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第九章

第十三話 眠れぬ夜

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 ~ローレル視点~





 これは、サザンクロスたちがやって来る前にまで遡る。

『リピートバードからメッセージは受け取ったよ。どうやら失敗したみたいだね』

「申し訳ありません。フェイン様の命令でご主人様とお嬢様をくっ付ける作戦は、失敗に終わってしまいました」

 私は、目の前にいるリピートバードに謝る。

 鳥が伝える言葉は、事前に聞いた言葉をそのまま繰り返しているだけなので、謝る意味がない。だけどまるで目の前にフェイン様がいるよう気がして、思わず言葉が漏れてしまう。

『それにしても、バカップルの部屋で一夜を明かさせ、同じベッドで寝ることで互いの心の距離を縮ませ、相思相愛にさせようとしていたのだが、シャカールめ。簡単には落ちてくれないのか。いったいタマモの何が不満だと言うのだ。可愛いし、毛並みの手入れはしっかりとしている。そして大きすぎず、小さすぎず絶妙にバランスの取れた胸をしている。血の繋がりがなければ、俺の嫁にしたいほどの素晴らしい妹だと言うのに。あの男はどこが不満なのだ』

 フェイン様はその後も、お嬢様の魅力を延々と語っていました。

 もう、残りのメッセージは聞かないで追い返そうかと思ったその時、ようやく話題が別のものへと変わります。

『作戦が失敗した以上、お前に託すしかない。どうにかして、夏の合宿中に2人の仲を縮めるんだ。合宿中に子どもができるようなことになっても構わない。俺が許す。後のことは頼んだぞ、ローレル』

「分かりました。可能な限り、その任務を遂行できるように心がけます」

 鳥の言葉に返答をすると、私は作戦を考えます。

 さて、どのようにしてご主人様とお嬢様の仲を深めて、最終的に子作りをさせる所まで発展させましょうか。

 私は思考を巡らしつつも、作戦を考えます。






 ~シャカール視点~





「さて、まずは彼の寝泊まりする場所をどうするかだが」

 ルーナが引率者として、この場を仕切る。

 サザンクロスまでもがこの合宿メンバーとなり、彼の部屋をどうするのかと言う話しになった。

 コールドシーフは、ローレルの使用人の部屋の空いているベッドを使っているが、もう空き部屋がない。

「仕方がない。俺の部屋を一緒に使うか。どうせベッドはキングサイズだ。2人寝ても問題はない。まぁ、お前が良ければの話しだがな」

「自分は問題ないバイ

「そうと決まればシャカール、案内してやってくれ。ワタシはこのことを、彼らの担任教師に伝えなければならない。今日の訓練の予定はキャンセルだ。休日とする」

「やった! 今日は海水浴ができます!」

 休みと告げられ、アイリンが両手を上げて喜びを表現する。

 こいつ、本当にトレーニングを嫌うな。これでは、冬の合宿でも普通クラスに戻ることができなくなる。まぁ、俺がアイリンのことを気にかけても仕方がない。どうしようが、彼女の問題だ。

「それじゃ、部屋に案内するから、付いて来てくれ。サザンクロス」

エロウかなり迷惑をかけてスマンバイすみません

 礼儀正しく頭を下げ、俺の隣をサザンクロスは歩く。

 別荘に戻り、俺が使っている部屋に案内すると、サザンクロスは辺りを見渡した。

「ほぉう、2人部屋かい? 広いじゃないか。うん? あのクローゼット、何かはみ出しているバイ

 クローゼットから何かがはみ出していると言い、サザンクロスはクローゼットに近付く。

 まずい! あの中は!

 俺は直ぐに彼を追い越し、クローゼットに背を向けて両手を広げて仁王立ちをする。

「この中は絶対に開けるなよ。絶対に開けてはダメだ」

「何でタイだよ?」

 どうして開けてはいけないのかと問われ、どうしたものかと悩んだ。

 このクローゼットの中には、あの、バカップルグッズを押し込んでいる。片付けが面倒臭かった俺は、丁寧に収納することなく無造作に置いた。なので、扉が開けば、雪崩のように落ちて来るだろう。

「ははん、分かった。その中にはエロいものを隠しているのだろう? 安心しな。自分も男バイ。そんなものを見られたくないと言う気持ちは分かる」

 どうやらエロ本を隠し持って、それを必死に隠し通そうとしていると勘違いをされているようだ。

 不本意ではある。しかし、ここを開けられたら、色々と面倒臭いことになる。言い訳も言わないといけないし、片付けも面倒だ。

「分かった。ヌシャーお前がそこまで嫌がるのなら開けんタイ

 俺が困っていると、彼は背を向けてきた。どうやら俺の言葉に納得してくれたようだ。

「と言うとでも思っておったか! 実は、自分はエロイものをまだ一度も見たことがないケンから。だから興味があるバイ

 彼は言葉を連ねると、瞬く間に俺の横を通り過ぎる。

「速い!」

 背を向けてくれたことで、油断してしまった。だが、それでもここまで反応が遅くなるとは。

 サザンクロスの手は、クローゼットのドアノブに触れている。

「悪いな。自分は白い俊雷と飛ばれておるタイダケンだから、人を追い抜くことくらい朝飯前バイだよ

「やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 咄嗟に叫び声を上げる。しかし、これくらいでは彼の好奇心を抑えることができなかった。

 サザンクロスはクローゼットの扉を開け、その拍子に乱雑に押し込まれたバカップルグッズが雪崩のように落ち、彼の体は埋もれてしまう。

「おい、サザンクロス? 大丈夫か?」

「ぷはっ!」

 バカップルグッズの山の中から、サザンクロスは顔を出す。すると目の前にあるハート型の枕を手に取った。

 彼の体は小刻みに震えている。

 まずい。絶対に怒っている。

「おい、ひとつ聞いて良いか? これはヌシャーお前の趣味か?」

「サザンクロス、それはここのメイドが――」

「メッチャックチャ良い趣味しとるやない! このハート型の枕とか可愛いバイ

 言い訳をしようとした瞬間、予想外にも彼はハート型の枕を気に入り、抱きしめた。

 頭の中でシミュレーションしていたこととは異なる展開となり、唖然としてしまう。

「お前、そんな趣味があったんだな」

「趣味?……はっ! 自分は何しとるとタイだよ!」

 俺の言葉を聞いた瞬間、なぜか彼は持っていたハート型の枕を俺に投げ付けた。そして頭を抱えて嘆き始める。

「これも、母親のせいタイだよ! 母親の趣味の影響で、ファンシーなものが好きになりつつある! 思いだせ! 自分は男タイだよ! 可愛いものなんて一切好きにならん!」

 何が起きているのかはわからないが、どうやら彼は彼で苦悩がありそうだ。

「とにかく、散らかったものを片付けるから」

 小さく息を吐き、投げ付けられた枕をクローゼットの中にしまおうとする。すると、急に重みを感じ、振り向く。

 サザンクロスがハート型の枕を掴んでいた。しかも悲しそうな表情でだ。

 彼は男だが、容姿が女の子のように可愛らしい。そして服装も訳あって女の子の服装をしている影響もあり、女の子が泣いているように思えてしまった。

 何だろう。なぜか、めちゃくちゃ悪いことをしているような気がする。

 何だか可愛そうな気持ちになり、持っていたハート型の枕を彼に渡す。すると表情が綻び、満面の笑顔を浮かべた。

「って、何をしているとタイだよ!」

 しかし彼の笑顔は長くは続かず。直ぐに正気に戻った瞬間、彼はハート型の枕を俺に投げ付けた。

 この反応面白いな。試しにもう一度やってみよう。

 一度ハート型の枕を背に隠す。すると彼は悲しそうな表情をする。そしてハート型の枕を見せると、顔が綻んだ。

 彼にハート型の枕を手渡し、サザンクロスは抱き締める。だが、その数秒後には正気に戻り、再びハート型の枕を投げた。

 俺はあまりにも可笑しかったので、飽きるまで彼で遊ぶ。

「好い加減にしろ! 自分で遊ぶな!」

 だが、やり過ぎは禁物だったようで、彼は最終的には怒ってしまった。

「悪い、悪い。反応があまりにも可愛かったのでな。つい、やってしまった」

「可愛い?」

 本音を言うと、何故か彼の頬は朱色にしまる。

 しまった。可愛いと言うワードに反応してしまったのか。

「自分は男タイだよ! 可愛いと言われても全然嬉しくもナカッない!」

 彼に怒られてしまった。

 確かに弄られすぎるのは嫌だよな。俺もルーナにオモチャにされる時もあるから、もうやめておこう。






 そんなことがあって、その日の夜。俺たちは就寝することになった。

 2人で同じベッドに入り、そのまま寝ようとする。だが、この日の俺はなかなか寝付けないでいた。

 原因は明白だ。隣で寝ているサザンクロスが原因で眠れない。

 彼のせいにするのは良くないが、見た目が女の子なので、どうしても変に思ってしまった。

 落ち着け、隣にいるのは女のように見えるが男だ。下腹部には俺と同じものが付いている。

 仰向けから側臥位そくがいに変え、横向きとなって彼の顔を見る。サザンクロスは同じ男として安心しているのか、ぐっすりと眠っていた。

 直ぐに眠れる彼が羨ましい。

 そんなことを思っていると、サザンクロスも寝返りを打って側臥位になる。すると、俺と彼の顔が近くになった。

 色白の肌に手入れが行き届いているサラサラの髪、そして柔らかそうな唇などを見ると、本当に女の子のようにしか見えない。

 落ち着け俺! 俺は正常な男だ! BLなんてものには興味はない!

 やばい、やばい。こいつの顔を見ると、俺の頭がどんどんおかしくなる。

 俺は彼に背を向けるようにする。だが、そのまま寝ようとするも、なかなか寝付けない状態であった。

 ほとんど眠ったと言う記憶がない。気が付くと太陽が登り始め、いつもの起床時間となっていた。

 彼と一緒のベッドで寝るなんて、俺には無理だ!
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