薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十章

第六話 研究所での再会

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 ルーナが来客を知らせるベルを鳴らすと、しばらくして扉が開き、研究職員の格好をした男性が現れた。

「本日、この時間に所長と会う約束をしているルーナだ」

「話は聞いております。どうぞこちらに来てください」

 男は踵を返して歩き始め、俺たちは彼の後ろを付いて行く。男が案内した場所は、応接室だった。

 なんやかんやで、被験体モルモットだった頃には入ったことがない部屋だな。

 来客側の席に座り、あの男が来るのを待つ。しばらくすると、扉が開いてメガネをかけた男性が部屋に入って来た。

「待たせたな。ルーナ・タキオン。そしてナンバー0721ゼロナナニーイチ

 所長が対面の席に座るとこちらに視線を向ける。

「まずは手土産を渡そう。詰まらないものだが、受け取ってくれ」

「ほう、では遠慮なく頂くとしよう」

 遠慮をする素振りをみせることなく、所長は淡々と言葉を述べた後に、ルーナから菓子折りの入った袋を受け取る。

「それで、本日来た理由だが、こちらに戻って来る気になったのか?」

「そんな訳――」

 そんな訳がないだろうと叫ぼうとした瞬間、ルーナが腕を横に広げてそれ以上口に出すなと訴えてきた。

「本題に入る前に、ちょっとした世間話に付き合ってもらおう。今からおよそ2ヶ月前、獣人が魔物化したと言う騒ぎがあった。その話はそちらの耳にも入っているだろうか?」

 ルーナの問いかけに、俺はハッとする。

 夏合宿の間に色々なことがあって忘れていたが、あの件に関しても、この研究所が関与している疑いがあった。

「ああ、勿論話は聞いている。世界に起きている事件や事故を知っていた方が色々な発想や発見があるからな」

「実は、先ほどの手土産の中に、あの事件に関わっているものが入っているのだよ」

「何だって!」

 驚きの声を上げ、所長は直ぐに袋の中を探る。すると、袋の中からボロボロになっている注射器を取り出した。その注射器には、この研究所のマークが付いている。

「魔物化した獣人の名はアイビス・ローゼ。走者委員会のメンバーの老人だ。彼は若返りの薬だと騙され、その注射器の中に入った液体を体内に注入した。その瞬間肉体が魔物へと変体し、思考までが魔物に染まって人々を襲うようになった。どうして、研究所の注射器が使われている?」

「そんなこと知るかよ。誰かが研究所内に侵入し、持ち去ったのだろうよ。俺だって、今の話を聞いて驚いているさ」

 淡々とした口調で言葉を連ねるが、俺は所長の言っていることが嘘だと瞬時に理解した。

 俺は半年前までこの研究所で暮らしていた。ここの研究所はセキュリティに関しては厳しい。道具の在庫は、在庫表まで作って数の管理も徹底的にしている。

 もし、何者かによって持ち出された場合は、それだけで大騒ぎをするはず。
 所長が言っていることが仮に本当のことだとしても、彼の表情に違和感を覚えてしまう。

 彼の性格を考えると、本来ならもっと感情的になって良いはずだ。

 俺は目でルーナにアイコンタクトを送り、所長が嘘を言っている可能性が高いことを訴える。

「そうか。では、研究所内を調べさせてもらおう。もし、外部に犯人が居るのであれば、その痕跡を辿る必要があるのでね」

 ルーナが立ち上がり、それに釣られて俺も立ち上がる。

「待ってくれ。それは話が違うだろう。俺はただ話し合いだと聞いたから時間を作って合ってやったんだ。研究所内の見学ツアーなら、また後日にしてもらおう」

 研究所内を調べる。ルーナがそう言った瞬間に、所長の顔色が一気に悪くなった。直ぐに立ち上がり、後日にしてくれと言われる。

 この反応、どう見たって何かを隠しているな。

「研究所内は、今色々と忙しくって、散らかっている状態だ。そんなところを見られては恥ずかしいのだよ。だから後日にしてくれ。どうせなら、綺麗になった状態で見た方が、君たちも気分が良いだろう?」

「ワタシは別に構わないよ。たとえゴミ屋敷のような部屋だったとしても、調査のためなら喜んで突入しよう。なぁ、シャカール」

「ああ、俺も別に構わない。元々俺は慣れっこだしな」

 別に構わないと俺たちが言うと、所長は渋面を作る。

「もしかして、その掃除とは、証拠品を隠す名目で言っているのではないのだよね?」

「あ、ああ……そうだ」

 ルーナが視線を向けると、所長は乾いた声で、返答する。

「それじゃ、早速調べさせてもらおう」

 ルーナが一歩前に足を踏み出したその瞬間、所長が右手を前に出す。

「ちょっと待ってくれ! そもそもお前たちがどうして調べる必要があるんだ。いったい何の権利があってそのようなことをする!」

「それは俺から説明しよう。俺は、走者委員会のトップであるブッヒーと、ある事件の解決を約束している。被害に遭ったのが、走者委員会のメンバーである以上、何かしらの関わりがあるはずだ。だから事件解決のために、俺は調べる権利をもらっている」

 俺は真実と虚偽を混ぜて所長に説明した。別に証拠となるものを持ち合わせてはいないが。真実と混ぜることで、言葉に信憑性を持たせることができる。

「あ、そうそう。別に抵抗しても良いが。ワタシの後ろにはこの国を動かすことができる存在がいる。もし、ワタシが捜査の妨害をされたと伝えれば、この研究所を潰しに来るだろうね」

 俺に続き、ルーナまでもが言葉を連ねる。

 ナイスアシストだ。俺が信憑性を持たせた後なら、どんな大嘘でも本当のことを言っているように捉えられるだろう。

「わ、わかった。では、案内する。付いて来い」
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