうあの映像を見直すことはできない。けれど、頭の中には鮮明に残っている。
自分の活躍を集めたハイライトを見せることで、俺に何かを伝えたかったのだろうか。
思考を巡らせてカレンニサキホコルが考えそうなことを考える。
もし、あの映像の中に、暗号のようにしてメッセージが隠されていたとしたら。いや、それは流石に考えすぎか。推理モノの物語ではないんだ。そんなに深く考えすぎるのも良くはない。
「あの映像……いや、憶測で物事を語るのはやめておいた方が良いか」
「何か気付いたのか?」
ルーナが何かに気付いたようで、ポツリと言葉を漏らす。彼女の言葉が耳に入り、気になった俺はルーナに訊ねた。
「いや、何でもない。先ほどのように、憶測で物事を語る訳にはいかない」
「それでも良い。俺も似たようなことを考えたかもしれない。同じことを考えているのかを、確かめたい」
彼女の目を見て、真剣に語る。すると、ルーナは根負けしたようで、小さく息を吐いた。
「分かった。そこまで言うのであれば思い当たったことを言おう。だが、あくまでも参考程度にしておくれよ。あの映像の中には、彼女からのメッセージのようなものが隠されていたのではないかと思っただけだ。でも、推理モノの物語ではないのだから、深く考えすぎたと思う」
「ルーナも同じことを考えていたのか」
確かに考えすぎだ。でも、2人とも同じことを考えているのであれば、可能性が0と言うことはないはず。一応頭の片隅にでも置いておいた方が良いだろうな。
「とにかく、ナナミ……いや、カレンニサキホコルがあの映像を送ってくれたのは幸運だったな。少しではあるが、対策を取ることができる」
「ああ、ナナミはレース中の駆け引きが上手かった。そして、敵の攻撃に対しても、回避が早い」
「あの回避はワタシも正直すごいと思った。魔法が放たれた直後に回避していたからね。あの芸当はワタシもできない。回避に関しては、ワタシ以上だと思っていた方が良い」
「ルーナでも、あんな風にできないのか?」
彼女の言葉に衝撃を受ける。無敗の三冠王コレクターと呼ばれたルーナなら、可能だろうと思っていたのだ。それなのに、彼女はできないと否定している。
ルーナにできないことをナナミは可能にした。
いったいナナミに何が起きているんだ?
思いだせ。きっとあの映像にルーナには不可能でも、ナナミには可能にできる何かが隠されているかもしれない。
脳内にある記憶を頼りに、数分前に見た映像を思い出す。
『ここでアストレイ走者が風の刃を放つ! しかし放たれた頃には狙ったものは既にいない! ナナミ走者、難なく躱していきます。彼女に攻撃を当てることはできるのか!』
あの時、実況者はあんな風に状況を語っていた。
そして俺は『敵の攻撃もまるで後に目があるのではないかと思われるようなタイミングで躱しているな』と思った。
そう、彼女の回避は、まるで後に目があると思えるような走りだ。だが、物理的に考えて、後に目があるなんてことはあり得ない。そんなことが可能なのは、目を複数持つモンスターくらいなものだろう。
研究所の薬を使って視界が広くなった? いや、そんなことはないな。人間の目の位置を考えて、いくら視野が広くなったとしても、せいぜい耳側を90度から100度にするのが限界だ。
薬で視野が広くなったのではなく、情報を与えられたと考えることはできないか? もし、部外者から情報を受け、敵の攻撃が来ることをいち早く伝えれば……いや、それも物理的に考えて不可能だ。
いくら実況者が状況を伝えても、観客席からでは細かい部分は見えない。仮に見えていたとしても、魔法が放たれた直後に指示を出していては、タイムラグによってタイミングが合わない。
つまり、事前に魔法が放たれることを知っていた上で、伝えないと不可能と言うことだ。
色々な可能性を潰していくと、最終的に到達するところは、ナナミが異常な程の危険察知能力に優れ、その才能により事前に攻撃されることを読んで居たと言うことになる。
それか、考えられるとすれば未来予知などによる事前の把握によるものか?
俺が研究所に居た頃はそのような実験はされていなかった。だが、俺が研究所から捨てられた後、未来予知ができる人物を作り出した。
そのように思考が向いた瞬間、俺は自身の額に手を置く。
ナナミの不思議な回避能力になんてことを考えているんだ。そもそも、ナナミの実験は、異世界の転生馬をナナミに取り入れると言う実験だったはず。未来予知の実験もされていたと言う内容は、研究所にあった資料には書かれていなかったじゃないか。
冷静になって、もう一度考えよう。そう言えば、ナナミの優勝インタビューで。
『なるほど、レース中は他の走者から集中的に狙われる展開などもありましたが、その全てを躱しておりました。あれは何かコツのようなものがあったのでしょうか?』
『私には先ほど話した大切な友人がいます。彼女と共に走り、人馬一体となることで、直ぐに察知することができます』
あの映像にはインタビューをする人とナナミがあのようなやりとりをしていた。
そうか。そう言うことだったのか。やっと回避の謎が解けた。
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