薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
133 / 269
第九章

第九話 夏合宿のトレーニング

しおりを挟む
 夏合宿2日目、今日から本格的に強化合宿が始まる。

 太陽が上り始めると同時に起床。目が覚めると、手早く準備を終えて軽めのランニングが行われる。

 俺も手早く顔を洗い、外に出る。だが、俺よりも先に来た人物が降り、腕をクロスさせて軽く準備をしている人物が居た。

「タマモ、早かったな」

「シャカール、あなたが2番なんて珍しいわね。今日は雨が降るんじゃないかしら? 走るコースが『稍重』ならマシだけど『重』になったら嫌だわ」

 珍しくも俺が早く来たことで、どうやら彼女を驚かせてしまったようだ。

「まぁ、色々あったんだ」

 苦笑いを浮かべながら、俺も準備体操を始める。

 昨日、ルーナが俺のところに来た。そしてこんなことを告げてきた。

『もし、太陽が上り始めると同時に起床して早く外に出なければ、ペネルティを与える。そのペナルティを与える人物は、日々変わりるが、シェアハウスのメンバーの誰かになるだろうね』

 仮に俺が遅刻をするようなことになればペナルティが与えられる。しかもその執行者がシェアハウスのメンバーの誰かだと聞かされれば、嫌でも早く起きるしかない。

 特にマーヤが執行者になった場合、強引に婚姻を結んでこようとするかもしれない。それだけはなんとしても避けるべきだ。

 準備運動をしている間に、次々と残りの女性陣たちが外に出て来る。

「おはようございます。タマちゃんにシャカール君、お早いのですね」

「おはよう! あーあ、シャカールちゃんもう来ているよ。マーヤが当番だったのに残念。もし、シャカールちゃんが一番最下位だったら、マーヤの欲望を叶えて貰おうと思っていたのになぁ」

「あ、クリープ先輩に、マーヤ先輩おはようございます!」

 クリープとマーヤがこの場に現れ、タマモは朝の挨拶を返した。

 今日はマーヤが執行者役だったのか。彼女が望んだ欲望が何なのか気になるが、聞かないでおくとするか。

 4人が揃い、後はアイリンを残すだけとなった。しかし彼女は中々外に来ない。

 もしかしてまだ寝ているのか? 早く走らないと、ルーナが何をしてくるのか分かったものではないぞ。

 いつ来るのかと待ち続け、体感で5分が経過した。そろそろ起こさないと時間がやばくなりそうだ。

 そんなことを思っていると、扉が開いてエルフの女の子が外に出て来る。

 まだ眠いのか、右手で瞼を擦りつつ気だるそうにしていた。

「おはようごはいますぅ」

 まだ脳が覚醒しきっていないようで、まともに発音すらできていない。

「とにかく走るぞ。早くしないと午前中の特訓に支障が出る」

 半分寝ぼけていそうなアイリンを引き連れ、早朝トレーニングである別荘から砂浜までの往復10本を始めた。

 片道走れば5分の坂道を降り、砂浜に出ると引き返して別荘に戻る。それを1サイクルにして合計10回行った。

 その後、軽くシャワーを浴び、メイドのローレルが作った朝食を食べ終え、午前中のトレーニングが開始された。

「では、今からトレーニングメニューを発表するからね! この島を1時間以内に1周して来ること。魔法は禁止だ」

「たったの1時間! 無理ですよ! どんなに頑張っても1時間30分は掛かってしまいます!」

 ルーナの説明を聞き、タマモが声を上げて抗議する。この島はスカーレット家の所有物だ。当然この島のことはタマモも熟知しているだろう。そんな彼女が言うのだ。本来であれば無理なのだろう。

「無理でもやるのだ。最初から諦めてどうする? 泣き言は走ってから言え! 全員が1時間以内にゴールできなれば、全員お昼抜きで午後のトレーニングを行なってもらうからね」

「そんなぁ! お昼を食べないで午後のトレーニングをしろって、わたしにとっては死刑宣告ですよ!」

 お昼抜きと言われ、アイリンが嘆く。

 彼女は短距離向きだ。この島を1周となると長距離となってしまう。

 全員ゴールしなければならないと言う条件付きの走り込みとなると、完全に彼女がお荷物となってしまうだろう。

「では、初め! 早くしないと時間が無駄に過ぎて行くぞ!」

 何の前触れもなく走り込みが始まり、俺たちは一斉に駆け出した。

「ルーナ学園長は何を考えているのよ! どんなに頑張っても、魔法なしで1時間なんて無理よ!」

「皆さん、どうせ頑張っても無理なのです。だから最初から諦めてお散歩をしませんか?」

 タマモが愚痴を吐き、アイリンが諦めることを提案する。

 確かに彼女たちの言うことも一理ある。だけど、走者を育成するのが目的のこの合宿で、最初から無理難題を押し付けて心を折りにかかるものだろうか?

 ルーナは引退しているとはいえ、3冠王コレクターと呼ばれるほど、多くのG Iレースを優勝したナンバーワン走者だ。

 そんな彼女が何も考えていなさそうなトレーニングを俺たちに与えるとは考え辛い。きっと、何かの方法を使用すれば、ゴールできるギリギリの課題にしているはずだ。

 思考を巡らせていると、あることを思い付く。

 上手く行くかは賭けになるが、試してみるとするか。それには、彼女たち全員の強力が必要だ。

「俺に考えがある。全員でスリップストリームだ!」

「ジェットストリームアタック?」

「スリップストリームだ! ストリームしか合っていないじゃないか。ちゃんと人の話を聞け!」

 アイリンの言葉に、思わずツッコミを入れる。
いったいどんな風に聴き間違えれば、今のような言葉が出てくる。

「スリップストリームだ! 全員が1列に並ぶことで、先頭以外は風の抵抗を受けなくしてスタミナを温存する。そして一定時間が経過した後に先頭を入れかる。こうすれば、全員がある程度のスタミナを残した上で、最後の直線でスパートをかけられるはずだ」

「なるほど、確かにそれなら希望はあるかもしれませんね?」

「さすがシャカールちゃん! マーヤの将来のお婿さんはやっぱり凄い!」

 俺の提案に、クリープとマーヤは賛同してくれる。

「アイリンは?」

「お昼が食べられるのなら何でもいいです」

 アイリンも了承し、今度はタマモに視線を向ける。

「言わないでも分かっているでしょう。できるだけ最短ルートで行くから、しっかり付いてきなさい!」

 タマモが先頭になって走ると、彼女の後に俺、そしてマーヤにクリープが並び、殿をアイリンが走る。

 1列走行を初め、風の影響を最小限に抑えつつ、一定の距離を走った後に順番を入れ替える。

 すると、気が付いた頃にはゴールが見えてきた。

「残り1分! ここまで全員が走り切らないと全員が昼抜きだ!」

 ゴールまで残り100メートル、砂浜を走っている以上、通常よりも速度が遅い。だけど、今の俺たちに残された体力なら走りきれるはずだ。

 アイリンが心配だが、今は彼女を信じるしかない。

 ラストスパートとなり、縦1列だったのがそれぞれの判断で横1列へと変わり、猛ダッシュする。

「残り10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1――」

 残り1秒の時で俺はゴールすることができた。だけど俺だけゴールできても意味がない。他のみんなは?」

 立ち止まらずにゆっくりと歩きつつ振り返る。すると、アイリンは両手を合わせて謝っている素振りを見せる。

 間に合わなかったか。まぁ、仕方がない。全力を出してこれなのだ。気分は晴れて悔いはない。

「最後のアイリンのタイムは59分59秒997。ギリギリ合格だ。おめでとう。正直、1回目で達成することができるとは思ってもいなかった」

 アイリンも制限時間以内にゴールすることができた。そのことを知った俺たちは一斉に喜び合う。

「やった! これもシャカールちゃんのお陰だよ!」

「どさくさに紛れて抱きつくな! お互いに汗臭いだろうが!」

「マーヤの汗を嘗めても良いんだよ」

「誰がそんな変態プレイをするか」

 マーヤを引き剥がし、みんなを見る。みんなが乱れた呼吸を整えている中、アイリンだけは相当喜んでいるようで、両手を上げてステップを踏み、意味の分からないダンスを踊っていた。

「やーた! やった! やったった!」

「よし、一旦休憩としよう。全員、別荘に戻るぞ」

 休憩のために別荘に戻ると言われ、俺たちは別荘への道を歩き出した。

 そして別荘が視界に入ったときだ。

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 別荘の中から、ローレルの悲鳴が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...