薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
124 / 269
第八章

第十九話 走者なりの戦い方

しおりを挟む
 モンスターと化したアイビスだったが、言動が何かおかしい。まるで別の人格が現れたかの様に、自分はモンスターだと言い、マーヤのことも昔のセイレーンの様に接している。

 やつに異常が起きているのは明白だが、このまま暴れさせては、町に被害が出る。

「そこのクソ雑魚モンスター! この俺を捕まえてみろ。まぁ、無理だろうがな」

「シャカールちゃんの言う通りよ。セイレーンのマーヤも捕まえられないなんて、本当に鈍臭いね! その辺にいる野良犬の方がマシじゃないの?」

「この俺をコケにするとは、良い度胸じゃないか。お望み通り、貴様等を捕まえてやる。そして男は無惨に切り殺し、細切れにしてくれる。そしてセイレーンは反逆罪として捉え、魔王プリパラ様の元へ連行だ!」

 声を上げ、地を蹴って走るアイビスの行動を見て、俺たちも駆け出した。そして町の出入り口へと一目散に向かう。

「マーヤ、恐らく長距離戦となるかと思うが、大丈夫か?」

「もちろんだよ! マーヤは中長距離に適正を持っているからね! スタミナだけは自信があるよ!」

 マーヤも長距離が走れることが分かり、安心した。もし彼女がアイリンと同じで短距離、マイル路線の走者なら、俺の作戦に付いて来られなくなるからな。

「作戦はシンプルだ。とにかく走ってやつのスタミナを奪う。そして動けなくなったところで捕縛だ」

了解アイコピー!」

 後方を気にしつつ、アイビスに追い付かれない様に一定の距離を保つ。そして他の住民に危害が加わらない様に、俺たちだけに狙いを定めさせるために、挑発を続ける。

「ほらほら、どうした? 薄鈍うすのろ? 全然俺たちに追い付けないじゃないか?」

「早く本気を出してよね! そんなんじゃ、レースでも最下位しか取れないよ! うぷぷ!」

「己! クソ雑魚種族の分際で、この俺様をコケにしやがって! もう許さないからな! 本気で捕まえてやる!」

 俺たちの挑発に、やつは簡単に掛かってくれた。速度を上げて距離を縮める。だが、それでもまだ俺たちに追い付くことはなかった。

 およそ3メートル差まで縮められたな。だが、油断はできない。アイビスがモンスター化した時、俺に向けて石の槍を投擲した。

 投げないでそのままの突き攻撃を繰り出されたら、リーチ的に攻撃が届いてしまう。

 もう少し距離を離そうか? いや、今は無理に加速する必要性はないだろう。

 どんな行動に出るかは、アイビスの行動に合わせる方が良い。

「シャカールちゃん! 町の出入り口が見えてきたよ」

「よし! レースに例えたら、今は最初の1000メートルと言ったところだ。まだまだ序盤だから、気を抜くなよ!」

 油断をしない様に告げ、前方の安全性を確認した後に、後方を見る。

 アイビスは怒りで荒い呼吸をしてはいるも、速度を落としている様には見えない。

 どうやら今のあいつは、マイルくらいは走れるスタミナを持っている様だな。

 町の出入り口を抜け、開けた場所に入る。

 さて、それじゃ、始めるとするか。

「俺からの最初のギミックプレゼントだ! こいつを躱せるか!」

 体内の魔力を、魔力回路に通して全身に行き渡らせる。そして集中すると空中に10個の巨大な火球が現れた。

「行け! デスボール10連発!」

 直径5メートル程の火球が次々とアイビスに襲いかかる。

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 俺の放った火球は、アイビスに直撃し、やつを火だるまにしていく。

「あわわ。だ、大丈夫なの? アイビスのお爺さんを丸焼きにして!」

 俺の攻撃が全て直撃した光景を目の当たりにして、マーヤが心配そうな顔で訊ねてくる。

「多分大丈夫だろう。一応手加減はしている」

 さすがにモンスター化しているとは言え、元は獣人だ。なので、命を奪わない様に手加減はしていた。

 だが、さすがに全て直撃してしまうとは思っていなかった。走者なら、いくら冷静さを欠いていても、本能的にある程度は避ける。

 だが、やつは避けるどころか獣の様に向かってきた。

 元々アイビスの知能が低かったのか? いや、あの男は走者委員会のメンバーだ。走者委員会に入る条件としては、知力がA以上いる。

 つまり、モンスター化してから一気にバカ……本能で動く獣の様になってしまったと言ったところが近いのかもしれない。

 地面に倒れたアイビスに対して、しばらくの間様子を見る。すると、やつの指が動き、ゆっくりと起き上がる。

「くそう。人間如きがデスボールなんて上級魔法を10発も撃つとは。もしかして勇者か?」

 右手を後頭部に当てながら、アイビスはゆっくりと起き上がる。

 手加減をしていたとは言え、俺のデスボールを受けて立ち上がって来るとはな。

「マーヤ、もう一度走るぞ。もう少しあいつの体力を奪う」

了解アイコピー!」

 マーヤが返事をすると、俺はもう一度地を蹴って走る。

 俺たちが逃げる姿を目撃して、アイビスも追い掛けてきた。

「また逃げやがるか! 逃げながら攻撃をするとか、卑怯なやつめ。それでも勇者か!」

 後方から、アイビスが吼える。

 どうやら俺のことを勇者と勘違いをしているようだな。俺はただの2冠覇者にすぎないのに。

「逃げているのではなく、終わりゴールに向けて走っているだけだ。それに、俺はお前にギミックを与えてやっているだけだぜ」

 やつの攻撃に警戒をしつつ、ひたすら走る。

 後方から魔力が練り上げられているのを感じ、後を見る。すると、アイビスは空中に石の槍を生み出し、こちらに向けて放ってきた。

 だが、後方から攻撃をされるのは、レースではよくあることだ。通常通りに魔力を感じ取り、ギリギリで避ける。

「バカな! 後を見ないで俺の攻撃を避けるだと! そんなこと、あり得ない!」

「何を寝ぼけたことを言っている。あり得るからこそ、やってみせたんだ。これくらいの芸当、俺の知人はできるやつが多いぜ」

 敵を煽りつつ、様子を伺う。アイビスの速度は次第に遅くなり、呼吸も乱れている様に感じた。

 さて、そろそろ終わりにするか。もう捕縛しても抵抗する力は残されてはいないだろう。

「このままゴール板を駆け抜けさてもらうぜ。最後のギミックだ。グラビティープラス!」

「ガハッ!」

 重力を増やす魔法を放つ。

 すると、アイビスは馬車に轢かれた蛙のような体勢で、仰向けに倒れた。

 一般的な人は2倍まで、鍛えている人でも4倍の重力までは耐えることができると言われている。モンスターとなったアイビスはどこまで耐えられるのだろうか。

「くそおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 起き上がろうとする度に重力を増やしていく。すると、6倍の重力でアイビスは動きを止めた。

 重力で圧死させる訳にはいかない。なので、魔法を消して様子を見る。しばらく経っても、やつが動こうとする気配は感じ取れなかった。

「どうやら気を失っているようだな。今のうちに捕縛しよう。アイビスに何が起きたのかわからないが、ルーナに調べてもらえば、何か分かるかもしれない」

 アイビスを捕らえようと足を一歩前に踏み出した瞬間、こちらに向けて火球が放たれた。

 デスボール!

 こちらに向かって飛んできた魔法に気付いた瞬間、俺は咄嗟に後方に飛ぶ。

 どうにか回避することに成功したが、放たれた火球は気絶しているアイビスに直撃した。

 このままではアイビスが死んでしまう!

「ウォータ……」

 水の魔法で消火をしようと考えたが、時既に遅かった。

 瞬く間にアイビスは燃やし尽くされ、骨すら殆ど残ってはいなかった。

 残っているのは焦げた地面にちょっとした残骸があるだけ。そして、妙な香りが漂い、鼻腔を擽る。

 俺は直ぐに火球が飛んで来た方に顔を向ける。

 そこには仮面をつけた2人組が立っていた。

 体格から、一人は大人でもう一人は子どもであることが分かる。そして子どもが着ている服はワンピースであることから、女の子だと言うことが判明するが、それ以上のことは分からない。

 何が起きているのか、どうして奴らはアイビスを殺したのかはが分からず、呆然としていると、女の子の方がこちらに駆け寄ろうとしてきた。だが、一緒にいた大人に手首を掴まれ、それを阻まれる。

 2人組は何かを話しているようだが、会話までは聞こえない。だが、雰囲気からして何か言い争っている様にも見えた。

 とにかくあの2人からアイビスを殺害した動機を聞かなければ。そう思って足を踏み出そうとしたが、俺の体は動くことができなかった。

 体が動かない。まさか、先ほど漂ってきた妙な匂いが原因なのか?

 動かしたくとも動けない中、2人組を見続ける。

 奴らは俺たちに背を向けると、奥へと歩き、そのまま姿を消した。

「シャカールちゃん、あれ何かな?」

 俺と同様に体が痺れているマーヤが、視線だけで方角を知らせる。

 彼女の視線を追って視線を向けると、アイビスが使った注射器が燃え残っていた。

 そしてその注射器には文字が書かれてあり、それを見た瞬間に動悸が激しくなる。

 この注射器、まさか!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...