薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十章

第七話 まずい、まずい、まずい

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 ~研究所の所長視点~





 まずい、まずい、まずい。非常にまずいことになった。

 ルーナとシャカールが訪ねることになったことを知り、俺はてっきりナンバー0773、通称ナナミの件だと思っていた。だが、奴らはその件とは別に、我々の研究の一部である。別の人格を移植する実験の証拠品を提示してきた。

 あの時、ナナミにデスボールを使わせ、巨大な火球でアイビスを処分した。

 俺はてっきり、あの炎で燃え尽き、証拠を消滅させていると思っていたのだ。それなのに、まさか燃え残っていたとは。

 とにかく、上手くこいつらを誘導し、実験とは関係のない場所へと導かなければ。

「まずは、あっちから案内をしよう」

 ひとまず、職員や被験者モルモットたちの健康診断をする部屋へと連れて行くか。その間に対策を考えるとしよう。

「おや? この部屋は?」

 目的の場所へと歩いていると、ルーナの声が耳に入り、立ち止まる。そして振り返った瞬間、俺は大きく見開いた。

 彼女が見ている扉は、我々が研究している資料などが保管してある部屋だ。あの部屋には、重要機密の資料もある。クライアントとのやり取りもあるため、絶対にあの部屋に入らせる訳にはいかない。

「シャカール、この部屋が何か知っているか?」

「俺が居た時は、絶対に入ってはいけない。そう言われていたな。この部屋に近付くのを目撃されただけで、重い罰を受けることになっていたから、この通路の先に用がある時は、わざわざ遠回りをしていた」

「なるほど、それは確かに臭うな。この部屋を調べてみるか」

 ルーナが扉のドアノブに触れようとした瞬間、俺は全力で走り、扉の前に立つ。

「ゼー、ハー、ゼー、ハー」

 あ、危なかった。後数秒判断に遅れていたら、あの部屋を開けられていたかもしれない。

 くそう。息が上がる。年甲斐も無く走ってしまったからか。

「その慌てよう。相当見られたくないものがあるのだな」

 ルーナが訝しむ目で俺のことを見てくる。

 しまった。つい、反射的に行動してしまった。ここは声をかけてそこには何もないと言うべきだったか。いや、やつのことだ。忠告を無視して扉を開けていたかもしれない。どっちにしろ、俺の行動は間違っていないはずだ。

 だが、俺の行動で怪しまれたのは事実。早くこの扉に入りたくなくなるような理由を考えなければ。

 俺は女が入りたがらなくなる理由を考える。すると、あるアイディアが閃いた。

「当たり前だ。ここは男にとって大事な部屋だ。この部屋にはな! 1532冊のエロ本が収納されている!」

 声音を強めて叫んだ。

 どうだ。これならこの部屋に入りたいとは思わないはず。しかも数字を具体的に言うことで、真実味を帯びさせることができる。

 社会的な死と引き換えになるが、なんとしても、この部屋から遠ざけなければ。

「そうか。それはちょっと入り難いな」

 ルーナが苦笑いを浮かべて俺のことを見てくる。

 くそう。憐れむような目で俺のことを見やがって! だが、この部屋には入られる訳にはいかない。

「おや? シャカール。なんだか興味がありそうな顔をしているな。なんなら入って行くが良い。お前も溜まっていることだろうし、今晩のオカズにできそうなものでも探しても良いぞ。何せ、1532冊もあるのだから」

「何でそうな……いや、確かにそうだな。なら、お言葉に甘えて、お気に入りの1冊でも探してみるか」

 何でそんな話の流れになる! ここは遠慮して立ち去るところだろうが!

 まずい、まずい、まずい。早くシャカールがこの部屋に入りたがらない理由を考えろ!

 必死になって頭を動かす。すると、再び天啓のように策を思いつく。

「その1532冊のエロ本はな! 実はBLなんだ!」

 本日2度目の社会的な死だが、これならシャカールは入りたがらないはずだ。

 フッと一安心する。これでようやくこの場から離れることができるのだから。

「そうか。BLか。実はな、学園の職員にBL好きのやつが居って、話について行けないところがあるんだ。せっかくだし、後学のために読ませていただこう」

 今度はルーナの方が興味を持ち出したああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!

 心の中で叫び、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。

 2回も社会的に死んだのにも関わらず、回避することができていない。まさに八方塞がりの状況だ。

 しかし、この部屋にこいつらを入れる訳にはいかない。

 どうすれば良い!

 くそう。こうなれば、一か八かだ。

「後学のためなら、後でとっておきの1冊を用意しよう。手土産にくれてやる。だから、ひとまず他の部屋を見て回らないか」

 神に祈る気持ちで、俺は彼女に伝える。

「そうか。お前がそこまで言うのであれば、そちらを優先しよう……シャカール」

 ルーナがシャカールに顔を向ける。

「ああ、分かった」

 どうやら納得してくれたようだ。俺は安心し、胸を撫で下ろす。

 どうにか上手くいったな。最初からヒヤヒヤさせやがって。

「所長、ルーナ、俺トイレに行って来る。用を足した後は、どこに向かえば良い?」

「第一診断室だ。健康診断をしていたあの部屋だ」

「分かった。終わり次第、そっちに向かう」

 まったく、トイレくらいこっちに来る前に済ませておけよ。

「それじゃ、我々も行くとしよう。

 その後、俺はあの実験とは関係のない場所を案内した。

 シャカールがトイレに向かってから5分が経過した。だが、彼がここに来ることはなかった。大の方なのだろうか。

 更に5分が経過した。しかし彼がこの部屋に来ることはない。もしかして、キレが悪いのか、腹を下しすぎて直ぐに出られない状態なのだろうか。

 それから更に15分が経過した。

 おかしい。いくら何でも遅すぎる。いくらお腹を下していたとしても、戻って来る時間帯のはずだ。

 まさか!
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